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8GBのMacが快適なワケ、ユニファイドメモリと「メモリのやりくり」の合わせ技

 Appleシリコンを搭載したMacでは、「ユニファイドメモリ」と呼ばれる独自のメモリアーキテクチャが採用されています。一般的なPCのメモリとは何が違い、Macのパフォーマンスにどのようなメリットをもたらしているのでしょうか。その仕組みと特徴、そしてAI時代に注目される理由をひも解きます。

2020年に発表された初代Appleシリコン「M1」以降、Appleシリコン搭載Macではユニファイドメモリアーキテクチャが採用されています

Macのメモリは容量だけでは語れない

 コンピュータの性能を左右する要素の1つが「メモリ」です。メモリは、CPUなどが処理に使うデータを一時的に置いておく場所で、よく「作業机」にたとえられます。

 机が広ければ多くの資料を広げたまま作業できるのと同じように、メモリ容量に余裕があれば、多数のアプリを起動したり、大きなデータを扱ったりしても、スムーズに作業を進めやすくなります。

 反対に、メモリ容量が不足すると、使用頻度の低いデータの一部をストレージへ一時的に退避させる「スワップ」が行われます。

 ストレージはメモリよりも低速なため、スワップが頻繁に発生すると、アプリの切り替えや処理に時間がかかるなど、動作速度が低下することがあります。

 そのため、一般的にはメモリ容量が大きいほど、複数のアプリや大きなデータを同時に扱う際にも余裕が生まれ、快適に作業しやすくなります。

 ただし、Appleシリコンを搭載したMacは、比較的少ないメモリ容量でも高いパフォーマンスを発揮できるため、容量の数字だけでは単純に評価できません。

 Apple自身も、Appleシリコンの発表以来、メモリを効率よく利用できることをその特徴の1つとしてアピールしてきました。

 たとえば2023年11月には、Appleのワールドワイドプロダクトマーケティング担当副社長Bob Borchers氏が、M3 MacBook Proの8GBメモリについて「ほかのシステムの16GBに匹敵する」との趣旨の発言をし、話題となりました。

 また、こうした特徴を最近のMacで示す分かりやすい例が、2026年3月にMacBookシリーズのエントリーモデルとして登場した「MacBook Neo」です。

 現在は16GB以上のメモリを搭載するノートPCが増える中、MacBook Neoが搭載するメモリは8GB。それでも、Webブラウジングや書類作成、比較的軽い写真加工といった日常的な用途では、軽快に動作すると評価されています。

 では、なぜAppleシリコンを搭載したMacは、限られたメモリ容量でも高いパフォーマンスを発揮できるのでしょうか。

 その鍵を握る技術の1つが、Appleシリコンに採用されている「ユニファイドメモリ」です。

メモリが不足すると、使用頻度の低いデータがストレージへ一時的に退避されます。この「スワップ」が頻繁に発生すると、動作速度が低下することがあります
Apple関連のニュースを扱う米メディア「MacRumors」では、MacBook Neoの8GBメモリで十分なのかをテーマに各メディアのレビューを紹介。日常的な用途であれば、8GBでも十分との評価が多く見られます

8GBを支えるのはユニファイドメモリだけではない

 Appleシリコン搭載Macが少ないメモリ容量でも快適に動く理由は、ユニファイドメモリだけにあるわけではありません。macOSのメモリ管理と、高速な内蔵ストレージも大きな役割を果たしています。

 macOSは、メモリに余裕がなくなると、使用頻度の低いデータをまず圧縮してメモリ内にとどめる「メモリ圧縮」を行ないます。これにより、ストレージへ退避させる前に、限られた容量をより多くのデータで共有できます。

 それでも足りない場合にはストレージへのスワップが発生しますが、Appleシリコン搭載Macの内蔵SSDは高速なため、スワップが起きても動作の低下を体感しにくい場面が多くなっています。

 つまり、ユニファイドメモリをはじめとするハードウェアの効率と、OSによるメモリのやりくり、そして高速なストレージが組み合わさることで、8GBでも日常的な用途では軽快に動作する、というのがより正確な説明です。

Appleシリコンのユニファイドメモリとは?

 ユニファイドメモリの特徴を理解するには、独立したGPU(ディスクリートGPU)を搭載した従来型のPCとのメモリ構成の違いを見ると分かりやすいでしょう。

 独立したGPUを搭載するPCでは、CPUが利用するメインメモリとは別に、GPU専用のビデオメモリ(VRAM)が搭載されています。ゲーミングPCやクリエイター向けPC、ワークステーションなどに多い構成です。

 そのため、たとえばCPUで読み込んだ画像をGPUで加工する場合には、その画像データをメインメモリからVRAMへ転送して処理する必要があります。

 これに対してAppleシリコンは、CPUやGPU、AIやマシンラーニングの処理を担うNeural Engine、メモリコントローラなどが1つのSoC(System on a Chip)に統合されています。

 さらに、これらの各プロセッサが共通のメモリへアクセスできるように設計されており、メモリを効率よく利用できるのが特徴です。

 こうした、CPUやGPU、Neural Engineなどが1つのメモリを共有して利用できる仕組みを、Appleでは「ユニファイドメモリアーキテクチャ」と呼んでいます。

 なお、内蔵GPUを使うPCでも、GPUはメインメモリの一部を利用します。ただしAppleシリコンは、各プロセッサのSoCへの統合と高帯域・低レイテンシのメモリを前提に、こうしたメモリ共有をシステム全体として最適化している点に違いがあります。

 また、共通のメモリを利用するといっても、それぞれのプロセッサが同じデータを自由に書き換えられるわけではありません。必要に応じて処理を同期することで、データの整合性が保たれています。

独立したGPUを搭載する従来型の構成ではメインメモリとGPU専用のVRAMが分かれていますが、AppleシリコンではCPUやGPU、Neural Engineが共通のユニファイドメモリを利用します

ユニファイドメモリはデータコピーを減らしてメモリを効率化

 では、CPUやGPUなどが1つのメモリを共有することで、具体的にどのようなメリットが生まれるのでしょうか。

 まず挙げられるのが、同じデータを複数のメモリ領域へコピーする手間を減らせることです。

 写真編集を例に考えてみましょう。独立したGPUを搭載するPCでは、ストレージからメインメモリへ読み込んだ画像をCPUで処理したあと、GPUでエフェクトをかけるためにVRAMへコピーすることがあります。

 このとき、データの転送に時間がかかるだけでなく、一時的には同じ画像データがメインメモリとVRAMの両方を占有します。さらに、GPUで処理した結果をCPUで再び利用する場合には、逆方向への転送やデータの同期も必要になります。

 一方、ユニファイドメモリでは、CPUとGPUが共通のメモリ上にあるデータへアクセスできます。処理を引き継ぐたびに別のメモリへデータを丸ごとコピーする必要がないため、転送にかかる時間を短縮できるほか、同じデータを重複して保持することによるメモリ消費も抑えられます。

 このように、同じデータを重複して保持する必要がないことが、限られたメモリ容量を効率よく利用できる理由の1つです。

 ただし、減らせるのはあくまでデータの重複によるメモリ消費であり、アプリやデータそのものに必要なメモリ容量が小さくなるわけではありません。

AppleがWWDC21のセッションビデオで示した比較。独立したGPUではCPUとGPUの間で処理を引き継ぐ際にVRAMへのデータコピーが発生しますが(上)、ユニファイドメモリではこのコピーが不要になり、CPUとGPUの間で効率よく処理を引き継げます(下)

Appleシリコンは広いメモリ帯域で高性能を引き出す

 ユニファイドメモリでは、CPUやGPU、Neural Engineなどが共通のメモリを利用しますが、ただメモリを共有するだけでは、複数のプロセッサからアクセスが集中した際にデータのやりとりが処理のボトルネックになりかねません。

 そこで重要になるのが「メモリ帯域」です。メモリ帯域とは、一定時間にメモリとの間でどれだけ多くのデータをやりとりできるかを示す指標で、帯域が広いほど大量のデータを高速に転送できます。

 Appleシリコンのユニファイドメモリは、高帯域かつ低レイテンシ(遅延が少ない状態)になるよう設計されているため、CPU、GPU、Neural Engineなどが同じメモリを使いながらも、それぞれの性能を存分に引き出しやすいのが特徴です。

 特に、映像処理や3Dグラフィックス、機械学習など、大量のデータを連続して読み書きする処理で大きな効果を発揮します。

 なお、Appleシリコンのメモリが高速なのは、メモリがSoCのすぐそばに配置され、CPUやGPU、Neural Engineとの距離が物理的に近いことに加え、メモリコントローラを含むSoCとメモリが効率よく接続され、大量のデータを高速にやりとりできるよう、システム全体が設計されているからです。

Appleシリコンの主なメモリ帯域。世代だけでなくチップのグレードによっても異なり、上位モデルほど大量のデータを高速にやりとりできる設計になっています

AI時代にユニファイドメモリが生きる理由

 ここまで見てきたユニファイドメモリの特徴は、近年急速に普及している生成AIの処理でも大きなメリットをもたらします。

 生成AIというと、GPUやNeural Engineなどの演算性能に注目が集まりがちですが、AIモデルをMac上で快適に動かすには、モデル本体や処理中のデータを保持するためのメモリも重要です。

 どれほど演算性能が高くても、利用できるメモリ容量が不足すれば、扱えるAIモデルの大きさや処理性能に影響するためです。

 Appleの委託を受け、テクノロジー分野の調査会社Omdiaがまとめたレポートでも、オンデバイスで大規模なAIモデルを実行するうえでは、「制約はモデルサイズそのものではなく、利用できるメモリ容量とアーキテクチャにある」と指摘しています。

 また、同レポートでは、独立したGPUを搭載する構成の場合、AIモデルがGPU専用のメモリに収まらないと、より低速なシステムメモリを利用することになり、性能が低下すると説明しています。

 一方、MacではCPUとGPUが大容量のユニファイドメモリを共有できるため、より大規模なAIモデルをオンデバイスで実行できることを、同レポートはメリットとして挙げています。

 こうした点から、オンデバイスで生成AIを利用する機会が増えるほど、大容量のメモリをCPUやGPUで共有できるユニファイドメモリの強みは、さらに大きくなっていくでしょう。

Appleの委託を受けてOmdiaがまとめたレポートでは、AIモデルを端末上で動かすうえで、メモリの容量とアーキテクチャが重要になると説明されています

ユニファイドメモリは「容量を増やす魔法」ではない

 ユニファイドメモリは、Macの性能を支える大きな強みの1つです。ただし、その特徴を過大評価して、「ユニファイドメモリなら少ないメモリ容量でも十分」と考えるのは適切ではありません。

 ユニファイドメモリは、搭載されたメモリを効率よく利用するための仕組みであって、物理的なメモリ容量そのものが増えるわけではないからです。

 多数のアプリを同時に起動したり、動画編集や3D制作、大規模なAIモデルなどを扱ったりする場合には、それに応じたメモリ容量が必要になります。

 また、メモリ圧縮や高速なSSDへのスワップは、あくまで不足を一時的に補う仕組みです。アクティビティモニタのメモリプレッシャーが常に高い、スワップ使用領域が大きい状態が続くといった場合は、SSDへの書き込みが増えることにもなるため、用途に合った容量のモデルを選ぶほうが安心です。

 さらに、Appleシリコン搭載Macのメモリは購入後に増設できません。

 そのため、Macを購入する際には、現在どのようなアプリを使っているのか、どの程度のデータを扱うのか、今後どのような用途で使う可能性があるのかまで考えたうえで、必要なメモリ容量を選ぶことが重要です。

 ユニファイドメモリは、限られた容量を効率よく活用できる一方で、物理的な容量には明確な上限があります。そのメリットと限界の両方を理解したうえで、自分の使い方に合ったMacを選ぶようにしましょう。