イベントレポート
オーバークロックの真髄が見られる「MOA」イベント2日目
~ビデオカードの“魔改造”から液体窒素+ドライヤーのサンドイッチまで
(2013/10/21 06:00)
既報の通り、台湾MSIが主催するオーバークロック大会「MOA」が19日で2日目を迎えた。2日目は「Freestyle Battle」という名前で、選手らが自ら持ち込んだCPUやビデオカードなどを駆使して、世界記録を破ることを目的とした競技を行なった。
初日の「Classic Battle」では、大会から提供されるパーツだけを用いてオーバークロックを行ない、「Super PI 32M」、「Cinebench R11.5」、「3DMark Fire Strike」の3つのスコアを競い合ったが、2日目は「世界記録を破る」ことを目的としているため、基本的にマザーボードとビデオカードがMSI製であればよく、パーツの改造や自らが所持するCPUやメモリの持ち込みを許可。選手が自らチャレンジしたいスコアを選んでトライできる。
ただしMSIがまったくパーツを提供しないわけではなく、初日と同様「Z87 MPOWER MAX」、「GeForce GTX 780 Lightning」、それに加えてX79プラットフォームの「X79A-GD45 Plus」を用意。CPUは再抽選をする形式でCore i7-4770K(ES品)を2個、Core i7-4960X(同)を1個提供した。そのほかオーバークロックに必要なSSDやメモリ、ディスプレイ、マウス、キーボード、電源などの環境も同等だ。
チャレンジできる項目は10個。それぞれ「HaswellのCPUクロック」、「Super PI 32M」、「XTU」、「Cinebench R11.5 4コア」、「Cinebench R11.5 6コア」、「3DMark Vantage Performanceプリセット」、「N780 3DMark11 Performanceプリセット」、「N780 3DMark Fire Strike Extremeプリセット」、「HWBOT Unigine Heaven Xtremeプリセット」、「メモリクロック」である。そして当日新たに「Ivy Bridge-EのCPUクロック」という課題も設けられた。
このうちGPUが関連するものはNVIDIAビデオカードのみが対象で、マルチGPU(SLI)は許されておらず、“N780”の2つはMSI製のN780シリーズビデオカードのみが対象。そのほかは特に制限がなく、GeForce GTX TITANを用いても良いとされる。
またこの日はMSIから新しいバージョンのビデオカード用オーバークロックツール「Afterburner Extreme」と、Z87 MPOWER MAXの新BIOSが配布された。前者はメモリ電圧の設定範囲を拡大し、後者はPSC/BBSE(元エルピーダ)/Samsungチップのプリセット設定を増やした。
9時に簡単なルール説明が行なわれた後、9時15分からパーツのアセンブリング(組み立て準備)とチューニングの時間が与えられた。この後10時30分から17時30分までの約7時間、選手は自ら課した課題に挑んだ。
前日のパーツはその場に残しても良いとされていたため、日本から参加したGyrock氏はマザーボード(Z87 MPOWER MAX)をそのままに、メモリに自ら持参したPSCチップのもの(G.Skill特製基板)とCore i7-4770Kを装着。Super PI 32MとXTUの世界記録を狙うと宣言。一通り起動の確認が済んだところで、BIOSの更新を行なった。
ところが、このBIOSの更新が災いを招く結果となり、旧BIOSで正常に起動していたPSCメモリが、デフォルトのDDR3-1333では起動するものの、DDR3-2000以上で動作しなくなった。タイミングを緩めたりしてトライアンドエラーを繰り返しているうちに、デフォルト設定でも起動しなくなってしまった。
そこでCorsairから提供されたSamsungチップで起動し、旧BIOSを上書き。これでなんとかなる思いきや、やはりDDR3-2000以上の設定で起動しない。その後はメモリをPSCに戻したりしてみたり、マザーボード上の水分を飛ばしたりといろいろ試みたものの、12時近くまで結局1度も正常に起動せず、当初の目標を諦めることとなった。
Gyrock氏がWindows画面を拝めず苦戦している間、ブラジルから来た“Rbuass”氏がUnigine Heavenでスコア4600.62で世界記録を更新。この後試合終了まで、Rbuass氏は5回に渡って自己世界記録を更新し続け、最終的に4697.82を樹立した。
Rbuass氏の秘密兵器は、何と言っても電源部をまるごと別基板で用意して、配線をハンダ付けで乗っ取った“魔改造”版GeForce GTX TITAN。この電源基板をデザインしたのは、数々のNVIDIA製ビデオカードを提供しているE社だという(日本からでも注文可能だが、売り切れていることが多いという)。ここまでなら実は多くのオーバークロッカーも実践していることだったりするのだが、Rbuass氏はその電源基板上にさらに独自にデザインしたと見られる基板を接続していた。その基板の機能はRbuass氏のみぞ知るのだろう。
午後から、Gyrock氏は気分転換するため、Core i7-4960Xを用いたCinebench R11.5と3DMark系にチャレンジ。支給されたX79A-GD45 Plusをセットアップしていく。しかしながら不幸は続くもので、メモリが4枚だとDDR3-2000以上で起動しない、クロックが5GHz以上伸びない、そして仕舞にはPWM部のDrMOSチップが焼けてしまうといったトラブルが発生した。
MSI内部のオーバークロッカーの話によれば、X79A-GD45 Plusに採用されているDrMOSはピンのピッチが狭く、わずかな水滴でもショートしやすいため、PWM部は一旦ヒートシンクを外して養生したほうが良いとのことだった。そこでマザーボードを交換し、再度チャレンジを開始しようとするも、今度は前のマザーボードの電源部が壊れたことでCPUもお亡くなりになったことが明らかになる。あえなくCPUも交換し、チャレンジを続けた。
Gyrock氏は慎重にもCore i7-4960Xに1.7Vまでの電圧しか入れなかったが、MSIの社員の話によると「現在の記録はすべて1.71V以上であり、なおかつ我々は今回提供しているすべてのCPUが、1.8Vの電圧で6GHz駆動できることを確認できている。1.81V~1.85Vの間ならセーフだろう」とのことだった。一方Gyrock氏は「確かにCPUのクロックを取るだけならその電圧でも良さそうだが、高負荷がかかるベンチマークでその電圧はちょっと怖い」という。
もはやオーバークロック大会ではなく、トラブルシューティング大会のような状態が続いたが、ここで2つ隣の南アフリカから来た“Vivi”選手が、Core i7-4770KによるCinebench R11.5世界記録を0.01ポイント更新した13.85を達成した。その動作クロックは6.3GHz。Gyrock氏からも「すごい」の声が漏れる。
終盤に差し掛かり、Gyrock氏は3DMark 11 Performanceを走り始める。昨日引きが比較的よかったGeForce GTX 780 LightningのGPUクロックとメモリクロックをどんどん切り詰め、液体窒素も常に満水状態。「Core i7-4960XはIvy Bridgeコアを使っているので、少なくとも液体窒素が達成できる低温域ではコールドバグが発生しない」として-186℃前後をキープ。780 Lightningも-100℃で「どんどん攻める」という。しかし71億トランジスタを集積したGK110コアの発熱量は半端ではなく、電圧をカツカツに上げた状態では満水にしても温度が-65℃まで上昇。それでもみるみるうちにスコアが上がり、P21000台の世界記録まで後2000のところに迫った。
「ビデオカードはまだ余裕があるし、CPUももうちょっと行けそう。今はメモリがまだデュアルチャネルで、メモリバンド幅を要求するPhysics Scoreにまだまだ伸びしろがある。クアッドチャネルにしてスコアを伸ばす」と意気込むGyrock氏。さていざメモリを2枚追加装着してベンチマークを走らせようとしたところ、またもや起動しない状況に陥った。
またトラブルシューティングになってしまったラスト1時間に差し掛かり、ここでお隣の韓国の“oc_windforce”選手がCore i7-4960XのXTU世界記録1891を打ち出した。動作クロックは6,047.76MHz。今回oc_windforce氏は自らMSI最上位の「Big Bang-XPower II」を持参していた。最上位ということもあり、実装部品の品質差がオーバークロック耐性の差として現れた。
oc_windforce氏によると、CPUに液体窒素をかけているとメモリ側が冷えすぎたり結露したりして、不安定になるという。そこで左右2サイドのメモリをドライヤー2機で温めつつ、CPUだけ液体窒素で冷やすという「熱冷熱サンドイッチ作戦」を実施。長いXTUテスト中も細かく液体窒素の量を調節しつつ、世界記録を達成した。Vivi氏が13時30分にCinebenchの結果を出してから実に3時間も経過したということもあり、会場内は大きな拍手と歓声に包まれた。またこの結果は大会2日目最後の記録となった。
試合終了後、3名の優勝者には1,000ドルずつ贈られ、なおかつCorsairメモリも利用していたためCorsairからの賞金1,000ドルを3人で分けることになった(つまり1人あたり最終的に1,333ドル)。Gyrock氏は残念ながら不本意の結果に終わってしまったが、「オーバークロックを日本でも盛り上げて行きたく、今後活動したい」と語った。