西川和久の不定期コラム
日本HP「ENVY4504」
~8,800円のインクジェット複合機
(2014/9/30 06:00)
日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は8月25日、低価格な個人向けインクジェット複合機4モデルを発表し、9月中旬から順次発売した。個人向け「ENVY」ブランドで3モデル、企業向け「Officejet」ブランドで1モデル発表され、その中の「ENVY4504」は、何と8,800円(税別)。実機が編集部から送られてきたので、試用レポートをお届けしたい。
格安インクジェット複合機の実力は
今回発表されたのは、ENVYブランドとして、「ENVY4504」、「ENVY5530」、「ENVY5640」の3モデル。税別直販価格は順に8,800円、11,800円、15,800円。Officejetブランドとしては「HP Officejet 5740」の1モデル。税別直販価格は18,800円の見込みだ。
ENVYブランドの3モデルに関しては、ディスプレイのサイズやモノクロかカラーかなどの違い、SDカードスロットの有無、印刷速度、給紙トレイの最大枚数、L判対応のフォトトレイの有無などが主な違いとなる。「HP Officejet 5740」は、FAXやADFまで搭載したハイエンドモデルだ。
今回手元に届いたのは、下位モデルの「ENVY4504」。1万円を切る非常に安価なインクジェット複合機だ。主な仕様は以下の通り。
日本HP「ENVY4504」の仕様 | |
---|---|
最高解像度 | 4,800×1,200dpi |
インク | 4色(CMYK)、CMY/染料系インクとK/顔料系インク |
印刷速度 | Aカラー約5.2ppm/モノクロ約8.8ppm |
給紙容量 | A4:最大100枚(普通紙) |
用紙サイズ | A4、A5、A6、B5、封筒(長形3号/長形4号)、はがき、往復はがき、10x15cm、L判、2L判など |
ADF | なし(自動両面印刷機能あり) |
液晶ディスプレイ | タッチフレーム付き2型 モノクロLCD |
スキャナ部 | センサー:CIS、原稿サイズ:A4など、解像度:1,200×2,400dpi、カラー階調:最大24bit |
対応OS | Windows XP/Vista/7/8/8.1、Mac OS X 10.7以降 |
インターフェイス | USB 2.0×1、IEEE 802.11b/g/n |
サイズ | 445×334×120mm(幅×奥行き×高さ)/5.5kg |
直販価格 | 8,800円(税別) |
プリンタ部は、最高解像度4,800×1,200dpi。インクはCMYK4色で、CMYとKインクで分かれている。前者が染料系、後者が顔料系。ノズル数はKが336、C/M/Yが合計1,248となっている。対応インクカートリッジは、HP61インクカートリッジ黒(CH561WA)とHP61インクカートリッジカラー(CH562WA)の2本。どちらも増量タイプも用意されている。
この専用インクカートリッジは、インクタンクとヘッドを一体化したシステムで、インク交換のたびにプリントヘッドも新しくなり、目詰まりによる画質/性能低下を防ぐことが可能だ。また、CMYかK、どちらかのインクが無くなっても印刷できる「シングルカートリッジモード」を装備している。ありがちな話として、久々に電源を入れたら、クリーニングが始まり、結果カラーの1色がインク切れ、でも印刷したいのは黒1色の請求書なのに印刷できない、……といった状況を防ぐことができる。
用紙サイズは、A4、A5、A6、B5、封筒(長形3号/長形4号)、はがき、往復はがき、10x15cm、L判、2L判など。給紙容量は普通紙で最大100枚。印刷速度は、Aカラーで約5.2ppm、モノクロで約8.8ppmとなっている。印刷コストは、A4カラーで約12.3円。また自動両面印刷機能対応だ。スキャナ部は、CIS×1で解像度1,200×2,400dpi。カラー階調は最大24bit。
これからも分かるように、速度はそれなりだが、プリンタ部もスキャナ部も以前ご紹介した、ビジネス用「Officejet Pro 8620」と同等の解像度となっている。
インターフェイスは、USB 2.0×1、IEEE 802.11b/g/n。ストレージ用のUSBは非搭載、有線lANはなしと、かなり割り切った仕様だ。家庭用なのでせめて前面のUSBかカードリーダーが欲しかったところ。
サイズは445×334×120mm(幅×奥行き×高さ)、重量は5.5kg。インクジェット複合機としては小型な方だろう。
スマートフォン連携に関しては、AirPrint、HP ePrint、ワイヤレスダイレクトに対応しているが、Android 4.4にプリインストールされている「HP プリントサービスプラグイン」に関しては上位モデルの「ENVY5640」のみの対応で、「ENVY5530」と「ENVY4504」の2機種は非対応となっている。
筐体はオールプラスチックで、操作パネルはシルバー、他はブラックとシンプルなデザインだ。サイズもほどほどで家の何処に設置しても浮くことは無いだろう。
操作パネルは左側に、電源ボタン、ディスプレイと周囲に機能ボタン、その右側にワイヤレス、Webサービス、ヘルプのショートカットボタンを配置している。ディスプレイはモノクロでタッチには対応していない。機能ボタンの上下で項目を選択し、OKで確定といった感じの操作となる。
給紙トレイは、未使用時は折りたたまれ、前面下部のパネルになっている。使用時はパネルを開け、必要に応じてトレイを引っ張り出し用紙をセットする。またトレイの先端に排紙用トレイ(バーのようなもの)が収納されており、90度回転させると写真のような状態になる。
背面は元々インターフェイスが少ないこともあり、ACコネクタとUSBポートのみ。また仕様から分かるように、カードリーダーやストレージ用のUSBポートは無い。コストとの兼ね合いだと思うが家庭用としては残念な部分だ。この関係で、単独操作でフォト(印刷)の項目は省略されている。
ただ写真に関しては、家庭用と考えた場合、スマートフォン内蔵カメラであれば、AirPrintやePrintを使えばよく、デジタル一眼レフであればPCで何らかの加工をするので、PCからの印刷……と、単独のフォト(印刷)は、無くても特に困らないかも知れない。
原稿台は右手前が原点。原稿台の下から持ち上げることができ、インクカートリッジにアクセスできる仕掛けになっている。カートリッジはCMYで1つ、Kで1つの計2つの構成だ。
ディスプレイに表示されるメニューの第一階層は、コピー/スキャン/ワイヤレスダイレクト/インクレベル/Printables/クイックフォーム/ツール/基本設定/ワイヤレス。本来設定メニューの第二階層にありそうな項目も一部ある。文字入力はタッチパネルでないため、上下ボタンで文字を移動、OKで確定、また文字か数字はモードを切り替えるパターンだ。
単独使用/コピー
単独使用のコピーは、特に設定を変更する必要が無い場合は、メニューからモノクロかカラーかを選び開始するだけと非常に簡単だ。
メニュー項目は、モノクロコピーの開始、カラーコピーの開始、部数、両面(オン/オフ)、用紙タイプ(A4普通紙/A4フォト/はがきフォト/2L判フォト/L判フォト)、サイズ変更(実物大/ページに合わせる/カスタムサイズ)、IDカードのコピー(モノクロコピー/カラーコピー)、薄く濃く(薄く/標準/濃く)と、ビジネス機のように2-in-1などレイアウト的な機能は省かれているが、家庭用なのでそこまで必要無いだろう。
A4カラーコピーにかかる時間やノイズ、振動に関しては、動画を掲載したので参考にして欲しい。横揺れなどの振動は無いが、作動音が少し大きめだろうか。
単独使用/スキャン
単独使用のスキャンは、本体に保存できるメディアを接続できないため、基本的に保存先はPCのみとなる。従ってメニューも単純。保存先のPCを設定、写真(JPEG)かドキュメント(PDF)を選択し、スキャンスタートするだけだ。これだと後述するWebインターフェイスのスキャンを使った方がスキャン品質などを調整できるため便利かもしれない。
単独使用/その他
単独使用のコピーとスキャン以外は、ワイヤレスダイレクト(オン/オフ)、インクレベル、Printables(Disneys/?材印刷(表示ママ)/Origami/クイックフォーム/DreamWorks/Angry Birds/KIDDINX/Weathernews/Acrivity Fun/カレンダー/ポコヨの印刷/LearnEnglish/eStroage/電子メールにスキャン/GetMore)、クイックフォーム(週単位カレンダー/月単位カレンダー/ファクス表紙/チェックリスト/グラフ/ノート/五線紙/数字パズル/迷路/三目並べ)、ツール(プリントヘッドの清掃/プリンタの調整/にじみ解消/プリンタ状態レポート/印刷品質レポート/デフォルトに戻す)、基本設定(言語/国・地域/スリープ/オートオフ/データストレージ)、ワイヤレス(オン・オフ/ワイヤレス設定ウィザード/WPS/ワイヤレス詳細の表示/レポート印刷/詳細設定/デフォルトに戻す)と、設定系と印刷系が混じっており、少し分かりにくい。
Printables、クイックフォームは印刷系だ。前者はアプリ相当となる。この見にくいモノクロディスプレイでアプリを動かす必要があるのか個人的には少し疑問だ。
総じて単独使用は必要最低限に近い機能となっているが、モノクロディスプレイはサイズも小さく、またADFやストレージ用のUSBポートやカードリーダもないため、その範囲内としてはうまくまとまっている。
PCでの使い勝手
ドライバやソフトウェアの対応OSは、Windows XP/Vista/7/8/8.1、Mac OS X 10.7以降となる。今回はWindows 8.1へWi-Fi接続でインストールした。セットアップに関してはほぼ全ての画面キャプチャを掲載しているが、以前ご紹介した「HP Officejet Pro 8620」と同じプログラムが使われているのが分かる(FAXの部分がない)。
1つ違うのは、HPプリンタWebサービスがセットアップされた後、詳細と手順が書かれたシートを印刷すること。スキップすることができず、必ず印刷されるため、予めA4用紙1枚を給紙トレイに入れておかなければならない。
ENVY 4500 seriesのプロパティ/全般/基本設定のタブは、レイアウト、用紙/品質/印刷ショートカットと3つ。印刷ショートカットは、普段の一般的な印刷/両面印刷/写真印刷・フチなし/写真印刷・フチあり……など、よく使いそうな設定がプリセットされている。
同社お馴染みのHPプリンタアシスタントの項目は、印刷およびスキャン配下が、プリンタをWebに接続(Webインターフェイス/Webサービス)、印刷の確認(スプーラの表示)、基本設定(印刷ショートカット)、プリンタのカスタマイズ(ENVY 4500 seriesのプロパティ)、プリンタのメンテナンス(ツールボックス/プリンタサービス)、プリンタのホームページ(Webインターフェイス/ホーム)、お使いのモバイルデバイスからの印刷(HP Mobile Printingホームページ/英語)、ドキュメントまたは写真(HP Scan)、コンピュータにスキャン(常駐ソフトウェアのオン/オフ)。
ショップ配下は、サプライ品のオンライン購入、サプライ品の購入の設定、その他のオンラインHP製品、特別オンラインオファー、Snapfishオンラインフォトサービス。それぞれ該当するサイトを表示する。
ヘルプ配下は、HPヘルプ内を検索、オンライン製品サポート、使用方法、製品のオンライン登録、ワイヤレスプリンティングオンラインヘルプ、HPエコソリューションオンラインは、それぞれ該当するサイトもしくはヘルプを表示する。
ユーティリティ配下は、プリンタセットアップ&ソフトウェア(セットアッププログラムを起動)、HP Print and Scan Doctor(別プログラム/要ダウンロード)、IPアドレスを更新(セットアッププログラムを起動)。
推定インクレベル配下は、ENVY 4500 seriesツールボックス/推定インクレベルを表示するとなっている。
これからも分かるように、HPプリンタアシスタントは、該当サイトやプログラムのショートカット集的なものになっている。一部英語のままのサイトがあるのは気になるところか。
Webインターフェイスは、プリンタ自体にWebサーバーを内蔵し、プリンタのIPアドレスをWebブラウザで指定、各種設定などができる便利なツールだ。「HP Officejet Pro 8620」の時とほぼ同じ内容だが、家庭用を意識してか、UIの配色が異なっている。ここからドライバ不要でスキャンもできるので便利だ。Wi-Fi接続さえしていれば、いろいろな設定ができるので、本体の小さいパネルを操作するより楽できる。
1つ注意する点としては、スキャナ機能は標準でオフになっており、設定/管理者設定で、Webスキャンを有効にしなければならない。
WindowsとMac OS X以外のOSは、モバイルデバイスとしてiOSとAndroidにも対応、前者がAirPrint、後者がHP ePrintとなる。
ワイヤレスダイレクトは、通常のルーター経由ではなく、ダイレクトにWi-Fiで複合機に接続する仕掛けだ。自宅で使用する自分のデバイスであればルーター経由、ゲストのデバイスなど、ルーターに接続していないデバイスに関しては、このワイヤレスダイレクトを……と言う使い分けだろう。
ソフトウェア面で驚くことは、ハードウェアスペック的に対応できない部分を除いて、ハイエンドの「HP Officejet Pro 8620」と同じ構成になっていること。これだけの機能が8,800円のインクジェット複合機も対応しているとは凄い時代になったものだ。
以上のようにENVY4504は、非常に安価なインクジェット複合機で、インクタンクとヘッドを一体化したインクカートリッジはメンテナンスも安易で扱いやすい。オフィス向けと比較すると流石に速度は見劣りするものの、ヘビーに使わない家庭用途であれば性能も十分。スマートフォンとの連携もスムーズに行なえる。
ディスプレイがタッチ非対応でモノクロ、データ用の前面USBが無いなど、価格的に仕方ない部分はあるにはあるが、iOSやAndroidを搭載したデバイスからも簡単に扱え、自宅用に安価なインクジェット複合機を探しているユーザーにお勧めの1台と言えよう。