メーカーさん、こんなPC作ってください!

ミキサーを使った一歩上行くニコ生/YouTuber向けPCを作る

~監修:オーディオライター藤本健氏、協力:パソコン工房

 PCは実に多くのことができるが、最近ではスマートフォンなどの能力も一気に向上しており、PCでなければできないことは減りつつある。だが、ものづくり、あるいはそこまで行かなくても、自分で編集・作成するオリジナルコンテンツの制作においては、PCに比肩するデバイスはないのが現状だ。

 ただし、何でもできると言っても、実際には、予算上限が決まっているので、いくらでも高性能なパーツを使えるわけではないし、1人が使う用途もある程度限られている。

 本コーナーでは、主にクリエイターやクリエイターを目指すユーザーを想定し、特定の用途において価格性能比の面で最適なPCとはどのようなものかを、その分野に造詣の深い専門家やライターの方、および実際にPCを製造するメーカー、PC Watchの三者が一緒に議論、検討し、実際に製品化する。

 今回は、ニコ生などのリアルタイム動画配信や、YouTuberを想定した動画編集マシンを考えてみる。監修には前回に引き続き、MIDI、オーディオ、レコーディング関連などに詳しく、自身でニコニコ生放送にもチャンネルを持つライターの藤本健氏を迎え、PCの企画、製造面は今回もパソコン工房に協力いただいている。従来同様、企画は前後編に分かれており、この前編ではこの目的に合致するPCのスペックや必要な機器などについて議論する。後編では、その検証および実証結果をお伝えする。

オーディオライターの藤本健氏

「ミクミキサー」ことヤマハ「AG03」を活用

【司会】ニコ生主向け、あるいはYouTuber向けPCというのは、過去にこの企画の内部ミーティングでネタとして挙がっていました。そういった中、その手のPCを企画するのに好都合な周辺機器が登場しました。それが、ヤマハの「AG03」です。この製品は、PCにオーディオマイクや楽器を繋げられるオーディオインターフェイスであり、ミキサーの機能も持っています。コンパクトな割に結構な高機能ぶりなので、使い方はいろいろあるのですが、1つ言えるのは、これを活用することで、いわゆる「歌ってみた系」コンテンツをより高音質にできます。この製品について、藤本さんに簡単に解説をお願いしたいと思います。

ヤマハ「AG03」
ミクバージョンの「AG03-MIKU」も用意されている

【藤本】この製品は「AG03」という型番から、3ch分の入力系統があることが示唆されています。しかし、一部排他関係にはありますが、実は次の7ch分の入力ができるんですね。

  • 1ch=メインのマイク用(※排他でヘッドセット用マイクも選択可)
  • 2/3ch=ラインのLとR(※Rはギター入力に変更可能)
  • 4/5ch=AUXステレオ入力
  • 6/7ch=PCステレオループバック

 個人での配信用途を考えた時、例えば実況だけならマイク入力1つあれば十分と思う人も多いかも知れませんが、複数の入力系統とミキサー機器というのが実は必須とも言えるのです。

 具体的に言うと、歌ってみたやゲームプレイ実況配信の場合、歌ったり、実況したりするマイクの入力に加え、カラオケ音源やゲームのBGM/効果音の入力やループバックが必要です。そして、両者の音量を適切に調整するには、ミキサー機能が必要になってきます。

 AG03は、その機能を提供するものです。個人でも、4chくらいだとちょっと心許ないけど、7chあれば十分対応できます。

 それからAG03は、コンデンサマイクやギターを繋げられるという機能もあります。細かい説明はこの記事の範疇を超えるので割愛しますが、ボーカルを録音するのであれば、できればダイナミックマイクではなくコンデンサマイクを使いたいところです。コンデンサマイクは48Vの電源が必要なため、PCに直接繋ぐことはできません。また、インピーダンスの高いギターやベースもPCには直結できませんが、AG03はギター/ベース用の入力端子を備えていて、弾いてみた系にも利用できます。

 加えて、本製品は、コンプレッサー、イコライザー、リバーブ機能を搭載しています。これらは、COMP/EQボタン(コンプレッサー/イコライザー)、EFFECTボタン(リバーブ)を使ってワンタッチでオン/オフできます。初心者には細かい設定は難しいかも知れませんが、とりあえずオンにするだけでも、音声の品質が上がります。

 コンプレッサーとは、音の大きさ(正確には音圧)を整えるもので、小さい声で歌っても、大きな声で歌っても自動でバランスを整えてくれます。イコライザーは音質を調整するもので、出すぎている低域を絞るとか、足りない高域を持ち上げるといった設定が可能です。リバーブは、カラオケでいうところのエコーで、ホールで歌ったような反響を得ることが可能になるので、歌ってみた系では大きな威力を発揮してくれます。

 もう1つ特筆すべきは、この製品にはちょうど前回の企画で使ったSteinberg(ヤマハ)製オーディオインターフェイス「UR242」に近いギターアンプシミュレータ機能まで入ってます。通常、ロックギター特有の歪みを生むにはギターアンプからある程度の大きさ(音量)で出力する必要がありますが、個人宅で大音量を出すのはかなり難しい場合が多いと思います。そういう場合、このアンプシミュレータを使えば、ヘッドフォン環境でもロックギターを思いのままに奏でることができます。

 それぞれのチャンネルで入力した音は、つまみやフェーダーを使ってそれぞれボリュームを調節できるので、カラオケ音源と歌声、ゲームの音と音声などを適切に調整したり、必要に応じてどれかの音をミュート(消音)したりできるので、一定の品質の配信をする上で、ミキサーとして非常に重宝するでしょう。

 歌ってみたではなく、ゲーム実況なら、さほど音質は気にしなくてもいいと思う人もいるかも知れませんが、ニコ生を見てると、結構音にうるさい視聴者は多いです。やはり、TVなどの音質に慣れているからでしょうね。オーディオ機器として見た時、この製品の音質がめちゃめちゃいいかというとそこまではありませんが、配信などでは、素人にもはっきり分かる音の差が出ます。

 また、この製品には作曲/録音/編集/ミックスができるDAWソフト「Cubase AI」がバンドルされているので、必要であれば複数トラックのオーディオ編集もできます。これで16,000円くらいというのはかなりお買い得と言っていいです。

動画配信に必要なPCスペックと機材

【司会】続いて、動画配信に必要なPCスペックと機材を考えたいと思います。

 まず、想定される利用シーンですが、PCゲームの実況中継については必要スペックというのは考慮しなくていいと思います。というのも、ゲームを満足にプレイできるPCなら、スペック的に配信にも対応できるからです。ということで、ここでは利用シーンについて、その行為があまりPCを酷使しない歌ってみたや演奏してみたといったものを想定します。

 歌ってみた系で利用する際、当然、素人の配信であっても一定レベルの音質が求められます。極端な話をすると、配信だけならスマホ1台でもできますが、音質は残念なものになってしまいます。

【藤本】配信の際、音質は非常に重要ですね。僕も仕事でしょっちゅうニコ生をやっています。僕の番組は音楽系の内容だからというのもありますが、視聴者の方はトークで使うマイクの音質にも結構うるさいです。歌ではなく、ゲームの実況であっても、今では一般の人もTVの音質に慣れているので、常にさーっと言うホワイトノイズが入っていたりすると気になるという声が多く上がってきます。

【パソコン工房】確かに音質が悪いと、それを指摘するコメントが投稿されるのをよく見かけます。

【藤本】で、音質を上げるにはテクニックがあり、今回使うAG03を使いさえすれば全て解決というわけではなく、どういうマイクを使うか、そのマイクのセッティングをどうするのかというところも重要です。今回の記事では、後編でその辺りについてより詳しく紹介するつもりですが、数千円程度のコンデンサマイクを用意する予定です。それだけでも、音質が上がりますが、コンデンサマイクは48Vのファンタム電源がないと動かないので、それに対応できるAG03のような機材が必要になるのです。

【司会】AG03のもう1つの特徴として、先にも話が出ましたが、ギター/ベースを直結でき、ギターのアンプシミュレータも入っているという点があるので、ギター/ベースの弾いてみたとか、弾き語りにもうってつけです。さらに、前回の企画で紹介した「Cubase AI」もバンドルされているので、かなり高レベルな編集やミキシングもこなせます。

【パソコン工房】これまでのこの連載でもそうですが、今回も使うPCのスペックや、周辺機器などは、何を使ったのかを記事で明記するとともに、我々の方でも可能な限りそれらの機材を取り扱うようにし、パッケージとして提供したい考えです。

【司会】さて、PCのスペックですが、歌ってみただけをとって見ても、リアルタイムの配信と、録画済みの動画の公開とでは、作業内容ががらりと変わります。

 まず、リアルタイム配信の場合、PCが行なう処理は、簡単に言うと、接続されたカメラの映像をエンコードして、そのデータを送信する程度です。これならかなり低スペックでも実行できます。

 一方、リアルタイムではなく、録画したものをニコ動やYouTubeに上げるというパターンもあり、数としてはこちらの方が多いです。その場合、ある程度の動画編集が伴います。Cubaseを使う場合も、そこそこの性能が必要になります。これもどこまで凝るかによって変わってきますが、概ねはカット編集や、トランジションやテロップなどの付与くらいで済むと思うので、それならCore i5クラスのマシンで十分かなと思うのですが、どうでしょう。

【パソコン工房】そうですね、Core i7まではなくてもいいと思います。リアルタイム配信のマシンについては、処理性能があまりいらず、であればAtomやCeleronクラスにして消費電力を抑えたいという考えもあります。

【藤本】動画編集はさすがにAtomではきついですかね?

【パソコン工房】そこはちょっとやってみないと分からないですね。

【藤本】今回の内容の場合、歌ってみたとかなので、動画の尺がせいぜい5分程度だと思うんですね。そうすると、エンコード作業も性能が低くても30分くらいとかだと思うので、それなら許容できるのではと思います。

【司会】動画編集については、作業が終わった後のエンコードよりも、作業中のプレビューとかがストレスなくできるかが重要なんだと思います。編集が終わった後のエンコードは、時間がかかったとしても、夜中にでも放置しておけばいいわけで。

 そういう意味で、今回のマシンはあまりスペックは高くなくていいと見ています。そして、拡張性もあまり求められません。その点で、コンパクトにまとまった「Intel NUC」をベースとするのがいいのかなぁと思っています。AG03とセットで卓上においても邪魔にならないですし。また、ラインナップとしてBraswellのものも、Broadwellのものもあるので、同じ筐体でリアルタイム配信用と編集済み動画アップ用が用意できますね。

Intel NUC

【パソコン工房】NUCに使われているCore i7はi5と同じデュアルコアで、違いは動作クロックとキャッシュ容量、グラフィック機能のみなので、コア数が重要な動画編集ではCore i7にしたからといって格段に性能が上がるわけではなく、価格性能比を重視するならCore i5がいいのではと想定しています。

【藤本】僕はすでにAG03を試したことがあるんですが、配信についてはCore i3のマシンでやってなんら問題ないですね。余裕があるほどです。

【パソコン工房】メモリやストレージを含まないベース部分で、BraswellのCeleronで2万円程度、Broadwell Core i3で4万円程度するので、配信向けの方はコストの抑えられるCeleron搭載にしたいところですね。この辺りは、性能検証を行なって見極めていきます。上のCore i5モデルもフルセットのPC本体で10万円は切りたいと思っています。

 ただ、配信専用機でも、UstreamやTwitchでフルHDで、となるともう少しスペックが必要かも知れません。

【藤本】まぁ、今回は下のモデルは若年層を含めた入門的な位置付けなので、低解像度のニコ生用と割り切っていいんではないでしょうか。

【司会】メモリはいずれのモデルも4GBで十分かなぁと思いますが、いかがでしょう?

【パソコン工房】多数のアプリを同時に起動したり、かなり大きなデータを扱ったりということもないので、4GBでいいのではないでしょうか。

【司会】ストレージは128GBあたりでしょうか? 動画を撮りためることを考えると、これくら欲しい気はします。

【パソコン工房】そうですね。下のモデルは128GBでいいと思います。上のモデルはフルHDの動画も扱うことを考えて240GBは搭載したいですね。

【司会】今回のNUCがM.2対応なら、ブートドライブはM.2の128GBとかにしておいて、足りなくなれば2.5インチドライブを付け足せるというのはどうでしょう?

【パソコン工房】M.2にすると、ベースの値段が上がってしまいますね。

【司会】なるほど。では、最初から2.5インチ128GB以上という方が良さそうですね。

ニコ生は動画の解像度はどれくらいまでサポートしてるんでしたっけ?

【藤本】いつも音質しか気にしていないので、細かい解像度は覚えていないですが、ニコ生の場合、動画と音声の合計ビットレートに上限があり、時間帯によって384kbpsだったり480kbpsだったりします。そのため動画のビットレートを上げると、音声の方が下がります。音声の場合、Niconico Live Encoderを用いると最大は152kbpsのAACになります。

【司会】確認したところ、ニコ生の最大解像度は640×480ドットですね。動画の解像度は、とりあえず720pあればHD画質になるので、そのクラスの動画がスムーズに編集できるというところが、上位モデルの目標になりそうですね。リアルタイム配信についても、PC用のWebカメラで720pは対応できます。

【藤本】カメラについては、リアルタイム配信と録画とで状況がちょっと変わってきますね。リアルタイム配信では、PCに繋いだWebカメラが現実的ですが、録画するのなら、画像はスマホやデジカメ、ハンディカムなどで撮影、音声はAG03につないだマイクで録音して、あとで動画編集ソフトで重ねてやると、画質を一段引き上げられます。

 実際僕もそうやっていて、動画編集ソフトはソニーの「Vegas」を使っているんですが、動画はiPhoneで撮影し、音声はAG03のようなオーディオインターフェイスで録音します。iPhoneで撮った動画にも音声トラックが含まれていて、画面にはその波形が出るんですね。別途取り込んだ音声だけのトラックにも波形が表示されるので、それを目で見て位置合わせをして、動画側の音声トラックをミュートすれば、きれいな音に差し替わるわけです。

【司会】と言うことで、概ね仕様も見えてきましたので、これからパソコン工房さんに検証を行ないながら最終仕様を決定していただき、それを後編で藤本さんにも検証していただきます。後編では、ニコ生での配信や、AG03の設定の簡単な流れなども紹介したいと思っています。

(若杉 紀彦)