IDF Spring 2002会場レポート 無線LAN編

Intel、802.11a/b両対応の無線LANチップを計画
~CPU/チップセットへも無線機能の搭載を目指す

Intelのショーン・マローニ上級副社長兼Intelコミュニケーショングループジェネラルマネージャ

会場:Moscone Center
会期:2月25日~28日(現地時間)



 Intel Developer Forumの2日目には、Intelのショーン・マローニ上級副社長兼Intelコミュニケーショングループジェネラルマネージャによる基調講演が行なわれた。その中で、マローニ氏はIntelがIEEE 802.11aと11bのデュアルバンドに対応した無線LANのソリューションの構想があることを明らかにした。本レポートではそうしたIntelの無線LAN戦略についてさぐっていきたい。


●「業界は802.11aと802.11bのデュアルバンドへ向かう」とマローニ氏

 基調講演でマローニ氏は「IEEE 802.11が無線LANの標準技術であることに疑いの余地はない」と述べ、無線LANの標準はIEEE 802.11で決まり、今後IntelもIEEE 802.11関連製品に力を入れていくことを宣言した。

 これまで、IntelはHomeRFを推進するなど無線LANに別の技術を採用している時期があったが、今後はIEEE 802.11関連製品だけにフォーカスしていくということの意思表明をしたというわけだ。実際、Intelは昨年の秋のCOMDEX/FallにIEEE 802.11a(以下802.11a)に対応したアクセスポイント、さらにはPCカード、PCIカードなどを出展、今年に入り出荷するなど、IEEE 802.11関連製品に力を入れている。

 現在、無線LANに関する最大の話題と言えば、現在事実上の標準となっているIEEE 802.11b(以下802.11b、2.4GHz、11Mbps)から802.11a(5.2GHz、56Mbps)への移行が起こるのかということだ。802.11aはピーク時の帯域幅が56Mbpsと、802.11bの11Mbpsにくらべて約5倍となっている。MPEG-2ビデオの再生などといった広い帯域幅を必要なアプリケーションを利用するにあたっては、802.11bの11Mbpsという帯域幅は十分とは言えず、802.11aの帯域幅が必須と言われている。このため、家電メーカーの中には、802.11aのインプリメントを考えているメーカーもあるという。そうしたことを考えると、将来的に802.11aへの移行が進むのが理想的であると言える。

 しかし、問題になるのはコストだろう。既にユーザーの手元には802.11bベースのインフラがある。それはアクセスポイントはもちろんのこと、既に多くのノートPCには802.11bの無線LANが内蔵されている。802.11aと802.11bは利用する周波数が5GHzと2.5GHzと異なっているため、同じハードウェアを使うことができず、ハードウェアを完全に置きかえる必要がある。しかも、それはクライアント側だけでなく、アクセスポイントも同時にである。これではコストがかかり、なかなか移行が進むのは難しいだろう。

 そこで、Intelが打ちだしたのが802.11a、802.11b両対応の無線LANソリューションだ。「802.11a、802.11bは共存しうる技術だ。将来的には業界はデュアルバンドへ向かうことになるだろう」(マローニ氏)と、802.11a、802.11bの両方に対応した無線LANのソリューションを提供することが、IEEE 802.11aへの近道であるという認識を明らかにした。

 この考え方は、IEEE 802.11aへの移行という意味ではスマートな方法だろう。例えば、既にホットスポットと呼ばれる公共の場に802.11bのアクセスポイントが導入されている例が増えてきたが、こうしたホットスポットを802.11aに置きかえていくというのはコストの点で難しかったりする場合が多い。このため、両対応のアクセスポイントがでてきても、公共のホットスポットはあいかわらず802.11bのみに対応という事態が起こりかねない(こうしたインフラをすべて802.11a対応にするには時間がかかるだろう)。

 そうした場合でも、クライアント側が両対応になっていれば、家や会社では802.11a、ホットスポットでは802.11bと使い分けることも可能になる。また、その逆で、ユーザーが802.11bに対応した無線LANのみを内蔵したノートPCを持っている場合でも、アクセスポイントがデュアルバンド対応になっていれば、シームレスに使うことができる。ユーザーの利便性から考えても、クライアント側、アクセスポイントの両方がデュアルバンド対応になることは必要なソリューションだと言える。


●第3四半期にa/bデュアルバンドのMini PCI/PCカードをリリース

 今回のマローニ氏の基調講演では、具体的にIntelがどのような“デュアルバンド”ソリューションを持っているのかは明らかにしなかったが、IDFの会場で関係者に取材したところ、Intelは徐々に統合を行なうことで、デュアルバンドの無線LANを提供していくことが明らかになった。

 その情報筋によれば、Intelは第2四半期に“Ardon”のコードネームで呼ばれる、MACとベースバンドチップを1チップにした自社製802.11aチップ、さらには“Ramon”のコードネームで呼ばれる802.11aの5.2GHzに対応したRFチップをリリースするという。一般的に、現在の無線LANのシステムは、MAC(LANのコントローラに相当する)、ベースバンド(デジタル=アナログを変換する)、RF(電波を発信、受信する)の3つ部分から構成されている(図1)。ArdonはこのうちMACとベースバンドを統合した新世代の802.11a対応無線LANチップとなる。無線LAN機器のベンダは、ArdonとRamonを利用することで、2チップで802.11aのシステムを構築することができる(図2)。

 また、第3四半期にはArdonチップに、802.11b用のベースバンドチップに接続可能なインターフェイスを追加した“Ardon 1.5”をリリースする。Ardon 1.5は、Ardonに802.11b用のベースバンドチップを接続できるようにしたもので、要するに802.11aと802.11bでMACを共用できるようになる。Ardon 1.5は802.11a用のベースバンドを内蔵しているため、Ardon 1.5を採用したシステムでは、Ardon 1.5、Ramon(5.2GHzのRF)、802.11b用のベースバンドチップ、2.4GHzのRFチップという4つのチップで802.11a(5.2GHz)、802.11b(2.4GHz)のデュアルバンドに対応したシステムを構築することができる。従来の802.11a、802.11bのMACやベースバンドを利用して作ると6チップになるわけだから、コスト削減や実装面積などの点でメリットは小さくない。

 IntelはこのArdon 1.5を利用した“Calexico”のコードネームで呼ばれる製品を、mini PCIおよびPCカードで、第3四半期にリリースする予定を立てているという(図3)。これにより、PCメーカーは第4四半期には、デュアルモードに対応したノートPCなどをリリース可能になる。こうした製品を利用すれば、年末商戦にはデュアルバンドの無線LANに対応したノートPCが市場に登場する可能性がでてくるわけで、ノートPCユーザーには気になる製品だろう。


●まずはベースバンド、続いてデュアルのRFというIntelの統合戦略

 さらに、IntelはRFに関してもデュアルバンド対応にする計画を立てている。第3四半期に登場するArdon 1.5では、802.11bのベースバンドは外付けとなっているが、2003年の第3四半期に予定している“Ardon 2”では、802.11bのベースバンドも内蔵される。さらに、同時期に登場するRamon2では、2.4GHz、5.2GHzの両対応のRFとなる。このため、Ardon2+Ramon2では、わずか2チップで802.11a/bデュアルバンドのシステムが構築可能になる(図4)。

 このように、Intelの無線LAN戦略は、ステップバイステップに、徐々に統合をすすめる方向で進められている。第1段階はベースバンドの統合であり、第2段階がRFのデュアル化で、この時点で既に2チップとなる。こうした2チップ化のメリットは、1つはコスト削減、もう1つは実装面積の減少だ。このため、2003年にはデュアルバンドの無線LANを安価に導入することが可能になるだろう。


●最終的には“Radio Free Intel”で、CPUやチップセットに無線機能を内蔵

ゲルジンガー氏の基調講演では、“Radio Free Intel”という構想の究極の形である“シリコンラジオ”つまり、シリコンに無線機能を統合するというビジョンが示された

 Intelのパトリック・ゲルジンガー副社長兼CTOは、IDF最終日の基調講演において“Radio Free Intel”という構想に言及した。この中で、ゲルジンガー氏はIntelが研究開発を進めているMEMS(Micro Electro Mechanical systems)を利用して、アンテナ、RFなどのアナログ部分をシリコンチップに統合していくという計画があることを明らかにした。これが実現されれば、2003年の段階で2チップになった無線LANをさらにすすめて1チップで実現ということも可能になるだろう。

 さらに、ゲルジンガー氏はその先のビジョンとして、「“Radio Free Intel”という構想を進めていきたい。“Radio Free Intel”とはすべてのCPU、すべてのチップセットの隅に無線の機能を統合していくことだ」と述べ、最終的にはすべてのCPUやチップセットに無線機能を統合していく計画を明らかにした。つまり、将来にはすべてのチップに無線が入り、お互いに通信したりすることが可能になるのだ。これは1チップ化どころの話ではない。究極の1チップソリューションだ。今のところは夢物語にしか思えないかもしれないが、ゲルジンガー氏によれば、Intelはこの構想を本気で推しすすめており、米国のFCCや各国の政府機関などと問題点などについて話をしている段階であるという。

 このように、Intelは無線のシリコンへの統合を、かなり真剣に取り組んでいる。近い将来で言えば、Intelはデュアルバンドの無線LANの2チップ化を目ざして統合化を進めており、今年中には4チップによる802.11aと802.11bのデュアルバンド対応製品が登場し、2003年には低コストが実現可能な2チップソリューションが登場する。そして、その先、遠い将来には、究極の1チップソリューションが待っている。


□Intel Developer Forum Spring 2002のホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/spr2002/

(2002年3月5日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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