会期:11月17日~11月19日(現地時間)
会場:Los Angeles Convention Center
米カリフォルニア州ロサンゼルスのLos Angeles Convention Centerにおいて、Microsoftは11月17日(現地時間)からソフトウェア開発者を対象にしたProfessional Developers Conference 2009(PDC09)を開催する。
同社は提供する開発プラットフォームが大きく変化するタイミングで、不定期にPDCを開催してきた。たとえば昨年はWindows 7のβ版提供と、Windows 7に向けたソフトウェア開発情報の提供と、クラウドコンピューティングに対するMicrosoftの最新動向を伝えること(Windows Azureの発表)が主なニュースだった。
そして今回のPDC 2009はWindows 7という山を乗り越え、“ソフトウェア+サービス”という最近のMicrosoftが繰り返し訴えているコンセプトについて、開発者に向けてMicrosoftが何を提供しようとしているのか、具体的な製品、ツール、サービスについて紹介する場となる。
初日はWindows Azureの正式発表、2日目はソフトウェア+サービス環境下における“ユーザー体験”、3日目は近未来のMicrosoftの戦略と、大まかにテーマを分けながらカンファレンスは進む予定だ。
Microsoftのプラットフォーム戦略ディレクターでエバンジェリストのJamin Spitzer氏によると、Microsoftは4年前の2005年10月に描いたネットワークサービスに関する事業戦略スケッチを基に、今日のサービスや製品の技術開発を行なってきたという。
世の中には多種多様なデジタルデバイスが混在し、ネットワークサービスやクラウドといったコンピューティングモデルが生まれてきた。また、あらゆる企業がプラットフォームと称して多様な開発・アプリケーション実行環境が混在している。
それに対するMicrosoftの回答が、この4年間、Microsoftが開発を続けてきた製品の中にあるとSpitzer氏。それはたとえばWindows Azure、SharePoint Online、Windows Live、Bing、SQL Azure、Microsoft Dynamic CRM Online、Microsoft Exchange Online、Xbox Liveなどだ。
デスクトップソフトウェアの分野ではAppleやAdoobe、エンタープライズエリアではSAPやIBM、Oracle、コンシューマ向けWebサービスではGoogleやYahoo!、SaaSならSalesforceといった具合に、今まさに現実世界で事態は動いている最中だが、MicrosoftはPCと携帯電話、それにTV(ゲーム機)に対してクラウドを通じてシームレスなユーザー体験を届けるソリューションを提供することで魅力ある環境を提供できると話す。
その鍵は4年前に作ったメモに存在する。ソフトウェア+サービスで何らかの価値を開発者が提供しようとした時、ケースバイケースで最適な切り口の開発が行なえるように多数の選択肢を用意するという基本コンセプトだ。
たとえばGoogleはブラウザをアプリケーションコンテナとして使い、すべてのアプリケーションをWebサービスとして実装しようとしている。MicrosoftはWindows AzureやSQL Azureのようなクラウド上でソフトウェアを動かす基盤を提供したり、.NET Framework、Silverlightを提供するなど、さまざまな切り口、レベルでのアプリケーション開発環境を提供している。
今も昔もMicrosoftに感心するのは、こうした開発者の能力を最大限に引き出すことにフォーカスした製品戦略をいとも簡単に進めているように見えることだ。Microsoftの提供する箱庭……開発環境でソフトウェアを作っていれば、ビジネス環境が変化していったとしても、それまでのノウハウやスキルを活かせるという漠然とした安心感がある。これは実際には漠然としているのではなく、明らかに意図してそうした印象を与えるようにしている。
たとえばMicrosoftはこのPDCを終えると、クラウド環境(Windows Azure)でも、一般的なWindows環境(Windows ServerとWindows 7)においても、共通する開発・実行環境を解放する。開発に使うのは同じVisual Studioで、プログラミングモデルも同じ.NET、データベースはSQL ServerとSQL Azureといった具合に、両方の環境に対して共通解決策が各レイヤーごとに用意される。
話は実にシンプルで、Windowsによるアプリケーションの実行環境をMicrosoft自身がクラウドとして提供し、ユーザーに対して自身のデータセンターで管理するアプリケーションと、クラウドで運営するアプリケーションを自由に選択可能にしたものにWindows Azureという名前を付けたのだ。Microsoftのクラウド(つまりWindows Azure)は、Microsoftのサーバ製品をMicrosoft自身が提供するデータセンターでホスティングし、ユーザーがその上で自由にアプリケーションを動かせるようにした仮想ホスト環境は、オンプレミス環境(自社内のローカル環境)で動かすWindowsアプリケーションをそのままクラウドの中に移行できる。
ホスティングしているソフトウェアの実行基盤がWindowsそのままならば、開発ツールもWindows用開発のものをそのまま利用できるのは当然のことだ。
しかも、Microsoftはクラウドビジネスにおける先行者で、仮想敵として設定しているAmazon EC2の価格設定を強く意識し、相当に安い価格を提示すると言われている。Windows Serverを用いたホスティングであるため仮想マシン機能ももちろん提供されており、Hyper-V用の起動ディスクイメージをWindows Azureにアップロードし、そのまま実行させる機能を備えるなど、Amazonを強く意識した機能も発表される見込みだ。
一方、2日目のユーザーエクスペリエンスでは、SilverlightとExpressionsの新バージョン、.NET Framework 4.0、Windows 7、Internet Explorerなどの将来についてアナウンスがある見込みである。ここでは主にAzureを中心にしたネットワークサービスを活かし、ユーザーにどのような価値を見いだしてもらうかといった話題が中心になると考えられる。
さて、問題はこれらMicrosoftの新しい戦略や技術が、我々のPCライフにどのような影響を与えるかだ。Windows Azureや新しい開発ツール、フレームワークなどは、企業ユーザーやソフトウェア企業に影響を与えるが、それはいずれ、エンドユーザー向けのサービスや製品となって跳ね返ってくる。
たとえばMicrosoftは今後の開発フレームワークの中で、PC、携帯電話、TVという3つの画面に対して均質なユーザー体験を届けると話している。もちろん、PC上でWindowsを動かした場合がもっとも質の高い体験を得られる……ということになるだろうが、それは画面サイズや解像度、処理能力の違いによるもので、同じ情報にはMacからでもiPhoneからでもアクセス可能にする。世界標準のデスクトップOSとなっているWindowsの強みをことさらに前面に押し出し、囲い込みで自社の製品を利用することを促すやり方が見られないのは、そうしたやり方ではもう主役にはなれないと、Microsoft自身が感じているからかもしれない。
まだPDC前日ではあるが、翌日からのPDCの概要を語るMicrosoft担当者たちの言葉には、従来にないほどの謙虚さがある。しかし、それはサービス指向の新しいコンピューティング環境においても、自分たちの提供する開発・実行が一番だという自信の裏返しでもあるのだろう。たとえば、Adobe AIRでも、Silverlightでも、.NETでも好きな環境でアプリケーションを書けばいいとMicrosoftは話す。その絶対的な自信の裏側に何があるのか。PDCの基調講演と技術セッションに注目したい。
(2009年 11月 18日)
[Reported by本田 雅一]