後藤弘茂のWeekly海外ニュース
Appleの動向次第で大きく変わるファウンダリのキャパシティ
(2014/5/23 06:00)
SamsungとGLOBALFOUNDRIESでFinFETプロセスを共通化
FinFETでは3Dトランジスタ化によってリーク電流を抑え、より低い駆動電圧での動作を可能とし、スイッチングスピードも向上させる。パフォーマンス/電力が大幅に向上するため、電力の制約が厳しいモバイルデバイスや、消費電力を廃熱の制約の枠内に抑える必要がある高性能デバイスでは非常に重要となる。現在、ファウンダリ各社は、Intelとの差を縮めるため、3DトランジスタのFinFETの開発に躍起になっている。
ファウンダリ大手のGLOBALFOUNDRIESは、同じく大手のSamsung Electronicsと提携、Samsungの14nm FinFETプロセス「14LPE/14LPP」を導入することを決定した。SamsungのFinFETプロセスの方が早期に立ち上がると見て、自社の14nm FinFETプロセス「14XM」からSamsungとの共通プロセスへと切り替えた。
GLOBALFOUNDRIESは20nmプレーナ(2D)トランジスタのプロセスに対して、14nm FinFETではパフォーマンスが20%向上し、電力を35%抑えられると説明する。似たような説明はIntelもTSMCも行なっており、従来型のプレーナトランジスタに対する3Dトランジスタの優位は明確だ。しかし、製造には課題も多く、そのため、これまではIntelだけがFinFETで独走していた。しかし、SamsungやTSMCは、いよいよFinFETテクノロジの早期生産(リスクプロダクション)フェイズに入り、FinFET時代が見えてきた。
Samsung系の14nm FinFETは2系統
Samsung & GLOBALFOUNDRIESの14nm FinFETプロセスのうち、最初に立ち上げるのは14LPEで、より高パフォーマンス&低電力の14LPPが続く。Samsungの場合は、通常は1プロセスノードで、低電力と高パフォーマンスの2系統のプロセスの提供だ。28nmではモバイルとコンシューマ機器向けの「28LPP」とネットワークとコンピューティング向けの「28LPH」の2プロセスだった。14nmでも2系統のパターンを踏襲しているように見えるが、ファウンダリは後から改良プロセスを追加する場合が多いため、まだ分からない。
また、少なくとも現状では14LPPと14LPEでは、28nm世代のような用途分けの位置付けは行なっていない。早期生産に入ることができるバージョンが14LPEで、性能と低電力の拡張版が14LPPとなっている。このあたりは、TSMCの16FFと16FF+との関係と似ている。
もっとも、14nmでは、Samsungはトランジスタのしきい電圧(Vth)オプションを増やして、同じプロセスでも電力&性能のダイナミックレンジを広げている。従来は3段階だったVthを4段階に増やした。具体的には、14nm FinFETでは、通常のRVT(Regular Threshold Voltage)、高速なLVT(Low Threshold Voltage)、より高速なsLVT(super Low Threshold Voltage)のほかに、リーク電流(Leakage)を抑えたHVT(High Threshold Voltage)を加えている。リーク電流を抑えるFinFET化によって駆動電圧自体を下げているので、それに合わせてしきい電圧の幅を広げたと見られる。
Samsungの28nm世代では、同じ28LPPでHVTとLVTではリーク電流が100倍異なった。4段階目のしきい電圧トランジスタの導入によって、同じプロセスでも電力&性能のレンジが広くなったことで、28LPHのように高性能&高リーク電流に振ったプロセスの必要性が低くなったのかも知れない。
Samsung/GLOBALFOUNDRIESは4つのFabでFinFETを生産
14LPEと14LPPとも、すでに「PDK(Process Design Kit)」を提供しており、チップ開発に入ることができる。そして、SamsungとGLOBALFOUNDRIESでPDKは共通化されている。つまり、チップの設計のプロセスへの最適化でも両社のプロセスは共通性があり、同じファウンダリで製造するように容易にFab間で設計を移行できる。Samsungの発表では、ARMの物理IPの「Artisan」やCadence、Synopsys、Mentorの3大EDAベンダーのサポートの準備も整っているという。
Samsungは今年(2014年)2月までに14nmの14LPE生産の準備を整えており、リスクプロダクションに入っている。Samsung側のFabでは今年中に量産を開始する予定だ。搭載製品が登場するのは2015年頃になるだろう。
GLOBALFOUNDRIESはSamsungから遅れるものの、今年第4四半期には14nm FinFETのリスクプロダクションを開始する予定だ。来年(2015年)には量産に入る。Samsungとのプロセスの共通化のためには、ツールの共通化も図らなければならないはずで、ツール導入のリードタイムを考えると、ある程度前から実際の作業を進めていたはずだ。
Samsung側の量産Fabは「S1(韓国・華城)」、「S2(米国オースティン)」が生産段階に入っており、新しく立ち上げた「S3(韓国・器興)」も加わる。GLOBALFOUNDRIES側は「Fab8(米国ニューヨーク)」で生産する。合計で4カ所のFabで生産することになり、Samsung/GLOBALFOUNDRIESの連合はFinFETでは大きなキャパシティを用意できることを意味する。先端プロセスのキャパシティは最大手のTSMCでも限られる。
Appleの動向によって変わるファウンダリの状況
SamsungとGLOBALFOUNDRIESの共通14nmプロセスは、特にAppleの動向が、半導体業界にとって大きな意味を持つ。AppleはiPhone/iPadのAシリーズSoC(System on a Chip)の製造を、これまでSamsungに委託してきた。もし、Appleが継続してSamsungで製造し続けるのなら、AシリーズがSamsungの14nm FinFETに移行するというだけの話となる。
しかし、AppleはSamsungへの一極集中を嫌っており、また、スマートデバイス市場で激しい戦いをしているSamsungにチップを依存することを危ぶんでいると言われて来た。そのため、数年前からAppleがSamsung以外のファウンダリを探しているという噂が業界に流れていた。Appleが検討するファウンダリとしてIntelの名前も挙がっていたが、最有力候補とされていたのは、ファウンダリ最大手のTSMCだった。Appleが20nmプロセスや次のFinFETプロセスからTSMCに移行するという噂は業界に根強い。
もし、AppleがSamsungからTSMCに移った場合、先端プロセスのキャパシティ分配に大きな変化が生じる。これまで、AppleがSamsungのロジックFabのキャパシティの大半を占めており、Appleの売り上げがファウンダリビジネスを回す大きな柱となって来た。しかし、AppleがSamsungから他のファウンダリへと動くと、SamsungのFabキャパシティには大きな余裕ができてしまう。Samsungはこれを埋めるために、今までより積極的に先端プロセスの顧客の開拓を進めなければならなくなる。
その一方で、TSMCは先端プロセスのキャパシティにAppleという大型顧客が割り込むことで、顧客間のキャパシティの奪い合いが激しくなる。ファウンダリトップのTSMCと言えども限りがあるため、弾かれる顧客や製品が出てくる。そうしたケースでは、TSMC以外のファウンダリへと流出する可能性があり、Samsungはその受け皿になりうる。つまり顧客の入れ替えが発生する可能性がある。
一例を挙げると、TSMCで現在製造しているPlayStation 4(PS4)のAPU(Accelerated Processing Unit)は、設計を拡張した第2世代版APUや第3世代版APUを製造しようとしても、TSMCにAppleが来ると20nm以降のプロセスでキャパシティを確保できない可能性がある。その場合、GLOBALFOUNDRIESの20nmでの製造を再検討するか、TSMCで28nmのまま製造する(例えば、より高性能な28HPPなど)という選択肢のほかに、Samsung/GLOBALFOUNDRIESの14nmへと移行するという選択肢(UMCという選択肢を外すなら)が浮上する。
もし、こうしたファウンダリのキャパシティマップの変動が起きるとすると、SamsungとGLOBALFOUNDRIESという2大ファウンダリが14nm FinFETを共通化したことは大きな意味を持つことになる。顧客は、共通したPDKで設計したチップを、SamsungとGLOBALFOUNDRIESのどちらのFabでも製造できる。FinFETへのジャンプというリスキーな節目において、顧客は同じプロセスで2ソースという安心材料を得る。先端プロセスの立ち上げでもたつくケースが頻発している現在、これは強味となる。ロジックファウンダリとしての実績が薄いSamsungと、このところ先端プロセスでミソがついていたGLOBALFOUNDRIESどちらにとっても利がある。