笠原一輝のユビキタス情報局
「JEITA 測定法 2.0」の目的と課題
~ワークロードを見直し体感に近い駆動時間を計測可能に
(2014/3/14 06:00)
JEITAの略称で知られる一般社団法人 電子情報技術産業協会(以下JEITA)は、同協会が策定し国内のPCメーカー各社がカタログなどにメーカー公称値として採用している「JEITAバッテリ動作時間測定法」の仕様を改訂し、新しい仕様となるVer.2.0を公開した(別記事参照)。
通称“JEITA 測定法”と呼ばれるこの方法は、2001年に策定されて公開されたノートPCのバッテリ駆動時間をどのように測定するのかを定めた基準。それまでバラバラの基準で行なわれたノートPCのバッテリ駆動時間測定を公平に比較できる数値として、消費者にとってもノートPCを比較する時にお馴染みの基準となった。今回策定されたVer.2.0は、2001年に策定されたVer.1.0から13年ぶりに改訂された新基準で、今後PCメーカーはこのVer.2.0を利用してバッテリ駆動時間の数値をカタログに記載していくことになる(4月1日以降に新たに発売されるPCが対象)。
今回は、そのJEITAバッテリ動作時間測定法 Ver.2.0を策定したJEITA パーソナルコンピューター事業委員会の委員長 加茂朗氏と、実際の策定に当たったJEITA パーソナルコンピューター事業委員会 テクニカルグループ 主査 米田清一氏にお話を伺ってきたので、策定された背景、その影響、消費者としてはどうしたことに気をつければいいのか、などについてまとめていきたい。
公平にバッテリ駆動時間を比較するため制定されたJEITA 測定法 1.0
まずは、13年前に戻して話をする必要がある。13年前の2001年は、日本市場に多数のモバイルノートPCがリリースされていた時期にあたる。Transmetaというベンチャー企業がx86命令をRISCの命令セットに変換するという技術を活用した「Crusoe」というx86互換のプロセッサを発表。日本のメーカーがこぞって採用し、続々と小型でバッテリ駆動時間が長いノートPCが登場しつつあった。IntelもノートPC向け主力製品だったモバイルPentium IIIにULV(Ultra Low Voltage:超低電圧)版を追加し、そのトレンドを追いかけたことで、実に多数のモバイルノートPCが市場に登場していた。
CPUが省電力になったことでモバイルノートPCのバッテリ駆動時間は延びたのだが、販売の現場では若干の混乱が生じていた。というのも、各社がカタログに記載するバッテリ駆動時間の測定方法のやり方がまちまちで、カタログに記載されている公称のバッテリ駆動時間では公平にどのノートPCがバッテリが長持ちかを比較することが難しかったからだ。
なぜそうしたことが起こるかと言えば、このノートPCに限らず、現代のノートPC、タブレットやスマートフォンもそうだが、バッテリ駆動時間は計測条件によって大きく変わるからだ。例えば、全く同じ製品を2つ用意して、
(1)輝度を最大、CPUをフルロードするアプリケーション起動しっぱなし
(2)輝度を最低、アプリケーションは何も起動せず、アイドル状態
という2つの条件で測れば、当然だが全く違う結果になる。例えば、(1)で2時間しか動かないようなシステムでも、(2)で測れば6時間駆動という別の結果が出るようになる。実際、この時期にはここまで極端では無いとしても、測定条件が各メーカーで違っていたため、ユーザーがカタログスペックのバッテリ駆動時間を見ても公平に比較できなかったのだ。
そこで、国内でビジネスを展開するPCメーカーが参加しているJEITAのパーソナルコンピューター事業委員会において、この問題を討議するテクニカルグループが作られ、そこで1つの基準として定められたのが「JEITAバッテリ動作時間測定法(Ver 1.0)」、通称“JEITA 測定法 1.0”と呼ばれるバッテリ測定方法の基準だ(以下JEITA 測定法 1.0)。
JEITA 測定法 1.0では、大まかにいうと以下のような測定方法でバッテリ駆動時間を測定している。
- 動画再生(測定法A)とアイドル状態(測定法B)の2種類の測定を行ない、(A+B)÷2で2種類の平均値をバッテリ駆動時間とする
- 画面輝度はAが20cd/平方m、Bが最低輝度、音量は最低かミュート
これ以外にも細かな基準が定められていたが、興味があるユーザーはJEITAのサイトで公開されている資料(リンク先PDF)をご覧頂きたい。
ポイントは、動画再生というCPUがアクティブになっている状態(測定法A)と、アイドルというCPUが省電力モードになっている状態(測定法B)の2回をとって、それぞれの結果を足して2で割ることで平均時間を出すという方式を採用していることだ。ワーストケースと考えられる測定法Aだけでなく、なぜアイドル状態の測定法Bも採用しているのかと言えば、実際のノートPC(やタブレットやスマートフォン)では、その方が実利用環境に近いからだ。
上の図1はバッテリ駆動時のデジタル機器の消費電力がどのような状態にあるかを模式的に示したものだ。図のように、バッテリ駆動時の消費電力は、常に上下している。1番の下限はアイドルと言われる、アプリケーションなどが何も処理をしておらず、OSが待機状態に入ったときだ。これに対して、1番消費電力が高いのはCPUがフルパワーで動いている状態で、さらには、CPUがフルパワーではなく、クロック周波数を下げた状態の中間状態など、複数の状態がある(実際にはもっと段階が多いのだが、ここでは分かりやすくするため3つだけを取り上げた)。
ユーザーの実利用環境では、フルパワー状態であるのはそんなに長くなく、アイドルになっている状態がほとんどを占めている。ユーザーがキー入力を行なわず考えている間などに、OSはどんどんアイドル状態へと移行するためで、バッテリ駆動中には、このフルパワー>アイドル>フルパワー>アイドル……という状態の変化が交互に発生しているのだ。従って、このアイドル状態が実際に多いことを再現しなければ、ユーザーの実利用環境に近いベンチマークにはならない。
そこで、JEITA 測定法 1.0ではアイドル状態があることを再現するために、測定法A(フルパワー)と測定法B(アイドル)の2回をとって、その平均を取ることで、擬似的にアイドル状態があるという状況を作り出しているのだ。これが測定法Aと測定法Bを足して2で割ることの意味で、JEITA 測定法 1.0の基本的な考え方だと言える。もちろん、厳密言えば、ユーザーの実利用環境で、フルパワーが50%、アイドルが50%などという環境はあり得ないのだが、複数のメーカーが同じ基準でテストをすれば、相対的な比較として使える、それがJEITA 測定法 1.0の狙いだったと言える。
このJEITA 測定法 1.0により、各PCメーカーでバラバラだった基準が統一され、消費者はPCメーカーのカタログを見てJEITA 測定法 1.0に計測された数字により、直接バッテリ駆動時間が短いのか長いのかを相対的に比較できるようになった。A社のノートPCがJEITA 測定法 1.0により9時間、B社のノートPCがJEITA 測定法 1.0により6時間と書いてあれば、ああA社のノートPCの方がバッテリが持つのだなと瞬時に分かるようになったのだ。これがJEITA 測定法 1.0の最大の功績だ。
モノサシとしては意味があるが、数字が非現実的になっていた
だが、JEITA 測定法 1.0が策定以来13年が経ち、段々と課題も見えてきていた。具体的には、JEITA 測定法 1.0でのバッテリ駆動時間と、実際にユーザーが実環境で利用した場合のバッテリ駆動時間の乖離が目立つようになってきたのだ。
例えば、現在筆者がメインPCとして利用しているソニーの「VAIO Duo 13」(SVD1322A1J)はカタログでのJEITA 測定法 1.0での公称値は約18~19時間となっている。しかし、実際に筆者が通常の使い方をすると、約半分の9時間、かなり頑張って省電力しまくって10時間というのが実感だ。つまり、JEITA 測定法 1.0での公称時間の50~60%程度でしか使えていないのだ。別にこうした傾向はVAIO Duo 13だけがそうなのではなくて、他のノートPCでもほぼ同じ状況だ。
JEITA パーソナルコンピューター事業委員会 テクニカルグループ 主査 米田清一氏によれば、JEITAで測定法の策定に当たったテクニカルグループでもそうしたことは何度も議論になっていたのだという。「この13年間の間にノートPCの使い方や仕様は大きく変わった。策定時にはほとんど想定されていなかったモバイル環境でのWi-Fi利用は当たり前になったし、ここ数年はUltrabookが普及しバッテリ駆動時間が飛躍的に伸びた。そうしたこともあり、ワークロードや輝度などが現状で良いのかは常に議論していた」という。
なぜそうなってしまったのかと言えば、JEITA 測定法1.0の測定法AでのMPEGビデオ再生が既に現代のCPUでは軽すぎるワークロードになってしまったため、CPUがフルパワーになることがほとんどなくなってしまい、簡単に言えばシステムに負荷がかからなくなってしまっていたのだ。下の図2で言えば、本来であれば負荷は赤い線に近づく必要があるのだが、青い線、つまりほぼアイドルと変わらないような負荷になり、2種類のテストをしている意味がほとんどなくなってしまっていた。
また、米田氏が述べた通り、輝度も現在のノートPCの基準からすれば、ちょっとかけ離れた数値になってしまっていた。一般的にユーザーがノートPCを蛍光灯の下で使う時には100~200cd/平方mぐらいが、暗くないなと感じる輝度になる。従って、その程度の輝度に設定するのがより現実に近い設定になるのは言うまでもない。ところが、JEITA 測定法 1.0では、輝度は測定法Aでも20cd/平方m、測定法Bでは最低輝度(製品によるが10cd/平方m程度)と輝度は実用にはほど遠い状態で計測される。現代のノートPCでは、CPUと同じぐらいか、むしろそれ以上に一番電力を消費しているのが液晶ディスプレイであることを考えれば、輝度が実用レベルではない設定は非現実的と言わざるを得ない。
つまり、JEITA 測定法 1.0は異なるメーカーの製品を公平に比較するモノサシとしては依然有効だが、現代のノートPCの使い方からすればちょっと非現実的と言わざるを得ない数値になっていたのだ。
ワークロードの見直しなどにより、実利用環境に近づいたJEITA 測定法 2.0
そうした技術的な背景があって改訂され、新しく策定されたのが今回発表された「JEITAバッテリ動作時間測定法 Ver.2.0」、通称“JEITA 測定法 2.0”になる(以下JEITA 測定法 2.0に統一)。従来のJEITA 測定法 1.0とJEITA 測定法 2.0の違い(及び違わないところ)をまとめると以下のようになる。
JEITA 測定法 2.0 | JEITA 測定法 1.0 | |
---|---|---|
測定方法 | (測定法A+測定法B)÷2 | (測定法A+測定法B)÷2 |
測定法A | フルHD H.264ビデオ再生 | 320×240ドットMPEGビデオ再生 |
測定法B | アイドル | アイドル |
輝度 | 150cd/平方m以上(白画面で測定) | 20cd/平方m(測定法A)/最低輝度(測定法B) |
音量 | 最低(ミュートでも可) | 最低(ミュートでも可) |
Wi-Fi | アクセスポイントに接続(データは流れていない) | - |
BTやWWANなどその他の無線 | オフでも可 | - |
動画再生ソフト | インストールされているもの、ユーザーが入手可能なもの | インストールされているもの、ユーザーが入手可能なもの |
再生画面の表示サイズ | フルスクリーン | 320×240ドット |
測定の終了 | シャットダウンまたは休止状態(ユーザー設定が可能であればバッテリ切れによる強制終了も可) | バッテリ切れによる強制終了でも可 |
バッテリーの充電方法 | - | 本体にて充電 |
動画ファイルの格納場所 | - | HDD |
JEITA 測定法 2.0では、“動画再生(測定法A)とアイドル状態(測定法B)の2回の測定を行ない、(A+B)÷2で2回の平均値をバッテリ駆動時間とする”という基本的な測定コンセプトに関してはキープコンセプトとして変わらない。これについて米田氏は「テクニカルグループの中でもワークロードに関しては見直してはどうかという声もあった。一部には欧米で一般的なMobileMarkを使ってはどうかという意見もあったし、JEITAで作ってはどうかという話も出た。しかし、JEITAという非営利団体がそうしたプログラムをメンテナンスしていくというのは費用の面からも現実的ではないし、MobileMarkに関しては日本語環境で使えないということも多くこちらも現実的ではないという結論になった」とした。
これについてはいくつか説明が要ると思うが、欧米で製品を発売されているノートPCは日本メーカーが発売している製品も含めて、ほとんど場合BAPCo(非営利の業界団体)が作成したバッテリベンチマークであるMobileMark(いくつかバージョンがあるが、最新バージョンはMobileMark 2012)を利用してバッテリ駆動時間を計測することが多い。MobileMarkは、Microsoft Officeなどの実在のアプリケーションをインストールして、スクリプトを利用してそれらを動かし、間にアイドルを挟むということを繰り返す。このため、ユーザーの実利用環境に近い結果が出ると、多くのPCメーカーがこれを利用している。
ただし、このMobileMarkは、英語OSを前提に作られているので、日本語OSで実行すると、残念ながらちゃんと動かないことが多い(一応BAPCoのサイトには日本語などのダブルバイト環境で動かす方法が乗っているのだが、割と高い確率で完走しないことが多い)。かつ、このスクリプトなどは、OSのバージョンアップやServicePackといったOS側のバージョンアップには対応が追いつかないことも多く、Windows 8では動くのに、Windows 8.1では動かないという例が多い。テクニカルグループでは、この点が問題となり、MobileMarkのような既製のベンチマークや、JEITA自身でプログラムを組むということは見送られた。JEITA自身が非営利団体で、このJEITA 測定法を作ること自体が目的では無いことを考えれば妥当な判断だと言えるだろう。
ただ、JEITA 測定法 2.0は仕組みそのものこそ1.0と一緒だが、先ほどの図2で言うところの青の破線に下がってしまった負荷を、赤い破線に上げるように変更されている。具体的には動画を従来のMPEG-1/320×240ドットから、H.264/1,920×1,080ドットへと引き上げ、ウィンドウ表示からフル画面表示に変更されているのだ(動画そのものと測定条件などはJEITAのWebサイトで公開されているので一般のユーザーでも試すことが可能だ)。これにより、負荷は大幅に引き上げられており、システムにかかる負荷は従来よりも大きくなっている。つまりもう1度、赤の破線に戻るというのがこの変更だ。そしてそれ以外にも、負荷を上げる仕様変更がされている。特に大きいのは液晶ディスプレイの輝度が150cd/平方mに規定されたことだ。一般的にユーザーが蛍光灯下で暗くないなと感じる明るさが100~200cd/平方m程度なので、現実的な設定だと言える。
また、Wi-Fiに関しても、従来のJEITA 測定法 1.0では何も規定されていなかったのに対して、2.0ではアクセスポイントで接続した状態で計測するというように規定された。米田氏によれば「実際にはデータが流れている状態でテストをする方が実態に近いとも言えるが、では、どの程度のデータを流せばいいかなどが議論の対象になった。仮に一定のデータを流すなら、専用のサーバーを用意したり、専用のプログラムを用意する必要がある。ユーザーも確認できる、というのもJEITA 測定法のコンセプトでもあるので、それは現実的ではないとなった」とのことで、少なくともアクセスポイントに接続することはどんなユーザーもやるだろうと判断し、このような仕様になったとのことだった。
こうして仕様を変更した結果、JEITA 測定法 2.0では、JEITA 測定法 1.0と比較するとどの程度の数値になっているのだろうか? 米田氏は、現時点では多くの製品でデータを取っているわけではないと前置きした上で「製品によりばらつきはあるものの、概ね70~80%程度という数字になっている」と明かしてくれた。この数字だけが一人歩きするのが恐いので繰り返しておくが、この数字はあくまでもテクニカルグループが大まかにとった数字であり、統計を取ったものでは無いが、1つの目安にはなるだろう。70~80%という数字は、筆者のVAIO Duo 13の例でいうところのJEITA 測定法1.0に対して50~60%というのが体感に比べると、まだやや大きめの数字だが、大分実態に近づいていると言えるのではないだろうか。
おそらく、残りの20%前後はネットワークへのアクセスが発生しないことだと思う。現代のPCではネットワークからダウンロードしたり、アップロードするたびにCPUへの負荷やネットワークコントローラへの負荷が発生する。その分が現在のJEITA 測定法 2.0には入っていないため、こうした結果になっていると推察される。ネットワークにアクセスしない場合のバッテリ駆動時間と考えると、かなり実態に近い結果になる可能性が高いのではないだろうか。
1年間はカタログなどで1.0と2.0の両方の結果を併記、企業の一括導入では課題も
カタログに表記されるバッテリ駆動時間の数値が、実際のユーザーの利用モデルに近づくのは歓迎すべき事なのだが、PCメーカー側にとってはJEITA 測定法 2.0に移行するにあたり、いくつかの課題があるという。1つには、新しいJEITA 測定法 2.0の認知度が上がるまで、JEITA 測定法 1.0との併記にするということが挙げられる。JEITAは、JEITA 測定法 2.0の表記がスタートする4月1日以降、1年間はPCメーカーに対してJEITA 測定法 1.0とJEITA 測定法 2.0の両方を併記することが望ましい、と“お願い”している。JEITAによれば、これはあくまでお願いであって、要件ではないとのことだが、JEITA 測定法 2.0の採用を表明しているメーカーに対しては、1年程度は移行期間ということで両方の仕様をカタログなどに掲載して欲しいという紳士協定的なモノだと説明されている。
もちろん、ユーザーが新しい数字(2.0)に馴染むまでは、従来の数字(1.0)と併記するのが望ましいのは言うまでも無い。というのも、同じシステムで両方の測定法で計測した場合、1.0では10時間と表記されていたA社ノートPCも、2.0では7時間となる可能性がある。その時に、一方で別のメーカーB社の製品は1.0で計測した10時間という数字だけが載っていたら、よくわからないユーザーにしてみればB社の製品の方がバッテリが持つのだと勘違いをしてしまう可能性がある。そうした事態を防ぐ意味でも、1.0と2.0の数字が併記される期間があるというのは、好ましいことだ。
しかし、問題はメーカーにとってはそれがコスト増につながるという点だ。JEITA 測定法の場合、測定法Aと測定法Bと2種類のテストを行なう必要があり、もちろんそれを複数回やって検証する必要があるので、手間は少なくない。一般的にこうしたテストは専門の検証会社に外注に出されることになるので、PCメーカーにすれば、その分はコストになる。それが倍になる1.0と2.0の併記は、PCメーカーにとっては負担が増えることを意味する。従って、できれば短い期間で済ませたいというのが本音なのだが、そこはメーカーの責任として1年間程度は必要だと合意した、そういうことだろう。
また、企業向けのノートPCの場合には、別の課題もある。一般的に企業向けのノートPCというのは、大企業の場合は、ノートPCのメーカーに対して仕様書というのが提示され、それに見合った製品を各ノートPCメーカーが提案し、入札という手順を経る。その仕様書というのは、CPUのスペック、メモリ、ストレージ(HDDかSSDか)などが書かれているのだが、企業によってはその中にJEITA 測定法 1.0で○○時間以上という条件を仕様書に入れているところもあるという。PCメーカーとしては、仮に大規模にノートPCを導入してくれる顧客から求められた場合には、1年と言わずJEITA 測定法 1.0を続けざるを得ないことも想定されるという。そうした意味では、PCメーカーにとっても、こうした顧客側の意識も含めてできるだけ早く2.0への移行が進むのが良いのは言うまでも無いだろう。
今後もさまざまな可能性を議論、Androidタブレットへの対応の可能性
このようにして策定されているJEITA 測定法 2.0だが、JEITA パーソナルコンピューター事業委員会の委員長 加茂朗氏は「今回の新しい規定についても、多くのメーカーにご賛同頂き採用頂く予定で、一定の評価を頂いていると思っている。ただ、これが業界の統一基準だと驕るような感覚は持っていなくて、今後もユーザー様などから指摘があれば、今後の改良の検討材料にしていきたい」と、今後もテクニカルグループなどでJEITA 測定法を見直していく可能性があるとした。なお、取材時点でJEITA 測定法 2.0の採用を決めているメーカーは以下のメーカーになる。
【表2】JEITA 測定法 2.0の採用を予定しているPCメーカー |
---|
ASUS JAPAN株式会社 |
NEC パーソナルコンピューター株式会社 |
エプソンダイレクト株式会社 |
株式会社東芝 |
日本ヒューレット・パッカード株式会社 |
パナソニック株式会社 |
富士通株式会社 |
株式会社マウスコンピューター |
株式会社ユニットコム |
直近で可能性があるのは、やはりタブレットへの対応だ。もちろん、Windowsタブレットは、キーボードが無いだけのノートPCと捉えることができるので、現状のJEITA 測定法 2.0で計測できる。ただ、Androidタブレットに関しては、JEITA 測定法 2.0がWindows OSを意識して省電力の設定などが規定されているため(例えばWinodwsにはサスペンド、休止状態はあるが、Androidの場合はそれがないなど)、そのあたりをもう少し明確化する必要があるかもしれないと、米田氏は説明した。
現在、JEITA パーソナルコンピューター事業委員会に所属しているPCメーカーは、そのままAndroidタブレットのメーカーと重なるところが多いので、今後そうした方向の議論が行なわれる可能性は高いだろう。現時点でAndroidタブレットには、やはり統一した基準がない状態で、カタログのメーカー公称値ではバッテリ駆動時間を公平に比較できない現状にある。そうした意味では、今後そうした議論が深まることを期待したいところだ。
最後に、筆者から読者の方へのお願いになるが、一般のPCにはあまり詳しくないユーザーの方に対して、今回のJEITA 測定法 2.0が、JEITA 測定法 1.0の時に比べて、よりユーザーの体感に近い数値であり、今後はそちらを参照した方がよりフェアなノートPC選びができるということを伝えて欲しい。そうして、よりバッテリ駆動時間に注目が集まるようになれば、ノートPCメーカーも今後はそこを強化する必要があると判断し、より長時間駆動が可能なノートPCがでてくる可能性がある。そうした意味で、ぜひともこの新しいJEITA 測定法 2.0には注目して欲しいと切に願ってこの記事のまとめとしたい。