■後藤弘茂のWeekly海外ニュース■
AMDは2013年までのCPUロードマップと、2013年以降を含むGPUアーキテクチャのロードマップを発表した。AMDは、昨日(2月2日、現地時間)に、米サニーベールの本社でアナリスト向けカンファレンス「Financial Analyst Day 2012」を開催。同カンファレンスで、恒例のロードマップと技術ビジョンを明らかにした。
AMDはAnalyst Dayの度に、前年のAnalyst Dayで発表したコードネームの半分を破棄、新たに多数のコードネームを発表する。それだけ多くの製品計画の変更を明らかにするわけだ。今年(2012年)も同様で、前回の2010年11月のAnalyst Dayから多くのロードマップの変更が明らかにされた。
今回のポイントは、まず、AMDのBulldozer系CPUコアの4世代に渡る拡張計画が明らかにされた。プロセス技術ではメインストリームのAPUも28nmバルクプロセスへと移行させることが判明。その一方で、28nmプロセスのAPUへの導入は今年から来年(2013年)へとずらしたした。また、APUに内蔵するGPUコアは、2013年の段階でGCN(Graphics Core Next)へと全て移行することが明瞭になった。
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●Bulldozer CPUコアを4世代に渡って拡張
AMDは、メインストリーム以上のCPUコアを、旧来のK10(Stars)系のアーキテクチャから、新しいBulldozer系アーキテクチャへと切り替えようとしている。AMDは、Bulldozerコアを拡張して行く計画を明らかにした。まず、現行のBulldozerを拡張して、IPC(Instruction-per-Clock)と動作周波数を改善したPiledriver(パイルドライバ)コアが今年登場する。
AMDは、パフォーマンスと電力のバランスを取るためにBulldozerでIPCを抑えたが、実際にBulldozerベースの製品を出荷すると、市場でIPCを叩かれた。そのために、PiledriverでIPCを高めると謳っていると見られる。ただし、実際には命令フェッチから含めたパイプラインの制約があるため、IPCの向上は簡単ではない。
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Piledriverは、現行のBulldozerと同じ32nm SOIプロセスベースのコアだ。しかし、2013年に登場する第3世代のBulldozer系アーキテクチャであるSteamroller(スチームローラ)は、少なくともAPU製品については28nmバルクプロセスとなる。SteamrollerもスライドではIPCの向上が謳われている。Steamrollerはサーバーでは並列性の向上となっているため、より多くのCPUコアがワンチップに載ると見られる。
さらにその先では、第4世代の「Excavator(エクスカベータ)」が待っている。この世代では、E-Series APUなどに使われているローパワー系CPUコアと、何らかのアーキテクチャ上の統一が図られると言う。ちなみに、AMDはBulldozer系のCPUコアアーキテクチャでは、一貫して工事用車両/機械から名前を取っている。
AMDコードネームの推移 |
4段階のCPUコアアーキテクチャの拡張が明らかにされたBulldozer系に対して、ローパワーのBobcat系のCPUコア拡張はシンプルだ。現在のBobcatコアが今年は継続され、来年に新しい28nmプロセスの「Jaguar(ジャギュア)」コアへと変わる。JaguarでもIPCの向上がなされるという。
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APUに統合するGPUコアは、Trinity世代までがVLIW(Very Long Instruction Word)ベースのエンジン。2013年に登場するAPUから、Radeon HD 7900(Tahiti:タヒチ)に採用されたGCNへと変わる。また、CPUコアとGPUコアをシームレスに統合する「Heterogeneous System Architecture(HSA)」対応の機能も2013年に統合される。
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●今年のAMDの目玉はTrinity APU
コアアーキテクチャに対応した製品のロードマップは、やや複雑だ。
デスクトップでは、メインストリームのA-Series APU(Llano:ラノ)は今年中盤に「Trinity(トリニティ)」へと移行する。TrinityのCPUコアは、Bulldozerアーキテクチャベースだが、第2世代のPiledriverへと変わる。AMDは今回、Trinityでのデモを多数公開、Trinityのサンプルが健全に動作していることを示した。
Trinityのロードマップ |
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Trinityは2個のCPUコアを融合させたPiledriverのCPUモジュールを2ユニット搭載する。合計で4コア相当、4スレッド並列のCPUコアを搭載する。サーバー向け製品と異なりL3キャッシュは載せないが、L2を大容量化する。GPUコアは第2世代のRadeon HD 6000世代のアーキテクチャで、APU全体でのコンピューティングパフォーマンスは800GFLOPS程度になるという。また、AMDのマルチディスプレイ技術「Eyefinity」テクノロジをサポートする。このほか、Llanoでは非常に複雑な、CPUコアとGPUコア相互のメモリ参照が、緩和されるという。
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第2世代APUとなるTrinity |
E-Series APU(Brazos:ブラゾス)は、以前の計画では今年中盤までに28nmプロセスの「Krishna(クリシュナ)」へと移行する予定だった。しかし、これは変更となり、40nmプロセスのBrazosのアップデート版であるBrazos 2.0が投入される。Brazos 2.0では、USB 3.0のサポートや拡張されたTurbo COREが実装される。
ちなみに、以前はBrazosはプラットフォームのコードネームで、APU自体は18W TDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)の製品がZacate(ザカーテ)、9W TDPがOntario(オンタリオ)だった。しかし、現在はBrazosが両APUを統合するAPUのコードネームに変わっている。
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また、パフォーマンスCPUのFXラインも、Piledriverを8コアまで搭載した「Vishera(ヴィシュラ)」へと変わる。
2013年になると、今度はプロセス技術が変わる。メインストリームAPUは、28nmバルクプロセスの「Kaveri(キャヴェリ)」に移行する。Kaveriは、Steamrollerコアを4コアまでと、新GPUコアであるGCNを搭載する。この世代で、APU全体のコンピュートパフォーマンスは、ついに1TFLOPSのレンジに到達する見込みだ。
1TFLOPSに到達するAPUの全体パフォーマンス |
E-Series APUも28nmプロセスの「Kabini(カビーニ)」へと切り替わる。Kabiniでは、CPUコアはBobcatからJaguarへと変わり、GPUコアもGCNになる。さらに、Bobcatではサウスブリッジチップに当たるFCHが付属しているが、KabiniではこれがAPUに取りこまれ、ワンチップソリューションとなる。
Kabiniではサウスブリッジを内蔵する |
ちなみに、2013年のディスクリートGPUは「Sea Islands(シーアイランズ)」となる。GPUコアアーキテクチャがさらに大きく拡張されるほか、HSA(Heterogeneous System Architecture)対応の機能も取りこまれる。
●28nmのAPUへと大転換する2013年のモバイルCPUモバイルのロードマップの遷移も、ほぼデスクトップに準じている。今年には、メインストリームとパフォーマンスノートPC向けのA-Series APUは、LlanoからTrinityへと移行する。E-SeriesはBrazos 2.0に変わる。また、タブレット向けのZ-Series APUとして「Hondo(ホンドー)」が4.5W TDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)で提供されている。
モバイル向けのロードマップ |
来年になると、これら全てが入れ替わり始める。メインストリームとパフォーマンス向けには、Steamrollerコアを4コアまで載せた「Kaveri」へと切り替わる。バリューノートと低価格メインストリームノートPC向けのC-SeriesとE-Series APUは、Jaguarコアを4個まで載せた「Kabini」へと切り替わる。そして、タブレット向けにも28nmプロセスで2コアの「Temash(ティマッシュ)」が登場する。KabiniとTemashはシングルチップソリューションであるため、マザーボード上での実装面積も縮小できる。これら、2013年のAPUは、いずれも新GPUコアであるGCNを搭載する。
サーバーCPUは今年後半に、新しいPiledriverベースのコアへと切り替わる。ハイエンドの16コア製品は、現在の「Interlagos(インテルラゴス=ポルトガル語発音/インターラゴス)」から、「Abu Dhabi(アブダビ)」へと変わる。昨年(2011年)までのロードマップでは、この世代は20コアまでのTerramar(テラマー)になる予定だったが、Abu Dhabiは16コアのままだ。MCM(Multi-Chip Module)で2コアをワンパッケージに納める構造も変わりがないと推定される。また、Abu DhabiはInterlagosと共通のG34ソケットを使う。
サーバー向けのロードマップ |
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サーバー向けCPUでは、この他、2ソケットまでの「Valencia(バレンシア)」が「Seoul(ソウル)」へ、1ソケットまでの「Zurich(ズーリック/ドイツ語ではチューリッヒ)」が「Delhi(デリー)」へと移行する。それぞれソケットも継承するため、サーバーでのCPU移行は非常に穏当だ。
もっとも、AMDはサーバーでは非常にアグレッシブな計画も明らかにしている。それは、AMD以外のサードパーティのIPブロックを取りこんだ、カスタム化されたSOC(System on a Chip)ソリューションの提供だ。これは、新しいアプローチであり、AMDの従来のビジネスモデルにない。この戦略については、別記事で紹介したい。
●SOIからバルクへと転換するAMDのプロセス技術今回のAMDロードマップでは、プロセス技術のトレンドの変化も重要だ。AMDは2013年のメインストリームAPUは、現在の32nm SOIプロセスから28nmバルクプロセスへと移行することを明らかにした。2013年にはデスクトップのメインストリームからバリューと、モバイルの全ての製品は28nmバルクへと移行する見通しだ。CPUタイプで言えば、GPUコアを統合したAPU型の製品は、全て28nmバルクへと転換される。32nm SOI(silicon-on-insulator)プロセスはハイエンドとサーバーの一部にしか残らない。
下の図は、プロセス技術で色分けしたものだ。これを見るとわかる通り、イエローの40nmだけでなく、グリーンの32nm SOIも、紫の28nmバルクへと移行する。サーバーは明らかになっていないため、ブランクにしてあるが、2013年の後半には28nmに移行する可能性が高い。
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AMDは現在、32nm SOI製品の製造をファウンドリのGLOBALFOUNDRIESに委託、40nmバルク製品の製造をTSMCに委託している。しかし、28nmバルク世代では、ファウンドリをまたがって製造できるようにすると言う。
以前から、GLOBALFOUNDRIESがどこまでSOIプロセスを継続するかが疑問視されていた。新しいプロセス技術ロードマップからは、SOIの最大顧客であるAMDが、脱SOI化を進めようとしていることがわかる。SOIプロセスは、ウェハのレベルからバルクと異なるため、製造側にとっては十分な量が見込めないと、製造ラインの維持は難しいと推測される。
SOIは、リーク電流の抑制に一定の効果を持つため、この変更は、AMD製品の省電力性に影響が大きいように見える。しかし、実際には各ファウンドリはともに15~16nm世代のプロセス以降は3Dトランジスタに移行すると見られている。3Dトランジスタ化すると、チャネルが分離されるため、SOIの有用性はぐっと低くなる。