山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
8型フルHDながら2万円台を実現!アイリスオーヤマのAndroid 12タブレット「TM082M4N1-B」
2023年5月4日 06:06
アイリスオーヤマの「TM082M4N1-B」は、8型のAndroid 12タブレットだ。Google Playストアが利用でき、さまざまなアプリが利用できることから、電子書籍ユースにおいてはAmazonの「Fire HD 8 Plus」よりも汎用的な使い方が可能だ。
前回紹介した8型タブレット「FFF-TAB8」は、実売1万円台半ばと、Amazonの「Fire HD 8 Plus」の比較対象としては目を引く製品だったが、スペック自体は低く、性能を度外視した製品という印象は否めなかった。
今回紹介する「TM082M4N1-B」はこの3月に発売された新製品で、解像度はフルHD、さらに前述の2製品よりも多い4GBのメモリを搭載するなど、ワンランク上のスペックでありながら、実売は度々2万円台前半に値下げされるなどリーズナブルな価格が売りだ。
今回はメーカーから借用した製品を用い、Amazonの「Fire HD 8 Plus」および前述の「FFF-TAB8」と比較しつつ、電子書籍ユースを中心にした使い勝手をチェックする。
フルHD対応ながら実売2万円台前半で販売されることも
まずは前述の「Fire HD 8 Plus」および「FFF-TAB8」との比較から。
TM082M4N1-B | Fire HD 8 Plus(第12世代) | FFF-TAB8 | |
---|---|---|---|
アイリスオーヤマ | Amazon | FFF SMART LIFE CONNECTED | |
発売年月 | 2023年3月 | 2022年10月 | 2022年12月 |
サイズ(最厚部) | 209.5×126×8.7mm | 201.9×137.3×9.6mm | 211×121×10mm |
重量 | 374g | 342g | 341g |
CPU | Mediatek MT6769 8コア 2×A75(2.0GHz)+6×A55(1.8GHz) | 2.0GHz 6コアプロセッサ | Allwinner A133 4コア 1.6 GHz |
RAM | 4GB | 3GB | 3GB |
画面サイズ/解像度 | 8型/1,920×1,200ドット(283ppi) | 8型/1,280×800ドット(189ppi) | 8型/1,280×800ドット(189ppi) |
通信方式 | Wi-Fi 5 | Wi-Fi 5 | Wi-Fi 5 |
内蔵ストレージ | 64GB | 32GB (ユーザー領域25.2GB) 64GB (ユーザー領域54.5GB) | 32GB |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 不明(容量5000mAh) | 13時間 | 約4時間30分 |
microSDカードスロット | ○(512GBまで) | ○(1TBまで) | ○(256GBまで) |
コネクタ | USB Type-C | USB Type-C | USB Type-C |
ワイヤレス充電 | - | 対応 | - |
価格(本稿執筆時点) | 2万8,800円 | 1万5,980円(32GB) 1万7,980円(64GB) | 1万5,800円 |
もともと8型のタブレットは、現行モデルでは選択肢が乏しいことに加えて、数少ない候補についても解像度が1,280×800ドットと低かったり、あるいはOSが最新でないなど、何らかのネックがある場合が少なくない。
その点、本製品は解像度は1,920×1200ドット、メモリは他の2製品より多い4GB、ストレージも32GBではなく64GBであるなど、一定の水準に達している。ベンチマークはのちほどご覧いただくとして、よい意味で実用レベルに足した製品だ。
本製品が目を引くのは、こうした一定水準にありながら、度々2万円台前半まで値下げされるなど、コスパも優秀であることだ。発売直後である3月の実売価格3万2,801円のほうが、スペックなどからして妥当という印象だ。
もっとも全部入りのハイエンドモデルではなく、細かく見ていくと気になる点はちょくちょくある。たとえば指紋認証や顔認証といった生体認証はサポートせず、ロックの解除はパスワードないしはPINコードを手入力しなくてはいけないのがその一例だ。
価格重視のタブレットは何らかの機能がまるごと削られていることがしばしばあり、生体認証は格好のターゲットになりやすいのだが、本製品はまさにその典型というわけだ(もっともこれは前述の2製品でも同様だ)。このほか重量は300g台の後半と、8型としてはかなりヘビーなのも気になるところだ。
その一方で、メモリカードに対応していたり、さらにイヤフォンジャックを搭載するなど、こだわりのあるユーザーにとってはピンと来るであろう訴求ポイントも少なくない。GPSを搭載しているのも、用途によっては強みとなるだろう。
クセのない構成。8型タブレットとしてはやや重め
セットアップの手順は従来通りで、特に奇をてらったフローはない。アプリについては、同社TVチューナーと組み合わせて使うTVアプリがインストールされているのを除けば、ほぼAndroidの素の状態で、Google製アプリで占められている。電子書籍関連アプリはインストールされていない。
ボディは直線を基本としたデザインながら、側面には薄い段差があり、初期の「Kindle Fire」に近いものを感じさせる。個性はないが全体的に持ちやすく、またチープさも感じられないので、万人に向く条件を備えていると言えるだろう。
ただし実際に手に持つと、重さはやはり気になる。300gを切るiPad miniと比較するのは野暮でも、Fire HD 8 Plusと持ち比べて重いと感じるのは、相当な重量があることを意味する。持ち歩きを考えている人や、片手で保持する使い方が多い人は要注意だろう。
個人的に高評価なのは、音量ボタンと電源ボタンが短辺側ではなく、長辺側に付いていることだ。というのもタブレットを横向きにして両手で保持した時、音量ボタンと電源ボタンが左側面にあると、何かと誤操作のきっかけになりやすいからだ。好みにも左右されるが、本体を横向きで使う機会が多い人には扱いやすい仕様と言える。
その一方で、横向きで使う場合にネックになるのはスピーカーの配置だ。本製品のスピーカーは短辺側に2つ並んでいるので、本体を横向きにすると、右側面だけから出る格好になってしまう。イヤフォンや外部スピーカーを使うのならば問題はないが、動画再生などでは違和感がある。
気になるベンチマークだが、「Google Octane」ではFire HD 8 Plusの2倍以上、参考スコアながら「GeekBench」でも2倍前後と、パフォーマンスは本製品のほうが圧倒的に上だ。CPUのスペックもさることながら、メモリの容量が多いことも影響しているようだ。
実際に使っていても、Fire HD 8 Plusによりもはるかにサクサク動く。ハイエンド機ではないため、あくまでFire HD 8 Plusとの比較に限った話だが、実用レベルとしては十分で、ストレスはまったくない。Fire HD 8 Plusが遅いと感じる人の乗り換え先としても適している。
283ppiゆえ雑誌も(やや無理をすれば)表示可能
では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最新号を使用している。
解像度は283ppiということで、200ppiを切るFire HD 8 Plusや、前回比較した「FFF-TAB8」よりも表示性能は格段に高い。そのため単ページでの表示はもちろん、見開き表示にも十分耐え得る。326ppiのiPad miniには及ばないとは言え、見た目に劇的な差があるわけではなく、Fire HD 8 Plusの解像度ではキツいと感じる人も満足できるはずだ。
テキストコンテンツについても、ルビや複雑な漢字などの細かいディティールがつぶれることもなく、文字サイズをかなり小さくしても十分使える。アスペクト比は16:10なので、紙の本よりは細長いものの、スマホでの読書時によく感じる縦横のバランスの違和感もない。
なお本製品は8型ということで雑誌の原寸大表示こそ不可能だが、雑誌を見開きで表示しても、本文は解像度的に十分に読めてしまうほか、注釈の小さな文字がつぶれることもない。単純に表示サイズが小さいというだけで、解像度が足を引っ張ることがないのは、幅広いジャンルの電子書籍を読む人にうってつけだ。
1つだけ初期設定から変更しておきたいのはナビゲーションだ。本製品はデフォルトでは画面下に3ボタンが表示されるため、天地が圧迫される要因になっている。システムナビゲーションで「3ボタン」を「ジェスチャー」に変えておけば、ライブラリ画面では圧迫感はかなり軽減される。
一方、手に持って長時間保持することが多い電子書籍ユースでネックになるのは、やや重い重量だ。本製品はスリムなボディゆえFire HD 8 Plusと比べて片手で背面から掴むのも容易なのだが(マット加工で滑りにくいのもプラスだ)、長時間持つならば、保持するためのベルトを用いるなど、何らかの工夫は必要になるだろう。
ちなみに実際に使っていて多少気になったのは、ポート付近の背面が熱を帯びやすいことだ。電子書籍を読んだりダウンロードしているだけでこれなので、より負荷がかかる使い方では、持ち方に影響を及ぼす可能性がある。
Fire HD 8 Plusキラーの一番手。メーカーの売る気は?
以上のように本製品は、一定の基本スペックを備えることから、前回紹介した「FFF-TAB8」よりも実用性は高く、「Fire HD 8 Plus」の動作の遅さに耐えられない人、また1,280×800ドットという解像度に物足りなさを感じる人にとっては、よい選択肢と言える。Androidということで、音量ボタンを使ってのページめくりに対応するのもプラスだ。
なによりGoogle Play ストア経由でさまざまな電子書籍ストアアプリをインストールできることから、Kindleアプリとdマガジンに実質限定されるFire HD 8 Plusと比べて、汎用性はケタ違いに高い。本製品を一通り使ったあとの印象としては、実売価格が3万円台でもおかしくないと感じる。
最大のネックは、メーカーであるアイリスオーヤマがこの製品にどれだけ本気なのか、いまいち見えにくいことかもしれない。同社のデジタル製品はリリースもなく急に販売サイトに出現することが多く、今回の製品も主要なニュースサイトでの露出はゼロ。筆者もたまたまAmazonで見つけたにすぎず、本稿で初めてその存在を知った人も多いはずだ。
またメーカーの製品ページも他製品と1つのページにまとまっているなど見づらく、むしろ直販サイトやAmazonのページのほうが分かりやすいほどで、ユーザーが製品を品定めして安心して購入に踏み切るだけの情報量が圧倒的に不足している状況だ。
もっともここまで見てきたように、現在の8型タブレットの中では希少価値の高い「実用レベルのスペックで3万円以下」を満たす製品であり、Fire HD 8 Plusキラーの一番手と言っていい製品であることは間違いない。
きちんと宣伝をすればもっと話題になっていてもおかしくなく、現在8型のタブレットを探しているユーザーは、候補に入れておくべきだろう。