■多和田新也のニューアイテム診断室■
NVIDIAは5月17日、ミドルレンジGPUの新製品となる「GeForce GTX 560」を発表した。今年1月に発表されたGeForce GTX 560 Tiに続く無印モデルの登場となる。動作クロックを完全にベンダーに委ねており、各ベンダーからさまざまな仕様の製品が登場する見込みだ。ここでは、そのうちの1つであるZOTAC製品を用いてパフォーマンスをチェックしてみたい。
●GF114を7SM仕様で製品化したモデルまずは簡単にGeForce GTX 560の仕様をまとめたものが表1である。冒頭でも述べたとおり、NVIDIAが示す、いわゆる“定格クロック”というものはGeForce GTX 560には存在しない。そのため、発表時点で登場見込みの製品の動作クロックが“目安”として提示されている。
コアのアーキテクチャは1SMあたり48基のCUDAコアを持つGF114をベースとしており、この1SMを無効化し、7SM仕様としたものとなっている。この点ではGeForce GTX 560 Tiより下位のモデルであることがはっきりしている。
消費電力の値も示されていないが、消費電力は動作クロックに依存するため、定格クロックというものが存在しない以上、NVIDIAとしては参考の消費電力も示せないだろう。
実際にどのようなクロックの製品が登場するか、というのはNVIDIAのプレゼンで示されている(図1)。これを見ると、コア950MHz/メモリ4,400MHz相当のZOTAC製品、コア925MHz/メモリ4,200MHz相当のASUSTeK製品、コア900MHz/メモリ4,488MHz相当のSparkle製品あたりがパフォーマンス重視のモデルといったところだろうか。
【表1】GeForce GTX 560の主な仕様GeForce GTX 560 | GeForce GTX 560 Ti | GeForce GTX 550 Ti | |
GPUクロック | 810~950MHz | 822MHz | 900MHz |
CUDAコア/SPクロック | 1,620~1,900MHz | 1,644MHz | 1,800MHz |
CUDAコア/SP数(SM数) | 336基(7基) | 384基(8基) | 192基(4基) |
テクスチャユニット数 | 56基 | 64基 | 32基 |
メモリ容量 | 1,024/2,048MB GDDR5 | 1,024MB GDDR5 | 1,024MB GDDR5 |
メモリクロック (データレート) | 4,004~4,488MHz相当 | 4,008MHz相当 | 4,104MHz相当 |
メモリインターフェイス | 256bit | 256bit | 192bit |
メモリ帯域幅 | 128.1~143.6GB/sec | 128.3GB/sec | 98.5GB/sec |
ROPユニット数 | 32基 | 32基 | 24基 |
【図1】NVIDIAのプレゼン資料より、発表時点で予定されているGeForce GTX 560搭載製品と動作クロックのリスト |
【写真1】GeForce GTX 560を搭載するZOTACの「GTX 560 AMP! EDITION」 |
今回テストに用いるのは、このうちのZOTAC製品である(写真1)。GDDR5を1GB搭載するモデルで、メモリチップは表面のみに8枚を実装する(写真2)。
ブラケット部はDVI-I×2とHDMIという一般的な組み合わせ(写真3)。SLI端子も1基備えており、2-way SLIに対応することが分かる(写真4)。
消費電力の公称値が提示されていないことは前述のとおりだが、GeForce GTX 560の電源端子は6ピン×2が標準仕様で、本製品もそれに準拠している(写真5)。
GeForce GTX 560 Tiの公称値が170Wだったので、1SMが制限されていることもあり、単純に動作クロックを低くすれば1ピン動作が可能かも知れない。ただ、先の図1で示した製品群を見る限り、GeForce GTX 560 Tiの定格クロックを上回るクロックで動作する製品が多い。1SMが制限されているとはいえ、こうしたクロック設定が6ピン×2が求められる理由ということだろう。
なお、動作クロックは先の図1に示されているとおり、コア950MHz、メモリ4,400MHz相当での動作となっている(画面1)。この場合はCUDAコアのクロックは1,900MHzとなる。
テストでは、このZOTAC製品の仕様のままのテストに加え、コアクロックを850MHz(先の図1で2製品が採用)、メモリクロックを4,080MHz相当(3製品が採用)にダウンクロックした状態でもテストを行なうこととした。この場合、コアクロックに同期してCUDAコアクロックも下がり、1,700MHzとなる。ダウンクロック作業はMSIのAfterBurnerを用いて行なった(画面2)。特定の製品に合わせた設定ではないが、低クロック動作時にどの程度の性能を持つかのサンプルとしたい。
●2万円前後の製品を中心に比較テスト
それではベンチマーク結果を紹介したい。テスト環境は表2のとおり。時間の都合もあり、比較対象製品のベンチマーク結果は先月行なったRadeon HD 6790の記事から流用している。ハードウェア環境は同一であるが、ドライバにバラツキがあるのはこのためである。なお、その際に比較対象に使用したビデオカードは写真6~8に示すとおりである。
【表2】テスト環境ビデオカード | GeForce GTX 560 (1GB) | GeForce GTX 560 Ti (1GB) | GeForce GTX 550 Ti (1GB) | Radeon HD 6850 (1GB) |
グラフィックドライバ | GeForce Driver 275.01 | GeForce Driver 266.66 | GeForce Driver 267.59 | 8.84.2-110322a-115844E |
CPU | Core i7-860(TurboBoost無効) | |||
マザーボード | ASUSTeK P7P55D-E EVO(Intel P55 Express) | |||
メモリ | DDR3-1333 2GB×2(9-9-9-24) | |||
ストレージ | Seagete Barracuda 7200.12 (ST3500418AS) | |||
電源 | CoolerMaster RealPower Pro 1000W | |||
OS | Windows 7 Ultimate Sevice Pack 1 x64 |
ちなみに、比較対象にRadeon HD 6850を選択しているが、GeForce GTX 560は199ドルのセグメントに投入するとしており、日本円では(現在の為替レートを考えても)2万円前後からの価格となると見られる。AMDの製品で2万円前後で販売されている製品ということでRadeon HD 6850を選択しているわけである。その意味ではミドルレンジでも、パフォーマンスを重視した製品の価格帯といえるだろう。
ちなみに、GeForce GTX 560と同じタイミングで、NVIDIAはGeForce DriverのRelease 275の提供を開始する。Release 275ではドライバ本体とSLIプロファイルを個別に更新確認できるようになったほか、ディスプレイのネイティブ解像度と設定解像度にギャップがある場合のスケーリング設定画面に改良が加えられるなどしている。
【写真6】GeForce GTX 560 Tiを搭載するGIGABYTEの「GV-N560SO-1GI」 | 【写真7】GeForce GTX 550 Tiを搭載するGIGABYTEの「GV-N550OC-1GI」 | 【写真8】Radeon HD 6850のリファレンスボード |
まずはDirectX 11対応タイトルのベンチマーク結果である。テストは「3DMark 11」(グラフ1)、「Alien vs. Predator DirectX 11 Benchmark」(グラフ2)、「Colin McRae: DiRT 2」(グラフ3)、「Lost Planet 2 Benchmark」(グラフ4)、「Stone Giant DirectX 11 Benchmark」(グラフ5)、「Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark」(グラフ6)、「Unigine Heaven Benchmark」(グラフ7)だ。
結果を見ると、クロックによって製品のクラスが変わるというほどの印象を受けるものとなっている。ドライババージョンが異なるという点に留意する必要はあるが、セグメント的にはGeForce GTX 560 TiよりCUDAコア数の少ない下位モデルということになるが、ZOTAC製品のように高クロックで動作させたモデルでは、その制限を補って余りある性能を発揮する。この場合、メモリ帯域幅もGeForce GTX 560 Tiの定格クロックを上回るので、高負荷の状態でも差が目立って詰まることもない。
逆に低クロック動作では位置付けどおり、GeForce GTX 560 Tiより低い性能となる。ただ、この状態でもGeForce GTX 550 Tiはもとより、Radeon HD 6850を上回る性能は見せており、GeForce GTX 560 Ti寄りの性能傾向になっている点は特筆できるだろう。
次はDirectX 9/10世代のベンチマークである。テストは「3DMark Vantage」(グラフ8、9)、「Crysis Warhead」(グラフ10)、「Far Cry 2」(グラフ11)、「Left 4 Dead 2」(グラフ12)、「Unreal Tournament 3」(グラフ13)だ。
【グラフ08】3DMark Vantage |
【グラフ09】3DMark Vantage |
【グラフ10】Crysis Warhead |
【グラフ11】Far Cry 2 |
【グラフ12】Left 4 Dead 2 |
【グラフ13】Unreal Tournament 3 |
こちらも全体的な傾向はDX11タイトルの結果と変わらない。やや古めのタイトルも含まれるが、逆にいうと古いタイトルはドライバ側のチューニングも終了しているわけで、こうしたタイトルでもZOTAC製品がGeForce GTX 560 Tiを上回る結果となったことは意味がある。
低クロック設定では、Left 4 Dead 2ではフィルタ適用をしない場合にRadeon HD 6850に劣るフレームレートとなったほか、過去のテストでもRadeonシリーズが良好な結果を発揮してきた、3DMark VantageのFeature TestのPerlin NoiseでもRadeon HD 6850は良好な結果だ。ただ、多くのタイトルではこれを上回る結果を発揮しており、低クロック動作の製品でもRadeon HD 6850を超えるパフォーマンスを期待できるタイトルは多い。
最後に消費電力の測定結果である(グラフ14)。こちらは、ここまでのGeForce GTX 560の好印象を下げる結果と言わざると得ない。ZOTACの標準設定クロックでは、GeForce GTX 560 Tiより1割以上も動作クロックが高い。
【グラフ14】消費電力 |
低クロック設定時の結果は電圧調整などは手動で行なっていないので参考程度ではあるが、GeForce GTX 560 Tiを上回る。こちらは性能がより低く、消費電力がより大きい結果という点で、より印象が悪い。
過去のテスト同様、Radeon HD 6850は飛び抜けて省電力であり、パフォーマンス測定結果とのバランスを考えても、やはりこちらの印象の良さが残る。
●消費電力は要注意だがクロック・価格次第では気になる存在に以上、ベンチマーク結果を見てくると、性能はまずまずのものを持っている印象だ。定格クロックを定めていない、SMを1基制限しているというGPUの性格もあって、各社ともGeForce GTX 560 Tiを上回る動作クロックを設定する製品が多い。このおかげで、GeForce GTX 560 Tiの定格クロック製品を上回るパフォーマンスへと繋がっている。
ただ、SMの制限を高クロックで補っているという見方もでき、そのせいで消費電力が高めであることは留意すべきだろう。このクラスでは消費電力と性能のバランスも問われるだけに、かなり残念な結果といえる。
ただ、GeForce GTX 560の評判を決める要素は価格になると思われる。GeForce GTX 560 Tiは定格クロック製品が2万円前後、OCモデルが2万円中盤~後半で販売されている。立場的にも下位のセグメントに位置付けられるGeForce GTX 560は、この価格帯より若干ながら安価に登場すると見られる。
公式にはOCモデルという存在がなくなるGeForce GTX 560だけに、高クロック動作モデルの判断が難しくなる可能性もあり、このあたりはしっかり情報収集をする必要がある。しかし、消費電力に妥協できるならば、ユーザー自身が動作クロックと価格のバランスを判断して上手な製品選択ができれば、GeForce GTX 560は魅力ある製品となりそうだ。