Apple Computer「WWDC 2002」基調講演レポート(後編)
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会期:5月6~10日(現地時間)
会場:San Jose McEnery Convention Center
WWDC2002レポートは、基調講演の後半部分をお届けする。基本的に時系列の構成となっているため、内容的には前編の終わりからそのまま“Jaguar”に含まれる新機能の紹介が継続している。
■“Jaguar”に追加される新機能の数々(その2)
・画面表示をハードウェアアクセラレートするQuartz Extreme
GPUによる画面表示のハードウェアアクセラレート「Quartz Extreme」 |
Quartzグラフィックスエンジンが改良される。「Quartz Extreme」は、Quartzを構成するPDF(2D)、OpenGL(3D)、QuickTime(Video)の三要素を融合させ、OpenGLのパイプライン処理で、GPUによるハードウェアアクセラレートを行なうものだ。
動作条件は、AGP 2Xと32MBのビデオメモリを搭載するグラフィックス機能のサポートモデルが対象。具体的には、GeForce2 MXを搭載する新iMacや先日発表されたeMacなどは対応機種となる。デスクトップモデルは、G4 Cubeの前後が分岐点。例えば、AppleStoreのBTOでATI RADEONを組み込んだG4 Cubeなら対象となるが、店頭販売されたRage128 Pro搭載機では恩恵にあずかることができない。先日リニューアルされたPowerBook G4は、MOBILITY RADEON 7500を搭載するためノートでは唯一の対象モデルとなる。注意したいのはQuartz Extremeは、アクセラレート機能であって、該当するGPUでなければ“Jaguar”が利用できなくなるわけではない。
デモはDVDを再生しながら、メニューをトランスペアレントでオーバーレイしたり、スローのジーニーエフェクトをかけてもDVD再生に影響がでないことなどを示して見せた。凝ったところでは、ビデオ映像や3Dモデリングデータを、クロマキーと透過処理によって合成するアプリケーションを、デモ用として一週間で作成したという。
・ニュートンの開発資産が復活した? Inkwell
手書き文字認識システム「Inkwell」。システム環境設定でON/OFFする |
手書き文字の認識システムをテキストシステムに統合したInkwell。「何百万ドルもの開発費を投入すればニュートン(Apple Computerが'90年代前半に発売したPDAの元祖とも言える製品)で何かができると思った時代もあった」とやや危ないジョークをとばしながらの紹介だが、実際のデモも当時を彷彿とさせるものだ。
Inkwellはシステムに統合されており、接続したタブレットなどを使って好きな場所に文字を書き込むと、そこにメモパッドの背景が表示されて、入力の軌跡をたどる。それが自動的に文字認識されるという仕組み。テキストエディタへの入力だけでなく、Photoshop 7への文字入力のデモも披露して見せて、デザイナーの人も簡単に作業ができることを強調した。さらにターミナルを使ったデモでは、アクションでリターンの入力ができるところも見せている。
手書き文字の認識、テキストシステムへの統合、自由な位置での入力、練習不要 | Text Editを使ったデモ。Can Jaguar Recognize~と書いてある。見事に認識していた。私の字よりキレイに書ける人なら、誰でも使えますよとはデモ担当者の弁 | Photoshop 7でも利用できる。タブレットを多用するデザイナーなどの職種では作業効率が向上するものと思われる |
・まったく新しいRendezvous(ランデブー)
まったく新しいRendezvous(ランデブー)。業界標準をめざすという |
これからの業界標準を目指すという、ダイナミックなファイルシェアリングシステム。IPネットワーク上にある、装置やシステム、サービスなどを自動的に検出する。
具体的にはAirMac(AirPort)のIPネットワークにより、近くに位置するMacを動的に認識。写真や音楽など、ファイルの共有が自動的にON/OFFできるようになるというものだ。
デモはiTunesを使って行なわれた。自宅にティーンエイジャーの息子が帰ってくるというシチュエーション。音楽を聴いていたジョブズCEOのiTunesに息子の音楽ライブラリが自動的に表示されるようになる。動的なコネクションが確立しているあいだは、ネットワークを介して息子のライブラリから直接音楽を聴くこともできる。息子のMacが離れたり、電源を切ったりすればリンクも自動的に解除される仕組み。ファイルだけでなくUSBなどの共有もできるため、プリンタのシェアリングも可能となる。この技術はオープンに展開される。
IPネットワーク装置の動的な検出と、設定は一切不要。APIもデベロッパに公開され、開発したアプリケーションで利用することができる | iTunesを使ったデモ。息子役のスタッフがステージにいる間は、ジョブズCEOのiTunesに息子の音楽ライブラリも表示されていて、ストリーミングによりリスニングが可能 |
■“Jaguar”に追加される新機能の数々(その3)
・大幅に機能アップしたMailアプリケーション
大幅に機能アップされる「Mail」。アイコンはまだ1.0のものが使われている |
Cocoaで開発されたアプリケーションとして登場し、最初からMac OS Xに搭載されていた「Mail」が大幅に機能アップする。学習機能のあるインテリジェントなSPAMメールの処理や、洗練されたルールの採用、メールボックスのマージなどが実装される。さらにメールボックス内の横断検索などができるようになっている。
さらにメッセージのスレッドをハイライト化して、目的とするメールを探しやすくしたり、QuickTimeのインライン再生、VPNクライアントそしてKerberos認証などにも対応する。ジョブズCEO曰く、「他のメールソフトにまったくひけを取らないほど、高機能なメールソフトに生まれ変わった」。
デモでは、実際にSPAMメールを登録して分類する手順が披露された。最初はいずれのメールもSPAMとして取り扱われることはないが、一度SPAMメールと判断して処理したものは、学習機能によってフラグが立ち、以降は自動的に処理が行なわれ、ジャンクメール用のフォルダに放り込まれることになる。
追加される機能の一部。インテリジェントなSPAMのフィルタリングやルール機能による分類など、これまで手の届かなかった使い勝手の良さが期待できる | メールのサブジェクトをハイライトして、メールスレッドを管理する | メールボックス内を横断検索して、iMacに関するメールだけをピックアップしてハイライト表示。メールの本文では、QuickTimeの映像がインライン再生されている |
・Bluetoothにも対応する新アドレスブック
全面的に書き換えられて“Jaguar”で再デビューするアドレスブック |
「1つ我々が得意でなかった分野といえば、コンテキストのマネジメントだ」として、アドレスブックは全面的に書き換えられることになった。表示画面には検索用のウィンドウが用意されており、自在に検索がかけられるうえ、検索結果にその場でコメントを書き加えることが可能だ。デベロッパ向けにはAPIも公開される。
単一のデータベースとして機能的なものを開発。容易な検索機能や、Bluetooth搭載の電話機や、ショートメッセージなどとも統合をする予定 | 検索した携帯電話番号などは大きく表示させることもできる。これだけはっきりすると分かりやすく、画面をのぞき込む必要もない |
・AIM互換のチャットソフト「iChat」
AIM互換の「iChat」。アイコンはAQUAとAIMが融合したような感じ |
“Jaguar”に搭載されるチャットクライアントが「iChat」。公式にAIM(AOL Instant Messenger/AOLのIMソフト)との互換性を持ち、1億5,000万人もの登録ユーザーを持つAIMに加え、AOLメンバー、そしてmac.comのユーザーとシームレスにチャットが行なえる。すでにmac.comのアカウントを持つユーザーは、そのスクリーンネームがそのまま利用できる。
画面はAQUAを基本としたもので、チャットは吹き出しを使って行なわれる。メンバーの顔写真なども登録できる。前出のRendezvousを使って、動的に接続しているメンバーを自動的に友だちのリストに加えたり、すでに利用しているmac.comやAIMのリストを利用することも可能だ。
・メタル調のフェイスを使うアプリケーション
メタル調のフェイスのメリットは、透過性がないこととウインドウ全エリアを使ってドラッグによる移動ができること |
iTunesをはじめとして、純正のアプリケーションにはメタル調のフェイスを使うものが少なくない。これまではデベロッパのみが、このフェイスを使ってきたが、“Jaguar”からは、ユーザーがこのフェイスを選択することができるようになる。
アプリケーションによってはメタル調のほうが良いものもあるとして、デモでは「計算機」をメタル調に変えた。“Jaguar”からは、Interface Builderを使って簡単に変更することができる。
デモでは計算機をメタル調に変更した。確かに、計算機はこのほうが使い勝手がいいと思われる | この基調講演で開示された“Jaguar”に搭載される新機能がずらりと勢揃い |
■Serverカテゴリでは、5月14日の新製品リリースを示唆
Mac OS X Server関連は、この一週間に大きな動きがあるという |
“Jaguar”には、Server仕様の製品も存在する。いくつか“Jaguar”に搭載されるServer機能の追加部分が紹介されたが、大きなポイントとなるのは、Headless Operation(ディスプレイなしでの利用)が可能となる点だ。
そうした展開に合わせて、5月14日にラックマウント型の新サーバーモデルが発表されるという。スクリーンには正面パネルと思われる一部分と、発表日である5月14日が映し出されたが、スペックなどの詳細については一切触れられなかった。確かにHeadless Operationを意識した仕様だが、“Jaguar”の出荷は前編冒頭でも述べたとおりに、夏の終わりが予定されている。どういった構成で、製品発表がなされるかは、当日の発表を待つしかないようだ。
“Jaguar”のサーバー版では、ほかにNetInstallとNetboot、Open Directory(LDAP)、サーバーに最適化されたJava VMなどが搭載される。
“Jaguar”のサーバー版に搭載を予定している新機能の数々。やはり、ディスプレイ無しの運用が可能なところが目をひく | 正面パネルとおぼしき一部分と、発表日のみがスライドで公開されたラックマウント型の新サーバーモデル。詳細については一切触れられていない |
■“Jaguar”のDeveloper Previewを基調講演後に配布
スクリーンに「Today」の文字が表示されると、この日一番の歓声があがった |
基調講演の締めに、いつもの「One more thing ……」のフレーズを用いて、ジョブズCEOが用意していたものは、参加したデベロッパへ“Jaguar”のDeveloper Previewの配布だった。
スクリーンには、CONFIDENTIAL、NDA、TOP SECRETの文字が踊り、多少の笑いとともに緊張も高まる。CDケースにデザインされているのはジャガー柄。通常(Client)版に加えて、デベロッパ向けのツールとServer版も加えたボリュームのある内容だ。
カンファレンス会場を埋めつくしていた全世界から訪れているデベロッパは、配布されるディスクを求めて、早足に会場を後にしていた。
WWDCはこの基調講演を皮切りにして、これから141のセッションが5日間にわたり開催される。これらはすべて、機密保持契約の管理下におかれるため、今後のセッションをPC Watchで紹介することはできない。ご了承いただきたい。
Developer Preview版は、CONFIDENTIAL、NDA、TOP SECRET。基調講演の内容を超える情報開示を行なうことはできない | デベロッパに一足早く配布されたDeveloper Preview版。このバージョンを元に開発とバグフィックスを進め、この夏の終わりにユーザーの手元に届けられることになる予定 |
□Apple Computerのホームページ(英文)
http://www.apple.com/
□WWDC 2002の案内ページ(日本語)
http://developer.apple.com/ja/wwdc2002/
□“Jaguar”のホームページ
http://www.apple.com/macosx/newversion/
□ニュースリリース
多数の新技術とアプリケーションをフィーチャーした次期Mac OS X「Jaguar」
http://www.apple.co.jp/news/2002/may/07jaguar.html
□ニュースリリース
3,000を超えるアプリケーションがMac OS Xに対応
http://www.apple.co.jp/news/2002/may/07osxapps.html
□ニュースリリース
「Jaguar」のプレビューと共にQuickTime 6とQuickTime Broadcasterを配布
http://www.apple.co.jp/news/2002/may/07quicktime.html
□関連記事
【5月7日】Apple Computer「WWDC 2002」基調講演レポート(前編)
~講演の大半を次の一手“Jaguar”に費やす
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0507/wwdc2.htm
(2002年5月8日)
[Reported by 矢作 晃(akira@yahagi.net)]
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