大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
なぜ、デルの顧客満足度が上昇してきたのか?
~宮崎カスタマーセンターでその秘密を探る
(2013/9/20 06:00)
デルの国内PCビジネスにいくつかの変化が見られている。
1つは、国内PC販売台数が増加傾向にあることだ。IDC Japanが発表した2013年4~6月の国内クライアントPC市場動向によると、国内市場全体の出荷台数は前年同期比12.5%減の337万台となった。これに対して、デルの出荷台数は20.4%増と大幅な成長を達成。とくにビジネス向けPCでは、25.2%増と大幅な成長となっている。また、家庭向けPCでは、市場全体が前年同期比29.4%減と大幅なマイナス成長となったのに対して、デルは2.7%増とプラス成長となった。
円安に振れたあとに各社のPC価格が上昇したのに対して、デルの割安感が維持されたことが追い風になったと言えるが、「一人勝ち」とも言える状況の中で、同社のシェアは国内5位から4位へと上昇。存在感を高めている。
もう1つが、顧客満足度の評価が第三者機関の調査で向上していることが、徐々に明らかになってきた点である。日経コンピュータが毎年調査している顧客満足度調査で、今年(2013年)8月発表のデスクトップPC部門においてデルが初めて首位を獲得したことがその一例だ。同調査では、前年の4位から一気にトップを奪取した。またノートPCでも6位から5位に順位を上げている。
首位となったデスクトップPCの調査においては、「問い合わせへの対応」に対する評価は平均点を下回っているものの、外資系PCメーカーの中では、日本ヒューレット・パッカードや、NECパーソナルコンピュータのサポートインフラを活用しているレノボ・ジャパンを抑えてトップとなる。
社内評価では日本でのサポートが世界トップ水準の評価を得ていながらも、外部調査では、長年に渡って、顧客満足度が向上しなかったデルにとって、少しずつ評価が回復していることを浮き彫りにしたと言えよう。
電話サポートが終了したあとに、改めて電話で連絡。そこでサポート品質などについてのアンケート調査を行なうことで、サポート品質に改善を加えるという地道な努力もデルの特徴だ。通常のサポートに対する評価に比べて、上位サポートメニューに対する評価が高いのも特徴で、それが同調査において、「保守サービスの料金」では最も高い評価を得る結果になっていると言えそうだ。
上位サポートの浸透が満足度を高める
こうしたデルの躍進を裏で支えているのが、デルが宮崎県宮崎市に開設している宮崎カスタマーセンターの存在だ。
宮崎カスタマーセンターは、企業向けPCおよびサーバー製品のほか、個人向けPCの一部製品に関する電話によるサポートを担当。さらに、電話およびインターネットによる営業活動なども行なっている。
これらの業務に従事する約530人は、全てデルの正社員。業務委託でのサポート体制ではなく、デルの社員自らが責任を持って対応する体制を整えているのが特徴だ。
デル 宮崎カスタマーセンターの金子知生センター長は、「日本では、企業向けPCでプロサポートを標準で提供するなど、品質の高いサポート体制を実現している。また、個人向けPCにおいても、プレミアム電話サポートを強化。24時間365日のサポート体制を敷いている。こうした実績も、顧客満足度の評価向上およびPCの販売拡大に貢献しているのではないか」とする。
デルでは、2011年度から、企業向けPCのOptiPlexシリーズおよびLatitudeシリーズにおいて、「プロサポート」の標準搭載を開始している。これは、企業向けPCサポート体制として上位に当たり、欧米などではオプションで提供しているものだ。しかし、サポート品質に厳しい日本市場だけは標準搭載することを決定し、その水準でのサポートを実現しているのである。つまり、OptiPlexシリーズおよびLatitudeシリーズの販売が増加するに従い、国内におけるプロサポートの利用者が増加している構図だ。このサポートの全てを宮崎カスタマーセンターで行なっており、それに合わせて顧客満足度が上昇してきたという点は見逃せない。
また、個人向けPCのサポートについては、スタンタードモデルは依然として中国・大連からのサポート体制となっているが、XPSシリーズおよびALIENWAREシリーズ、Inspironシリーズを対象に、「プレミアム電話サポート」を提供。これに関しては、宮崎カスタマーセンターの約80人体制で24時間365日対応している。個人向けPCのサポート品質の改善は長年の課題となっていたが、上位サポートであるプレミアム電話サポートに関しては、評価が着実に高まってきているようだ。
さらなる体制強化に取り組む
宮崎カスタマーセンターでは、さらなる体質強化にも余念がない。
宮崎カスタマーセンターにおいては、2012年8月からソリューションエンジニア制度を開始し、ハードウェアだけでなく、ソフトウェアを対象にしたソリューション型サポートにも対応できる体制を構築しはじめた。今年からはさらに、エンタープライズソリューションに関する複合的な問題にも対応できるレゾリューションマネージャーと呼ぶ社員を3人配置。また、コンテンツアナリストと呼ぶ職種を新設し、ここには、2人の社員を配置し、問い合わせの多い質問に対するFAQの整備や、本社をはじめとする海外法人で提供されているコンテンツを翻訳するといった作業を通じて、Webを通じたサポート体制の強化も推進する。コンテンツアナリストは、デルのアジア/パシフィック地域で強化している取り組みの1つで、中国では2人、インドでは1人のコンテンツアナリストを配置しているという。
さらに、SMaC(Social Media and Community)と呼ぶチームでは、Twitterによる発信に対して、直接、宮崎カスタマーセンターおよび川崎本社のオペレータが回答。ユーザーのつぶやきに対して、アクティブにサポートを行なうといったことにも取り組んでいる。
加えて、PowerEdge Storage ServerやPowerVaultといった同社NAS製品群のサポートを開始したほか、MCP(Microsoft Certified Professional)やCCNA(Cisco Certified Network Associate)などの各種製品に関する資格取得者を、現在の延べ240人から、来年(2014年)には延べ330人へと増やし、デルの製品以外にも対応するマルチベンダーサポートへと、展開を広げていきたいとしている。宮崎カスタマーセンターの企業向けPCのサポート担当者が約300人であることを考えると、平均で1人1個の資格を取得する計算になる。
一方、宮崎カカスタマーセンターが取り組んだ直近の動きとして挙げられるのが、今年6月からスタートした「プロサポートプラス」の提供開始に伴う体制強化である。
プロサポートプラスは、顧客のシステム環境を熟知している専任のテクニカル・アカウント・マネージャ(TAM)が担当し、ハードウェア1台から対応。ユーザーの環境をリモート監視する「SupportAssist」が収集したデータを活用して、プロアクティブかつカスタマイズしたアドバイスを提供するともに、トラブルシューティングは、シニアプロサポートプラスエンジニアが対応することになる。より質の高いサポートとして提供する最上位サポートだ。
Windows XPのサポート終了にも対応
2014年4月にサポート終了を迎えるWindows XPに関しては、「現時点では、まだ数%の問い合わせに留まっている」とし、「夏場は、全国各地のゲリラ豪雨の影響で、むしろ電源まわりに関する問い合わせが集中していた」と語る。
だが、今後、Windows XPの移行に関する問い合わせが増加してくるのは明らかだと、金子センター長は予測する。
「MCP取得者などを中心に、Windows XPの移行に対する問い合わせへの体制を強化していく必要がある。ここでは、Windows 8やWindows 7に移行するメリットに関しても、適切な形で情報提供していきたい」とする。
今後発売されるWindows 8.1に関するトレーニングも今後強化していくことになりそうだ。
宮崎からの電話営業体制も強化
2013年4~6月に大幅な成長を遂げたデルだが、ここにも宮崎カスタマーセンターの戦略的な仕掛けが貢献しているようだ。
宮崎カスタマーセンター内にあるこれまでのアカウント営業体制を拡充し、今年春にはSB(スモールビジネス)プレミアムチームを発足。アウトバウンド型のセールス体制を構築し、箱売りだけでなく、エンタープライズソリューションとしてのトータル提案型の営業活動を開始したという。
こうした活動もデルのシェア拡大につながっていると言えそうだ。
そのほか、宮崎カスタマーセンターでは、グローバルビデオカンファレンスルームを新設。デル日本法人の川崎本社などに留まらず、全世界のデルの拠点と接続してビデオ会議を行なえるようにしたほか、2012年6月に開始した障がい者キャリアサポートセンターでは、今年6月末に13カ月のトレーニングを終了。研修を受けていた9人中5人が、そのまま宮崎カスタマーセンターに勤務することになったという。今年もすでに2期生の6人が研修を開始している。
「実践に近い形でITに関連する技術や知識を習得してもらうほか、一般的なビジネスマナーも学ぶことができる。研修を通じて、自らのスキルに自信を持ってもらうことができる」とする。
さらに、宮崎カスタマーセンター独自の企画として毎年恒例となっている、小中学生の親子を対象にした「親子で体験!! デル パソコン組み立て教室」は、今年で6回目を迎え、初めてWindows 8タブレット「Latitude 10」の組み立てに挑戦。親子を対象とした組み立て教室で、タブレットを組み立てたのは、世界でも今回が初めてのことだ。
宮崎カスタマターセンターの社員がタブレットの組み立てに挑戦するという熱い想いが、これを実現したと言える。また、同教室では、地元大学生によるインターンシップも活用。学生のアイデアを活かしたイベントとしているのも特徴だ。そのほか、宮崎カスタマーセンターでは、ビーチクリーン活動や地元の夏祭りである「えれこっちゃみやざき」への参加など地域貢献にも積極的に取り組んでいる。
一方で、宮崎カスタマーセンター勤務の社員が、川崎本社のカスタマーセンターへ異動することも増えており、これも宮崎発の顧客満足度向上への取り組みが、全社規模に広がる要素の1つになっていると言えそうだ。
金子センター長は、「顧客満足度を高めるための取り組みには終わりがない。今後もこれまで以上に社員一丸となって、顧客満足度を高める活動に取り組んでいきたい」と意欲をみせた。
デルの販売拡大や、顧客満足度向上の裏には、500人規模の社員で、販売とサポートを支える宮崎カスタマーセンターの存在が大きく貢献していることは間違いなさそうだ。