山口真弘の電子辞書最前線

カシオ「XD-GF6500」
業界最多120コンテンツに加え、日本語発音データと文学100作品を収録



製品本体。本モデルはブラック×シルバー。ほかにシャンパンゴールドおよびホワイトが用意される

6月19日 発売
価格:オープンプライス



 カシオの電子辞書「XD-GF6500」は、業界最多となる120コンテンツを搭載した電子辞書だ。カテゴリとしては生活総合モデルに分類され、幅広いジャンルのコンテンツが搭載されていることが特徴だ。

 コンテンツ数がこれまでの最多だった100から一気に20も増加したことで、生活総合モデルとしての立ち位置に変化は生じたのだろうか。今回はこれに加え、今回が初搭載となる2つの機能についてもあわせて見ていきたい。

●ハードウェアは従来モデルと同一。5.4型の大型画面を採用

 まずは外観と基本スペックから見ていこう。筐体色は上蓋がブラック、本体がシルバーのツートンで、ほかにシャンパンゴールドおよびホワイトが用意される。ピアノ調の塗装で高級感があるところは、従来製品と同様だ。

 画面サイズは5.4型。大画面であるため視認性は非常に高いが、ボディサイズがそのぶん大柄であるため、胸ポケットなどに入れるには少々厳しいサイズになっている。

 液晶はモノクロ、解像度は480×320ドットでバックライトが付属する。またタッチ入力に対応しており、キーボードからの操作のほかに、画面の右端に備えられたクイックパレットと呼ばれるメニューを用いての操作が行なえる。これらに加え、本体をタテに持って本のように操作できるブックスタイル表示や、液晶画面を180度反転させて相手から見やすくする対面表示などは、いずれも従来モデルの仕様を踏襲している。

 キーボードは標準的な配列で、上下のキー間隔にも余裕がある。キーボード手前にはスピーカーが1基と、これまたすっかり標準となった手書き対応のタッチパッド、さらに携帯電話のカーソルキーに似た円形の上下左右/決定キーが装備される。これらについても、従来モデルから大きな変化はない。

 音声出力については内蔵スピーカーのほか、イヤフォンからの出力も行なえ、本体右側面のスライドスイッチで出力先を切り替えられる。音量の調整はキーボードのハードキーで行なう。本体左側面にはmicroSDスロットを搭載し、コンテンツの追加や、テキストファイルの保存を可能にしている。

【お詫びと訂正】初出時に、MP3に対応すると記載しておりましたが、誤りです。お詫びして訂正させていただきます。

 本体重量は約320gと、やや重め。電池は単4×2本で駆動するほか、エネループにも対応する。駆動時間は約130時間と、このクラスの電子辞書としては長寿命。ACアダプタやUSB給電機能などは用意されていない。

上蓋を閉じたところ。筐体は従来モデルと同一表面は光沢がある。サイズが大きいため胸ポケットに入れるのは少々苦しい左側面にはmicroSDスロットとストラップホールを備える
右側面にはPHONE/SPEAKER切替スイッチ、イヤフォン端子、USBコネクタ、タッチペン収納口が並ぶキーボード手前には大型の手書きパネルを備える。奥行きはXD-SFシリーズよりあるが、特にキー数が多いわけではないタテ向きにテキストを並べるブックスタイル表示も可能
キーボード上部のファンクションキー。2度押しで異なるコンテンツを呼び出せるキーボード左手前にはスピーカーを備える中央に決定キーが配置された十字キー。携帯電話ライクで操作しやすいのが特徴
右側面にはタッチペンを収納できるようになっているmicroSDスロット。なぜか従来モデルより緑色の基板が露出している面積が広いイヤフォンとスピーカーは手動で切り替える。ボリュームはキーボード側で調整する
単4電池2本で駆動。エネループの利用にも対応前回レビューしたXD-SF6200(右)との比較。フットプリントが異なるのは、今回のモデルが5.4インチ液晶であることが理由だ(XD-SF6200の液晶は5インチ)同じく前回レビューしたXD-SF6200(右)との比較。液晶サイズが異なることでボディサイズにも違いが見られるが、それ以外はほぼ同一
横向きタブ方式のメニュー画面は従来モデルと同一だが、コンテンツが増えたために「生活」タブが複数に分割された従来モデルと同様、メイン画面を使った漢字の手書き入力にも対応
メイン画面にソフトキーボードを表示し、タッチペンで入力することも可能

●網羅性を重視した120コンテンツを収録

 本モデルは、業界最多となる120コンテンツを搭載しているのが大きな特徴だ。これまでコンテンツ数の最多モデルといえば、カシオとシャープの100コンテンツモデルだったわけだが、それを大きく塗り替えたことになる。ちなみに本製品と同時に発売された5型液晶搭載の下位モデル「XD-SF6300」も110コンテンツと、やはり100を上回るコンテンツを搭載している。

 具体的にどのようなコンテンツが増えたのだろうか。前回レビューした100コンテンツモデル「XD-SF6200」から増えたコンテンツは以下の通りだ。

◇英語系
・オックスフォード英英活用辞典

◇生活・実用系
・敬語早わかり辞典
・裁判員のための法廷用語ハンドブック
・言葉の作法辞典/全国方言一覧辞典
・日本語知識辞典/続・日本語知識辞典/日本語「語源」辞典/日本語○×辞典

・問題な日本語/続弾! 問題な日本語
・常用漢字の難読辞典
・スピーチ文例集/手紙文例集
・合本俳句歳時記 第三版
・日本歴史大事典

◇英会話・トラベル系
・キクタン【Basic】/キクタン【Advanced】
・世界の料理・メニュー辞典

 新機軸のコンテンツと言えるのは、裁判員制度の施行に合わせた「裁判員のための法廷用語ハンドブック」くらいで、それ以外は特定の分野に強みを持たせるというよりも、実売3万円台の価格設定にあわせて搭載コンテンツを調整した結果、顔ぶれが決定されたという印象だ。他機種で見かけるコンテンツも多く、あまり新鮮な顔ぶれはないというのが率直なところだ。

 コンテンツを増やす際、専門性の高いコンテンツ、例えば日本語大シソーラスやオックスフォード系の英語辞書を搭載すると、価格が大幅にアップせざるを得ない。そうした方向性は最上位モデルであるXD-GF10000に任せ、同じコンテンツを増やすにしても網羅性を重視したというのが本製品のコンセプトだろう。新鮮な顔ぶれはないと書いたが、生活総合モデルとしては非常にオーソドックスな、軸のぶれていないコンテンツ編成といえる。

 なお、これらコンテンツを呼び出すメニュー画面は、従来モデルと同じ横向きのタブ方式が採用されている。前回レビューした「XD-SF6200」に比べると、コンテンツ数の増加により「生活」タブが3つに分割された以外は、構成はほぼ変わらない。キーボード上段のファンクションキーからの呼び出し方法も従来製品と同じだ。

「裁判員のための法廷用語ハンドブック」が新規に搭載された

●7万語にも及ぶカシオオリジナルの日本語ネイティブの発音を収録

 以上の通り、ハードウェア的な変更は見られず、コンテンツについても網羅性の向上が中心で決して目新しさはないのだが、本製品には特に注目すべきポイントが2つある。1つは7万語にも及ぶ日本語ネイティブの発音データを搭載したこと、もう1つは読み物として「日本文学100作品」を搭載したことだ。順に見ていこう。

 まずは日本語ネイティブの発音機能。これはカシオオリジナルのデータとして追加されたもので、NHK日本語発音アクセント辞典の約69,000語、広辞苑第六版の約60,000語、明鏡国語辞典の約47,000語(いずれも見出し語)について、日本語ネイティブの発音が確認できるというものだ。これまで外国語について搭載されていたネイティブによる発音機能が、日本語にまで拡大された格好だ。

 ビジネスシーンなどにおいて、日本語の特定の単語に対する自分の発音が正しいかどうか、自信のないまま使っているケースは多少なりともあるだろう。誤った発音を続けていると、社内社外のコミュニケーションはもちろんのこと、スピーチや発表といった場において、聴衆に意味が伝わらない可能性もある。もしこれが単語の綴りや意味であれば、電子辞書もあるし、インターネットで検索して調べることもできる。しかし発音に関しては、これまで調べる方法がほぼ皆無だったわけだ。

 今回の製品でこの機能が搭載されたことにより、日本語における不明瞭な発音を逐一チェックすることが可能になった。人前でスピーチする機会が多い人や、アナウンサーや司会業、セミナーの講師など、日本語を喋ることを生業とし、万人に伝わる標準的な日本語を身に着けたいと考えているビジネスパーソンにとっては注目の機能だろう。個人的には、この機能があるだけで本製品を購入する動機になりうると思えるほどだ。

NHK日本語発音アクセント辞典。従来モデルにも搭載されていたが、発音機能が利用できるのは本製品が初となる外国語の発音機能と同様、広辞苑など日本語コンテンツにおいても、スピーカーマークにタッチすることで日本語ネイティブの発音が再生されるようになった

●ルビ表示にも対応した「日本文学100作品」を搭載
従来製品の購入者に対してキャンペーンで提供されていた日本文学100作品のCD-ROM。本製品ではこの内容が標準で搭載された

 もう1つの目玉は「日本文学100作品」の搭載だ。これは、青空文庫に収録されている著作権切れの日本文学の名作100作品を、読み物としてまるごと収録しているというものだ。例えば太宰治であれば、「人間失格」のほか「走れメロス」、「斜陽」、「グッドバイ」など計12作品が全文収録されているし、近年話題の小林多喜二「蟹工船」なども読むことができる。余談だが、これらのコンテンツは、今春までカシオが電子辞書の購入キャンペーンとしてCD-ROMで配布していたものを、そっくり収録した形になっている。具体的な収録作品についてはメーカーサイトを参照されたい。

 個人的には、電子辞書にこうした読み物系のコンテンツが搭載されてくることは、非常に興味深い。電子辞書を購入して間もない時期は、能動的に調べたい事柄があることは少なく、なかなか操作になじめない場合がある。これまでであれば脳トレ系のコンテンツがそうしたカジュアルユースの役割を担っていたわけだが、カシオの電子辞書には、今春のモデルから搭載されたアクションセンサーによるブックスタイル表示機能がある。読み物系コンテンツの搭載により、この機能をフルに活かし、読書端末として利用しながら、電子辞書に慣れていくことができるというわけだ。

 これに付随して、この「日本文学100作品」が、ルビ表示に対応したことにも注目したい。従来の同社製品では、青空文庫形式のテキストデータを読み込んだ際、ルビ表示が行えずに平文のまま表示されていた(ちなみにシャープ製品は青空文庫形式のルビ表示に対応済み)。しかし今回の「日本文学100作品」では、ルビ表示にきちんと対応しており、青空文庫で指定されたフォーマットを正しく再現できるようになっているのだ。これまで大いに違和感があったところなので、高く評価したいところだ。

 ちなみに、新規にテキストデータとして読み込んだ青空文庫形式のテキストデータは、初期設定では平文で表示されてしまうが、設定の変更によりルビ表示を行なうことも可能になっている。シャープ製品では初期設定状態でルビ表示に対応しているだけにできることなら青空文庫フォーマットのテキストについては、初期設定をルビ表示にしてほしいと感じた。

【お詫びと訂正】初出時に青空文庫のルビ表示について、常に平文で表示されていると記載されていました。お詫びして訂正させていただきます。

「日本文学100作品」を新たに搭載。青空文庫を出典とする100作品を収録しており、作家別もしくは作品名別に検索が行える。画面は作家別から太宰治の著作を検索したところ
「日本文学100作品」は初期設定でルビ表示に対応する。画面は夢野久作「ドグラ・マグラ」の一節同じく夢野久作「ドグラ・マグラ」の一節を、テキストビューワー経由で表示したところ。初期設定ではルビ表示には対応しないが、設定変更によりルビ表示が可能

●日本語発音データと文学100作品に価値あり

 「120コンテンツ」というボリュームにどうしても目がいきがちだが、本製品の価値は日本語発音データと文学100作品にこそあるように思う。特に前者については、今回試用してみて、電子辞書に新たな可能性を見出す新機軸の機能だと感じた。カシオオリジナルのコンテンツとのことで、今後発売の製品に対する水平展開も期待したいところだ。

【表】主な仕様
製品名XD-GF6500
メーカー希望小売価格オープン価格
ディスプレイ5.4型モノクロ
ドット数480×320ドット
電源単4電池×2
使用時間約130時間
拡張機能microSD、USB
本体サイズ154×110×15.5mm(幅×奥行き×高さ)
重量約320g(電池含む)
収録コンテンツ数120(コンテンツ一覧はこちら)