~タブレットモードとキーボードモードで利用できる11.6型Ultrabook |
ソニーからWindows 8搭載秋冬モデルが発表されたが、その中でも注目を集めているのが、独自の「Surf Slider」機構を搭載した11.6型液晶搭載Ultrabook「VAIO Duo 11」である。VAIO Duo 11は、タブレット形状から液晶をスライドさせることで、キーボードが現れ、ノートPCとして使えることが特徴だ。ソニーは、VAIO Duo 11をスライダーハイブリッドPCと呼んでおり、シチュエーションに応じてタブレットモードとキーボードモードを使い分けられることが魅力だ。
今回は、VAIO Duo 11を試用する機会を得たので、早速レビューしていきたい。なお、今回試用したのは試作機であり、製品版とは細部や性能などが異なる可能性がある。
●変形は小気味よいが、液晶の角度は変更できないまずは、ボディの外観から見ていこう。VAIO Duo 11は、タブレットモードとキーボードモードという2つのスタイルを持つ。タブレットモードでのサイズは、319.9×199×17.85mm(幅×奥行き×高さ)で、重さは約1.305kgである。ピュアタブレットとしてはやや厚くて重いが、11.6型液晶搭載Ultrabookとしては、標準的なサイズと重さである。
Windows 8搭載Ultrabookでは、パナソニックの「Let'snote AX2」やレノボ・ジャパンの「IdeaPad Yoga 13」のように、液晶を360度回転させることでタブレットとノートPCの2スタイルで使える製品も登場しているが、こうした製品では、タブレット形態で使う場合、キーボードが裏側にきてしまうので、持った時にやや違和感がある。それに対し、VAIO Duo 11は、キーボードの上に液晶部分が重なってタブレットモードになるので、裏側が1枚板となり、持ったときに違和感がないという利点がある。液晶の奥側を持ち、上に持ち上げることで、タブレットモードからキーボードモードに変形させることができる。ヒンジにはバネとダンパーが組み込まれており、適度な力で小気味よく動くようになっている。ただし、通常のノートPCとして使えるキーボードモードでは、液晶の角度を変更できないことに注意が必要だ。
背面には、ASSISTボタンやローテーションロックボタン、音量調節ボタンのほか、オプションのシートバッテリを接続するためのコネクタが用意されている。このコネクタカバーは、外した後、シートバッテリに装着できるようになっているので、紛失する恐れはない。
タブレットモードでは、通常のタブレットと同じ感覚で使える。液晶を360度回転させるタイプとは異なり、裏側にキーボードがこないので違和感がない | キーボードモードでは、ノートPCと似た感覚で使えるが、液晶の角度を変更することはできない |
【動画】キーボードモードからタブレットモードへの変形の様子。バネとダンパーの採用により、カシャッと小気味よく動く |
VAIO Duo 11の背面。左側には、NFCが用意されている。手前右側には、ASSISTボタンやローテーションロックボタン、音量調節ボタンが用意されている | 背面中央には、オプションのシートバッテリを装着するためのコネクタが用意されている。コネクタカバーは外した後、シートバッテリに装着できるので紛失する心配はない | 試用機の重量は実測で1,283gと、公称より軽かった |
●11.6型フルHD液晶を搭載
次にPCとしての基本スペックを見ていこう。今回試用したVAIO Duo 11は、店頭モデルの「SVD11219CJB」であり、CPUとしてCore i5-3317U(1.7GHz)を搭載し、メモリは4GBを標準搭載している。Ultrabookでは背面のカバーが開かず、メモリ増設ができない製品が多いが、VAIO Duo 11もユーザーによるメモリ増設はできない。
ストレージとして、128GBのSSDを搭載する。容量はやや少ない感もあるが、Ultrabookとしては標準的な仕様である。なお、直販モデルのVAIOオーナメードモデルでは、CPUやメモリ、ストレージのカスタマイズが可能であり、CPUは最高Core i7-3667U(2GHz)を、メモリは最大8GB、SSDは最大256GBを選択できる。
液晶は11.6型で、解像度は1,920×1,080ドットのフルHD対応である。Ultrabookの多くが、1,366×768ドット液晶か1,600×900ドット液晶を搭載しているのに対し、VAIO Duo 11では、より解像度の高い液晶を搭載していることは高く評価できる。ドットピッチはかなり狭くなるが、液晶の角度が固定で、いわゆるパームレスト部分がないため、自然と目と液晶の距離が狭くなるため、それほど気にならない。光沢タイプの液晶で、コントラストや発色は良好だが、外光の映り込みが気になることがある。10点同時認識対応のタッチパネルを搭載しており、タッチパネルの反応も良好である。液晶はフルフラットになっているので、エッジからのスワイプ操作もやりやすい。
液晶下部には、Windowsキーが搭載されており、押すことでいつでもスタート画面に切り替わる。また、液晶上部には、フロントカメラとして有効画素数207万画素の「Exmor R for PC」CMOSセンサーが搭載されているほか、背面にもリアカメラとして、同じ有効画素数207万画素の「Exmor R for PC」CMOSセンサーが搭載されている。
PCとしての基本スペックは、Windows 8搭載Ultrabookとしては標準的だが、動作は軽快であり、快適に利用できる。OSとしては、Windows 8 64bitが搭載されている。
【動画】タブレットモードでの操作の様子。動作は軽快であり、快適に利用できる |
●電磁誘導式のペンが付属し、筆圧検知にも対応
キーボードはアイソレーションタイプで、キーピッチは約18mm、キーストロークは約1.2mmである。キーストロークはやや浅いが、配列は標準的で、キータッチは良好だ。また、バックライトが搭載されているので、暗い場所でもタイプミスを防げる。ポインティングデバイスとしては、オプティカル・トラックパッドと呼ばれる光学式のデバイスが搭載されている。オプティカル・トラックパッドは、光学式マウスを裏返したようなデバイスであり、上に置いた指を滑らせることで、ポインティング操作を行なえる。ホームポジションから指をあまり動かすことなく、ポインティング操作できるのは便利だが、細かな操作と長い移動の両立が難しく、細かな操作ができる感度で、端から端までポインタを動かすには、指を何度か置き直す必要がある。
VAIO Duo 11は、電磁誘導式のペンが付属しており、ペン入力に対応していることも魅力だ。タブレットとノートPCの両方のスタイルで使える製品でも、ペン入力までサポートしているものは少ない。ペンには2つのボタンがついており、右クリックなどの動作を割り当てることができる。本体にはペンを収納するスペースは用意されていないが、キャップにはストラップを取り付けるための穴が空いているので、首からぶら下げておくなどすれば、紛失を防げるだろう。ペンは、256段階の筆圧検知にも対応しているので、筆圧対応アプリを利用すれば、本物の筆やクレヨンのような感覚で絵を描くことができる。PCでお絵描きをしたいという人にもお勧めしたい製品だ。また、固さが異なる2種類のペン先が付属しており、好みに応じて選べるのも嬉しい。
ペンには電池が必要であり、通称、単6形電池と呼ばれている細いアルカリ電池が使われている。やや特殊な電池であるが、最近は、大きなカメラ屋や電気店では売られているようだ。
ペンを活かすアプリケーションとして、認識精度の高い手書き対応日本語IME「mazec-T for Windows」や、独自の画像切り抜きツール「Active Clip」がプリインストールされている。Active Clipは、ペンのサイドボタンで起動することができ、画面に表示されている画像を、ペンによる操作で自由に切り抜くことができるツールだ。四角や楕円、自由形状での切り抜きが可能なだけでなく、エッジ自動検出による切り抜きもできるので、必要な情報や映像をスクラップするのに便利だ。
【動画】ペンは電磁誘導方式なので、画面に触れなくても、近づけるだけで反応する |
【動画】256段階の筆圧感知対応で、対応アプリなら線の太さも自由に変えることができる |
【動画】手書き対応の日本語IME「mazec-T for Windows」を搭載しており、快適な手書き入力が可能だ |
mazec-T for Windowsでは、マス目が表示されず、自由に文字を書いていくことができる | Active Clipでは、自由形状での切り抜きのほか、エッジ検出での切り抜きも可能だ |
【動画】ペンで囲むだけの簡単操作で画像を切り抜ける「Active Clip」がプリインストールされている |
●NFCに対応するなどインターフェイスやセンサー類も充実
インターフェイスとしては、USB 3.0×2と有線LAN、ミニD-Sub15ピン、HDMI出力、ヘッドフォン出力、メモリースティックデュオ/SDメモリーカードスロットを備えており、Ultrabookとしてはインターフェイスも充実している方だ。USB 3.0の1つは、本体の電源がオフでも給電が可能になっており、スマートフォンなどの充電に便利だ。
ワイヤレス機能としては、IEEE 802.11b/g/n準拠の無線LANとWiMAX、Bluetooth 4.0をサポートするほか、NFCにもいち早く対応している。NFCは、FeliCaの規格も包含しているのだが、現時点ではどのように使われるかは未定とのことだ。また、ノイズキャンセリングヘッドフォンも付属しており、ノイズキャンセリング機能を利用できる。サウンドにもこだわっており、高音質化技術の「CLEAR PHASE」や「xLOUD」「Dolby Home Theater V4」を搭載しており、状況に応じて利用できる。
センサー類も充実しており、加速度センサーやジャイロセンサー、地磁気センサーに加えて、GPSも搭載しているため、地図アプリを使ってナビゲーションなども可能だ。
●オプションのシートバッテリにより最大14時間駆動が可能
バッテリは交換できないが、公称約7時間駆動が可能だ。さらに、オプションのシートバッテリを背面に装着することで、最大14時間という長時間駆動が可能になる。シートバッテリには、ACアダプタを接続するためのコネクタが用意されており、単体で充電できるのも便利だ。また、シートバッテリにはペンを収納するための穴も用意されている。シートバッテリは7.4V/4,830mAhという仕様で、本体に内蔵されているバッテリもほぼ同容量だ。
実際に、バッテリベンチマークソフトの「BBench」(海人氏作)を利用し、1分ごとに無線LAN経由でのWebアクセス、10秒ごとにキー入力を行なう設定でバッテリ駆動時間を計測したところ、内蔵バッテリのみでは5時間18分、シートバッテリ装着時は9時間57分の駆動が可能であった(電源プランは「バランス」、液晶輝度は「中」)。Ultrabookとしては合格点をつけられるだろう。ACアダプタもコンパクトで軽く、携帯しやすい。
オプションとして専用のキャリングケースも用意されている。キャリングケースには、ペンを収納するためのホルダーが用意されており、ペンを一緒に持ち歩けるようになっている。また、シートバッテリを装着した状態でも、問題なくキャリングケースに収納できる。
●SSD搭載で高いパフォーマンスを実現
参考のためにベンチマークテストを行なってみた。利用したベンチマークプログラムは「PCMark05」、「PCMark Vantage」、「PCMark 7」、「3DMark03」、「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」、「ストリーム出力テスト for 地デジ」、「CrystalDiskMark」だ。
比較用として、東芝「dynabook R542」、ソニー「VAIO T SVT13119FJS」、富士通「LIFEBOOK UH75/H」の値も掲載したが、これらの3機種のOSはWindows 7なので、あくまで参考程度にしてほしい。
PCMark05のCPU Scoreの値は、同じCPUを搭載した他機種とほぼ同じで、妥当な結果となっているが、HDD Scoreの値が48050と非常に高い。比較用の3機種は、ストレージがすべてHDD+キャッシュ用SSDという構成になっているのに対し、VAIO Duo 11は、純粋なSSDを搭載していることの差が出ているのであろう。ストレージが高速なため、PCMark 7の総合値であるPCMark scoreも、他の3機種の値を大きく上回っている。実際の使用感も、十分に快適であり、パフォーマンスについては満足できる。
VAIO Duo 11 | dynabook R542 | VAIO T SVT13119FJS | LIFEBOOK UH75/H | |
---|---|---|---|---|
CPU | Core i5-3317U (1.70GHz) | Core i5-3317U (1.70GHz) | Core i5-3317U (1.70GHz) | Core i5-3317U (1.70GHz) |
ビデオチップ | Intel HD Graphics 4000 | Intel HD Graphics 4000 | Intel HD Graphics 4000 | Intel HD Graphics 4000 |
PCMark05 | ||||
PCMarks | N/A | N/A | N/A | 6993 |
CPU Score | 7885 | 7228 | 7937 | 7658 |
Memory Score | 7825 | 8528 | 5940 | 6463 |
Graphics Score | 2527 | 5779 | 4007 | 4807 |
HDD Score | 48050 | 20204 | 12710 | 12899 |
PCMark Vantage 64bit | ||||
PCMark Score | N/A | 8577 | 8270 | 9300 |
Memories Score | 7951 | 5591 | 5156 | 6776 |
TV and Movie Score | Failed | 3814 | 3844 | 4300 |
Gaming Score | 10248 | 7599 | 6975 | 7224 |
Music Score | 14890 | 9837 | 10643 | 10739 |
Communications Score | N/A | 9475 | 9643 | 9438 |
Productivity Score | N/A | 9393 | 10298 | 9147 |
HDD Score | 45577 | 16308 | 18159 | 21564 |
PCMark Vantage 32bit | ||||
PCMark Score | N/A | 8130 | 7961 | 8811 |
Memories Score | 7609 | 5428 | 4954 | 6773 |
TV and Movie Score | Failed | 4142 | 3776 | 4328 |
Gaming Score | 9199 | 6754 | 6341 | 6041 |
Music Score | 14047 | 9528 | 9305 | 9775 |
Communications Score | N/A | 9390 | 9173 | 9452 |
Productivity Score | N/A | 8576 | 9887 | 8295 |
HDD Score | 45380 | 15478 | 18091 | 22010 |
PCMark 7 | ||||
PCMark score | 4648 | 4298 | 3294 | 3119 |
Lightweight score | 2818 | 3242 | 3193 | 2061 |
Productivity score | 1977 | 2972 | 2963 | 1672 |
Creativity score | 9178 | 6605 | 5095 | 5912 |
Entertainment score | 3232 | 3658 | 2698 | 3020 |
Computation score | 16495 | 14449 | 8866 | 15749 |
System storage score | 5171 | 4051 | 3944 | 2018 |
3DMark03 | ||||
1,024×768ドット32bitカラー(3Dmarks) | 12635 | 12607 | 7929 | 9565 |
CPU Score | 1658 | 1615 | 1468 | 1544 |
FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3 | ||||
HIGH | 4206 | 3786 | 3699 | 3685 |
LOW | 6190 | 5736 | 5685 | 5688 |
ストリーム出力テスト for 地デジ | ||||
DP | 100 | 100 | 100 | 99.97 |
HP | 100 | 100 | 99.97 | 99.97 |
SP/LP | 99.97 | 100 | 100 | 100 |
LLP | 100 | 100 | 99.97 | 100 |
DP(CPU負荷) | 14 | 17 | 23 | 20 |
HP(CPU負荷) | 6 | 9 | 11 | 8 |
SP/LP(CPU負荷) | 3 | 6 | 8 | 5 |
LLP(CPU負荷) | 2 | 5 | 7 | 4 |
CrystalDiskMark 2.2 | ||||
シーケンシャルリード | 458.0MB/s | 268.3MB/s | 274.4MB/s | 77.87MB/s |
シーケンシャルライト | 260.3MB/s | 85.28MB/s | 86.87MB/s | 81.50MB/s |
512Kランダムリード | 315.3MB/s | 239.0MB/s | 244.3MB/s | 41.99MB/s |
512Kランダムライト | 240.1MB/s | 30.62MB/s | 34.19MB/s | 33.52MB/s |
4Kランダムリード | 19.67MB/s | 18.22MB/s | 19.32MB/s | 0.635MB/s |
4Kランダムライト | 40.69MB/s | 0.925MB/s | 1.105MB/s | 0.834MB/s |
BBench | ||||
Sバッテリ(標準バッテリ) | 5時間18分 | 6時間30分 | 6時間14分 | 6時間12分 |
Lバッテリ | 9時間57分 | なし | なし | なし |
●Windows 8を積極的に活用したい人にお勧め
VAIO Duo 11は、Surf Slider機構の採用により、キーボードモードとタブレットモードの2つのスタイルで利用できるコンバーチブルタイプの製品だ。こうした製品は、他社からも発表されているが、フルHD液晶の採用や筆圧検知対応の電磁誘導式ペンが使えることなど、本製品ならではのアドバンテージは多い。また、GPSをはじめとするセンサー類も充実しており、Windows 8で提案されている、センサーを活用した新たなアプリケーションにも対応できる。店頭モデルの実売価格は、15万円前後と予想されており、Ultrabookとしてはやや高めだが、それだけの価値はある製品といえる。Windows 8の新機能をフルに活用したいという人にお勧めしたい製品だ。
(2012年 10月 29日)
[Text by 石井 英男]