山口真弘の電子辞書最前線

セイコーインスツル「SR-G6100」
メール作成支援機能を備えたビジネスエントリーモデル



「SR-G6100」本体。これまでPASORAMA搭載モデルは型番の末尾が「1」だったが、その採番ルールが覆された格好

6月下旬 発売
価格:オープンプライス



 セイコーインスツル株式会社(SII)の電子辞書「SR-G6100」は、USBケーブルでPCと接続することにより、PCからも語句や例文の検索が行なえる「PASORAMA」機能を備えた電子辞書だ。検索結果をメールやレポートにかんたんに引用できるこのPASORAMA機能は、初代モデルにあたる「SR-G9001」に搭載されたのち、上位モデル「SR-G10001」を経て、今回紹介するSR-G6100に搭載されたというのが、これまでのおおまかな経緯である。
 
 ビジネスエントリーモデルと銘打たれた今回のSR-G6100では、このPASORAMA機能を前面に打ち出したコンテンツ編成が見られるのが大きな特徴だ。具体的には、英文和文のメールテンプレートに相当するコンテンツを多数搭載していることが挙げられる。これにより、用途に合ったメールの例文を本製品で探したのち、PC側に引用してメールを書くことができるようになっている。従来モデルよりもさらに一歩進んだPCとの連携を打ち出しているのが、本製品のユニークなところだ。今回はこれらの機能を中心にレビューしたい。
  
 なお、今回試用したのは発売前にメーカーから借用した評価機であり、量産モデルとは一部仕様が異なる可能性があることをあらかじめお断りしておく。

●デザインが一新された筐体。キーボードや給電方法などは従来モデルを踏襲

 まずは外観と基本スペックから見ていこう。上蓋部に段差が設けられたゴールドの筐体は、四隅にリベットが打たれた従来のシルバー系筐体とはイメージが大きく異なる。従来モデルにあった開閉部のラッチも省略されるなど、デザインだけでなく機構も一新されており、これまでのSIIの電子辞書とはひと味違う印象だ。

 一方、キーボード盤面については従来モデルを踏襲しており、SIIならではのパンタグラフキー「カイテキー」を搭載するほか、下部両サイドには2基のスピーカーがレイアウトされる。新たにUSB接続時に点灯するLEDがキーボード左側に搭載されたのが目立つくらいだ。また、ボリューム調整ダイヤルが側面に搭載されている点は、直感的な操作を可能にするという意味でポイントが高い。

 もはやSII電子辞書のウリとなった多彩な電源は、本製品でも健在。デフォルトの充電式リチウムイオン電池のほか、単4電池×2、ACアダプタ、USB給電と、使い方に合わせた多彩な給電方法をサポートする。連続駆動時間はリチウムイオン電池使用時で23時間と、他社製品の100時間近い駆動時間に比べると見劣りするが、給電方法の多彩さでカバーしている格好だ。

 解像度は640×480ドット(VGA)、画面サイズは5.2型。高精細かつ視野角の広い液晶は健在だ。実のところサイズ的に変更はないのだが、筐体が一新された関係で液晶上部のベゼルが狭くなり、画面が広くなったような印象を受ける。重量は239gと他社製品に比べるとかなり軽く、持ち運びの際も負担になりにくい。

 競合他社製品ではSDカードからmicroSDへの切替が進みつつあるが、本製品では拡張用のシルカカードとの兼ね合いか、SDカードスロットのままである。SDカードを使った機能として、MP3機能やテキストビューア機能をサポートしている点は、従来製品と同様である。

上蓋を閉じたところ。従来モデルからは形状が一新されている。ゴールド系のカラーも同社製品としては珍しい本体左側面。PCとの接続に利用するUSBコネクタと、ACアダプタジャックを装備本体右側面。ボリューム調整ダイヤルとピンジャック、SDカードスロットを備える
手で持ったところ。サイズそのものは従来モデルとほとんど変化はないパンタグラフキーを採用したキーボード。上部にレイアウトされる11個×2段ファンクションキーは、すべて同じ形で色分けなどもとくにないため、コンテンツを呼び出すキーとそれ以外のキーの区別がつきにくいキーボード手前左右にスピーカー2基を装備
USB接続時に点灯するLEDが新たに装備された。蓋を閉じた状態でも視認できるのはありがたいPASORAMAの初代モデルSR-G9001(右)と並べたところ。筐体が一新されているため、印象は大きく異なる同じくPASORAMAの初代モデルSR-G9001(右)と並べたところ。デザインがややシャープになった印象
従来モデル(SR-G9001、写真右)ではキートップにあったシルク印字が、2世代目にあたるSR-G10001からはベース部に印字されるようになっており、本機(写真左)もこの仕様を踏襲しているSDカードスロットを装備。拡張用シルカカードのほか、テキストやMP3データを読み込ませることが可能
通常はリチウムイオン充電池で駆動。予備電源として単4電池×2や、ACアダプタ、USB給電も利用できるPCとの接続時はUSB経由で給電される。電子辞書機能を使いながらの充電もサポートする

●コンテンツは「メール作成支援系」、「旅行会話系」が中心

 続いてメニューとコンテンツについて見ていこう。本製品では旅行会話系のコンテンツが新たに20も加わったことにより、総コンテンツ数は41と、前回レビューしたSR-G9001の30コンテンツに比べると大幅に増加している。

 ただし、国語・英語系のコンテンツはそのぶん縮小され、例えば3つあった英和辞典コンテンツが1つに減少したり、広辞苑第六版や日本語大シソーラスが非搭載になるなど、ビジネスエントリーモデルというコンセプトに則り、思い切った見直しがはかられた格好だ。分類上は「英語モデル」となっているが、従来の英語モデルとはかなりコンセプトが異なるので、製品を選ぶ際には注意したい。

 メニュー画面については、従来モデルでも使われていたオーソドックスな横向きタブ方式を引き続き採用している。英語・日本語のコンテンツが縮小されたことで、1タブごとに表示されるコンテンツの数が少なくなり、ややさみしい印象もあるが、そのぶん後述のメール・旅行関連のコンテンツが充実している格好だ。

 テキストの行間を広げたり、罫線で区切るなどの多彩な表示方法は、本モデルでも健在。液晶の高精細さとあいまって、他社製品の一歩先を行くイメージだ。プレビュー表示のタテヨコ切替なども、レイアウト的に無理がなくゆったりした印象である。

メニュー画面は一般的な横向きタブ方式を採用。ビジネスおよび旅行分野に注力しているぶん、国語や英語のタブはややさみしい印象。なお、従来モデルにあった広辞苑第六版はデジタル大辞泉に差し替えられている本製品の特色ともいえる、メール作成支援のコンテンツ。とくに日本語メールの作成支援コンテンツである「もっとうまいeメールの書き方」は、新社会人には重宝しそうだ旅行会話系のコンテンツも充実している
キーボード上部ファンクションキーの「国語」は、1度押すとデジタル大辞泉、2度押すと新漢語林が呼び出される
一方、ファンクションキーの「ビジネス文例」などは、直接コンテンツが呼び出されるわけではなく、一覧が表示される。同じ役割のキーながら挙動が異なるので、使っていて少々戸惑う履歴表示はコンテンツごとに分かれていないため、使いやすい

●英文・和文のメールを作成できる支援機能が便利

 さて、ビジネスエントリーモデルと称される本製品は、メール関連と旅行会話系のコンテンツだけで、全搭載コンテンツの半数を超えることが大きな特徴だ。ここでは、PCと連携するPASORAMA機能とあわせて、おもにメール作成支援系のコンテンツの活用方法を見ていきたい。

 USBでPCと接続し、PCから検索機能が利用できるPASORAMA機能については、初代のSR-G9001と大きな違いはない。具体的な利用手順としては、PC側に専用ソフトウェアをインストールしたのち、本製品をUSBでPCと接続した状態で専用ソフトウェアを起動し、入力フィールドに調べたい単語を入力すると、ウィンドウ内に一覧および意味が表示される。説明文をコピー&ペーストすることで、他のアプリケーションに貼り付けることができるので、メールやレポートの作成に威力を発揮する。

 本製品では、メール作成を支援するコンテンツが計5つ搭載されており、英文/和文メールの作成をサポートしてくれる。例えば英語圏の会社に契約書を送付したいとする。この場合、PASORAMAの入力フィールドに「契約」と入力すると、そのワードを含んだ例文の一覧が表示されるので、目的に合致した例文をコピーしてメール本文にペーストすればよい。これまでの電子辞書であれば、画面を見ながらいちいち打ち直す必要があったわけだが、マウス操作のみで切り貼りできるため、労力が大幅に削減される。

 これらのメールテンプレートは、豊富な文例とともに表示されるため、オンラインの翻訳サイトでイチから訳すのと比較すると、かなり正確かつ小回りの効いた文章を仕上げることができる。本レビュー執筆中にたまたま海外のECサイトと折衝をする機会があったため、本製品を用いて作成した英文メールでやりとりを行なったが、じゅうぶんな意思疎通を図ることができた。やりとりを重ねるたびに先方からのメールがどんどん長文かつ詳細になっていったのは、こちらが送ったメールの英文が文法・言い回しの面で正確だったことを物語っていると言えるのではないだろうか。

 このメール作成支援機能で1つもったいないと感じるのは、検索方法が単語からの検索に限られることだ。そもそもその単語が思い浮かばなかったり、また言い換えの言葉を思いつかなければ、検索そのものを行なうことができない。目的ごとのドリルダウン検索、例えば「目次検索→ビジネスメール→契約書に関するやりとり」といった具合に掘り下げて探すことができれば、さらに使い勝手がよくなるだろう。電子辞書単体で検索する場合は、こうした目的ごとの検索もきちんとサポートしているだけに、PASORAMAソフトウェアのバージョンアップによる改善が行なわれることを期待したい。

 また、本製品では、日本語のビジネスメール作成を支援するコンテンツ「もっとうまいeメールの書き方」が初搭載されている。通常の業務メールは問題なくやり取りできるビジネスパーソンであっても、めったに発信することがない類のメール、例えば営業所の移転通知や訃報などを手本もなしに書けと言われると、戸惑うに違いない。その点、本製品を用いれば、豊富な日本語のメールテンプレートを用いてこうしたビジネスメールを手軽に作成することができる。一般的なビジネスパーソンはもちろんのこと、社会人になりたてで業務メールに慣れていないユーザにもお勧めできる。

PCでPASORAMA機能を利用する際は、電子辞書側をPASORAMAモードにする必要がある電子辞書側で「契約」という単語を検索したところPCにインストールした専用ソフトウェアで「契約」という単語を検索したところ。表示されたテキストはコピー&ペーストでメールなどに引用することが可能
PASORAMAによる検索が利用できるのは、41コンテンツのうち27コンテンツ検索の結果、該当がなかった場合は何も表示されない。ステータスバーに「見つかりませんでした」の表示すら出ないので、正しく接続されているかどうかを疑ってしまう。改善を要望したいポイントだPASORAMA側では単語による検索のみだが、電子辞書側では目次から分野を絞ってドリルダウン検索も行なえる

●実売2万円台と良心的な価格設定。新社会人が安心して使える製品

 今回試用して感じたのは、いい意味で電子辞書らしくない、ということだ。PASORAMA機能を用いてPCから操作している以上、使用感そのものは一般的な電子辞書と異なっていて当然なのだが、PASORAMA機能の特長を生かすべくコンテンツの編成を見直したことにより、従来の電子辞書とは異なる方向に進化し始めたことが如実に感じられる。

 本製品では、豊富な使用例と注釈がついた英文/和文のメールテンプレートを搭載するほか、海外旅行や出張などにおいて発音機能を利用した旅行会話系のコンテンツを利用することができるわけだが、これはいずれもPCが苦手とする分野である(同じ役割をPCに持たせることは不可能ではないが、コスト面を考えても現実的ではない)。本製品は、PCとうまく住み分けができるよう、製品企画の段階でコンセプトがきちんと固められ、それに基づいてコンテンツが選ばれているのだ。

 PCとの連携という意味で、なかなか明確な回答を出せない電子辞書が多い中、PASORAMA機能を軸にPCとの連携および住み分けを提案するこのSR-G6100には、電子辞書の新しい形を見たように感じられた。特にPASORAMA機能の有効な使い方として、メールのテンプレートとしての用途に着目したのは、なかなかのスマッシュヒットだと思う。経済、経営、流通など各分野のビジネス用語辞典も多数搭載しており、新社会人がビジネスシーンで頼ることができる製品だと言える。

 その一方で、従来の電子辞書らしさ、特に「英語モデル」らしさを求めるユーザーにとっては、コンテンツの面でやや物足りない製品かもしれない。とはいえ、実売価格を2万円台に抑えながら、これだけの機能が使えるというのは、特筆すべきことだろう。個人的には、PASORAMA機能に特化したコンテンツがさらに増え、これまでなかった新しいガジェットとしての地位を確立してほしいと思う。

製品名SR-G6100
メーカー希望小売価格オープン
ディスプレイ5.2型モノクロ
ドット数640×480ドット
電源リチウムイオン充電池、単4電池×2、ACアダプタ、USB
使用時間約23時間(リチウムイオン充電池使用時)
拡張機能SDカード、PASORAMA機能
本体サイズ141.3×104.4×19.7mm(幅×奥行き×高さ)
重量約239g(電池含む)
収録コンテンツ数41(コンテンツ一覧はこちら)