山田祥平のRe:config.sys
レッツノートはUSB PDをどこまで信じているのか
2023年1月14日 06:29
自分が愛用している機器にUSB PDで給電したときの挙動を把握していると、いざというときに役に立つかもしれない。着脱可能な充電式バッテリを実装しているパナソニック(パナソニック コネクト)のレッツノートシリーズを使って、その振る舞いを確認してみた。そこで見たのはレッツノートのモビリティを支える実装哲学だった。
着脱不可バッテリの功罪
バッテリ駆動できる多くのデバイスのバッテリが着脱できなくなって久しい。薄型軽量化や防水、防滴、防塵などにも貢献し、消費者はそれを当たり前のことのように受け入れている。どちらかといえばあきらめの気分かもしれない。
その一方で、パナソニックのレッツノートのように、バッテリを着脱できることにこだわる製品もある。バッテリは消耗品なので、使っているうちに必ず劣化する。フル充電とフル放電を毎日のように繰り返していたら、おそらく1年を待たずに初期性能の半分くらいしかもたなくなってしまうだろう。そうなってしまったら、バッテリ交換を修理サービスに依頼するか、交換をあきらめて本体ごと新しいものに買い替えるかのどちらかしかない。
機器に内蔵されたパーツとしてのバッテリは汎用品であることが多いが、スキルのない素人が特殊な工具を使わずに、さくっと交換できるものでもないし、保守パーツとしての入手もカンタンではない。メーカー側も、バッテリ交換をエンドユーザーがやって起こってしまったトラブル等の結果については責任を負えない。
だからこそ、パナソニック機のように、バッテリが交換できる機構を持つモバイルノートPCはうれしい。バッテリの寿命とは関係なく、本体のライフサイクルを正味の期間で得られるからだ。
小さな電力でも、もらえるものはもらって充電
バッテリを着脱できるとうれしいのにはもう1つ理由がある。専用バッテリがない状態での稼働ができる可能性だ。
レッツノートはUSB PDによる電力供給時の、バッテリへの充電挙動を細かく開示している。たとえば、最新の第12世代Core搭載のSR3の場合、
電源オフ時
- 15W以上:満充電可能
- 15W未満:充電禁止(2.5Wアダプタなど、LED消灯)
電源オン時
- 27W以上:満充電可能
- 27W未満:充電禁止(LED消灯)
で専用バッテリパックへの充電ができる。これは第11世代Core搭載機以降の仕様で、それまでは、満充電の手前で充電が停止するものの、電源オフなら15W未満~7.5W以上でも充電が可能だったが、この仕様は廃止された。
この仕様を見て分かるのは、電源がオフなら15W以上、電源がオンでも27W以上のPDP(Power Delivery Power)をもつACアダプタさえあれば、バッテリをフル充電まで回復させられるということだ。一般的なUSB PD対応のACアダプタやモバイルバッテリは18W超だし、最近は30W超のコンパクトなACアダプタも珍しくない。さらに、モバイルバッテリでも30W超のPDPを持つ製品が順次登場している。
早い話が、スマホを充電できる程度の装備があればレッツノートは不自由しないというわけだ。手元にPDP 18WのACアダプタが1個しかなくても、電源がオフの状態なら、夜、寝ている間に接続しておけば起床時にはフル充電に達しているだろう。スマホはPCのUSB PDポートに接続しておけば同様にフル充電になる。
つまり、多少の時間はかかるが、18WのACアダプタ1個でPCとスマホの両方をまかなえるということだ。
充電できれば駆動もできる、はず
レッツノートのUSB PD対応をさらに深掘りしていこう。バッテリが着脱できることを利用して、バッテリパックなしでの駆動を試みる。
それが何の役に立つかというと、すぐに思いつくのは
- 充電しっぱなしということがなくバッテリの寿命が理不尽に短くなるのを抑制できる
- 装着したバッテリがスリープ維持などのために放電することがない
といったくらいなのだが、メリットはまだある。バッテリをバッテリで充電するという非効率的なことをしなくてすむという点だ。
AC電源を確保できない場所に長時間いなければならないとき、バッテリはPCの駆動に欠かせない。レッツノートの場合はバッテリを交換できるので、極端にいえば、必要時間分の交換用バッテリを用意しておけば無限にバッテリ駆動ができる。
そこまでいかなくても、モバイルバッテリなどの汎用アクセサリがバッテリ駆動時間の延長に活かせるならうれしい。
基本的に、手持ちのバッテリを最大限に活かすためには、バッテリでバッテリを充電することをしないようにするのがいい。バッテリでバッテリを充電すると、充電する側に100の力があっても、半分というのは極端にしても、6~70%程度しか活かせない。残りは充電時に発生する熱などになって消滅してしまい無駄になってしまうのだ。
外部のバッテリから給電した場合、その電力は、本体内蔵のバッテリを充電することを優先して使われる。仮に内蔵バッテリがすっからかんになってから、あわてて外部にバッテリを接続して電力を供給しても、その半分近くの電力が内蔵バッテリの充電に使われ、残りは熱などになって消える。
だから、その日の予定が多くのバッテリを必要とすることが分かっているなら、バッテリがフルに近い状態のときから外部バッテリを接続して電力を供給すべきだ。バッテリがフルに近く、新たな電力供給が不要であれば、外部の電力は現在の稼働に使われる。つまり、バッテリがバッテリを充電するという無駄がない。
さらに、本体にバッテリが内蔵されていなかったり、レッツノートのように切り離せればどうだろう。外部のバッテリの電力は丸ごと駆動のために使える。バッテリを着脱できるレッツノートでは、バッテリパックを外してしまった状態で外部にバッテリを接続すれば、出かける前に備蓄した電力をフルに使えることになる。
バッテリ内蔵の機器についても、せめて電子的、物理的のどちらでもいいから、バッテリを完全に切り離すモードが用意されていれば同じようなことができるのにと思う。
標準規格を信じ、裏切られてを繰り返し
レッツノートからバッテリを外し、外部の汎用バッテリのみで駆動しようとしたときの挙動についてもパナソニックから教えてもらった。
基本的には、本体に同梱されている電源アダプタが供給する電力を超えて電力が供給される場合、起動中の本体からバッテリパックを外してもPCは落ちないし、オフの状態から起動もする。また、それ未満の電力が供給された場合、その電力ごとに挙動は異なる。これが基本原則だ。
たとえばレッツノートSR3には65Wの電源アダプタが同梱されている。丸型コネクタの専用電源アダプタだ。当然、このアダプタを使えば、バッテリを取り外した状態でも問題なくレッツノートを使える。だからACアダプタにしても、モバイルバッテリにしても、65W超のUSB PD電源があれば、バッテリパックを取り外した問題なくレッツノートを運用できるはずだ。
ただ、レッツノートはUSB PDを完全には信じていない。だから基準は同梱アダプタ相当の65Wではなく、85W超とされている。PDPがそれ未満の場合は、いきなり電力不足を起こしたりしても被害を最小限に抑えられるような仕組みが実装されている。
制御の流れとして、SR3の場合は、とりあえずは通常クロックで動作するが、必要な電力が不足し電圧が低下すると、瞬時にクロックを最低速に落として固定する。つまり、動作時のプロセッサクロックを変動させる仕組みが実装されている。実動作中の負荷にあわせてリアルタイム制御され、電力が足りる限りは通常クロックで動こうとしてくれる。FV1では無条件にクロックが最低速に固定されていたことを考えると、地味ではあるが重要な進化だ。
最低限のクロック周波数というのは0.5GHzといったもので、Windowsを使うのにはギリギリに感じる。使っていてイライラするが、使っていたバッテリパック残量がゼロになってしまったときに、システムを止めずに新しいバッテリに交換できる。
パナソニックでは、このしきい値を絶対的なものとはせず「すべての機器の動作を保証するものではありません」としている。仕様や理屈通りに動作しない製品も市場に散見されるからだ。それらについても同社では検証やユーザーからのフィードバックに応じて、確認/解析を繰り返し、USB PDのコントローラベンダーに修正依頼を出すなどして改善を求め、次モデルなどで順次対応していくという。
手元で、SR3にオウルテックの60Wモバイルバッテリをつないで試してみた。このバッテリはオールマイティに使える割には軽量で、最近のお気に入りだ。
レッツノートにこのモバイルバッテリを接続した状態でSR3のバッテリパックを取り外しても、システムが落ちることはなかった。ただし、クロック周波数は0.5GHzに落ちた。また、通常以上に負荷がかかっているなど、タイミングによってはバッテリパックを外したとたんに落ちてしまうこともあり油断は禁物だ。
こうなると、85W超の出力に対応したモバイルバッテリが欲しくなる。SR3用のバッテリパックの容量/重量は標準のものが50Wh/270g、軽量のものが30Wh/190gと、2種類用意されている。50Whのモバイルバッテリで85W超のものがあれば、完全な代替が可能だ。
残念ながら、手元にはそんな高出力ができるモバイルバッテリがないので検証はできないのだが、今回のオウルテックのモバイルバッテリは72Wh/約350gで、パナソニックの通常パックの約1.4倍の容量をもつが、重量は1.3倍しかない。85W超の出力に対応してその容量をフルに使えるのなら、スマホにも充電できる汎用性を含めて鬼に金棒だ。モバイルバッテリの汎用性が、新しい当たり前として、このくらいのことができるようになれば、非常時までカバーする携行エネルギーパックの地位を得られそうだ。
モビリティというのは、こうした汎用性を含めて、いろいろなものを携行することの便宜を高めることでもある。それを支えるレッツノートの実装哲学は、やはりすごいと思うし、本当にモバイルを考え尽くさなければ実践できない。それを公開することも素晴らしい。これからもあくことなく追求していってほしい。