大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

使用済みインクカートリッジの累計回収数が500万個に
~プリンタメーカー6社の里帰りプロジェクトを追う



 プリンタメーカー6社が共同で取り組んでいる「インクカートリッジ里帰りプロジェクト」における、使用済みインクカートリッジの累計回収数が、2011年12月で500万個に達した模様だ。

 里帰りプロジェクトは、セイコーエプソン、キヤノン、ブラザー、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)、レックスマークインターナショナル、デルのプリンタメーカー6社が展開している家庭用インクジェットプリンタの使用済みインクカートリッジを回収する共同プロジェクトで、日本郵政グループと連携し、郵便インフラを活用して回収を進めているものだ。

 昨年(2010年)からは自治体との連携を強化。全国125自治体、1,719カ所での回収が行なわれており、郵便局の全国3,639拠点とあわせて、5,358カ所に専用回収箱が設置され、そこからメーカー各社によるリサイクルが行なわれている。

 これまでのインクカートリッジ里帰りプロジェクトの取り組みを追った。

●呉越同舟で使用済みインクカートリッジを回収

 プリンタメーカー各社にとって、使用済みインクカートリッジの回収は、環境対応の観点からも共通の課題となっている。この課題解決を目的に、2008年4月8日にスタートしたのがインクカートリッジ里帰りプロジェクトだ。

セイコーエプソン機器要素開発・技術統括部IJ要素開発部消耗品環境推進責任者 小池尚志氏

 「年間2億個のインクカートリッジが使用されているが、量販店での回収、ベルマーク活動の利用など、さまざまな回収方法を通じても、回収量は全体の1割程度。使用済みインクカートリッジは、捨てればゴミ、回収すれば資源になる。そこで、普段は競合関係にあるプリンタメーカーが協力して回収活動に取り組んだのが、インクカートリッジ里帰りプロジェクト。製造・販売元としての環境への取り組み、業界が一丸となった回収・リサイクルの促進、廃棄物減量や資源循環型社会形成への貢献といった観点から、使用済みインクカートリッジを回収・再資源化することで、地域社会と地球環境に貢献することを活動目的としている」と、インクカートリッジ里帰りプロジェクト推進本部のサブチーフを務める、セイコーエプソン機器要素開発・技術統括部IJ要素開発部消耗品環境推進責任者の小池尚志氏は語る。

 郵便局、自治体といった公共性の高い場所に回収拠点を置き、一般廃棄物広域認定制度を取得した活動としているのも特徴だ。

 使用済みインクカートリッジは、郵便局や自治体関連施設に設置された回収箱で回収。箱が一杯になると「ゆうパック」を利用して、仕分け拠点である、長野県諏訪市のエプソンミズベに配送。そこで、メーカーごとにカートリッジが仕分けされ、それぞれのメーカーに再配送。各社ごとにリサイクルされることになる。

インクカートリッジ里帰りプロジェクトの概要インクカートリッジ里帰りプロジェクトの組織体制インクカートリッジ里帰りプロジェクトで使用している回収箱
これまでの年度別回収実績参画している全国の自治体インクカートリッジからリサイクルされたクリアファイルやペン

 各社では、再生インクカートリッジやパレット、コンテナなどに再生するほか、建築資材や販促用のペンやクリアファイルなどにも再生している。

 各社ごとにリサイクル方針は異なるが、キヤノンのカートリッジは透明な部分が多く、クリアファイルにしやすいなど、それぞれの特性を生かしたリサイクルが行なわれている。

 また、公平な負担費用ルールの構築と、情報公開を徹底しているのが基本であり、例えば、エプソンミズベは、セイコーエプソンの100%子会社であるが、作業の様子などは参加各社にすべてを公開。どれぐらいの数のカートリッジが回収されたのかといった情報も、すべての参加会社に公開している。

 こうした回収活動が4年目に入り、いよいよ累計500万個の回収規模にまで到達したという。

 同プロジェクトによると、2008年4月~2009年3月の初年度には70万個の使用済みインクカートリッジを回収。2009年4月~2010年3月までの2年度目には130万個を回収。そして、2010年4月~2011年3月までの3年度目には161万個を回収していた。

 「今年度は、東日本大震災の影響で、4月には回収数が減少したが、それ以降、回収量は予定通りに増加しており、年間185~190万個の回収ペースとなっている。この12月で累計500万個の回収に到達したのは間違いない」とする。

 500万個の回収量は、約202トンのCO2排出量削減に貢献。これは杉の木に換算して約14,000本分のCO2吸収量に相当するという。

●この1年で自治体の参画が増える

 この約1年の取り組みの中で特筆できるのが、自治体との関係強化だといえよう。

 2009年7月から北九州市が、本庁や区役所などに回収箱を設置したのを皮切りに、2010年初めには福島県が参画。続いて、東京都、青森県、長野県などが参画し、現在では全国125自治体、1,719カ所に回収箱を設置している。

 東京都では17区が参画しており、首都圏における回収箱が増加。今後、全国24自治体が新たに参画する姿勢を示しており、2012年初頭には、149自治体、1,927カ所で回収箱が設置されることになる。

 「里帰りプロジェクトに参加しているプリンタメーカー6社で国内のプリンタシェアの99.9%を占める。1社の取り組みではなく、業界全体をあげた取り組みであるという点が自治体から評価されている。1つの自治体が参画すると、隣の自治体でも検討が開始されるなど、プロジェクトに参画する自治体が連鎖的に広がっている」(小池氏)という。

 基本的には本庁舎や市役所、区役所などに設置する例が多いが、いくつかの自治体ではユニークな設置例も出ている。

 大阪市では、2010年11月からプロジェクトに参画したが、市役所本庁舎や区役所、図書館などの公共施設81カ所に加えて、95カ所のスーパーマーケット店頭にも回収箱を設置。買い物のついでに使用済みインクカートリッジの回収に参加できるようにしている。

キヤノン インクジェット事業本部インクジェット化成品事業企画センターインクジェット化成品事業企画部 高橋裕之担当課長

 「大阪市では、従来から、使用済み乾電池や蛍光灯などの回収拠点として、スーパーマーケットと連携しており、里帰りプロジェクトも同様の取り組みとして回収箱をスーパーマーケットに設置することになった」と、インクカートリッジ里帰りプロジェクト事務局の副事務局長を務める、キヤノン インクジェット事業本部インクジェット化成品事業企画センターインクジェット化成品事業企画部・高橋裕之担当課長は語る。

 大阪市では、公共施設とスーパーマーケットとの合計で176カ所に回収箱が設置されており、市民が手軽に回収に参加できる環境が作られつつあるといえよう。

 さいたま市では、162カ所の公共施設に加えて、117の市内の小学校、中学校、高校にも回収箱を設置。市内279カ所での回収が可能になっている。学校への回収箱設置は、市長の強い意向によって行なわれたという経緯がある。

2011年9月に横浜市が里帰りプロジェクトへの参画を発表。会見での横浜市・林文子市長と、キヤノンマーケティングジャパンの村瀬治男会長

 また、横浜市では、同市が取り組むごみ減量活動「ヨコハマ3R夢(ヨコハマスリム)」の1つとして、里帰りプロジェクトを活用。市役所本庁舎や区役所のほか、地区センター、コミュニティハウス、開港記念会館、福祉センター、スポーツセンター、公会堂、図書館、社会福祉協議会、ケアプラザなど274カ所に設置している。

 プロジェクト参画に当たっては、横浜市の全18区の担当者が、プリンタメーカーのリサイクル拠点を直接訪問し、里帰りプロジェクトへの理解を深めたほか、林文子市長が定例会見の中で、里帰りプロジェクトへの参画を発表するなど、市長自ら、市民に対して活動を告知するといった取り組みを行なっている。

 このように、里帰りプロジェクトに対する自治体の積極的な参画が増えているのが、この1年の動きだ。

 「今後は、四国や九州、東北、北海道での自治体参加を呼びかけていきたい」(高橋氏)と、自治体に対する働きかけを継続的に強化していく考えだ。

●Twitterを通じた情報発信も開始

 現在、里帰りプロジェクトでは、回収部会、営業部会、広域部会、処理部会、広報部会、商標部会、COP10部会を設置。さらに、今年度から新たにIT部会を設置した。

Twitterでの情報発信例

 IT部会では、新たな情報発信手段として、Twitter(アカウント名@inksatogaeri)による情報発信を2011年11月から開始した。

 現時点では、「使用済みインクカートリッジ回収実績の見せる化」を目的に、前日の回収実績を配信したり、回収元の自治体や郵便局を、地図を交えて紹介するといったことを行なっている。ツイートのURLをクリックすると、里帰りプロジェクトのキャラクターである「里帰り君」が喜んでジャンプするという仕掛けも用意している。

 6社が共同で運営していることから、ツイート内容に独自性を持たせることが難しく、自治体などが運営しているキャラクターのようなユニークな展開ができにくいという課題はあるようだが、IT部会では、里帰りプロジェクトの認知度向上に向けた今後の重要な施策に位置づけている。

●各種の支援活動にも参加する里帰りプロジェクト

 そのほかにも、里帰りプロジェクトでは、いくつもの活動を行なっている。

 2010年4月から、国連環境計画(UNEP)が実施する環境保護活動に参加。回収したカートリッジ1個あたりで3円換算で寄付を行ない、2010年度は480万円を寄付。2011年度は600万円以上を寄付することになるという。

 特に、2010年度までUNEP親善大使を務めていた歌手の加藤登紀子さんは、これらの活動を通じて里帰りプロジェクトに高い関心を寄せており、2011年9月に行なわれた加藤さんのコンサートのチラシには、表面下部と、裏面全面に、里帰りプロジェクトの紹介を入れるといった独自支援も行なっている。加藤さん自身も、エプソンミズベを訪問し、作業の様子を見学したという。

 また、環境省や国連大学が運営元となって、各国政府や自治体、学術機関などが参加し、自然との共生を目指す「SATOYAMAイニシアティブ」に対しても、里帰りプロジェクトは支援活動を行ない、カートリッジ1個あたり1円を寄付している。

 エコプロダクツ展への出展や、地域で開催される環境関連イベントにも出展し、認知度向上を図るといった活動も行なっており、2011年11月には、第13回グリーン購入大賞優秀賞を受賞した。

 さらに、日本での成果をもとに、海外でも里帰りプロジェクトを開始した。2011年12月から、シンガポールにおいて、ブラザー、キヤノン、デル、レックスマークインターナショナル、セイコーエプソンの5社が共同で「Project Homecoming」と呼ぶ使用済みインクカートリッジおよび使用済みトナーカートリッジの回収プロジェクトを開始した。

 シンガポール国立環境局、国立図書館委員会の協力により、国立図書館の支館13カ所に回収箱を設置。回収後、指定のリサイクル事業者が、プラスチックや金属などの材質ごと分別し、再利用するという。

 「今後はシンガポール以外のアジア地域においても、里帰りプロジェクトを展開できるように検討していきたい。国や地域ごとにメーカーシェアが異なっており、それぞれの国に展開する上では、高いシェアを占めるメーカー同士が連携していくことも必要になる」(小池氏)としている。

シンガポールでも里帰りプロジェクトが展開されるシンガポールの「Project Homecoming」で提携したプリンターメーカー5社の関係者シンガポールの「Project Homecoming」で国立図書館の支館13カ所に設置される回収箱

 まだ具体的な地域については決定していないが、マレーシア、タイ、台湾などでの展開を検討していくことになりそうだ。

●2012年度は全出荷量の1%の回収を目指す

 インクカートリッジ里帰りプロジェクトでは、2012年以降も積極的な活動を進める姿勢をみせる。

 「郵便局や自治体との連携をさらに強化し、回収箱を設置できる場所を増やしていきたい。特に首都圏での回収箱の設置を増やすほか、人口20万人以上の都市への設置を広げていきたい」(高橋氏)とする。

 2012年には、全国6,000カ所以上の回収箱設置を計画。「被災地の郵便局からも回収箱をもう一度送ってほしいという声も届いている」(小池氏)という。

 さらに、これまでは多くの人が集まる公共施設への回収箱設置に取り組んできたが、来年度以降は、環境への取り組みに積極的な大手企業に対しても、回収箱を設置するといった動きにも取り組む姿勢をみせる。

 「これまでは、企業からの申し入れは断ってきたが、今後、どんな形で取り組むと効果的であるかといったことを検討しながら展開していきたい。まずは、一部の企業と連携し、モデルケースとして取り組んでいくことになる」(高橋氏)という。

 里帰りプロジェクトでは、2012年度の年間の回収量を220万個と見込んでいる。年間2億個のインクカートリッジが出荷されていることに比較すると、いよいよ全出荷量の1%を突破することになる。

 「回収量を急速に増やしていくことを目標にするのではなく、一歩ずつ回収量を増やしていく考え。それが長年にわたり、制度が定着することにつながる。認知度向上に向けた活動や、回収箱設置数の増加については、地道に、継続的に続けていくことが必要だと考えている」(小池氏)という。

 これまでの活動も地道に一歩一歩進めてきた。その姿勢はこれからも変わらないといえそうだ。