多和田新也のニューアイテム診断室

液晶内蔵のCoolIT SYSTEMS製水冷ユニット「Vantage」
~VGA向けの「Omni」も検証



CPUクーラー「Vantage」とGPUクーラー「Omni」を装備したテストPC

 以前は導入のハードルが高かった水冷クーラーも、最近は容易に導入できる製品が増えてきた。とくに昨年発売されたCORSAIRの「CHCW-50」は小型ポンプとラジエータ、水冷ヘッドが一体化されたメンテナンスフリーの製品ながら、1万円前後と割安感があり、ヒット商品となった。

 冷却機器メーカーとしてOEM納入実績が豊富なCoolIT SYSTEMSも、このような一体型水冷キットとなる「ECO-Advancend Liquid Cooling(A.L.C.)」を4月に発売した。その上位製品として投入を計画しているのが「Vantage」である。これと同時にGeForce GTX 480にも対応する水冷GPUクーラー「Omni」の投入も計画されている。今回はこの2製品をレビューする。

 なお、いずれも同社の販売代理店であるアスクが取り扱い、7月下旬頃の発売を予定している。

●プロファイル指定も可能なCPUクーラー「Vantage」

 CoolIT SYSTEMSが「ECO A.L.C.」に続く水冷CPUクーラーとして発売するのが「Vantage A.L.C.」(以下、Vantage)である。本製品はクーラント液注入が不要なラジエータ、ポンプ、水冷ヘッドが一体化された製品となる。このタイプでは一般的だが7年間のメンテナンスフリーを謳っている。

【お詫びと訂正】初出時に7年の製品保証としておりましたが、7年間はメンテナンスなしで動作する期間であり、メーカー保証や販売店保証の期間ではありません。お詫びして訂正させていただきます。

 ちなみに、価格は2万円程度が予定されているとのことだが、CoolIT SYSTEMSの直販サイトでは114.99ドルと、やや開きがある価格になっている。

 さて、さっそく製品の紹介に移っていきたい。本製品最大の特徴といえるのが、水冷ヘッド+ポンプ側のユニットに液晶ディスプレイが内蔵されている点である。この液晶ディスプレイには、水冷ヘッド内のセンサーによる温度表示、ラジエータ用ファンの回転速度、水流速度などが表示される。

 一般的にはケースを閉じてしまうため液晶ディスプレイに価値がないと思うかも知れないが、ちゃんと動作していることを確認できるのは便利だし、本製品にはこの液晶ディスプレイを用いた設定機能も用意されている。設定は液晶脇に用意された2つのボタンで行なう。

 その設定は液晶そのものにまつわるものが多いが、クーラーそのものの機能としても動作プロファイルを選択する機能を持っている。これはExtreme、Performance、Quietという3つのプロファイルが用意されている。プロファイルを変えることで挙動が変わるのはラジエ-タ用ファンの回転速度で、性能を重視するか静音性を重視するかをユーザが設定できるのである。

 詳しい液晶の動作については写真をご覧いただきたいが、液晶表示周りの機能では摂氏/華氏表示の切り替えや、クーラー取り付け向きに合わせた表示のアングル変更、表示色の変更が可能。表示色は温度によって色が変化するモードや、消灯と点灯を繰り返すパルスモードを備えている。

 さらに本製品の水冷ヘッド部には無線コントロール機能を備えており、将来的にリリースされる予定の「Maestro」と呼ばれる製品を組み合わせることで、水冷ユニットとPCを無線接続し、PCから各種コントロールが行なえる機能が提供されることになっている。Maestroは、それ単体でファンの回転数やケース内の温度などを測定し、Zigbeeによる無線で、PCのUSBアダプタにデータを転送し、管理できるが、Vantageからも動作状況を無線で受信できる。

 このMaestroでは、Vantageの液晶表示のカスタマイズのほか、先述のプロファイルもかなり詳細なものを作成可能。また、ケース内のファンコントロールを集中管理することもでき、少々大げさに表現するとPC全体のクーリングコントローラとして活用することができる。

 つまり、液晶ディスプレイが目立つ本製品であるが、無線経由でより高度な管理が行なえる設計になっているわけだ。このMaestroがVantageと同時リリースされないのは残念であるが、早期の登場を期待したいツールだ。

 余談ながら、先にCoolIT SYSMTEMSの直販サイトの価格と国内価格の開きを指摘した。個人輸入によって安価に入手したいと思う人もいると思うが、このように無線装置を内蔵した製品であるため、法令上、あまりお勧めできない。

液晶内蔵の一体型水冷キット「Vantage」水冷ヘッド部に内蔵された液晶が本製品の特徴。温度、ラジエータ用ファンの回転速度、水流速度、選択されているプロファイル名が表示されているメインメニューには「Settings」、「Display」、「About」の項目が並ぶ
「About」メニューでは、制御モジュールのバージョンや、ファームのビルド日と見られる表示を確認できる。ひょっとするとファームのバージョンアップなどもあり得るのかも知れない「Settings」メニューからは温度の摂氏/華氏表示切り替え、プロファイル切り替え、設定初期化が可能「Settings」→「Mode」欄が動作プロファイルの切り替え欄となる。Extreme、Performance、Quietの3パターンが用意されている
左からExtreme、Performance、Quietを選択し、ほぼ同温度の状態で撮影したカット。ラジエータ用ファンの回転速度が異なることが分かる。ファンの回転数は1,100~2,500rpmという仕様になっている
「Display」メニューでは表示色の変更やパルス表示、表示角度の指定が可能表示色は6色+LED消灯+温度による変化の計8パターンから選択できる水冷ユニットとPC上からコントロール可能になる「Maestro」も発売予定。水冷ヘッドに無線コントローラが内蔵されており、PC側からファン回転数や水流速度を変更できるほか、すべてのケースファンのコントロールを集中管理できる
Maestron本体(中央の黒く細長いもの)の試作品。ここには、3つまでのファンのほか、温度プローブや、専用LEDを接続でき、それらの監視ができるLEDについては色の制御が可能PCには無線のUSBアダプタをつなぐ
管理GUI。接続しているファンやセンサーを、画面をケースに見立てて自由に配置ファンやVantageの状態を細かく監視し、異常が発生したらLEDやメールなどで知らせることができる6月に来日した際に、試作品を紹介してくれたCoolIT SystemセールスマネージャーのBarry Reicker氏

温度による表示色変化を設定した場合の動作。動画は10倍の速度で再生したもので、温度が高くなるに連れ、緑→アンバー→赤へと変化していくことが分かる

 続いて、Vantageのハードウェア面を見てみよう。本製品はメンテナンスフリーを謳う一体型製品であることは先述のとおりであるが、こうした製品では、内部のクーラント液の蒸発などを防ぐ必要がある。そのため、チューブとラジエータ/水冷ヘッドとの結合部はとくに気を遣う必要があるわけだが、これが原因で取り回しの悪さを生むことがある。

 本製品では、そうした取り回しの悪さを回避するため、水冷ヘッド側は結合部が回転するようになっている。メーカー担当者によればこの点にはかなり力を入れたそうで、水漏れ、蒸発を防ぐことができるのだという。もちろんチューブは蛇腹状のものが使われており、動きの自由度はまずまずのものとなっている。

 水冷ヘッドは、CPUとの接着面に銅を使ったもの。対応するソケットはLGA775/1156/1366、Socket AM2/AM2+/AM3となっており、リテンションキットとバックパネルをネジ留めして固定する。LGA775/1156/1366のリテンションキットはユニークで、ネジの部分が斜めにスライドさせられるようになっており、3種類のソケットに対応するようになっている。

 ラジエータは120mm角ファンと一体化しており、ねじ穴も120mm角ファンのサイズのみが用意されている。すなわち、120mm角ファンの取り付けが可能なケースが要件となる。ファンの電源ケーブルは、水冷ヘッドと接続。水冷ヘッドからマザーボード上の4ピンファン電源端子へ接続する格好となる。

チューブと水冷ヘッドの結合部は回転可能なモジュールを使っている水冷ヘッドのCPU接着面は銅製LGA775/1156/1366のリテンションユニットは共通。左がLGA1366、右がLGA775にセットした状態
ラジエータはアルミ製フィンで、120mm角ファンと一体化している120mm角ファンと水冷ヘッドの電源ケーブルを接続。水冷ヘッドの電源ケーブルをマザーボード上のCPUファン電源端子へ接続する

●プレート交換で多数のビデオカードに対応する「Omni」

 一方、GPUクーラーとしてリリースが予定されているOmniも、水冷ヘッド、ラジエータ、ポンプの一体型製品で、メンテナンスフリーが特徴の製品だ。Vantageのように液晶ディスプレイを持つといった目立つ特徴はないが、水冷ヘッドとチューブ結合部の回転可能モジュールと蛇腹式チューブによる取り回しの良さは受け継いでいる。

 Vantageとはラジエータとポンプの構造が異なっている。Vantageではポンプを水冷ヘッド側に搭載し、ラジエータはファンの外側に取り付けられているので、ラジエータ用ファンはケース内から空気を吹き付ける構造となっている。

 一方のOmniはラジエータ側にポンプと制御ユニットを内蔵。このユニットがあるため内側にファンを取り付けず、ケース内側から順にポンプ→ラジエータ→ファンの順で構成されている。よって、ファンはケースの内側から吸い出す向きになる。

 ファンは120mm角で、回転数は1,100~2,500rpm。この点はVantageと同じだ。ファンの電源は直接マザーボードなどの電源端子から供給することになるため、GPUの温度に連動してファン回転数を変化させるような機能は持たない。

 本製品でもっとも強くアピールされているのは、多数のビデオカードに対応し得る点。水冷ヘッドとビデオカードの間に挟む「インターフェイスプレート」を交換するだけで、安価に別のビデオカードに対応できるという仕組みだ。インターフェイスプレートさえ用意すれば、AMD、NVIDIAを問わず、シングルGPUからデュアルGPUまで幅広い製品に適応できるのである。

水冷GPUクーラーの「Omni」。GeForce GTX 480のリファレンスボードに取り付けられた状態水冷ヘッドとチューブの結合部は、Vantage同様に回転可能なモジュールが使われており、ケース内の取り回しに配慮されているラジエータ側にポンプや制御ユニットを搭載。この関係でファンの側をケースに固定する、Vantageとは異なる構造になっている
GeForce GTX 480のリファレンスボード向けに設計されたインターフェイスプレート水冷ヘッドとビデオカードの間のインターフェイスプレートと交換するだけで異なるビデオカードへ対応可能

●ユニークな発想と使い勝手の良さが魅力の製品

 最後に、両製品を用いた際のCPU、GPU温度の測定結果を記しておきたい。今回の環境は完成されたPCとして借用したのと、Vantageのバックパネルが強力に接着されていたため、ほかの環境との比較は行なえていないのでご了承いただきたい。

 CPUはCore i7-965の倍率を28倍に設定し、約3.724GHzで動作させて行なった。ビデオカードはGeForce GTX 480のリファレンスボードで、こちらは定格動作である。ケースはクーラーマスターのCosmos Sであるが、側面パネルのファンは取り外されていた。前面に120cm角ファンを1基搭載しているものの、通気環境はそれほど良くない。テスト時の室温は28℃前後である。

 Vantageのテスト結果はグラフ1のとおり。OCCT 3.1を30分設定で実行し、各コアの平均値をグラフ化したものである。テストはVantageの各プロファイルごとに行なっている。プロファイル別の最大CPU温度、最小CPU温度は表にまとめている。

 結果はExtremeプロファイル時の最大温度が86度と、目立って良いとは言い難い結果が出た。もちろんオーバークロック状態であるうえ、側面パネルのファンがなく、室温も28度前後とやや高め、あえて良くない条件にして厳しいテストを行なってはいるのだが、それを加味しても及第点といったところだろうか。

 面白いのはQuietプロファイル時の動作で、グラフを見ても分かるように、非常にまめにファンコントロールが行われ、高回転にならないようになっている。もっと発熱の小さいCPUや、ケース内エアフローを含めて条件の良い状況で使えば、Quietプロファイルを使って、静かな環境を実現できるだろう。

【グラフ1】Vantage使用時のCPU温度の推移(CPU:Core i7-965@3.72GHz)

【表】プロファイル別の最大/最小温度
 ExtremePerformanceQuiet
最大値869194
最小値525455

 一方のOmniであるが、こちらはGPU-Zのログ機能を利用してGPU温度を取得。OCCTと同じように1分のアイドル後にUnigineのHeaven Benchmark 2.0を25分間回し、終了後に4分間アイドルにするというパターンでテストした。結果はグラフ2のとおりだ。

 こちらの結果は良好で、GeForce GTX 480をフルロードで使いつつ、最大GPU温度を70℃程度に抑制できている。オープンベアの状態で80度を超えることがままあるGeForce GTX 480だが、条件の悪いケース内でこの温度に抑えられているのはうれしい結果である。

 いうまでもなくファンノイズは120mm角1つであり、通常のGPUファンより静かに冷却できていることになる。VantageのようにGPU温度とファン回転数を連動させているわけではないこともあってか、Vantage使用時のCPU温度に比べて、GPU温度の下降が緩やかな点も特徴になっている。

【グラフ2】Omni使用時のGPU温度の推移(GPU:GeForce GTX 480)

 以上、Vantage、Omni両製品をチェックしてきた。設置時のチューブの取り回しの良さは両製品で共通しているほか、Vantageには競合製品にはない高機能さ、Omniはインターフェイスプレートによる対応製品の柔軟性と高い冷却性能を、それぞれ持っている。

 価格はVantageが2万円前後、Omniが25,000円前後と少々高価なのは否めないが、これから暑くなる季節に向けて注目したい製品だ。

 なお、Maestroについても、レビュー可能な時期がきたら評価したい。