西川和久の不定期コラム
Parallels Desktop 9 for Mac
~ThunderboltとFireWire、Windows 7風スタートメニューやDropboxなどクラウドストレージに対応
(2013/9/18 06:00)
パラレルス株式会社は、Mac OS X用仮想化ソフトウェア「Parallels Desktop」シリーズの最新版、「Parallels Desktop 9 for Mac」を8月29日より順次発売している。筆者は「Parallels Desktop 6 for Mac」の時代からメイン環境で愛用しているソフトウェアだ。早速インストールしたので試用レポートをお届けする。
1年365日使っている環境を久々にアップデート
2011年8月に「Boot CampとParallels Desktop 6でWindows 7マシンとして使う」という記事を掲載した。それまでWindowsはデスクトップPC、MacはiMacと環境を分けていたが、「Mac mini(MC816J/A)」(Sandy Bridge)を購入したのをきっかけに、メモリを16GBへ増設。Parallels Desktop 6を導入し、デュアルディスプレイ/キーボード構成で2年間、毎日使っているメイン環境となっている。
デュアルディスプレイはよくある話だが、デュアルキーボードにしているのは、Bluetooth接続のApple純正キーボードはOS Xで使用し、もう1つはUSB接続でParallels Desktopのデバイス/外部デバイスから仮想マシンへ直接接続している。こうすることによって、IME関連のキーバインドがWindowsと完全に一致するからだ。
それぞれのディスプレイの前にキーボードを置き、フルスクリーンで使用するとWindows PCとMacが別々にあるように見える。マウスは共通で1つ。シームレスに使えるため問題はない。
その後、Parallels Desktop 7へはアップデートしたものの、Parallels Desktop 8に関しては、メインでWindows 8を使ってないこともありアップデートしなかった。またHaswell版のMac miniが出たら環境を一新する予定だったこともあり現状維持していた。
そんな中、Parallels Desktop 9 for Macが出荷され、Windows 8.1対応も表明していることから、一足早くアップデートすることにした。
ただし、アップデートと言っても引き継がれるのは仮想マシンだけであり、Parallels Desktop自体は、古いバージョンを削除した後、最新版がインストールされる仕掛けだ(アップデートの対象はParallels Desktop 7と8)。
同社のサイトから14日間全機能の使えるトライアル版をダウンロード可能で、試用後、気に入れば製品を購入し、アクティベーションキーをセットすれば、そのまま製品版として使い続けることができる。
アップグレードで4,900円、新規で7,900円と比較的安価なのも嬉しいポイントだ。インストールの流れを画面キャプチャしたので参考にして欲しい。
システム要件は以下の通り。ゲストOSに関しては32bit/64bit版のほぼ全てのWindowsや、多くのLinuxなどに対応している。加えて、OS X LionとMountain LionをゲストOSとして動かすことも可能だ。
ハードウェア要件
- Core 2 Duo、Core i3/i5/i7、またはXeonを搭載するMacコンピュータ(Core SoloおよびCore Duoプロセッサはサポート対象外)
- メモリ2GB以上(仮想マシンでWindows 7以降を実行する場合やホストOSがLion以上の場合は4GB以上を推奨)
- Parallels Desktopインストール用に約700MBの空き容量
- 各仮想マシン用に15GB以上のHDD空き容量
ソフトウェア要件
- 次期OS XのMavericks(10.9 以降)
- OS X Mountain Lion(10.8.4 以降)
- OS X Lion(10.7.5 以降)
- OS X Snow Leopard(10.6.8 以降)
気になるParallels Desktop 9 for Macの主な改善点は、
- ディスクパフォーマンス40%、シャットダウンが最大25%、サスペンドが最大20%、3DグラフィックスとWebブラウジングが15%性能向上
- Windowsの仮想マシンへ、ThunderboltとFireWireのデバイスを接続可能
- iCloud、Dropbox、Google Drive、SkyDriveの共通化
- PowerNapと辞書ジェスチャーがWindowsアプリケーションでも使用可能
- Windows 8.1、OS X 10.9(Mavericks)対応
- Windows 8/8.1の仮想マシン上へWindows 7風のスタートメニューを追加可能
- Windows上で作動するPDFプリンタ搭載
- 一元的にセキュリティソフトを管理できる「セキュリティセンター」
となる。各速度の向上については、対Parallels Desktop 8 for Macなので、Parallels Desktop 7 for Macを使っていた筆者にとってどれだけ変わっているのか興味津々。
またこれまで各クラウドストレージに関しては、MacとWindowsで、それぞれ別に管理していたものを、Mac側で一本化しWindowsから参照することが可能となる。重複しないので、半分の容量で済む計算だ。
ThunderboltとFireWireのWindows仮想マシン対応もうれしいポイントだ。これまではMac側でマウントしたドライブをネットワークドライブとして扱っていたのでパフォーマンスに問題があった(とはいえ実用レベルで使えており特別遅いわけではない)。ただし、これらのデバイスをWindowsへ接続すると、Macからはアンマウントされるので要注意だ。
Parallels Desktop 9 for Macの環境設定は、「一般」は「仮想マシンのフォルダ」、「Dockアイコン」、「一般/アップデートの確認」。「ショートカット」は「Appショートカット」、「システムショートカット」、「マウスショートカット」、「キーボードメニュー」、「各仮想マシンのショートカット」。「デバイス」は新しい外部デバイスが検出された場合の処理。「Access」はParallels Access Client for iPadとParallels Access Agent for Macの設定。「詳細」はネットワークやパスワード、スピーチ、フィードバック、トラブルシューティングなどの設定を行なえる。
Parallels Access Client for iPadの詳細は後述するが、iPadを使ってアクセスできるリモートツールだ。
ストレージやネットワーク、そしてホスト側のパフォーマンスが改善
Boot Campで使っているWindows 7は、Parallels Desktopをインストールした時、自動的に仮想マシンも更新したため、新たに32bit版のWindows 8.1 Previewを使って仮想マシンを構築した。OS自体はISOファイルで用意し、Parallelsウィザードを使ってマウント、デフォルトからメモリ2GB/HDD 32GBへ変更してセットアップを開始。特にトラブルが発生することもなく、10分程度でインストールが完了した。
補足説明としては、「Macとの統合」設定の「Macライク」とは、Coherence(コヒーレンス)モードと呼ばれる、Macのデスクトップ上へWindowsアプリケーションをウィンドウ表示し、まるでMacのアプリケーションのように扱えるモードだ。「PCライク」はWindowsそのものがウィンドウ表示になり(全画面表示も可能)、その中でWindowsアプリケーションが作動する。
「Windowsエクスペリエンス」設定は、「Windows 8ライク」が従来のホーム画面を表示する普通のWindows 8の動作。「Windows 7ライク」が、Windows 8/8.1起動時にホーム画面をスキップし、デスクトップ環境を起動する。またこの時、Windows 7のスタートメニュー風のメニューも追加される。
Windows 7のスタートメニュー風のメニューは、使ってみると本物のWindows 7のスタートメニューそっくりで、ここだけ安価に販売しても良さそうな完成度だ。
フォルダーの表示を見ると、Mac側でマウントしているストレージは、ネットワークドライブとして接続されているのが分かる。またDropboxとiCloudのMac側のフォルダーを参照しているアイコンが左側に見える。
1CPU、メモリ2GBで32bit版Windows 8.1 Previewを起動し、CrystalMarkを実行したところ、ALU 16639、FPU 15444、MEM 23240、HDD 65487、GDI 9544、D2D 2526、OGL 2892だった。
メインで使っているWindows 7で、Parallels Desktop 7 for MacとParallels Desktop 9 for Macのベンチマークテストを行なったところ、以下の通りとなった。Windowsエクスペリエンスインデックスのゲーム用グラフィックスは1.1上がったものの、ほかは全く同じ。CrystalMarkもほとんど差が出ていない。
ただ、体感的には、Windowsの起動が速くなり、ストレージやネットワークの速度も上がり、コピーやアプリケーションの起動は目に見えて速く、また、OS X側の負荷が減ったのか、Mac上のアプリケーションもキビキビ動く。全体的に1ランクマシンを上げた雰囲気となる。
各仮想マシンの構成で設定可能な項目は、一般は「CPUの数」、「メモリ」、「仮想HDD容量」。オプションは「起動と終了」、「最適化」、「共有」、「アプリケーション」、「Coherence」、「フルスクリーン」、「Modality」、「詳細」。
オプションの「最適化/ネストされた仮想化を有効」にチェックすると、仮想マシンで作動しているWindows上で、さらに仮想マシンを構築することができる。現在、日本ではあまり関係ないが、Windows PhoneのSDKに含まれるWindows Phone Emulatorは、Hyper-V上で作動するため、このオプションをオンにしないと使うことができない。
同じく「PMU仮想化を有効にする」にチェックすると、仮想マシン内で、Intel VTune AmplifierやOProfileなどのパフォーマンスモニタリングツールを起動できる。ただし、どちらも仮想マシンのパフォーマンスが低下するので、不要の場合はオフにした方が無難だ。
ハードウェアは、「ブート順序」、「ビデオ」、「マウスとキーボード」、「プリンタ」、「フロッピーディスク」、「CD/DVD1」、「ハードディスク1」、「ネットワーク1」、「サウンド」、「USBとBluetooth」、そして「セキュリティ」となる。
CPUの数やメモリ容量は、物理的に搭載している最大値まで設定可能であるが、ホストOSの動きが鈍くなるので、そこそこの数値にした方が無難。グラフィックスに関しては、ビデオメモリ最大1GB、3Dアクセラレーションはなし/DirectX 9/DirectX 10の設定ができる。USB 3.0にも対応している。
そのほか、Parallels Desktop 8 for Macからの機能を含めると、LaunchpadがWindowsアプリケーションに対応、Mission Controlのサポート、RetinaディスプレイでWindowsをサポート、Windowsの通知(Windowsストアアプリのメールなど)を通知センターへ統合、BluetoothデバイスをMacとWindowsでシームレスに共有、ごみ箱の共有……など、いろいろ便利な機能が備わっている。
現在使用中のMac miniは、冒頭で書いたようにSandy Bridge。もう2世代前のアーキテクチャになってしまうが、それでもAdobe PhotoshopやIllustrator、短い動画をエンコードするような処理も特に不満なく、まるでリアルなPCを使っているような感覚で作業できる。
WindowsとOS Xの長所を活かしながら、可能な限りリソースを共有し、行ったり来たりできるので、一度これに慣れてしまうと、バラバラの環境には戻れないほど便利だ。
Parallels Accessでリモートアクセス
「Parallels Access」は、8月末に発表された、「Parallels Access for iPad」と併用する、リモートアクセスツールだ。エージェントはMac版とWindows版(β)があり、クライアントのParallels Access for iPadからアクセスする。
リモートアクセスツールと言えば、「VNC」など有名なものが多くあるが、これの面白いところは、ユーザーインターフェイスをiOSに合わせているところだ(OS XのLaunchpadにも似ている)。
見た目だけでなく、アプリの起動/終了、文字のコピー、スクロール、ピンチイン/アウトで拡大縮小など、限りなくiOSの操作と同じになっているため、エージェント側のOSをあまり意識せず、iPadを使っているつもりで扱うことができる。
もちろんParallels Desktop 9 for Macの仮想マシン上で動くWindowsも1つのアプリケーションなので操作可能だ。
対応している環境は、Parallels Access for iPadは、iPad 2以降とiPad mini。Parallels Access Agent は、OS X 10.7以降(10.9のMavericksも含む)およびWindows 7以降となる。14日間は試用期間で、以降はアクセスするコンピュータ1台につき1年間79.99ドル必要だ。
以上のようにParallels Desktop 9 for Macは、次期OS XのMavericksやWindows 8.1にもフォーカスした仮想化ソフトウェアだ。旧バージョンと比較して、パフォーマンスの向上はもちろん、ThunderboltとFireWireのデバイスを接続可能になり、iCloud、Dropbox、Google Drive、SkyDriveも一本化できる。Windows 7風のスタートメニューも便利だ。
既に多くのバージョンアップを重ねていることもあり安定度も抜群。OS X用仮想化ソフトウェアとしてお勧めの逸品だ。