■本城網彦のネットブック生活研究所■
工人舎「PA」 |
この1週間は、発売開始となったWindows 7の話題一色であるが、その中、重量たった400gの超小型UMPCが発表された。CPUにAtom Z520、OSにWindows XP Home Editionを搭載したネットブックであるこのマシン。一体どうなっているのか、さっそくレポートをお届けする。
●PAの仕様
これまで多くのネットブックを触ってきた筆者であるが、この「工人舎 PA」を箱から取り出した時の衝撃は強烈なものだった。とにかく小さく軽く、そしてWindows XPが動作するのだ。
ボディを眺めていると、無線LAN、Bluetooth、アナログRGB出力(変換ケーブルでミニD-Sub15ピン)、USB 2.0×1、Webカメラ、microSDカードスロット、ワンセグのアンテナなどなど、有線LANこそ無いものの、ほぼ必要なインターフェイスが全部入っている。サイズと重量を隠してスペックだけ見ると、どこにでもある普通のネットブックの仕様だ。
またサイズがサイズなのでHDDではなく32GBのSSDを搭載しているが、これもEee PC 901-Xなど初期のネットブックはSSDを採用していたので特に珍しい話ではない。さらに液晶パネルはコンバーチブルでタッチパネル、そしてワンセグTVチューナー内蔵。とにかく「入るものは全部入れた」と言う独特な雰囲気を持っている。
詳細なスペックなどは同社の製品情報をご覧頂きたいが、まとめると以下のようになる。
・ CPU: Intel Atom Z520(1.33GHz)
・チップセット: Intel US15W
・グラフィックス: GMA500(チップセット内蔵)
・メモリ: 512MB(最大)
・HDD: 32GB SSD
・液晶パネル: 4.8型/1,024×600ドット(タッチパネル&コンバーチブル)
・インターフェース: IEEE 802.11b/g無線LAN、Bluetooth Ver.2.0+EDR、
micro SDカードスロット、USB 2.0×1、130万画素Webカメラ、内蔵マイク、
ヘッドホン出力、モノラルスピーカー、アナログVGA
(専用ケーブルでコネクタ変換が必要)、ワンセグTVチューナー
・バッテリ駆動時間: 約7.5時間
・サイズ: 約161×111×10~26mm(幅×奥行き×高さ)
・重量: 約400g
まず驚くのはこのサイズ。奥行き111mmはiPhoneの長辺とほぼ同じだ。幅はA5の短辺より1cm程度大きいだけ。もともとAtom Zシリーズは、この手のUMPCがメインターゲットで作られているだけに、あまり驚くことでは無いのかも知れないが、Webで情報を見るのと目の前で物を見るのとではそのインパクトには雲泥の差がある。Windowsが動くマシンとしてはとにかく小さい。そして重量400gでバッテリ駆動時間は約7.5時間。このサイズ、重量、バッテリ駆動時間なら、毎日持ち歩くのも全く苦にならない。
次に驚くのは液晶パネルのサイズが4.8型にも関わらず、解像度はネットブックと同じ1,024×600ドットあることだ。10.1型の半分以下のサイズで、同じ解像度と想像して頂ければ、文字の小ささはが想像してもらえるのではないだろうか。液晶パネルの左側下にある[解像度切替ボタン]で640×480ドットの拡大表示もきるので、見づらい時には、このボタンを押せばOKだ。
重さ。実測で413g。多くのネットブックが1.5kg±0.3kgなので、その差は圧倒的だ | 付属品など。ケース、ストラップ、そしてアナログRGBコネクタ変換ケーブル |
液晶パネルは小さいとは言え、LEDバックライト式で非常に明るく発色も良い。スタイラスペンで操作するタッチパネルも感度が高くスムーズ。ノイズに関してはSSD搭載のゼロスピンドル、そしてAtomプロセッサZ520なので、まったくファンなどの音がしない静音マシンだ。熱に関してはほんのり暖かくなる程度。CPUにZ520を使っている効果だろう。
キーボードは56キー日本語キーボードであるものの、事実上このサイズでは、ボディ両脇を手で持ち親指で入力するスタイルとなる。少したわむのが気になるが、パンタグラフ式の本格的なものだ。ただ、「:」や「/」など、比較的良く使う記号も[Fn]キーとのコンビネーションになるのがややつらい。
ポインティングデバイスは、スタイラスペン+タッチパネルに加え、光学式のものがキーボード手前と、液晶パネルの左上に付いている。センサーの上で指を滑らせばマウスカーソルが動くタイプで、これもなかなか使いやすい。
更に、液晶パネルの両サイドに方向ボタン/Enter、Ctrl/Shiftボタン、マウス/スクロールボタンが並び、ユーザーはその時その時に応じて一番使い易い方法を選べる。筆者の場合は、ここまで小さいマシンには慣れていない事もあり、普通にキーボード下にある光学式ポインティングデバイス+左右のボタンを使うのが一番無難だった。
いずれにしても、この手のマシンは、入力系のデバイスがどうしても半端になりがちなのだが、このPAはなかなかツボを押さえた設計となっており、メーカーそしてエンジニアの拘りを強く感じられる。
音楽を再生したところ、液晶パネル右下にあるモノラルスピーカーでは、音量・音質共、残念ながらとりあえず付いているレベルのものだ。さすがにこのマシンにそれなりの品質のものを入れるのは難しかったと思われる。本格的に聞くにはヘッドホンなどを使いたいところだ。
そしてワンセグTVチューナを内蔵しているのもなかなか珍しい。液晶パネルをくるっと回しタブレットスタイルにすれば、結構気軽に観ることができる。ただし先に書いたように、スピーカーでは音量が小さいので、ヘッドホンを併用したい。
●小さ過ぎて悪戦苦闘プリインストールされているアプリケーションは、MS Office互換の「EIOffice2009」、ワンセグ視聴・録画「StationMobile 5」、「マカフィーPCセキュリティセンター 90日期間限定版」、「i-フィルター 5.0 30日間お試し版」、「IVT BlueSoleil for KOHJINSHA」、「ebi.BookReader Version 3J」などだ。ただし、マカフィーPCセキュリティセンターは未インストール状態で、ユーザーが必要に応じて設定する。
と、ここまではネットブック+ワンセグTVとして普通なのだが、4.8型の液晶パネルは、調度iPhoneがスッポリ隠れる(液晶のサイズではなく本体)サイズ。片や480×320ドットに対して、1,024×600ドット。筆者の歳の関係かも知れないが、かなり画面に目を近づけないと文字が読めなかった。また読めたとしても分単位ならともかく、時間単位で見続けることは眼が疲れてしまい非常に厳しい状態となる。
このような時、パネル左下にある[解像度切替ボタン]を押すと、640×480ドット→1,024×600ドット→1,024×768ドットと切り替わる。最後の縦768ドットの解像度は、パネル自体が縦600ドットなので、アスペクト比が狂う(縦が若干潰れて見える)ものの、より情報量を増やしたい時に使うモードだ。
デスクワークの際は、USBポートへUSB Hub、その先へキーボードとマウスを、アナログRGBポート経由で液晶ディスプレイを接続し、作業した方が良い。その方が充分に使える。
EIOffice2009は、MS Office互換のアプリケーションだ。筆者は初めて使ったのだが、このクラスのマシンでも割とサクサク動き、データの互換性も高い。OpenOfficeより軽い感じだ。このマシンの用途を考えた場合、十分役に立つ。
StationMobile 5は、内蔵のワンセグTVチューナで、ワンセグを観たり、録画出来るアプリケーションだ。ユーザーインターフェイスも良く出来ており、非常に操作しやすく、チャンネルの切替もスムーズ。いろいろな意味でキラーアプリケーションと言えるだろう。
HDBench。他の部分と比較してランダムライトは速いものの、全体的にはあまりSSDとしての威力は出ていない。どちらかと言えば、サイズとゼロスピンドル化による静音性重視といったところだ | CrystalMark。他のネットブックと比較して、CPUクロックは比率分ダウンしている。グラフィックスもGMA500なので、GMA 950と比べるとパフォーマンスは落ちる |
ベンチマークテストは、CPUがAtomプロセッサZ520(1.33GHz)、そしてIntel US15W+GMA500ということもあり、CPUはクロック比分ダウン、グラフィックスは全般的に30~50%程度落ちる。従ってネットブックとしてみた場合、トータル的にはあまり速いとは言えない。
SSDの速度は、Inspiron mini 9のもの比較して、ランダムラムライトは桁違いに速いが、他の部分では大差なく、最近の単品売りのSSDとは比較にならない。もともとチップセットのIntel US15WはSATAに対応せず、PATAなので、仕方ない部分とも言える。しかしランダムライトがそれなりに速い分、Windowsの動き自体は然程重くなっていない。加えてアニメーション系のエフェクトをOFFにしたり、できるだけ軽い状態にすればウィンドウの切れも良くなる。
全体的には、このマシンとのバランスを考えるとまずまずの動きだ。ワンセグを観て、メールに添付されたオフィス系のデータを表示/軽く修正、Webの表示などであれば実用上問題ないだろう。
価格は69,800円と、ネットブックそしてCULVノートと比較して若干高い感じもするが、その分、このサイズと重量、ほぼ全部入りのインターフェイス周りは驚異的だ。いつでもどこでもフルスペックのWindows XPを使うことができ、魅力を感じる人も多いだろう。ぜひショップなどで、このいろいろな意味での凄さをご覧頂きたい。