TECHXNYレポート【Intel編】IntelがBaniasに向けて2種類のブランドを検討中
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WinHEC 2002で公開されたBaniasプラットフォーム。Banias、Odem、さらにはCalexicoがBaniasを構成する要素となる |
会期:6月25~28日
会場:Jacob K. Javits Convention Center
情報筋によれば、IntelはBaniasでPentiumとは異なったブランドを投入し、さらにプラットフォームに関してもCPUそれ自体とは異なるブランドを制定し、プラットフォーム全体としてのモバイル性の高さを強調していくブランド戦略を検討していると伝えられている。
TECHXNY/PC EXPOの会場でIntel関係者や情報筋などから取材した内容を交えてお伝えしよう。
●Baniasではプラットフォーム全体としてブランド戦略を展開
現在IntelのCPUに関するブランド戦略は、CPUそれ自体とマイクロアーキテクチャに関するものだ。具体的に言えば、“Pentium 4プロセッサ”と“NetBurstマイクロアーキテクチャ”のことを指す。IntelはCPUそれ自体についてのことを宣伝するときにはPentium 4を利用し、マイクロアーキテクチャによる性能の高さをアピールしたい時には“NetBurst”というブランド名を利用する。Intelはこのように2つのブランドを活用することで、相乗効果を狙い“NetBurstマイクロアーキテクチャを採用しているPentium 4は高性能である”というイメージを作るようなブランド戦略を展開している。
だが、来年の第1四半期にIntelがリリースを検討しているBaniasでは、やや事情が異なる。Baniasでは、もちろん高性能というイメージをもってもらうことも大事なのだが、同時に高いモバイル性(英語でいうところの“Mobility”)をアピールしていく必要がある。
というのも、BaniasはモバイルPentium 4-Mに比べてクロックが低いという事情があるからだ。現時点でのIntelのロードマップでは、2003年第1四半期のBaniasのリリース時には、モバイルPentium 4-Mは2.40GHzに達しているが、Baniasは1.60GHzでしかない。
実際には両方のコアは設計が違うため、クロックが低くてもBaniasはモバイルPentium 4-Mに匹敵する性能を発揮すると情報筋は伝えるが、これまでIntelはクロック重視のマーケティングを行なってきたため、なかなかBaniasが高性能だとは言いにくい。
そこで、Baniasの特徴である“Mobility”を前面に打ち出すという戦略に転換していかなければならない。Mobilityとは何かということを考えてみると、それはCPUだけでは説明できない。もちろん、CPUが省電力で発熱量も低いことは重要だが、それと同時にチップセット側も省電力でなければならないし、今となっては持ち歩くノートPCにはワイヤレスでインターネットに接続できるソリューションも必要だろう。つまり、MobilityというのはCPUだけではなく、プラットフォーム全体で比べる必要があるわけだ。
このため、Intelは、Baniasそれ自体と、Baniasのプラットフォームのそれぞれにブランド名をつけることを検討しているという。例えば、Baniasが“Mobilon”というブランド名だとすると、Baniasのプラットフォームには“Mobilon Pro”などになる模様。なお現在のところ、ブランド名は決定していないようだが、9月頃にブランド名が決定され、OEMメーカーなどに対してアナウンスが行なわれるという。
●Baniasプラットフォーム=Banias+Odem/Montera-GM+Calexico
それでは、Baniasプラットフォームとは具体的に何を指すのだろうか。情報筋によれば、Baniasプラットフォームというのは、CPUであるBanias、チップセットであるOdemないしはMontra-GM、さらには無線LANだという。しかも、この無線LANというのは、デュアルバンド、つまりIEEE 802.11aとIEEE 802.11b両方の帯域をサポートするモジュールになるという。
以前、IDF Springのレポートでもお伝えしたように、Intelは独自開発の無線LANチップを計画している。具体的には“Ardon”のコードネームで知られるIEEE 802.11aのMAC+ベースバンドチップと“Ramon”のコードネームで呼ばれるRFチップだ。さらに、Ardonの次のバージョンのArdon 1.5では、IEEE 802.11bの無線ベースバンドを接続し、IEEE 802.11a/bデュアルバンドのカードを作ることが可能になる。これが“Calexico”のコードネームで呼ばれる製品で、MiniPCIないしはPCカードで、2002年第3四半期に提供される予定となっている。
Baniasプラットフォームでは、このCalexicoがデュアルバンドのソリューションとして提供される。Intel モバイルプラットフォームグループ マーケティングディレクタのドン・マクドナルド氏は、「Baniasプラットフォームではデュアルバンドのソリューションを提供する。既にホットスポットやアクセスポイントでIEEE 802.11bが普及しており、互換性は無視できない。だが、速度への要求も“依然”として高いこともあり、2003年にはデュアルバンドは必須になると考えている。具体的にはCalexicoをOEMメーカーに対して提供していく予定だ」とCalexicoがBaniasプラットフォームの一部として提供されることを認めている。
OEMメーカー筋の情報によれば、CalexicoはBaniasやOdem/Montera-GMといったCPU、チップセットとの互換性検証が行なわれた状態で提供されるとの説明がされている模様で、システムの一部として提供されることはほぼ間違いないだろう。
実は、これを裏付ける情報は、サードパーティのチップセットベンダからもあがってきている。IntelはBaniasのシステムバスライセンスに関して、かなり慎重な姿勢を示してきているという。Intelが、Baniasをプラットフォームとして売り込む気であれば、サードパーティチップセットの存在は“ない方が望ましい”ものであることは容易に想像できる。だとすると、ALiのようにモバイルへの依存度が高いチップセットベンダは、生き残りがかなり大変になるだろう。
●Intel Inside ProgramもBaniasプラットフォームが対象
このように、IntelはBanias+Odem/Montera-GM+Calexicoを三位一体としてマーケティングしていく方針を打ち出し始めている。OEMメーカーに対しては、Intel Inside Program(IntelのCPUを採用しているメーカーに対して、広告でIntel Insideのロゴを表示することで、広告費を補助するプログラム)の適用は、Baniasプラットフォームを対象とすると説明がされているという。
Intel Inside Programは、Intelにとって非常に重要なマーケティングツールであり、それがBaniasそのものではなく、Baniasプラットフォームを対象にするというあたり、Intelがかなり本気でBaniasプラットフォームにマーケティングリソースをつぎ込んでいくと決めていることが伺えるだろう。
Intelがプラットフォーム全体としてMobility(高いモバイル性)をアピールしていくと決めたことで、モバイルを巡るCPUの戦いは新しい段階へ入る。勝負はCPUの消費電力だけでなく、システム全体としての消費電力や、ワイヤレスの性能などといったトータルで決まることになる。
AMDやTransmetaは、現在CPU自体の省電力機能(PowerNow!やLongRunなど)でアピールしているが、今後Intelに対抗していくには、プラットフォーム全体の魅力という点で戦って行かなくてはいけなくなる。
自社でチップセットや無線LANチップまで作ってしまうIntelに対して、AMDやTransmetaはサードパーティの力を借りなくてはならない。この点をどのようにクリアにしていくかが、2003年以降のモバイルCPU戦争の勝者を決める鍵となる可能性が高くなってきた。
□TECHXNYのホームページ(英文)
http://www.techxny.com/
□関連記事
【3月5日】IDF Spring 2002会場レポート 無線LAN編
Intel、802.11a/b両対応の無線LANチップを計画
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0305/idf06.htm
(2002年6月28日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]
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