山田祥平のWindows 7 ユーザーズ・ワークベンチ

64bit版Windows 7で困ること、うれしいこと



 NECがこの夏モデルから一部の機種を除き、プリインストールのWindows 7を全面的に64bit化することを発表した。典型的なコンシューマー機を含む移行だけに、その成り行きが気になるところだ。今回は、64bit Windowsのメリット、デメリットについて考えてみることにしよう。

●64bit版Windowsのメリット

 手元の環境では2台のノートPCを64bit版のWindows 7で使っている。1台はテスト環境、もう1台は頻繁に持ち歩くモバイルPCだ。仕事場で使うメインの環境はまだ32bitだが、併用しながら、どんな違いが出てくるのかを知ろうと、RTMした昨年の8月からずっと使い続けてきている。

 結論から先に言えば、大きく困ることは今日までなかった。最初はドライバ等で心配もあったのだが、ぼくが手元で使うデバイスでは、ほとんどインボックスの標準ドライバが使えたり、ベンダーが64bit版を添付していたため、デバイスが使えなくて困ることはなかった。けっこういろんなデバイスを使っているつもりだが、ダメだったものがゼロというのは、それはそれですごい。

 64bit版 Windowsのメリットはいくつかあるが、代表的なものは次の3点だろう。

・3GB超のメモリを有効に使える。
・64bitネイティブアプリケーションならより高速に運用できる。
・64bitネイティブアプリケーションなら広大なメモリをふんだんに使える。

 64bit版Windowsは、WOW64(Windows on Windows)という仕組みで32bit版のアプリケーションを動かすので、多少のオーバーヘッドはあるかもしれないが、それを体感するようなことはないと思っている。ただし64bit版のアプリケーションから32bitモジュールを呼び出すことはできないし、その逆に32bit版から64bitモジュールを呼び出すこともできない。

 
●余ったメモリを根こそぎキャッシュ

 64bit版のWindowsをインストールしたHDDのファイルシステムを歩いてみると、そのルートに置かれたフォルダで32bit版との違いがわかる。まず気がつくのが、Program Filesが2つあることだ。Program Filesはセットアップしたアプリケーションのバイナリが格納されるフォルダだが、64bit版Windowsでは、Program Filesに64bitアプリが置かれ、32bitアプリはProgram Files(x86)に置かれる。また、Windowsフォルダの下にはsystem32フォルダがあり、そこに各種のモジュールが格納されているが、これらは32bitではなく64bitのモジュールだ。互換性のためにsystem32と名付けられたフォルダに入っている。

 多くのメモリが使えることは有利なように感じるが、実際にタスクマネージャ等で確認してみても、一般的なPCの使い方では、それほど多くのメモリは消費していない。手元の環境では、せいぜい1.8GB程度といったところだろうか。

 だが、使っていないメモリが無駄になるのかというと決してそうではない。わずかな空きメモリを残し、Windowsは残りのメモリを根こそぎキャッシュとして使う。そのキャッシュのおかげで、操作環境がより快適なものになるのだ。64bitアプリはネイティブに広大なメモリを使えるために32bitアプリ以上のパフォーマンスを発揮し、32bitアプリはOSによってキャッシュされてその操作感を高める。だから広大なメモリは、32bitアプリにも64bitアプリにも役にたってくれるわけだ。

 直近の話題としては、Adobeの統合パッケージ「Creative Suite 5」の5月末発売がある。このパッケージに含まれる各種のアプリケーションは、クリエイター御用達ともいえるものばかりだが、特に代表的ともいえる「Premiere Pro CS5」や「After Effects CS5」は64bit版必須となったし、「Photoshop CS5」も64bit版が用意される。膨大な量のデータを扱うこれらのユーザーにとっては待ちに待ったバージョンアップだろう。また、6月にパッケージの出荷が決定したMicrosoft Officeも、32bit版と64bit版の双方が同梱されることになっている。

●Adobeにまつわる各種の不具合
スタートメニューには32bit版、64bit版、2つのIEが存在するが、64bit版はないものと思っていたほうがいい

 2種類あるという点では、ブラウザのInternet Explorerも32bit版と64bit版の2種類がスタートメニューに置かれる。タスクバーにボタンとして表示されているのは32bit版の方で、通常は32bit版を使うしかない。「しかない」というのは、ブラウザで利用する多くのプラグインモジュールが32bit版しか提供されていないからだ。

 64bit版でブラウジングを続けていると、あたりさわりのないページでは特に問題は起こらないように見えるかもしれない。だが、リンクを1つ、2つとクリックしていくうちに、すぐに破綻してしまうはずだ。たとえば、AdobeのFlashを使ったページを表示することができない。インターネットブラウズという行為において、現時点でこれは致命的といってもいい。64bit版からのアクセスであっても、Flash Playerのインストールが促されるので、余計にたちが悪い。同様に各種のActive Xコントロール等も、そのほとんどが32bit版だ。だから、今のところは64bit版のWindowsを使っていてもIEに関しては32bit版しかないという程度に思っておいたほうがいい。

 一方、エクスプローラでも多少の不具合が散見される。これまたAdobe関連だ。

 今、PCを使う上で、各種文書の閲覧に欠かせないのがAdobe Readerだ。PDF形式で配布される文書は実に多く、これがなければ、PCでの情報収集には支障が出てくるにちがいない。ところが、現時点でAdobeが配布しているAdobe Readerは32bit版のみだ。もちろん、これは、入手してインストールすれば特に問題なく使える。

 困るのは、まず、PDFファイルが検索に引っかからないこと。Windowsでは「iFilter」という仕組みで検索を可能にする。iFilterはWindowsが要求する仕様に応じてサードパーティベンダーが作成し、アプリケーションのセットアップとともにシステムにインストールされることが多いが、Adobe Readerに添付されているiFilterは32bit版なので、これがうまく機能してくれないのだ。

 これに関しては、Adobeが64bitプラットフォーム用のものを別途配布しているので、それを入手してインストールすればいい。

http://www.adobe.com/support/downloads/detail.jsp?ftpID=4025

 さらに、PDFファイルが置かれたフォルダをエクスプローラで開いてみて、その表示を特大アイコンにしてみよう。多くのファイルは、その内容が縮小版アイコンとなって表示されるが、PDFファイルは同一のアイコンになっている。また、プレビューウィンドウを開いても、PDFファイルのプレビューができない。

エクスプローラでフォルダ内を表示するとJPGファイルはサムネールとして表示され、プレビューでも内容を確認できるPDFファイルの場合、すべて同一のアイコンで内容がわからない

 こちらは、Preview Handlerという仕掛けでプレビューができるはずなのだが、それが64bit Windowsでうまく作動しない。この点に関しては、インターネットを探すと各種の情報が見つかる。パッチのためのプログラムなども配布されているようだ。一応、URLを示して置くが、公式のパッチではないので試すときは自己責任でお願いしたい。

http://www.pretentiousname.com/adobe_pdf_x64_fix/index.html

 どうやらレジストリに書き込まれたアプリケーションIDの間違いということらしい。Adobeも本気で64bit化を促進するのなら、このあたりをきちんと整理した情報を提供してほしいものだ。同社の各種アプリケーションの64bit化はクリエーターが待ち望んでいたものであり、彼らはそれによって、仕事の効率をより高めることができる。そうなれば、われわれ一般のユーザーが目にするクリエイティブな仕事も、より洗練されていくことになるのだから。

レジストリ情報をFIXすることで、PDFファイルもサムネール、プレビューともに表示されるようになる32bitWindowsでは、タスクマネージャで確認しても、実際に使っているメモリは2GBに満たない