イベントレポート

世界中のオーバークロック強者が集まる大会「MOA」が開催

MOAは台湾・新北市にある国際会議中心で開かれた
10月18日~19日(現地時間) 開催

 台湾MSIは18日(現地時間)、オーバークロックを競う世界選手権大会「MASTER OVERCLOCKING ARENA(MOA) 2013」を台湾・新北市で開催した。

 MOAはMSIが2008年から毎年恒例で開くオーバークロック大会。世界中のオーバークロッカーが地域での予選を通過したのち本大会に集められ、6回目となる2013年では、世界中から合計16人のオーバークロッカーが参加した。

 大会は2日間に渡って開催される。初日となる18日は「Classic Battle」が開かれた。Classic Battleでは大会で提供されるパーツのみを使用してオーバークロックを行ない、偏差値形式でスコアを競う。2日目となる19日には「Freestyle Battle」が開かれ、その日は世界記録の更新を狙い、持ち込んだパーツも許可される見込みだ。

 Classic Battleの競争種目は「Super PI 32M」、「Cinebench R11.5」、「3DMark Fire Strike」の3つ。一般的にこれらはスコアで競われるが、MSIは規定スコアからの上下から偏差値を割り出し、それをさらにそれぞれ40%、20%、40%の割合で配分。その合計値で競う方式だ。

 使用するパーツは、マザーボードがMSIの「Z87 MPOWER MAX」、ビデオカードが「MSI GeForce GTX 780 Lightning」。そのほかCPUはCore i7-4770K(ただしEngneering Sample、いわゆるES品)、メモリがCorsairの「Vengeance Pro」、SSDが「Plextor M5 Pro Xtreme」、電源が「Cooler Master Silent Pro M2 1500W」などとなっている。

 OSはSuper PI 32MがWindows XP Professional(SP3)、Cinebench R11.5と3DMark Fire StrikeがWindows 7 Professional(SP3)。マザーボードのBIOSは大会専用の「E7815IMS.MOA」、ビデオカードBIOSが「NV296M0A.101」、ビデオカードドライバが「GeForce 326.80 BETA」。

 オーバークロッカー1人あたりに、CPUを2個、メモリを2枚、マザーボードを2枚、ビデオカードを2枚配布し、故障した場合などには交換できる。このうちマザーボードとビデオカードのうち1枚はあらかじめ選手に準備のため送付された。またそのほかのパーツは、MSIが会場で抽選を行ない、抽選された順番にパーツを選択できる方式が採られた。

 もちろん、マザーボードやオーバークロッカーのスキルによる差異もあるが、同じ電圧や温度の環境下では、抽選後の“引きの強さ=運”も試される。特にCPUの品質が問われるSuper PI 32Mと、GPUの品質が問われる3DMark Fire Strikeの比重が高いため、選手によってはスキルがあっても運で躓くことになる。

 故障などを配慮し、MSIでは32個/枚以上のCPU/メモリ/マザーボード/ビデオカードを用意したが、結果的にマザーボードが交換になったのはイタリアのチーム、メモリが交換になったのは韓国のチームのみだった。2012年はもっとトラブルが多かったそうだが、パーツの品質の向上も手伝って改善したようだ。

 またMOAにおけるオーバークロックは、当然ながら液体窒素(LN2)を用いるが、今回MSIは合計5,950L(175L×34缶)のLN2を発注した。16人で使うには十分すぎる量だという。

MOA開催前のホテルにて、パーツを整理する選手たち
バスでホテルから会場まで移動した
MSI社員の拍手の中、迎えられる選手たち
選手各自のスペースには、あらかじめディスプレイやキーボード、電源などが置かれた。そのほかの冷却パーツなどは自身が持ち込む
マザーボードとビデオカードは開会前にすでに選手たちに1枚送られるため、養生した状態で持ち込める
インドネシアから来たLucky_n00b氏の機材。グッズまで持ち込むほどの日本アニメ好きで、試合中も「アニメパワー」と連呼していた
開会式ではMSIのCorp. Executive Vice President & General Manager, DPS BU.のCharles Chiang氏が挨拶した
大会でパーツを提供するパートナー各社も来場した
抽選方式で、先に抽選された選手からパーツを選べる
会場に用意されたパーツ
CPUはすべてES品であった
大会のスケジュール
大会のルール
Classic Battleの機材
日本のGyrock氏の機材
Gyrock氏が引いたCPU
機材準備に時間をかけて丹念に行なうGyrock氏。冷却台まで持参したのはGyrock氏のみだった
外国チームの多くは粘土のようなもので養生していた
一般的に養生はティッシュやクッキングペーパーなどで行なうが、Lucky_n00b氏は油を吸引するという特別な布(青い布)を採用。乾燥しやすい上に繰り返し使えるという
1日目に搬入された液体窒素
会場の中央にも液体窒素を補充できるスペースが用意された
Gyrock氏は早速トラブル発生……と言っても、液体窒素を保管する魔法瓶の保温力が悪かったようで、霜がついて触れなくなるぐらい冷たくなるというもの。この後交換となった
韓国の“oc_windforce”氏は自前で保温瓶をたくさん持ち込んだ
Gyrock氏が“万能で便利”だという、セブンイレブンの割り箸。なんでもビデオカードを抜くときにラッチを押すのに便利だとか……
電源は1,500Wタイプだが、+12Vが2レーンのため振り分けに注意する必要がある
温度計も自分で持参する
こちらはカナダの“FtW”氏のセッティング
セッティングが終了し、テストをするGyrock氏
円形のCPU冷却ポッド。極冷専用台で上からしっかり押さえる
テストが一通り終了し、液体窒素を投入
クロックを順次伸ばしていき、まずは計測時間が短い100万桁でテスト
Gyrock選手は基本的にMSI Command Center Liteを用いて、OS上でクロックを変更する
外国の選手はBIOS上から設定してしまうのが多いようである

 Super PI 32Mは、インドネシアから来た“Lucky_n00b”氏が良いCPUを引いたらしく、選手の中で唯一ぶっちぎりの5分を切る4分58秒015を記録した。また同じCPUでCinebench R11.5で13.53を記録し、ここまで1位をキープした。

 ここでLucky_n00b氏がこのまま優勝になる雰囲気であったが、GPUがカギとなる3DMark Fire Strikeでは残念ながら2枚のビデオカードともクロックが伸びず、ビデオカードの引きが強かったウクライナの“T0lsty”氏に大幅なリードを許し、結果としてはT0lsty氏が1位、Lucky_n00b氏が2位、ポーランドから来た“Xtreme_Addict”氏が3位という結果になった。

 日本から参加した“Gyrock”氏は残念ながら8位に終わったが、実は引いた2つのCPUの内の1つが“当たり”で、もう1つが“外れ”だったようで、Super PI 32Mを外れの方だけで完走させたため結果が振るわなかった。またビデオカードも、GPUクロックこそ1,800MHzまで伸び他者を圧倒するも、肝心なメモリクロックが振るわず、メモリクロックを設定の上限値である2,000MHz(実質8,000MHz相当)で動作させられたT0lsty氏らに後塵を拝する結果となった。

 さて、8時間ほど続く過酷なレースとなったが、結露しないようにしっかり養生したオーバークロッカーが良い結果を安定して生み出した。その点で特にLucky_n00b氏の養生技術は飛びぬけており、他のオーバークロッカーがブラックアウトやBIOS画面で苦戦している傍らで継続的に好スコアを生み出し、終始トラブルが少なかった。さすが温度/湿度が高い東南アジアが生んだオーバークロッカーと言った印象だ。

スコアを出すため、タスクマネージャーから不要なプロセスを終了させるGyrock氏
外国のオーバークロッカーは逆にmsconfig(System Configuration Utility)で不要なプロセスを起動しないようにしていた
クロックを維持するためには温度管理をしっかり行なう必要がある(コールドバグが発生すると遅くなったり起動しなくなったりする)。Gylock氏はCPUをおおよそ-110℃前後に維持させていた
5.8GHzでなんとか5分台半ばのスコアを出したGyrock氏
前半は“当たりCPU”を引いたLucky_n00b氏が圧倒
Super PI 32Mは2コアのみ有効にさせればよいが、Cinebench R11.5は4コア/8スレッドをすべて有効にするため発熱量が高く、動作中は液体窒素が勢いよく気化する
CPUで勝算がついたLucky_n00b氏は、Cinebench時間中に早くも3DMarkのテストを開始した
逆にCPUが振るわなかった選手も、ビデオカードの準備を始める
Cinebenchの終了時間が迫ったところでGyrock氏は思い切ってCPUを交換。スコアが伸び始め、最終的に13をマークした
続いては3DMark Fire Strike。Gyrock氏は「NVIDIA Inspector」でスコアが出やすいよう画質のチューニングを行なう
スコアが良い選手は軒並みメモリクロックが2,000MHz(8,000MHz相当)で動作した
メモリクロックが上がらないと、GPUクロックを上げたところでバス幅がネックとなり、14,000をなかなか超えられない
ここでビデオカードの引きが良かったT0lsty選手が1位に躍り出た
終盤になって2位のLucky_n00b氏とXtreme_Addict氏のスコアが激しく入れ替わったりした
3位には1,000ドル、2位には2,000ドル、1位には3,000ドルが贈られた
Gyrock氏の“秘密兵器”「白色ワセリン」。皮膚に用いる塗り薬だが、塗ったところの結露防止になる上に、メモリスロットにべっとり塗ってそのままメモリを挿しても動作するという……。「な、何を言っているのか、分からねぇと思うが……」
最終的に特殊な布で養生したマシンはトラブルが比較的少なかったようだ
自前のビデオカードを持ち込んで、ベンチマーク中に半田ごてで改造する選手も。翌日のFreestyle Battle用だろう
会場に展示されたGamingシリーズ
こちらはスタンダードシリーズ
言わずと知れたOCシリーズ

(劉 尭)