レビュー
オーバークロック特化型ビデオカード「R9 290X LIGHTNING」レビュー
(2014/5/3 06:00)
エムエスアイコンピュータージャパン株式会社は、オーバークロックに特化したRadeon R9 290X搭載ビデオカード「R9 290X LIGHTNING」を発売した。価格はオープンプライスで、実売価格は9~10万円前後だ。今回1枚入手できたので、試用レポートをお届けする。
AMDシングルGPU最上位Radeon R9 290Xに、多数の独自機能を搭載
本製品は、同社がオーバークロック向けビデオカードとして位置づけている「LIGHTNING」シリーズの名前を冠するモデルである。歴代のLightningシリーズと同様、ビデオカードではなくマザーボードではないかと思うほど、独自のオーバークロック向けの機能を多数搭載したのが最大の特徴だ。
まずはパッケージから見ていこう。パッケージは非常に大型で、この辺りはハイエンドを意識した作りとなっている。内箱も2段式で、下段は引き出し式でアクセサリを収納するなど、かなり凝った作りとなっている。ビデオカードは上段に厳重に包装され格納されている。Radeon R9 290Xのビデオカード自体、安いものなら5万円台から購入できると思うが、その差額分はパッケージだけでも体感できる。
付属品は非常に豊富だ。マニュアルやドライバCDなど最低限のものはもちろん、PCI Express 6ピンを8ピンに変換するケーブルが2本、ペリフェラル4ピンをPCI Express 6ピンに変換するケーブルが1本、電圧計測のテスター用ケーブルが3本付属しているほか、冷却ポッド装着時でもVRMを冷やせるヒートシンクの役割をする板が1枚、それを留めるネジが6本付属。また各種コネクタや端子には防塵カバーもしっかり取り付け済みとなっている。
本体を見ていこう。まずは黄色をアクセントとした大型のクーラー「TriFrozr」が目を引く。同社のゲーム向け「GAMING」シリーズには、2基のファンと2スロット消費の「TwinFrozr」クーラーが使われているが、TriFrozrは実質3スロットを消費する大掛かりなものとなっており、冷却性がさらに向上。ファンも3基となり、左右の2基は直径90mm、中央の黄色いファンは直径80mm。ファンの軸には化粧プレートも貼られており、なかなか高級感がある。
ヒートシンクには合計5本のヒートパイプが使われている。前後の2ブロック構成で、ヒートパイプにもしっかりニッケルコーティングがされているなど、高級感はある。化粧カバーも重厚な感じがあり、剛性は高い。この重いクーラーを支えるため、背面にはたわみ防止のバックプレートが装備されている。
オーバークロック向けということもあり、電源はPCI Express用8ピン×2+6ピン×1となっている。このうち8ピンを2本繋げれば動作する。6ピンはあくまでも補助用だ。8ピン1本で150W供給できるので、2本で300W、PCI Expressスロットからの供給も加えると最大375W供給してようやく正常動作するわけだ。一方PCI Express 6ピン補助を加えると実に450Wも供給していることになり、いかに規格外なモンスターなのかがよく分かる。
説明書では特に書かれていないが、PCが電源オフの時でも、補助電源が正しく接続されていないと、端子付近のLEDが赤に、正しく8ピンが2本接続されている時は青に、そして6ピンが追加で接続されている時はオレンジに光り、ユーザーに知らせる。一度接続していれば気にはしないだろうが、電源ケーブルの抜き差しが多いオーバークロック競技時にこそ便利な機能だ。
カード前面には、同社のオーバークロック向けマザーボードでも採用されている「V-チェックポイント」を搭載。ここに先述のテスター接続用ケーブルを接続することで、手持ちのテスターでそれぞれDDCI電圧、GPU電圧、メモリ電圧をリアルタイムに計測できるようになっている。
「今どき電圧なんてソフトウェアで見られるのではないか」と思われるかも知れないが、フルスクリーンモードの3Dベンチマーク中は当然それらが監視できなくなるし、カード上に独自の改造を施した場合この限りではないわけで、常時GPUの電圧を配慮しなければならないオーバークロッカーにとって必須の機能と言えるだろう。
本製品にはGPUに12フェーズ、メモリには3フェーズの電源が使われているが、このうちGPUの12フェーズは背面のブルーLEDで動作状況を確認できるようになっている。なお、8ピンの補助電源のみが接続されている時は、負荷に応じて稼働フェーズ数が変化し、負荷に応じて最適な電力を供給するが、6ピンの補助電源を追加で接続した場合、12フェーズは常時フル稼働状態となり、オーバークロック時の安定性を増す仕組みのようである。
また同時に、本体側面の「LIGHTNING」のロゴも、GPUの負荷に応じて色が青→緑→赤に変化する。この変化がかなりリアルタイムで、特に低負荷時の動作を見ているとなかなか楽しい。ただしこちらもフェーズ表示LEDと同様、6ピンの補助電源を追加接続すると、負荷の有無にかかわらず常時赤に光るようになっている。
本体側面には、BIOSを切り替えるスイッチを装備している。「Normal」は字のごとく通常利用時に設定しておくもので、「LN2」は液体窒素などによる極冷用となっている。LN2モードでは、設定できる電圧やクロックの設定上限を引き上げられ、オーバークロッカーが納得行くまでオーバークロックできるようになっている。
このように、R9 290X LIGHTNINGはハードウェアでかなりオーバークロックに特化した機能を搭載しているのが特徴だ。ただ、フェーズ数の確認LEDや、補助電源の接続状況の確認LED、V-チェックポイントなどは、オーバークロッカーのみならず、PCの初心者でも勉強になって良い機能だとは個人的に思う。
そのほかの特徴やソフトウェアを押さえる
本製品の豊富なオーバークロックの機能の下支えとなっているのが、しっかりとした基板設計やソフトウェアだ。
基板は12層で、AMDのリファレンスとは大幅に異なるオリジナル設計を採用。電源回路は既出の通り12+3フェーズだが、表面が金属で放熱性を高めた「CopperMOS」や、タンタル固体コンデンサ「Hi-C CAP」、高性能フェライトチョークコイル「ニューSFC」、長寿命個体アルミコンデンサ「ダークCAP」など、米国防総省が制定した米軍の調達規格「MIL-STD-810G」認証のコンポーネントを採用。高い信頼性を実現するとともに、オーバークロック時の安定性を確保している。
ハイエンドビデオカードを購入するユーザー層は、少なくとも新製品が出るタイミング(1年に1回)、長くても3年に1回は買い替えをするとは思われるが、これだけしっかりとしたコンポーネントを採用していれば、この期間内にコンポーネントによって引き起こす故障の確率は極めて低いだろう。
オーバークロックでは、独自のユーティリティ「Afterburner」を利用できる。Radeonシリーズは元々あまり設定できる項目が多くないが、コア電圧、電源リミット、コアクロック、メモリクロック、ファン速度などが設定できる。
オーバークロック結果を5つのプロファイルに保存して、瞬時に呼び出せるほか、Windows起動時にオーバークロックを適用するといった項目も用意されている。また、GPUや基板、メモリ温度、GPU使用率、ファン回転速度、GPUクロック、メモリクロックなどもリアルタイムで監視できるようになっている。
なお、執筆時点でR9 290X LIGHTNINGのサポートページで提供されているAfterburnerの最新版は「3.0.0 Beta18」であったが、こちらはすでに使用期限が切れており、最新のBeta19を利用する必要がある。
もう1つ、「VGA FAN CONTROL」と呼ばれるソフトウェアも用意されており、こちらはLIGHTNINGシリーズ専用となっている。機能はシンプルで、GPU温度とPWM温度が監視できるほか、2基の90mmファンと1基の80mmファンの回転速度を別々に設定できるようになっている。AMDのCatalystやAfterburnerでは、90mmファンの回転速度しか制御/監視できないが、これを利用すれば真ん中の80mmファンも制御/監視できるわけだ。
気になる動作中の温度だが、Extended ATX対応のSilverStone製ケース「SST-TJ10B-WNV」にCore i7-4770Kとともに収めて、側面パネルを閉めきった状態で、気温25℃の環境下では、ほぼGPUが72~75℃、メモリが61~63℃、基板が58℃だった。デフォルトでオーバークロックされているほか、バラック状態のリファレンスカードでもGPUは90℃前後が当たり前だということを考えれば、TriFrozrの冷却性は十分だと言えるだろう。
ファンの回転速度はRPMで計測できないが、制御としては左右の90mmが61%前後、80mmが42%だった。ここまで来るとさすがに騒音はそれなりにする。以前テストしたASUSのMATRIXシリーズと比較すると、フィン自体が薄く、またシャフト部に厚めの化粧シールも貼られているため、回転音/風切音ともにやや気になるレベルに達する。しかし甲高く不快な音ではなく、ゲームに集中してしまえば気になることはない。静音性を求めるなら、定評があるGAMINGシリーズの「HAWK」をチョイスした方が無難だろうが、オーバークロック/冷却性優先という本製品の性格を考えれば文句なしだ。
スペック通り高い性能を発揮
それでは最後にベンチマークと、軽いオーバークロックを施した場合の結果を掲載する。テスト環境は、CPUがCore i7-4770K(3.5GHz)、メモリ16GB(DDR3-2200)、マザーボードがSupermicro「C7Z87-OCE」(Intel Z87 Expressチップセット)、512GB SSD(Plextor M5Pro)、電源がSilverStone「ST1000-G」(1,000W)である。CPU以外、環境が異なるので厳密には比較できないが、参考までに以前テストしたASUSの「MATRIX-R9290X-P-4GD5」の結果も載せておく。
R9 290X LIGHTNINGのデフォルトのGPUクロックは1,080MHz、メモリクロックは1,250MHz(5GHz相当)である。一方以前テストしたMATRIX-R9290X-P-4GD5はそれぞれ1,050MHz/1,350MHz(5.4GHz相当)であったので、R9 290X LIGHTNINGはGPUクロックが高め、MATRIX-R9290X-P-4GD5はメモリクロックが高め、ということになる。
そのチューニング傾向が見事に3DMarkの結果に結びついており、メモリのバンド幅がモノを言うIce StormとCloud GateのGraphicsスコアは、当然MATRIX-R9290X-P-4GD5の方が高い。一方ピクセルや頂点演算が多いFire Strikeだと、R9 290X LIGHTNINGの方が僅かにスコアが高い。物理演算のPhysicsはコアクロックが高いR9 290X LIGHTNINGの方が高速、という結果となった。
プレイするゲームや解像度にも依るが、近代的なDirectX 11のゲームは演算の方が多いので、コアクロックが高いR9 290X LIGHTNINGの方が有利な部分が多いと言えそうだ。一方DirectX 9/10クラスのゲームは、正直3DMarkのスコアほどフレームレートに意味があるとは思えず、そもそもその時代にR9 290X LIGHTNINGのような高性能グラフィックスカードを前提として作ったゲームもないであろうから、この許容範囲内だろう。
ただMATRIX-R9290X-P-4GD5もR9 290X LIGHTNINGもオーバークロックをすることが前提のビデオカードのため、どのDirectX世代でも純粋にベンチマークスコアを取得したいのならば、自らチューニングをする必要がある。今回、Afterburnerでコアクロックを1,150MHz、メモリクロックを1,400MHz(5.6GHz相当)にオーバークロックしてみたが、無事3DMarkの全テストを終えた。このスコアなら、本来想定される競合GeForce GTX TITANのワンランク上、GeForce GTX 780 TiやGeForce GTX TITAN Blackとも十分に張り合える性能である。TITAN Blackが実売13万円することを考えれば、かなりお得と言っていいだろう。
R9 290X LIGHTNING | R9 290X LIGHTNING OC | R9290X-P-4GD5 | |
---|---|---|---|
Ice Storm | 142604 | 165022 | 143456 |
Graphics | 324675 | 359984 | 366505 |
Physics | 48133 | 56992 | 45832 |
Cloud Gate | 24293 | 27260 | 24031 |
Graphics | 68735 | 74081 | 70148 |
Physics | 7445 | 8487 | 7280 |
Fire Strike | 9728 | 10364 | 9548 |
Graphics | 11471 | 12047 | 11275 |
Physics | 10242 | 11878 | 10056 |
自作だからこそチューニングする楽しみを
CPU内蔵GPUの性能がかなり向上している昨今、ディスクリートビデオカードの購入目的の大半は3Dゲームのためだろう。しかしゲームをプレイするだけなら、はっきり言ってコストパフォーマンスに優れたリファレンスカードでも十分だ。
リファレンスを便利で快適なオートマ車に例えるなら、R9 290X LIGHTNINGはいくらでも改造やチューニングの余地があるマニュアル車だ。自作PCを組み立てるスキルがあるからこそ、用途に合ったパーツを選んでPCとして使うだけでなく、パーツそのものを買って使う楽しみを忘れたくないものである。R9 290X LIGHTNINGはそんな楽しみを再度思い出させてくれる、そんなカードである。