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【年末特別座談会】後藤、笠原、山田のライター3氏が今年のあれやこれを本音で斬る(上半期編)

 2013年も残すところあと数日。今年もさまざまな新製品やサービスが登場した。この度、PC Watchで長年にわたり執筆頂いている、後藤弘茂氏、笠原一輝氏、山田祥平氏の3名を迎え、座談会の形でそれらについて振り返り、思うところをそれぞれ語って頂いた。

座談会の様子

 座談会は当初1時間程度を予定していたのだが、議論は白熱し、結局2時間半に及んだ。三方とも、普段の連載において、鋭い分析と切り口で多くの記事を執筆されているが、諸般の事情や配慮でその記事では語りきれなかったこともある。今回は、そういったしがらみを抜きにして、良かったものは、良かったと、そしてあいにくそうでなかったものについては愛の鞭を打つ意味で本音の叱咤激励をして欲しいとお願いしてある。

 中には、メーカー担当者などにとって耳が痛いことも少なからずあるだろうが、今後のものづくりや企画の参考になるかと思われるし、また読者諸兄におかれては、業界の裏事情や、普段の誌面からは見られない3氏の軽妙なやりとりを垣間見て楽しんで頂ければと思う。

 座談会は、2013年1月から始め、その月に記事にした中で注目の製品やサービスを1つずつ取り上げ、3人に意見してもらうスタイルで進行した。そのため、基本的に時系列は発表日ベースとなるが、Windows 8.1のように発売日ベースのものもある。

 まずは、上半期編をお届けする。

1月

Tegra 4

後藤弘茂氏

【司会】では、最初のテーマはTegra 4です。

【後藤】あ、早速(笑)。(※後藤氏はなぜかこの日Tegra 4搭載のSHIELDを持参していた)

【笠原】それ日本で(無線を利用して)使うと、電波法違反ですよ(笑)。(座談会の記事にも)書いといて、書いといて(笑)。

【後藤】で、これは過渡期の製品ですよね。次のチップでKeplerを内蔵するので、みなそれを待ってます。Tegra 4はそれまでの穴埋めに過ぎない。Tegra 5が本命です。Tegra 5にならないとCUDAが動かないし、CUDAが動かないと汎用コンピューティングに使えない。なぜ、モバイルで汎用コンピューティングかと言うと、ダークシリコンの問題に対処するためです。ムーアの法則に従って、2コア、4コア、8コア、16コアと汎用コアを増やしても、実際に有効にできるのは4〜8コア程度。その空いたスペースを使うためには、GPUのようなより効率の良いコアを使うしかない。その方向性は全てのSoCベンダーで一致してますが、そこで今一番良い札を持っているのがNVIDIA。だから、Tegra 5という名前になるであろう次期SoCが本命なんです。Keplerが間に合わなかったので、Tegra 4はそれまでの繋ぎとして、小さいダイエリアで高性能なプロセッシングコアを実現するという目的で作られたのです。

【笠原】今、まともなモバイルGPUを作れるベンダーってほとんどないですよね。

【後藤】そう、そこの「まとも」が問題。今年はモバイルGPUの転換期で、今まではみんなVEC4で、おのおののVEC4がブランチする形だった。これがモバイルGPUのすごい特徴で、デスクトップGPUとは全く違う構造だった。しかし、これが2014年からは両者とも同じ構造になるんです。

【山田】今年1年間、TegraとSnapdragonを見てて、どんなにTegraが良くても、結局Qualcomm強いのねってのがすごく分かった。

【笠原】それはQualcommのモデムが強いからです。そして、OEMの設計サポートが非常に良い。でも、ODMのサポートは全然ダメ。そこが最大の問題ですよね。

【後藤】だって、ODM多すぎるんだもん。

【笠原】その点NVIDIAのODMサポートは強みなんだけど、今年は正直言ってNVIDIAのチップの魅力が小さかった。モデムの不足分を覆せるだけの良さがTegraになかった。

【後藤】モデムをワールドワイドで出荷する準備を整えるのには最低限1年かかるしね。

【笠原】はっきり言って、NVIDIAが買ったあのモデムの会社は実績がゼロじゃないですか。まだ、Intelが買った方ははるかに実績があって、iPhone 4のモデムを作ったのはInfineonだった。LTEの対応は遅れてますが。

 それから、後藤さんの話を聞いてて思ったのは。Qualcommの次のGPUはどうなるのか。全くそれが見えてこないんですよね。

Snapdragon

笠原一輝氏

【笠原】Qualcommは日本ですごく成功しました。欧米もかなり成功してます。同社の問題は新興国を全然取れてないことです。

【後藤】Qualcommもローエンドの製品を作ったんだけど、MediaTekの方がより安くて、性能のいいものを出しちゃったから。

【笠原】しかもMediaTekの下には、さらに安いRockchipとかがいる。Qualcommは、そこを打開するのが今後の課題ですね。

【山田】中国市場は今どうなってるの?

【笠原】RockchipとAllwinnerで寡占してますね。その上のレンジにMediaTekがいて、その上のレンジにQualcommがいる。NVIDIAは、そのQualcommのポジションを狙ってたわけだけど、そうはいかなかった。

【後藤】QualcommのSnapdragon S4は最初28nm LPだった。設計が早すぎたので、TSMCの28nm LPを選ばざるを得ず、周波数を上げられなかった。でも、ほかのベンダーはHPMで始めたので、そちらの方が周波数が高くなった。でもSnapdragon 800は、HPMになってそこに追いついたという情況です。

【笠原】ただ、Snapdragon 800は、機能面では何も進化しませんでしたね。そういう意味では、今回のSnapdragonはマーケットは大きく取れたけど、製品面での進化は大きくなかった。だから、次の世代のGPUがどうなるのかすごく気になってます。ここのGPU開発チームの人って表に出てこないですしね。というより、あそこのチームの人ってほぼほぼいなくなったって聞きますし。

【後藤】いや、今はいっぱいAMDから人を集めてます(笑)。

AMD Temash

【笠原】すごくよくできてると思います。特にGPUが。惜しむらくは、なぜConnected Standby(InstantGo)に対応しなかったんだろうと。タブレット用なのに。

【山田】12月の時点で、Temashタブレットは2万円台なんで、その意味では悪くないですね。

【笠原】そう。ただ、ネットブックのポジションになってしまったので、収益が上がりにくいんですよ。来年に期待しましょう(笑)。今度の新しいやつはかなり良いと思います。SDP 2WでBay Trailと同じですし。最近、Bay Trailで「艦これ」ができることがウリになってますが、来年のAMD SoCタブレットでは「Battlefield 4」ができるようになるかもしれないと思ってます。

【後藤】いやぁ、Battlefieldじゃウリにならないよ。艦これだから受けたんであって(笑)。

【笠原】それは日本だけの話ですね(笑)。

2月

Clover Trail+

【笠原】デュアルコアになって性能は上がったけど、日本では1製品しか出ませんでしたね。

【後藤】まぁ、その時点で次の製品が見えてるのに、これはないよねっていう(笑)。

【笠原】ただ、日本では出なかったけど、LenovoのK900は評判いいです。

【山田】ちゃんとPCで成功したマーケティングをスマホでも活かしてるよね。

Firefox OS

※ここで後藤氏がSHIELDでゲームをプレイし始め、そのBGMが会議室にこだまする

【笠原】第3のOSってやつですよね。って、後藤さん何やってんですか(笑)?

SHIELDで遊ぶ後藤氏

【後藤】ハハハハハ(笑)。

【笠原】子供か!(笑)。学級崩壊かよ(笑)。

【後藤】ハハハハハ(笑)。

【笠原】で、話を元に戻すと、あの時デバイスメーカーの人たちが言ってたのは、ともかくHTML5を動かす環境として使いたいと。TIZENもしかりですが。今後、Androidもそちらにも進出するので、どうなることやら。

【後藤】Firefox OSは、「カード」になるって話です。

【笠原】A社やG社と交渉するときに、「良い条件出さないと、我々はこっちに行くよ」っていう材料として必要ですからね。IntelがAndoridをサポートしてるのと同じですよね。

Dellの株式非公開化

【笠原】Dellの株式非公開化が象徴してるのは、今年、Lenovoが1位になったように、PC市場の勢力図が変わったということですね。最近のPC市場で何が起きてるかというと、買収合戦です。AcerがeMachinesやGatewayを買った後、ちょっと動きがなかったですが、LenovoがNECを買って、注目は次に誰が何を買うかですね。1位がLenovo、2位がHP、3位がDell、この下にAcer、ASUS。ターゲットとなるのはその下にいる企業で、具体的には東芝とソニー、そして富士通です。Acerなどがさらに上を目指すなら、それらを買収する必要があるでしょう。

山田祥平氏

【山田】以前に、AcerとASUSが合併という噂が出たとき、笠原君はそれは失策だと言ってたよね。

【笠原】だって、だいたいこういうのは大が小を食うか、LenovoがIBMを買ったみたいにその逆じゃないと失敗するじゃないですか。

 まぁ、話を戻して、Dellが株式非公開化したことは身軽になって、いろいろできるようになっていいのではと思います。

【山田】身軽になって、Microsoftに買ってもらうってのはどうなんだろうね?

【後藤】PCという枠だけではもう戦い切れないですよね。僕が最初にPC Watchで書き始めた時(1996年)、当時編集長の伊達さんに言われたのは、PCの時代はあと10年で終わるから、それまで付き合ってよ、ということ。結局10年以上続いてるけど、もう終わりは見えてきてる。

【笠原】それについては、何を持ってして「PC」と呼ぶかですよね。

【後藤】もちろん今のPCが消え去るんじゃなく、ただの計算機になっちゃう。

【笠原】Windows PCという意味では確かにその通りかもしれない。でもコンピュータという意味ではまだ広がって行くでしょう。

【山田】Windows 3.1の発表の時、マイクロソフトの成毛さんが、「これからはパソコンと言わず、PCと呼んで下さい」って言ってたね。

【笠原】Windows PCのボリュームが減ってても、非Windowsタブレットが普及してるなら、コンピュータとしてのPCは広がってるってことです。

【山田】とりあえず、Dellの株式非公開化では、何も変わらないんじゃないかなぁ。

【笠原】すぐには変わらないでしょうね。ただ、ビジネスの決定は早くなると思います。

【後藤】コンシューマにはあまり影響ないけど、象徴的な意味を持ってる出来事だと思います。

3月

モバイル端末の液晶高解像度化

iPad Retina

【司会】AppleのRetinaに代表されるように、この辺りからモバイルPCやタブレット/スマートフォンで高解像度化が一気に進みました。

【後藤】これはメモリの進化と完全にシンクロした出来事です。メモリ帯域が広がらないと、解像度を上げられない。解像度を上げたいがために、メモリを進化させる。このサイクルで、今メモリ帯域は2年で2倍以上になりつつあります。Appleについては、下手すると1年に2倍になってます。

【笠原】そこで問題は消費電力ですよね。IGZOのようなブレークスルーを続けていかないと今後は厳しいですよね。RetinaになったiPad 3が前世代より重くなったことのように。

【司会】高解像度化は賛成なんですが、まだアプリやOSがそれに追随しきれてない気がします。

【山田】iOSのRetinaに最適化された美しさに比べると、Windows環境は全然ダメだね。RetinaだとTwitter見ているだけでも気持ちいい。ただ、それで電池が持たなくなるんだと、意味ないね。

【後藤】電子版の雑誌はすごく見やすくなったね。あとマンガ。マンガは1,024ドットくらいじゃ話にならない。ただ、フルHDあれば十分だね。

【笠原】僕が言いたいのは、Retinaクラスまではまだ必要ないんじゃないかと。

【後藤】そうなんだけど、Retinaは旧製品の整数倍しなきゃならないんだから、仕方ないよ。

【笠原】タブレットの解像度はフルHDくらいがバランス取れてると思います。ただ、5型スマートフォンでは消費電力とのバランスが悪い。解像度とバッテリのバランスの好例は、Xperia Z1とZ1fですね。両者はほぼ中身が一緒で、5型がフルHDで3,000mAh、4.3型720pで2,300mAhで駆動時間は同じレベルなので、それが液晶の差分ということです。

【山田】解像度が上がるのは良いんだけど、スケーリングをいじれるようにして欲しいよね。

IEEE 802.11ac日本解禁

国内一番乗りだったバッファロー「AOSS2 エアステーション ハイパワー Giga 11ac/n/a/g/b 1300+450Mbps 無線LAN親機」

【司会】11acルーター買った人います?

【全員】買ってないです。

【山田】だって、必要性ないから。

【笠原】今は携帯電話の回線が良くなったので、家でもそれを使うという人が増えてますしね。みなさんもそうしません?

【山田】僕はそれはないな。家の中ではルーターの電源入れっぱなしだから、家に帰ると勝手にWi-Fiに繋がる。

【笠原】僕は最近結構、スマートフォンの3Gをそのまま家でも使ってます。もちろんVAIO Duo 13(LTE付き)は、家の中ではWi-Fiに繋げてますが、Wi-Fiって結構頻繁に切れるじゃないですか。それがストレスで3Gを使い続けてます。そうしてもスマートフォンで3GBとか超えないですし、最近は3GB分お金払ってるんだから、その分使おうという気になってます。

 あと11acがそこまで普及しないもう1つの要因は価格ですね。それと、PCでの採用数の少なさ。スマートフォンでは普及してるけど、スマートフォンでそんな高速通信必要ないじゃないですか。

【後藤】いや、する人はいるよ。それは僕たちの使い方がそうだって話でしかない。

【山田】ちなみに、最近若い人は、スマートフォンではずっと3Gを使いっぱなしで、しかもYouTubeに接続しながら、画面は見ずに、ずっと音楽だけ聴いてるらしく、その場合、すぐ7GBとかのリミット達しちゃうみたいよ。

【後藤】うちの娘も音楽を聴くのはYouTubeが基本。

【笠原】11acは技術的には正しい道だけど、現時点ではPCに入れるにはコストが高いし、ウリにもならない。来年になれば値段が下がって、普通に内蔵されてるでしょうね。

4月

Google Reader廃止

【山田】ショックだったねぇ。ホントショックだったねぇ。

【笠原】使ってなーい。

【後藤】使ってなーい。

ビッグデータとIoT(Internet of Things)

【司会】とりあえず、この辺りに入れてみたんですが、今年に入ってこの2つキーワードをよく目にするようになりました。

【山田】IoTを「もののインターネット」って訳したの誰?(笑)

【後藤】あれは最低の翻訳だよね(笑)。

【笠原】あれインテルじゃなかったっけ?

【後藤】いや、もっとその前、その前。で、IoTは結局、組み込み+ネットなんだよね。

【笠原】っていうか、IoTってそんな難しいことじゃなくて、要するにこれなんですよ(自分のFitbitを指差しながら)。

【後藤】我々エンドユーザーに最も見えやすいIoTはFitbitだね。

【笠原】あとSmart Watchも、Google Glassもそうですよね。今までネットに繋がってなかったものが、繋がりましたっていうのが、IoTなんです。

【後藤】デバイスの方から見るとそうなんですけど、もっと広範囲に見ると、人間の機械文明に神経を通らせることなんですよ。IoTは元を辿ると、IoE、つまりInternet of Energyで、政府主導で始まった。省エネを効率的にするには、個々の機器に神経を通しちゃって、電力の利用や配分を効率的にする必要があるわけ。

【笠原】スマートグリッドですね。

【後藤】スマートグリッドが名前を変えてIoEになった。

【山田】このブームに乗じて何でIPv6はやらせなかったんだろうね? もう遅いよね。

【後藤】で、結局その目的は、人間の機械文明全体を有機的に結合して、より効率的・有機的に連携して動くようになるってことなんですよ。今の個々のデバイスは分離してる、言わば単細胞生物なわけで、それを多細胞生物にしちゃう。

【笠原】で、デバイス側がIoTで、サーバー側がビッグデータというわけですね。

【後藤】でも、今言ってるビッグデータは本当の意味でのビッグデータじゃない。SQLデータじゃないよってのが、ビッグデータの最初のステップ。小さな粒度で、不定形なデータが膨大にあって、それに同じ処理をしないといけない。そしてデータの塊がどんどん増えていくってのが今のビッグデータの流れですよね。で、何が起こるかというと、サーバールームを再編しなきゃならない。特にインターコネクトを。なぜなら、コンピューティングよりデータの転送が主体になるから。だから、普通のデータセンターにスーパーコンピュータの技術が必要になる。それがビッグデータの行き着くところです。後は、サーバーをソフトウェア定義型にする。今は1つ1つのサーバーが独立して、連携してる。それを解体して、Googleが6年くらい前に白書で出した「Data Center as a Computer」というように、データセンター自体が1つの有機的なコンピュータのように動くようになるという話ですよね。そこに向かって、スモールコアサーバーなどいろいろなものが登場している。

【笠原】この間のARMのカンファレンスに行って思ったのは、IoTについて、ARMの主張もIntelの主張もほぼ同じなんですよね。みんな向いている方向は同じなんだと。

【後藤】今回違うのは、Intelの方が後追いなんだよね。

【笠原】そうですね。一方、サーバーではARMがIntelの後を追ってる。いろんなところで競争が起きていて面白いです。

【後藤】スモールコアサーバーの先鋭達は、ビッグコアは恐竜のように死に絶えると言ってますよ。

【笠原】まだ、どっちが勝つかは分からないですね。

【後藤】それは、ビッグデータのデータ量がどこまで増えるか次第。複雑で計算主体なワークロードがどれだけ残るのか。それともビッグデータを処理するサーバーが普通になるのか。後者についてはスモールコアサーバーが適している。で、スモールコアサーバーはGPUに整数演算をやらせた方がいいということになり、来年はGPUをデータセンターに入れるという話になる。NVIDIAとAMDはそういう主張を始めるでしょうね。今でも言ってるけど、まだ明確にはビジョンを示せてない情況です。

Windows XPサポート終了まであと1年

【山田】今ではもう残り4カ月だけど、地方公共団体にまだXPがいっぱい残ってる。TV番組なんかを見てても、最先端の研究室の取材で、背景に必ずXPが動いているのを見ると、我々は何のために税金を払っているのかという気持ちになるよね(笑)。

5月

Intel CEO交代

【笠原】これについてはすでにいろいろ記事を書いたので、読んで下さい(笑)。

ブライアン・クルザニッチ氏

【後藤】面白いのは、Intelで評価されたのが製造部門の人(ブライアン・クルザニッチ新CEO)とソフトウェア部門の人(レネイ・ジェームズ新社長)ってとこだよね。

【笠原】レネイが新社長になったのは、バックアッププランだと思いますよ。申し訳ないけど、レネイが第一候補だったとはとても思えないです(笑)。たぶん、ほかで探していて適任が見つからず、ブライアンに落ち着いた。IntelのCEOはマーケティング出身と製造出身が交互に来ている。アンディ・グローブがマーケティング、クレイグ・バレットが製造、ポール・オッテリーニはセールス、そして今回また製造になった。で、ブライアンの経歴を見ると、ずっと製造なんですよね。彼はそれ以外の部門に一度も行ってない。僕らもCEO就任後にIDFで初めて見た。一方、レネイには何度も会ってる。

【山田】ちなみに電話会社のトップのほとんどは建設部門出身らしいよ。

【笠原】ええ。で、Intelは製造部門と製品部門の二重構造じゃないですか。で、ブライアンは製品部門の事を何も知らない。そこをレネイに託すというのが今回の判断でしょうね。疑問は、製品部門の中でのトップに選ばれたのがなぜレネイだったのかということ(笑)。

【山田】CEOが変わってIntelは経営の決断が早くなった気がする。

【笠原】いや、遅いですよ。もし僕がIntelのCEOだったら今すぐx86のライセンスを始めます(笑)。IntelはFabの他社への公開を始めたわけですが、ならx86も公開すれば良いのにと思いますよ。だって、もうx86はモバイル端末向けには武器じゃなく、足かせになってるので(笑)。

【後藤】Intelが今抱えてる問題は、Fabを埋めることができなくなりつつあること。Intelのこれまでの強みは、膨大なFabを持って、それを常に最先端設備に展開して、すごく高い平均単価の製品を膨大な数作り、その利益を研究開発にあて、他社よりも進んだプロセスを展開するというサイクルを作り上げたところ。ところが、PC向けCPUのダイはどんどん縮小していて、22nmから14nmになると、全生産キャパシティを埋められなくなるんですよ。そうするとIntelは立ちゆかなくなる。

【笠原】あの釜(Fab)は埋めない限り、逆に重荷なんですよね。だって、存在するだけでお金がなくなっていくわけだから。

【後藤】だから、IntelはFabを埋めるだけの市場を作り出せなかったら、ある日転げ落ちる。

【笠原】だから、製品と製造を分けるのは理に適ってるわけです。

【後藤】昔は一定の大きさのダイのチップを作り続けて、それが同じ価格で売れていた。ところが、PCの市場がマイナス成長になると、CPUの値段は上げられなくなる。だから、コスト削減のためにダイをどんどん小さくする。

【笠原】Intelの利益率って60%を超えてるんですよね。そんな会社日本には1つもないですよ。

【後藤】もっと恐ろしいのは、Intelのウェハ当たりの売り上げが他社を遙かに凌駕する点。でも、そのモデルが今崩れつつある。PCだけだとFabが埋められなくなりつつある。

【笠原】だから、スマートフォンもタブレットも取らなきゃならないけど、それはまだできてない。

【後藤】おそらく22nmでもFabを埋められてないんじゃないかと思う。ダイサイズから計算するとそうなる。

【笠原】サーバーは好調だから、利益が取れてるけど、そこが転けると大変なことになる。

【後藤】そう。だからサーバーがスモールコアの方に行くと、今のままではIntelは困ることになる。だから急いでそこにタマを突っ込んでる。

【笠原】実際22nmのAtomでサーバー向けのAvotonが先行リリースされましたしね。

【後藤】だからIntelは製造と製品をきちんと分けて、ハンドルする人をつけなきゃいけない。

【笠原】その時記事にも書いたけど、Intelはもっと抜本的なことをやらないとダメだと思いますよ。製造部門のトップがIntelのトップになったのは非常に良いことで、Intelの強みは製造にあるんだから、製品部門は切り離しても良いと思うんですよ。それくらいの決断をブライアンができたら、Intelは生き残れるでしょうね。この間の投資家向け説明会では、彼は大胆な戦略を発表しました。Fabの開放と、もう1つは外部ファウンダリを使ったSoCの製造開始です。とは言え、これは当たり前の決断です。今までのIntelの常識では、そういうビジネスはできなかっただけ。でも、業界の常識に従わなければいけない。ブライアンは、製品部門にいなかったからこそ、それが見えたんだと思います。

 でも、あの投資家向け説明会を見る限り、明らかにApple向けの製造を取ったんだなって思いますよね。

Surface Pro/RT発売

【笠原】それを僕に聞きます?(笑) 僕がMicrosoftに言いたいのは、OEMメーカーをもっと大事にしろと。それだけです(笑)。

6月

Haswell

【山田】これはすばらしい。PCが本当に良くなった。

【笠原】同意です。ただ、1つIntelに言いたいのは、第4世代Coreというブランドはないよね。なぜ、ここでCentrinoみたいな名前にしなかったのかと。

【司会】GPUには一部Irisという新しいブランドがつきましたけどね。

【笠原】そう、CPUも変えればいいじゃんと思います。

【山田】それを言ったらまずAtomでしょ(笑)。

【笠原】それを含めこのタイミングで変えるべきでしたね。

【山田】別の社長になってたら、変わってたと思わない?

【笠原】10年前のIntelはそれができましたしね。そして大成功を収めた。今でも覚えてるけど、ヒルトンホテルでIDF Japanをやった時にそこに宿泊したら、ホテルの係の人に「Centrinoってすごそうですね。CMとかやってて」と言われたくらい、普通の人にも知名度があったんです。

2-in-1

【司会】時を同じくして、2-in-1というスタイルの訴求が始まりました。

【笠原】Intelに厳しい言い方をすれば、2-in-1を訴求し始めたことは、Ultrabookが失敗だったと言ってるようなものです。

【後藤】そうそう(笑)。

【笠原】IFAで東芝の檜山さん(デジタルプロダクツ&サービス社 ビジネスソリューション事業部 事業部長)が言ってたんですが、「僕たちは、PCを薄くすればコンシューマユーザーに受け入れられるだろうと思っていた。でも、それは間違いでした。これからは形が変わって、タブレットとしても使えるものが必要。それが2-in-1なんです」と。それが全てを物語ってると思います。コンシューマユーザーには、薄くするだけじゃダメだったんですね。もう1つ、Ultrabookを商標にしちゃったのも間違いだったと思います。Intelもそこは分かってて、2-in-1では、要求仕様ではなく、定義だと言い始めたんです。

【山田】いろんなメーカーに聞くと、Ultrabookを名乗るため、いろんな点で使いにくくなってるところもあるんだよね。これは本末転倒。

【後藤】だって、15型が399ドルで売ってる横に、1,299ドルのUltrabookがあっても、誰も買わないよね(笑)。で、2-in-1が今後進むべき正しい方向だってのは分かるんだけど、自分では使わないかなぁ。

【山田】笠原君は、VAIO Duo 13をタブレットスタイルで使うことある?

【笠原】ありますよ。

【山田】でも、重いから疲れて、スライドさせて立たせない?

【笠原】ですね。

【山田】だから2-in-1である必要ってないと思うんだよね(笑)。

【笠原】そうなんですけど、タブレットとPCの2台を運ぶよりは2-in-1の方がいいってことです。僕にとってのプライマリデバイスはPCなんで、そういう人にとっては2-in-1はいいんですよ。ただ、プライマリがPCじゃない人には、要らないかもしれない。

【後藤】僕の子供達もプライマリが、スマートフォンやタブレット。そういう人は、PCでしかできないことでないと、PCを使わない。

【笠原】ただ、この前会った大学生達に聞くと、彼らはタブレットには興味ないそうです。PCとスマートフォンでいいじゃん、というのが言い分。学校でも使うし、文字を入力するのにはPCが便利だから、PCも所有するそうです。

【後藤】僕らは、文字を入力するっていう感覚があるけど、子供の世代になると、インターフェイスが対話型になり、対話をすると自動的に文章ができるようなって、そうすると文字を入力するという感覚がなくなる。

【笠原】とりあえず、日本は皆が言うほどタブレットは普及してないですね。欧米は事情は全然違い、iPadばかりです。

【後藤】Kindle忘れてるよ。田舎に行くとKindleだよ〜。本当にKindleばっかり。人口200人の田舎の農協に行った時、農協のおじさんがKindle使ってたし、母の日のプレゼントにしたい1位がKindle。

【笠原】それは置いといて、日本ではタブレットは普及してないんですが、カフェなんかで見てると、すごくSurfaceが増えてるんですね。で、Surfaceを持ち歩いてる人は、皆キーボードカバーをセットにして持ち歩いてるんです。つまり、あれは事実上2-in-1なんですよ。これは、日本人にとっては、ピュアタブレットより2-in-1の方がナチュラルっていうことだと思います。

【山田】クラムシェルの方が絶対ナチュラルだけどなぁ(笑)。だから、今後2-in-1からクラムシェルに回帰すると思うなぁ。

【笠原】僕はそうは思わないですね。やっぱりベッドなんかで触るのにはタブレットスタイルがいいですし。

Surface RT値下げ

Surface

【司会】さっき笠原さんは少しSurfaceについて言及してましたが、Surface RTは失敗だったんでしょうか?

【笠原】Windows RTの最大の問題はデスクトップが使えないことですよね。さっき言った通り、皆Surfaceを2-in-1として、マウスとキーボードを繋いで使ってるんです。Windows RTもアプリとしてデスクトップを持ってるけど、Officeでしか使えない。僕は早くRTにもデスクトップを開放すべきだと思います。

【後藤】でも、Windows RTは、Win32APIからの脱却が目的なんだし。あのごちゃごちゃのMSFTライブラリを取っ払おうと。この膨大なライブラリがWindowsのガンなんだから。つまり、MicrosoftはOSのリセットを考えた。軽量なWindowsを作ろうとした。でもそれは失敗した。

【山田】で、それはWindows RTの話で、Surface RTが値下げしたのは、もっと広く使ってもらおうとしたのか、売れなくて余ったのか。

【後藤】余ったから。

【笠原】余ったからですよ。でも、Surface RTは日本だけ突出して売れてるんですよ。Surface Proもですが。つまり、日本ではSurfaceが2-in-1として受け入れられてて、PC代わりに使われてるんだと思います。

【山田】ここで、Firefox OSとHTML5がもっと早く来てればどうなったんだろうね。

【笠原】HTML5はここ1〜2年でどうにかなるレベルじゃないです。もっと時間かかりますよ。自動車あたりで採用が進めば、爆発するでしょうけど。今はまだその時期じゃないですね。

【山田】とにかく、Surface RTはストレス溜まるよ。PC歴長ければ長いほどそうだと思う。

【後藤】去年買って一番後悔したのが、Surface RTだったよ(笑)。

【笠原】だからやめなって言ったじゃん(笑)。

【後藤】だって初物だし、ちょうどその時アメリカにいたからさぁ(笑)。

〜〜後半に続く〜〜

(若杉 紀彦)