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パナソニック、骨伝導方式の業務用ヘッドセット&マイク

ヘルメットや防護マスク、耳栓をしても装着できる

 パナソニック コネクティッドソリューションズ社は、骨伝導方式の業務用ヘッドセットと骨伝導マイクを、9月18日より発売した。

 骨伝導方式のヘッドセットとマイクをセットにした製品は、パナソニックが世界初となる。2つをセットにした税別店頭予想価格は5万円前後を想定している。

 鼓膜や気導の経路を使わずに、耳近傍の側頭部と、首を通じて、聞いたり、話したりすることができる「骨伝導」方式は、耐騒音性に優れるといった特徴を持つ。

 聞く場合には、振動ドライバーを耳近傍の頭蓋骨に接触させて、振動で音を脳に伝達。話す場合には、骨伝導マイクを顎部に当てて、声帯の振動を拾って、電気信号として音声を伝達することができる。

 耳をふさがない仕組みで音を伝えるため、通話をしながら周囲の音を聞くことができたり、逆に耳をふさいだ状態でも、鼓膜を使わないため骨伝導によりしっかりと通話ができるといったメリットがある。

 今回の製品は、こうした骨伝導の特性を活かして、工場や建設現場など、騒音が大きい場所でも、音声コミュニケーションができるようにしたのが特徴だ。

骨伝導ヘッドセット
骨伝導マイク

 パナソニック コネクティッドソリューションズ社イノベーションセンターアクチュエーション事業統括部デバイス技術開発部開発4課 中尾克課長は、「製造や物流、インフラ整備、交通、警備など、騒音が激しい現場において、安全、安心に作業を行なったり、実地での人材育成を行なったりするためには、クリアで快適な音声コミュニケーションが不可欠。だが、従来の業務用ヘッドセットは、オフィス内での利用や、屋外での比較的静かな場所での使用を想定しており、騒音が激しい現場には適していなかった。そうした課題を解決するために、パナソニックは、骨伝導方式に着目した。当社が取り組む『現場プロセスイノベーション』を具現化するものになる」と位置づける。

 パナソニックでは、コンシューマ向けオーディオ機器で、骨伝導方式を採用し、スポーツをしながら音楽を楽しむといった提案を行なった経緯がある。今回の製品は、この技術を応用したものになる。

 ヘッドセットの周波数帯域は300Hz~10KHzと広く、高音質を追求したコンシューマ向け製品で培ったノウハウも活かされている。

 いっぽう、骨伝導マイクは、声帯の振動をセンシングして、音声を伝達することから、騒音や周囲の音をカット。口元を覆っても話している言葉を伝えることができる。

 「音声入力に適した指向性マイクを標準仕様として用意しているが、騒音が過度に大きな環境では、声帯の振動を拾うことができる骨伝導マイクが適している。このオプションを利用することで、耳栓などの防音保護具が必要な90dB以上の騒音環境でも、クリアな音声コミュニケーションが可能になる」(パナソニック コネクティッドソリューションズ社イノベーションセンターアクチュエーション事業統括部デバイス技術開発部 田坂啓主任技術者)という。

 90dBは、電車が通過する高架下の騒音に匹敵し、身振りや手振りでしか意志疎通ができない環境ともいえる。なかには、レーザーポインタを利用して、会話を補助するなどの工夫が凝らされている現場もあるほどで、骨伝導技術を利用することで、こうした耳栓をしたり、周囲の音がうるさい場所でも周囲の音を拾わずに、音声を届けることができるというわけだ。

 また、実験室での測定では、指向性マイクを利用して、時計の針の音を検知するといった成果もあがっており、メンテナンス現場において、機器の異音など検知して、修理を行なうといった用途などでも利用できそうだ。

 じつは、今回の骨伝導ヘッドセットおよび骨伝導マイクの製品化において、約1年前から、国内の大手製造業の工場で試験導入を行なっており、現場の声をもとに改良を加えてきた経緯がある。厳しい現場の実用に耐えうるレベルにまで完成度を高めている。

 こうした現場の声を反映しながら、業務用としてはトップレベルの53gという軽量設計と、IPX5相当の防水性を実現。ヘルメットや防護眼鏡と干渉しないように、イヤーフックでヘッドセットを吊り下げて、耳にかけるデザインを採用したほか、ヘッドバンドを後頭部にまわす構造を採用したことで、快適な装着性と利便性を確保している。

 そのほか、骨伝導マイクの装着時は、ヘルメットのあご紐につけるクリップを用意し、現場での落下を防ぐほか、首周りにあわせた3つのサイズのネックリングを用意して、多くの人が装着できるようにしている。

 「ヘッドセットは他社製品と比べて、約25%の軽量化を図っている。イヤーフックは、5段階での調整が可能であり、どんな人でも的確な位置で装着できるようにしている。また、ヘッドセットの側頭部フレームに、プッシュ・トゥ・トーク(PTT)ボタンや、ミュートボタンを配置しており、腰などに固定されているトランシーバーのボタンを押さずに、少ない操作で会話かできるようにした」(パナソニック中尾課長)という。

 骨伝導マイクでは、PTTボタンをマイク部分に配置。これを押すことで、骨伝導マイクが首に密着することで、音を拾いやすくするといった工夫も行なっている。また、汗などで不衛生にならないよう、交換式のイヤーパッドカバーも用意しており、こうした配慮も現場からの声をもとに改良を加えたものだ。

PCやタブレットと接続して応用範囲を広げることができる
試作品のBluetooth対応のバッテリーボックス

 もう1つ、この製品の特徴として見逃せないのが、拡張性に優れていることだ。

 一般的には、トランシーバーと接続して利用することを想定しているが、トランシーバー向けには、ICOMや八重洲無線、モトローラといった、主要メーカーごとに異なる端子にすべて対応するかたちで変換ケーブルを用意。PHSに接続するための丸型端子と平型端子も用意している。

 骨伝導ヘッドフォンにオーディオアンプを内蔵したアンプケーブルをつなげば、イヤフォンジャックとともに、PCやタブレットのUSBポートにも接続可能で、これらの機器からの電源供給と、収集したデータなどをPCやタブレットで分析。エッジコンピューティングとしての利用も可能だ。

 マイク接続部分に、それぞれの現場に適したセンサーなどを搭載し、PCやタブレット、スマホを接続すれば、アプリでデータを処理したり、ウェアラブルカメラで撮影した映像をもとに、現場で分析し、指示を行なったりといった使い方が可能になる。

 「PCやタブレット、スマホとの接続により、大騒音下においても、カメラ映像を見て、遠隔で操作を指示したり、音声入力による自動レポート作成機能などを活用したりといったスマートメンテナンスの実現にもつながる」(パナソニックの中尾課長)としている。

 今後は、Bluetoothに対応した軽量のバッテリボックスを用意し、これをネックリングに装着できるようにする考えだ。

 このように、骨伝導ヘッドセットの活用範囲を広げるための仕掛けが数多く用意されているのも同製品の特徴の1つであり、今後も、現場の声を反映しながら、PCやタブレット、スマホなどと連動した提案を行なっていく考えだ。

骨伝導ヘッドセットと骨伝導マイクを装着した状態