大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

直販中心から脱皮するデル、サポート体制はどうなるのか?

デル宮崎カスタマーセンターの金子知生センター長

 デルが、今年8月からパートナービジネスを本格化させた。ソリューションプロバイダを目指すデルにとって、ビジネス提案力を強化するとともに、幅広いソリューション提案を行なうために、パートナーとの協業ビジネスを加速。ビジネスの拡大を目指す方針だ。これは日本のみならず、全世界規模での取り組みとなっている。

 だが、この仕組みは、デルのサポート体制にも大きな変化を及ぼす。これまでのデルの強みであったデータベースを基にした迅速なサポート体制の展開が限定的になるからだ。デルは今後、サポート体制をどう強化するのか。デル 宮崎カスタマーセンター・金子知生センター長に聞いた。

宮崎市にあるデル宮崎カスタマーセンター
ビルの屋上に大きな「DELL」の看板が掲げられている
看板の前は、夏場はビアホールに。社員は、気持ちよく酔えるか、それとも酔えないのか

デルはなぜ直販から脱皮するのか?

デル宮崎カスタマーセンターの金子知生センター長

 デルは、今年8月からパートナービジネスを本格化させている。創業以来、直販ビジネスが中心だったデルにとって、大規模な方針転換となる出来事と言える。

 日本法人においても、すでにパートナー事業本部を設置。約20社のプレミアパートナーおよびプリファードパートナー、約2,000社のレジスタードパートナーを日本国内に擁し、現時点で、国内販売の約3割がパートナーを通じた販売となっている。そして、今後数年でこの比率を50%以上に引き上げる姿勢を明らかにしている。つまり、デルは今後数年で、パートナー販売を中心としたベンダーへと様変わりする計画なのである。

 デルがパートナービジネスを強化する背景には、同社が目指すソリューションプロバイダの実現において、直販ビジネスでは限界があると判断したことが挙げられる。

 パートナービジネスによって、ソリューション提案の幅を拡大することで、事業成長に取り組むという姿勢だ。

 一部には、在庫モデルを用意して、法人ユーザーからの即納体制にも対応する。従来のように何万種類のコンフィグレーションに対応するというような直販体制を活かした提案は、もはやデルの得意技ではなくなっている。

パートナービジネス拡大が生み出す課題

 そして、この直販体制からの脱皮は、デルのサポート体制にも大きな影響を及ぼす。

 と言うのも、デルのサポート体制の強みは、直販をベースに発揮されていたとも言えるからだ。

 デルは、直販ビジネスを主軸とすることで、ユーザーが所有するPCの仕様やサポート履歴などをデータベース化。PC本体に貼付されているタグに書かれたシリアルナンバーを電話口で伝えれば、オペレータは、ユーザーが所有するPCの状態や購入履歴、サポート履歴などをすぐに把握でき、適切なサポートを開始することができる。他社がOSのバージョンやCPUの種類、インストールしているアプリの確認に時間がかかるのとは大きな差がある。

 これが短時間にサポートを行なえる、デルならではの特徴となっていた。

 だが、パートナールートを通じて販売された製品については、ユーザー自らが登録をしてくれない限り、これまでのようなサポート体制は維持できない。それは個人ユーザーでも、法人ユーザーでも同じだ。

 「これまで他社が苦労していたことを、デルも苦労することになる」(金子センター長)というのも正直な気持ちだろう。

530人の社員が勤務する宮崎カスタマーセンターの強み

 それでも、デルには他社にはない強みがあると、金子センター長は語る。

 それは、宮崎にカスタマーセンターを持っている点、さらには、宮崎カスタマーセンターに勤務する530人全員が、全てデルの社員であるという点だ。

 「デルがどんな体制でユーザーへの対応を行なっているのか、どんな水準でサポート体制を構築しているのか。そうしたことをパートナー企業に、直接、見ていただき、デルのサポート体制に安心感を持ってもらうことができる。宮崎カスタマーセンターは、外部委託でサポートを行なっているのではなく、デルの製品を、デルの社員が責任を持って対応しているというロイヤリティの高さを見てもらいたい」とする。

 実際、すでに数社のパートナー企業が、宮崎カスタマーセンターを訪問して、デルのサポート体制を直接視察しているという。

 こうした活動を通じて、デルのサポート体制に対する安心感を持ってもらうことができるというわけだ。

 そして、パートナー販売が増加しても、顧客満足度の質を落とさないための施策も進める考えだ。

 例えば、ユーザー登録を増やすための仕掛けを行なったり、問い合わせ窓口でのユーザー確認作業を簡素化することで、迅速に対応できるようにするといった取り組みなどが挙げられる。

 「パートナー戦略の加速は、グローバルでの取り組み。言わば、パートナービジネスの拡大に伴う、サポート体制の強化は、グローバルに共通した課題であるとも言える。デルがグローバルで行なうサポート強化プログラムなどとも連携して、サポート品質の維持、向上を図っていきたい」とする。

カスタマーセンターの内部の様子
オペレータの1人あたりの机スペースはかなり広い
実際にユーザーに対応している様子
検証するための機器を机周りに持ち込むことも
プロサポートは宮崎カスタマーセンターにおいて拡充している領域
こちらはサーバーの検証室

個人向けサポートをプロサポートに統合

 デル宮崎カスタマーセンター自らも、サポート体制の強化には余念がない。

 デル宮崎カスタマーセンターは、企業向けPCおよびサーバー製品のほか、個人向けPCの一部製品に関する電話によるサポートを担当。さらに、電話およびインターネットによる営業活動なども行なっている。

 具体的には、企業向けPCである「OptiPlex」シリーズおよび「Latitude」シリーズ、「Vostro」シリーズ向けに、欧米などではオプションで提供しているプロサポートを、日本では標準で提供。個人向けPCにおいては、「XPS」シリーズおよび「ALIENWARE」シリーズ、「Inspiron」シリーズを対象に提供してきた従来のプレミアム電話サポートを、2014年5月から「プロサポート」に統合。個人向けにもより高い品質でのサポートを行なえるようにした。これらのサポートは、全て宮崎から行なわれている。

 ちなみに、個人向けPCのベーシックサポートは、中国・大連から行ない、エンタープライズ向け製品は、川崎の拠点からサポートを行なっている。さらに、デルソフトウェア製品については、独立した体制となっているデルソフトウェアを通じたサポート体制が構築されている。

 デル宮崎カスタマーセンターで対応してきた企業向けPCのサポートと、個人向けPCのサポートが「プロサポート」に統一されたことで、宮崎カスタマーセンターの体制も、2014年から組織を統合。プロサポート担当組織として、企業向けPCおよび個人向けPCの両方に対応する体制へと移行した。

 「これによって製品ごとの専門化を進めることができ、企業および個人を横断して、より専門的なサポートが可能になる。ユーザーに対しても柔軟に対応できるようになる。一方で、社内のキャリアパスも明確化できるようになった」とする。

EqualLogicのサポートを宮崎で開始

 その一方で、宮崎カスタマーセンターでは、2012年8月からソリューションエンジニア制度を開始。ハードウェアだけでなく、ソフトウェアを対象にしたソリューション関連のサポートに対応できる体制を構築。さらに、2013年からは、エンタープライズソリューションに関する複合的な問題に対応するためのレゾリューションマネージャーを配置。MCP(Microsoft Certified Professional)やCCNA(Cisco Certified Network Associate)などの各ベンダー各社が実施する認定資格者も増やし、ソリューション対応力を高めている。

 また、2013年度からスタートした「PowerEdge Storage Server」や「PowerVault」といった同社NAS製品のサポートを開始したのに続き、2014年4月からは、iSCSIストレージの「EqualLogic」のサポートを宮崎で開始。これまで川崎に限定していた同製品のサポートを宮崎にも拡張することで、ユーザーへの対応力を強化することができるという。

 デルは、AndroidやChromebookといった製品群においても、国内での展開を開始することから、今後はこうした製品のサポートを視野に入れた体制強化も必要になってくるだろう。

デル社内では世界ナンバーワンの顧客満足度を達成している
各社が実施する資格認定取得者を顔写真入りで張り出している
リフレッシュルームの様子。オペレータが休憩時間に利用する

将来の人材確保に向けた活動も

 ここ数年、宮崎カスタマーセンター勤務の社員が、川崎本社のカスタマーセンターへ異動することが増加しているという。双方の連携が強化している点も大きな要素だ。

 もともと川崎では、エンタープライズ製品のサポートや、買収によって獲得した新たな製品のサポートなど、言わば上位のサポート技術やノウハウを必要する製品を対象にサポートを行なっていたが、双方の人材交流が進展することで、宮崎カスタマーセンターとのノウハウ共有といった動きも活発化しているという。

 こうした体制強化の一方で、デル宮崎カスタマーセンターでは、将来の人材確保に向けた取り組みにも余念がない。

 1つは大学との連携によるデルの認知度向上や、宮崎を始めとする九州地域からの新卒採用への取り組み強化だ。

 「デルが宮崎に進出してから9年を経過した。カスタマーセンターが設置されている建物は、宮崎市内の中心部にあり、大きなデルの看板もある。また、地元の催し物にも積極的に協賛したり、ビーチクリーン活動などのボランティア活動にも社員が率先して参加している。これらの活動によって、デルという会社があること、あるいはデルという名前を知っている人は、宮崎市内でも多くなってきた。だが、デルという会社がどんな会社なのか、何をやっている会社なのかといったところでの認知度が低い。最先端のIT企業であること、グローバル企業であること、そして、宮崎で540人の正社員を雇用している会社であることを、もっと知ってもらいたい」と語る。

 デル宮崎カスタマーセンターでは、2014年から地元の宮崎公立大学と連携して、オフィスツアーを実施し、デルの企業研究を支援。また、公立校の校長、教頭を対象にした勉強会を実施。金子センター長が講師となり、カスタマーセンターならではの顧客対応ノウハウについて情報を共有するなど、協力関係築き上げる中で、デルに対する認知度を高め、グローバルタレントとして活躍することができる企業風土があることなども訴えた。

 さらに、地元開催の「えれこっちゃ宮崎」では宮崎カスタマーセンターの社員がグループとなって踊りに参加。「まつり宮崎」ではブースを設置し、インテルの協力を得て、絵本の作成サービスを実施するといったことも行ない、地元貢献にも取り組んでいる。

 「この1年の活動によって、宮崎県内では、最もイメージがアップした企業にデルが選ばれた。将来的には宮崎県内での就職人気ナンバーワンを目指したい」と金子センター長は語る。

 こうした地道な活動を通じて、地域での認知度を高めて、将来の人材獲得にもプラス効果を及ぼそうとしている。

デルは宮崎県が取り組む仕事と家庭の両立を応援する
青島太平洋マラソンにもボランティア参加
地元開催のえれこっちゃ宮崎では宮崎カスタマーセンターの社員が踊りで参加
まつり宮崎ではインテルの協力を得て、絵本の作成サービスを実施

2015年は創立10年を迎える宮崎カスタマーセンター

 デル宮崎カスタマーセンターは、来年(2015年)10月には、設立10周年を迎える。言い方を変えれば、この10月からは10年目に突入したとも言える。

 そうした節目を前に、デルが推進するパートナー販売の拡大施策や、ソリューションプロバイダへの変革へと取り組む道筋において、宮崎カスタマーセンター自らも、変革が余儀なくされるのは明らかだ。

 10周年という1つの節目を迎える前に、デル宮崎カスタマーセンターは、サポート体制強化に向けた新たな挑戦を開始したと言えよう。

(大河原 克行)