元麻布春男の週刊PCホットライン

Windows 7に見るMicrosoft事業部間の“壁”



 9月にリリースされる予定だった次期AppleのOS「Snow Leopard」が8月28日にリリースされた。正式発売はまだ先であるものの、Windows 7も最終製品版が開発者およびITプロ向けにリリースされており、今年登場する予定だった2大OSの最新版が、早くもその完成した姿を現したことになる。

 筆者はWindows 7について、かなり良い印象を持っている。少なくとも、ユーザーインターフェイスが気に入らず、半年であきらめたWindows Vistaのようなことはないと思っている。Windows VistaのタイミングでWindows 7が出ていれば、メイン環境をMacへ移すことはなかったかもしれないとも思うものの、このタイミングでメイン環境をWindowsへ戻すこともしないだろう。

 筆者にとって重要なことは、OS全体の操作性に加え、筆者が利用する環境がそのプラットフォームの上で作れるかどうかであり、その下で動くOSそのものにはあまり依存したくない。要は、原稿を書く(これが筆者にとってPC上で行なう最も重要な活動である)際に、Ctrl+Hでカーソルの左の文字が消去されるとか、Ctrl+Qでカナ漢字変換の文節区切りが短くなるとか、そういった手癖を再現できるかどうかが重要なのである。

 これができればOSにこだわる必要はそれほどないし、エディタやIMEにこだわる必要もあまりない。あとのアプリケーションは、プラットフォームがそれなりにメジャーなら、相当するものがたいていの場合見つかる。データさえ読み出すことができれば、アプリケーションが同一でなくても何とかなる(新しいアプリケーションの使い方を覚えるのは大変だが)。メイン環境が何になろうと、業界標準であるWindowsの利用を完全に止めることはないから、頻度の低いアプリケーションならWindows上のものをそのまま使い続けてもいい。

 ただ、筆者が利用する環境の再現が可能なOSとアプリケーションの組合せが、それほど多くないというのが現実なのだが、とりあえず今、Macintoshではそれができている。AppleがMac OS Xで、MicrosoftのWindows Vista並みに筆者の気に入らないものを作れば、その時はまたプラットフォームの選び直しをするだろうが、そうでないのに変える必要もない。逆に、Mac OS Xに標準でバンドルされるメールソフトやWebブラウザ、DockやExposeの利用に慣れてしまうと、Macの居心地が良くなってしまうのも事実だ。

 さて、冒頭で良い印象と言っておきながら、Windows 7にも気に入らない部分がいくつかある。その1つがファイルのプレビューだ。Snow LeopardとWindows 7はそれぞれ、ファイルのアイコンに、その中身をサムネイルとして表示するプレビュー機能を備えている。いちいち作成したアプリケーションでファイルを開かなくても、アイコンを見ただけでその中身が分かるという便利な機能だ。しかし、この機能にSnow LeopardとWindows 7で大きな差がある。

 表は比較的ポピュラーなデータファイルを、それぞれのOSでプレビューできるか試したものだ。条件は、OS単体でのプレビューで、追加のアプリケーションを一切インストールしないことである。

【表】OS単体によるデータのプレビュー


Snow LeopardWindows 7
汎用文書フォーマット
.pdf×
.xps××(ロゴ表示)
.htm×(ロゴ表示)
Microsoft Office関連
ワード文書
.doc×
.docx×
パワーポイントプレゼンテーション
.ppt×
.pptx×
エクセルシート
.xls×
.xlsx×
画像フォーマット
.bmp
.tiff
.jpg
.png
.mp4(動画)

 この結果を見て分かるのは、Snow Leopardがほとんどのデータファイルについて、OSだけで中身の確認ができるのに対し、Windows 7はMicrosoft製のアプリケーションであるOfficeのデータをほとんどプレビューできない、ということだ。

 画面1は表に示した14種類のファイルを保存したフォルダをエクスプローラーで表示したところだが、画像系を除き、ほとんどのデータがプレビューできない。付属のWord Padで開くことができる.docx文書(ORK_Feature_Changes)、XPSビューワーで開くことができる.xps文書(IE7RevGd)、IE8で開くことができる.htm文書(Windows 7 OS M3 RelNotes)に関しては、これらを開くことができるアプリケーションのアイコンが表示されているが、画像のように中身を反映したものではない。中身を確認するにはアイコンを選択し、プレビューペインを開く必要がある(画面2)。

 これだけなら、プレビューはあくまでもプレビューペインで行なうのがWindowsの流儀、と主張することもできるのだが、実際は異なる。画面3は、14種類のファイルがあるフォルダを、対応アプリケーションがインストールされたPCで開いたものだ。ここでインストールされているアプリケーションは、Adobe ReaderとOffice 2007である。

【画面1】Windows 7のアイコン表示。何もアプリケーションをインストールしていないと、画像系のデータ以外はアイコンとしてはプレビューできない【画面2】一般にWindows 7でデータをプレビューするには、プレビューペインを開く必要がある【画面3】ところが、Adobe ReaderやPower Point等がインストールされていると、一部のデータはアイコンが中身を反映したものに変わる

 ワード文書(.doc/.docx)やエクセル文書(.xls/.xlsx)が中身を反映しないアプリケーションのロゴに止まっているのに対し、PDF文書(.pdf)とパワーポイントプレゼンテーション(.pptxのみ)は中身を反映したアイコンになっている(アイコンでプレビューできている)。Windows 7のエクスプローラーでは、アイコンサイズとして小から特大まで選択できる(掲載した画面はすべて「大」サイズ)が、中身を反映していないアイコンを大きくしてもしょうがない。

 ではSnow Leopardではどうか。画面4は同じフォルダをSnow Leopardで開いたものだ。なじみのないXPSを除き、アイコンはすべて中身を反映したものになっている。アイコンの大きさを拡大すれば、それだけ中身は分かりやすくなる。それどころか、複数ページで構成される文書は、カーソルキーや矢印をマウスでクリックすることで、ページ操作を行なうことさえ可能だ(画面5)。動画ファイルならその場で再生することもできる(画面6)。

【画面4】画面1と同じフォルダをSnow Leopardで開いてみた。ほとんどのアイコンが中身を反映したものになっている【画面5】中身を反映したアイコンは拡大することで中身を確認することが容易になるほか、ページ操作を行なうことも可能【画面6】動画ファイルなら、再生ボタンをクリックすることでそのままアイコンサイズで再生することができる

 こうした違いを生み出す理由の1つは、Windows 7のアイコンでのプレビューが、そのデータに関連づけられたデフォルトアプリケーションに依存する(OSはその機能を仲介するだけ)のに対し、Snow Leopardのアイコンでのプレビューは、QuickLookと呼ばれるOSの機能として定義されており、インストールされたアプリケーションに依存しないことにあると思われる。Windows 7の方式は、新しいデータの登場に柔軟に対応できる反面、どの程度の機能が提供されるかOSでは見定められない。Snow LeopardはOSにとって未知のデータには対応できないが、標準的なデータに対しては高度なサービスの提供が保証される。

 この点では、両方式共に一長一短あるともいえるのだが、問題はWindows 7でプレビューできなかったデータの大半が、Microsoftの製品によるものである、ということだ。AppleのOSなら、Officeをインストールしていなくても、ファイルの中身が判断できるのに対し、Officeの生みの親であるMicrosoftのWindowsでは中身が分からない。果たしてそれで良いのだろうか。

 もちろん、MicrosoftはOfficeのデータを見るのに、何が何でもOfficeを買えと言っているのではない。MicrosoftはOfficeのデータに対して、少なくともWindowsに関しては無料のビューワーを提供している。そこに無償で使える技術が存在するのだ。

 結局、WindowsでOfficeのデータを見ることができないのは、事業部の“壁”というヤツだろう。WindowsとOfficeはともにMicrosoftの製品であっても、担当する事業部が異なる。他の事業部の製品であるOfficeのデータをプレビューすることを、はばかられる雰囲気がWindowsの事業部にあるのではないか。

 国内の企業でも、社内から調達するより他社から購買する方が全然簡単、といった話を耳にする。これは間違いなく大企業病の初期症状でもある事業部の壁症候群だ。Microsoftもどうやらこの病に蝕まれているらしい。