Apple Computer「WWDC 2002」基調講演レポート(前編)
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会期:5月6日(月)~5月10日(金)(現地時間)
会場:San Jose McEnery Convention Center
Apple Computerが全世界のデベロッパを集めて開催する「WWDC 2002」が、サンノゼのSan Jose McEnery Convention Centerで6日よりスタートした。
オープニングは例年どおり、スティーブ・ジョブズCEOによる基調講演。事前に、次期Mac OS Xとなる“Jaguar”の一部をプレビューすることは約束されていたが、実際には講演の大半を“Jaguar”に費やし、詳細にわたって情報が開示されることになった。
WWDC自体は、同社と参加者の間で機密保持契約が結ばれており、記事として公開できるのはこの基調講演のみとなっている。本稿では、基調講演で開示された“Jaguar”の情報を中心に、前後編として紹介する。レポートでは基本的に基調講演を時系列に追っていく。
後編はこちら■次期Mac OS Xの“Jaguar”は、この夏遅くにリリースを予定
いつもどおり、エネルギッシュにステージを動き回るスティーブ・ジョブズCEO。講演の大半を“Jaguar”に費やした。左頬に出来物のようなものができているのがちょっと気になる |
基調講演のステージは、荘厳な音楽が流れ正面のスクリーンに聖堂が映し出されるところからスタートした。中央には棺がせり上がる。舞台袖から登場したスティーブ・ジョブズCEOは、棺に歩み寄って棺の蓋を開け、中に安置されていたMac OS 9のパッケージを来場者に見せ「我々の大切な友人に別れを告げよう」と、神父や牧師でもあるかのように葬送のセレモニーを演出した。
葬送のメッセージは「'98年10月に誕生した彼(Mac OS 9)は、当時では最も進んだインターネット対応OSであり、キーチェーンやシャーロック、ソフトウェアアップデートなど次世代へと受け継がれるさまざまな若いテクノロジーを生み出しました。PowerPC G4にも対応したがG4の本当のパワーは秘めたままに時は過ぎ、天に召される。彼は起動するたびに変わらない微笑みをたたえる友人でありました。彼のためにお祈りしましょう」。そう告げて、花を手向けたジョブズCEOは、一分間の黙祷を捧げた。スモークのなかに、棺が消えていく。
凝った演出だが、これはMac OS Xに全力を注ごうという開発者達へのメッセージ。「我々の顧客の間ではOS 9は決して死んではいないが、開発者にとってのOS 9はすでにない。今までは9とXの両対応を続けててきたとしても、これからはXオンリーでやっていく時がきた。iPhotoがそうであるように、Apple自身もそうした体制になっている。代表的なデベロッパではOffice v.XをリリースしたMicrosoftもそうだ」と、会場の開発者へアピールした。
次の一歩がこれ、とジョブズCEOがスクリーンに映し出したのは、毛皮のうえの“Jaguar”の文字が書かれたスライド。開発コード名“Jaguar”は、Mac OS Xの次期メジャーアップグレードとして、この夏遅くにリリースされることになるという。絶対に秘密だと念を押して、事前の予告通りに紹介が始まった。
棺に安置されるMac OS 9。これが開発者達とは最後の別れ…… | ジョブズCEOみずから棺に納め花を手向ける。そして一分間の黙祷 | Mac OS 9よ安らかに |
■ふたりのキーマンが語る“Jaguar”のポイント
ワールドワイドマーケティング担当の上級副社長、フィリップ・シラー氏 |
“Jaguar”については、ふたりのSVP(シニアバイスプレジデント=上級副社長)が、それぞれマーケティングと開発用ツールの視点からポイントが紹介された。まずワールドワイドマーケティング担当のSVPであるフィリップ・シラー氏が登壇。既存ユーザーのアップグレードにとどまらず、他のプラットホームからの移行に適したフィーチャーの搭載。そしてマーケットからの要望に応える形で追加される機能について解説した。
まずMac OS Xのリリースで、Apple Computerは最大のUNIXサプライヤーになったと強調。それ故にUNIXカスタマーから、本格的なUNIXとして求められる機能があるという。“Jaguar”では、FreeBSD V4.4、GCC 3、IPv6、IPSec、CUPS、Open Directory(LADAP)、Kerberosが、新たに追加される。スライドは、一項目ずつ追加されていくようになっていたが、特にIPSecのところでは会場から拍手が沸いていた。
またシラー氏は「Windowsプラットホームを使っている人も大切な友」として、より協調しやすい環境の構築や、Mac OS Xへの移行のためとして、SMBサーバーのブラウジングやシェアリング、VPN(PPTP)とActive Directoryのサポート、そしてExchangeサーバー環境に対応したMailシステムなどの導入をあげた。
さらに教育分野からのリクエストも“Jaguar”は取り入れている。10月から始まる(米国の)新学期には、また多くのMacが導入されることが期待されるが、教師による一括管理のしやすさ、シンプルなFinder、NetInstallとNetboot、なんらかの傷害をもった人のためのUniversal Access、そして教室内におけるプリンタのシェアリングなど、強化ポイントを列挙した。
Mac OS Xのリリースで、同社はいまや最大のUNIXサプライヤーだ | VPN(PPTP)のサポートや、Exchangeサーバー環境への対応など会場から拍手も | Windowsプラットホームは大切な友。Windowsユーザーの取り込みも図る |
UNIXカスタマーからの要望で“Jaguar”に搭載される新機能 | 同社にとって重要な教育市場。その声に応える強化ポイント | Simple Finderやデスクトップの保護など、教育現場ならでは要望に応える |
ソフトウェアエンジニアリング担当の上級副社長、アビー・テバニアン氏 |
現在の開発ツール環境は、それぞれの開発者にそれぞれのニーズがあるのが現状だとアビー・テバニアン氏は切り出した。Cocoa、CarbonというふたつのAPIがある環境で、デベロッパーごとに利用する環境が違う。Cocoaの開発でも、GUIによる制作環境を好むデベロッパもあれば、ターミナルのコマンドラインで処理するデベロッパもある。また、改善したコンパイルにかかる時間も、GCCを使うデベロッパには納得できるものでも、Carbonで開発をするデベロッパには満足を得られるものではないことも自覚している。これは、一年後に改善を約束するという。
またテバニアン氏は、OS X向けの優れたアプリケーションを作るためのポイントとして、いくつかの例をあげている。CFMを使わないネイティブな形式にすること、レガシーAPIの使用をやめること、Mac OS Xの新しいテクノロジーを使うようにすること、ファイル管理は慎重にすること、パフォーマンスツールを使うことなどである。
基調講演のなかで、こうしたテーマに時間を割いて解説するのもデベロッパの集まるWWDCならでは | “Jaguar”から追加、改善される開発ツールのポイント。Cocoa、Carbonなど、それぞれの環境で、求められているものは違うがすべてに対処していくという | Mac OS Xで優れたアプリケーションを作るため、心がけるべき事。基本的には古いものを捨て、新しく提供される環境を生かすようにと勧めている |
■“Jaguar”に追加される新機能の数々(その1)
再びステージへと戻ったジョブズCEOは、“Jaguar”の新しい機能について、ひとつひとつ解説をしていく。概要をジョブズCEOから紹介したあと、開発チームごとのリーダー格のスタッフがデモを行なうという形が繰り返される。この部分が今回の基調講演のメインとなった。
・Finderへの機能追加
デベロッパからの要望で、Spring loaded Folders(ファイルをフォルダの上へドラッグすると自動的にそのフォルダが開き、より深い階層への移動やコピーが容易になる)がサポートされた。アイコンビューだけでなく、コラムビューでもこの機能はサポートされる。そしてファイル名の検索機能をFinderに統合し、Finderからファイルが検索できるようになった。これらは、Mac OS 9でも搭載されていた機能で、ようやく実現したと喜ぶユーザーも多いだろう。
また、ファイル検索機能をFinderに統合するとともに、アプリケーションのシャーロックをバージョンアップし「シャーロック3」とする。メタルの外観(詳しくは後編で紹介)になったシャーロック3は、イメージサーチの機能や、シャーロック内での検索結果の参照をサポートしている。
他にFinder自体をマルチスレッド化したことで、複数のファイルコピーをしながら、ファイルを検索するといったような、Finderだけで行なう作業でも効率化が図られるようになる。デモは行なわれなかったが、ファイルの種類を問わない自動的なサムネール作成なども実現する模様だ。
ユーザーにとって、操作の快適さに直結するFinder機能の改善 | Finderで改善・追加される機能。Finderのマルチスレッド化でファイルコピーのパフォーマンスも向上 | Spring loaded Foldersのデモ。この機能はユーザーにも待ち望んでいた人が多いだろう。アイコン表示だけでなく、カラム表示でも利用できる |
「シャーロック3」。ファイル検索などがFinder内に統合され、アプリケーションはメタル調の外観となった | シャーロック3のデモでは、コンベンションセンターから近いレストランを検索。地図データを表示させた | 検索結果は、シャーロック3のアプリケーションのなかで参照できるようになった。このようにHTMLで書かれたページをそのままプレビュー |
・“Jaguar”に統合された「QuickTime 6」
今年二月に開催された「Quicktime Live!」に続き、二度目の公開となった「QuickTime 6」。同社によればすでに製品としては完成レベルにあり、MPEG-4のライセンス条件が改善されるのを待って配布というプレスリリースが出されているが、今回は“Jaguar”に統合される形でのデモとなった。特にこうしたライセンス条件改善の進展についてのコメントはなく、いまのところ従来のような配布形態が取られるのか、“Jaguar”へ統合のみとなるのかははっきりしない。
QuickTime 6のポイントはやはりMPEG-4。デモンストレーションでは、MPEG-4による圧縮映像とオリジナル映像を同時に再生し、画質にほとんど影響がないことを披露した。オーディオ面では、AACによる音声圧縮を紹介。こちらもCDの音源と、128Kbit、64Kbitの圧縮音源を比較し、ほとんど音の違いのないことを観客にアピールした。ローカルのファイルだけでなく、ステージ裏に用意されているストリーミングサーバーから流れるストリーミングの映像でも、あたかもローカルにあるファイルででもあるかのように、異なる再生位置へジャンプしたりするデモも見せている。
・アクセシビリティを向上する「Universal Access」
身体に障害を持つユーザーなどのため、使い勝手を向上する「Universal Access」は、システム環境設定の項目として追加される。搭載される機能は、Quartzを利用した画面のズーミング、Speechによる画面の読み上げ、キーボードのみを使ったMac OS Xの操作などがあげられる。また、これらのAPIはデベロッパ向けに公開されるので、デベロッパは作成するアプリケーションのなかで、ここれらのアクセシビリティを利用することができるようになる。
障害を持つユーザーが、Mac OS Xを使いやすくできるよう追加される「Universal Access」。教育現場からの要望のひとつ | 画面のズーミング、画面の読み上げ、フルキーボードアクセスなどが“Jaguar”から搭載されることになる | デモされたズーミング。Quartzを使っており、ここまでズーミングしても半透過というAQUAのインターフェースはそのまま |
(後編へと続く)
□Apple Computerのホームページ
http://www.apple.com/
□WWDC 2002の案内ページ(日本語)
http://developer.apple.com/ja/wwdc2002/
□“Jaguar”のホームページ
http://www.apple.com/macosx/newversion/
□ニュースリリース
多数の新技術とアプリケーションをフィーチャーした次期Mac OS X「Jaguar」をプレビュー
http://www.apple.co.jp/news/2002/may/07jaguar.html
□ニュースリリース
3,000を超えるアプリケーションがMac OS Xに対応
http://www.apple.co.jp/news/2002/may/07osxapps.html
□ニュースリリース
「Jaguar」のデベロッパ向けプレビューと共にQuickTime 6とQuickTime Broadcasterを配布
http://www.apple.co.jp/news/2002/may/07quicktime.html
(2002年5月7日)
[Reported by 矢作 晃(akira@yahagi.net)]
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