山田祥平のRe:config.sys

OSという名のアプリ、アプリという名のOS




 PCのユーザーにとって、OSがもたらす恩恵とはファイルシステムとアプリ実行のためのAPI群だ。だが、クラウドがAPIを提供するようになり、アプリがネットワークサービスを提供するようになり、ミドルウェアとしてアプリを実行する環境が出てくるなど、OSの正体が曖昧なものになりつつある。

●アップルが考えるホームの概念

 iTunesがバージョンアップし、さらにiOSがバージョンアップされた。早速インストールはしてみたものの、まだ、手元では新機能のウリであるホームシェアリングがうまく動いてくれない。ファイアウォールが悪さをしているのか、設定が欠落しているのか、とにかく期待通りに動いてくれない。

 この機能は、個々のPCのiTunesライブラリを共有し、他のPCとの間でコンテンツを同期したり、転送したりすることができるという機能だ。ただし、無制限ではなく、ある縛りがある。最大5台のデバイス間に限られ、さらに、それぞれのデバイスは同じApple IDを設定したものでなければならない。

 ややこしいのは、iTunesにもともとあった共有と、今回のホームシェアリングの考え方の違いだ。もともとの共有はデバイス間認証だったが、今回はApple ID認証での共有になる。「ホーム」と冠しながら、認証が個人なのだ。これまでもiPodでApple Remoteアプリを使えば、PCのiTunes内コンテンツを再生することはできたが、ホームシェアリングでは、iTunes間でのコンテンツ転送が可能になる。できることが似ているだけに、その共存もややこしい。

 アップルがこの仕様で機能を提供してきたということは、コンテンツを見たり聴いたりする権利を個人に紐づける方針を明確にしたということだ。自分で購入したコンテンツなのだから、自分のデバイス間では、自由にコピーして楽しめる。実に当たり前のことで、異論をはさむ余地はないように思える。

 この仕様のために、夫婦や兄弟で共有のアカウントを作り、それでコンテンツの管理をしているユーザーも少なくないと聞く。でも、そのことで、自分専用のアカウントでデバイスを使えなくなり、多少の不便も生じているはずだ。

 この連載では、パーソナルに加えて、レジデンシャルという概念を考慮しなければならない時期にきているんじゃないかとたびたび言及してきたが、これからの世の中は、夫婦間、兄弟間、親子間であっても、コンテンツを共有することは許されなくなっていくんだろうかと、ちょっと憂鬱な気分になってしまう。でも、おそらくは、そのうち、Apple IDを束ねる仕組みが提供されるようになるに違いない。ちょうど、TwitterとFacebookの関係のようにだ。

●Twitterをアプリと見なすFacebookプラットフォーム

 iTunesは、もはや、Mac OSやWindowsで稼働する一種のOSだ。iPhone、iPad用アプリこそ動かないし、アップルにはそれをできるようにするつもりもなさそうだが、デバイス間でのコミュニケーションを司り、ネットワークを介した利便性を提供するさまざまな機能をサポートしている。そうなると、OSがMac OSだろうが、Windowsであろうが、あまり関係なくなってきてしまっている。

 一方、冒頭で書いたように、クラウドは、まさに雲の向こう側で稼働する巨大なOSだ。その状況は、Facebookのプラットフォームアプリの機能などを見ると実感できる。たとえば、FacebookでTwitterとの連携を設定すると、Twitterでのつぶやきが、Facebookの近況として投稿される。

 個人的にはTwitterというのは「匿名個」対「不特定多数」、Facebookというのは「特定個」対「特定少数」のコミュニケーションを媒介するサービスだと思っている。双方ともにSNSとして分類されることが多いようだが、その方向性は異なる。Twitterで大量のフォローをしているユーザーが、重要なユーザーだけをリストにまとめることがあるが、Facebookは、そのリストの拡張版として機能しているようにも見える。早い話が、自分を知らない人にもきいてほしい話はTwitterで、自分の友達だけにきいてほしい話はFacebookでというわけだ。どちらにしても相手は複数なので、多くの発言はTwitterでつぶやいておけばいい。大量のツィートに埋もれてしまうかもしれない発言も、Facebook側で友達の目にとまる可能性はある。

 Facebookは、今、Googleを抜き、世界でいちばん滞在時間の多いサービスになっているそうだが、Facebookの友達と、Twitterのフォロー相手は重複が多くなっているはずだ。でも、自分の発言をタイムラインで見ているのは、自分のフォロワーだけではない可能性もある。だから、ユーザーは、これらのサービスをシームレスに重ね合わせ、発言に応じて使い分けながらネットワークに暮らすのだ。

●アプリは今、OSを超えて

 米Hewlett-PackardのCEOが、2012年以降webOSを全PCにプリインストールする方針を明らかにしたというニュースが、今朝方から流れ始めている。Businessweekのインタビューに応えての発言のようだ。

 「Windowsに加えて」という但し書きがあるので、その仕組みがどうなるかが興味深い。先だってのイベントではWindowsの1つのレイヤーとしてwebOSが稼働するという話だったが、場合によってはデュアルブート、または、仮想化環境といった手法がとられるのかもしれない。もしかしたらwebOSという名のアプリが出現するのかもしれない。

 いずれにしても、ユーザーは、PCで動かせるアプリの選択肢を増やせるということだ。この動きが本格化すれば、本当に、デバイス相互の相乗効果が顕著になり、ユーザーは、どんなデバイスでも同じアプリを動かせるようになり、利便性は一気に高まるはずだ。そういう意味では、大は小を兼ねるわけで、汎用デバイスとしてのPCはきっと復権するだろう。今のPCのパフォーマンスは、スマートフォン10台分を仮想化したってビクともしない。クラウドを介して、大量にある手持ちのパーソナルデバイスをうまく管理していくための統合プラットフォームとして、PCは、これからますます、その重要性を増すだろう。「なくても平気、あればもっと便利」が現実のものになる。

 人が機器を1つに絞りたがるのは、データを連携できず、扱いがかえって煩雑になるからだ。それさえクリアできれば、適材適所でスマートデバイスを使える。そうなるのも時間の問題だと期待したい。