大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

なぜ、NEC PCとレノボ・ジャパンの社長が交代したのか

「NECブランドのPCはなくならない」とラピン社長

ロードリック・ラピン氏

 2013年6月28日付けで、レノボ・ジャパンの渡辺朱美社長、NECパーソナルコンピュータ(NEC PC)の高塚栄社長が退任し、両社の持ち株会社であるLenovo NEC Holdings B.V.のロードリック・ラピン会長が、レノボ・ジャパンおよびNECパーソナルコンピュータの社長に就任した。日本で、両社のジョイントベンチャーが2011年7月にスタートしてちょうど2年。従来のトロイカ体制から、突然とも言える2人の社長退任によって、一頭体制へとシフトした狙いは何か。新体制をスタートしたばかりのロードリック・ラピン氏に話を聞いた。

市場の変化に対応した新体制への移行

−−6月28日付けで、レノボ・ジャパンの渡辺朱美社長が退任。NEC PCの高塚栄社長も退任して相談役に就任しました。また、ロードリック・ラピン氏が、持株会社であるLenovo NEC Holdings B.V.会長を退任し、社長に就任するとともに、レノボ・ジャパンおよびNECパーソナルコンピュータの社長に就任しました。この社長人事の狙いは何でしょうか。

ラピン 業界内では大きな驚きとなっているようですが、実は、今回の社長人事は、NEC PCおよびレノボ・ジャパンの社員にとっては驚くような発表ではありませんでした。NEC レノボ・ジャパングループでは、経営体制や組織体制、人員計画などに関して「OHRP」というプログラムを持っており、2012年10月時点で、私は、今回の新たな組織体制について、プレゼンテーションを行なっていたからです。

 ただ、それは今後2〜3年後を想定した形で発表したものです。しかし、それから現在までの9カ月間で、PC市場には劇的ともいえる変化が訪れました。タブレットの急速な立ち上がりと、PC市場の低迷といった動向です。IDCの調査では、最新四半期の日本におけるPC成長率は25.8%減と大幅なマイナスとなっています。今後、年度末に向けては前年並みまで回復してくると予想されていますが、それまでは前年同期比2桁減の厳しい状況が続くことが予想されています。そうした市場の変化を捉えて、今回の新体制は、2〜3年後の計画を前倒しで実行することにした、というものなのです。

 長期的な視点で言えば、日本で最も効率的なPCメーカーを作りたい。効率的なPCメーカーを作ることで、迅速な意思決定ができます。激しい市場の変化により早く対応できるようになるというわけです。

 PCだけでなく、タブレットやスマートフォン、スマートTVによる、これからの「PC+(ピーシープラス)」時代の到来に備えるべく、体制を整えたということになります。

−−グループ内で、意思決定が遅いという問題が、具体的に発生していたのですか。

ラピン 意思決定が遅いといった課題を認識していたのではありません。むしろ、これだけ変化の激しい業界において、どう対応すべきかということが重要でした。既存のPCの領域においては、NECブランドのPCは、日本では非常に高い評価を受けているのは周知の通りです。しかし、タブレットに代表されるPC+の領域においては、他の外資系企業が独占しています。決して、NECブランドの製品がリードしているわけではありません。競合相手も日本のメーカーだけでなく、これまでとは違う領域からメーカーが登場してきています。戦う相手が違うのです。そうした市場の変化に対して、我々もギアを切り替えて、考え方を変えて、それを実行できる体制に変えて行かなくてはなりません。従来のPC領域は、NECとレノボの製品で守りながら、PC+に向けて挑戦し、柔軟に対応できる体制を整えたというわけです。今後半年間で、NECおよびレノボの両方のブランドでラインナップを拡充していくことになります。つまり、タブレット製品においても、両社のブランドでラインナップを強化していくことになります。

 また、日本においては、中国で展開しているスマートフォンやスマートTVといった製品ではなく、サーバーやストレージ、あるいはハイブリッド型PCも、大きな意味でPC+の領域で捉えることができるのではないでしょうか。こうしたラインナップを、両方のブランドで強化していきたいですね。

ラピン氏が持つ3枚の名刺

−−ラピン氏がNEC PCの社長も兼務することで、NEC PCの経営権がいよいよレノボに完全移行するという指摘もありますが。

ラピン NEC PCの取締役の構成比をみると、NEC PC出身者とレノボ出身者との構成比はこれまでと変わっていません。また、2011年7月に、NEC PCとレノボ・ジャパンとのジョイントベンチャーがスタートした時から、日本全体の経営責任は、私が負う体制となっています。その意味では、今回の体制変更でも、NEC PCの経営体制は変わっていないと捉えてもらっていいと思います。NEC PCの経営陣は、グローバルな視点を持った人、ローカルな視点を持った人など、さまざまなバックグランドを持った人たちによって構成されています。それは競合他社にない強みだと言え、我々の成長の要因だと言えます。

 これまで、PC業界では、数多くのM&Aや買収がありましたが、2社が一緒になって一度もシェアが落ちなかった例はこれまでにありません。NECとレノボのジョイントベンチャーが初めてのことです。それを2年間に渡って達成してきた経営陣がNEC レノボ・ジャパングループにはいます。パートナーやエンドユーザーには、その強みをぜひ理解していただきたいです。レノボとNEC PCが持つ多様性が、強い経営体制を実現し、成長につながっています。これからも強い経営体制をベースに、PC+時代の製品を作っていきたいと考えています。

NEC PC初の外国人社長に懸念はないのか

−−NEC PCの社長に外国人が就くのは初めてのことです。これまでの日本人社長と比べて、パートナーとのコミュニケーションなどの点で懸念はありませんか。

ラピン 私自身、その点でも懸念はないと考えています。というのも、今回の正式発表に先立って、主要なパートナー企業には挨拶に行き、新たな組織体制の意味や狙いを報告し、安心してビジネスを継続してもらえるようにしていますし、今後も、相談役に就いた高塚が、継続的に、コンシューマPC領域を中心にして、パートナーとの連携や経営陣をサポートする体制を維持します。

 また、私自身も、これまで4年間に渡り、レノボのトップとして、日本のパートナーと緊密な関係を築いてきたという自負があります。そして、NEC PCの経営陣に関しても、これまでの実績を元に私をサポートしてくれると考えています。

 もう1つ、多くの方々は、NEC本体との関係も気になると思いますが、私は毎週、NECの方々とミーティングをしていますし、NECも現在のジョイントベンチャーの進捗状況に満足してくれています。非常に深い関係を築けていると思います。今回の体制変更についても、NECの方々が自信を持って大丈夫だと言ってくれないのであれば、実行に移すことはありませんでした。そうした意味でも、お互いが体制変更のメリットを理解し、その上で実行に移したものであると理解してもらっていいわけです。

−−新たな組織体制は、中国本社側の意向を反映したものですか。

ラピン いえ、そうではありません。ジョイントベンチャーが発足した当時から、こうした形に組織を進化させていこうという話し合いはしていました。それが前倒しになったものであり、本社からトップダウンで戦略変更の指示が下ったというわけではありません。市場が大きく変化する中で、最も効率的な体制は何かということを追求した結果の判断です。

−−NEC PCの相談役に就任する高塚前社長の今後の役割はどうなりますか。

高塚氏はNEC PCの相談役に

ラピン 高塚はコンシューマPC事業に長年のノウハウがありますし、量販店の方々とも深い関係を持っています。これを、NEC PCだけでなく、レノボ・ジャパンのコンシューマPC事業にも活かしてもらうことになります。

−−ラピン氏は、Lenovo NEC Holdings B.V.の会長から社長になりますね。これは何か意味があるのですか。

ラピン 理由はありません。会長というと、週に4日間ぐらいゴルフをしているというイメージがあって、私はどうも会長という響きが好きではないのです(笑)。まぁ、これは冗談ですが、今回の人事では、会長職に誰かが就くというわけではなく、これまで通りに日本における事業責任は私が負うことになります。私は、みんなの意見を聞いて、それを重視し、日本にとってどんなやり方が一番いいのかといったことを、合意した上で事業を進めていく手法を採っています。この手法はこれからも変わりません。

−−今回の体制は一時的なものですか。

ラピン いえ、期限を切ったものではありません。今のところ、無期限ということになります。

NECのブランド、品質は守り抜く

−−NECブランドのPCは今後どうなりますか。

ラピン なくなるということはありません。私の重要な役割は、NECブランドと、レノボブランドを、日本においてしっかりと守っていくことです。それに対しては、私自身、強い信念を持って取り組んでいくことになります。NEC PCはコンシューマPCに関する知見では右に出るものはいないと思っています。これは絶対に守ります。むしろ私は、市場のニーズを捉えながら、NECブランドの製品群を広げていきたいと考えています。

−−NECブランドのPCの品質は、これまで通りに維持されますか。

ラピン 品質もしっかりと守っていきます。私が社長になっても、開発から生産までの一気通貫の体制には変更はありませんし、米沢事業場での開発、生産体制も維持します。これまでと変わらずに日本のユーザーのニーズを聞いて、日本市場に特化した製品を作り続けることになります。日本市場は独特の要素があります。技術を重視する方が多く、それに対して対価を支払う文化がある。すばらしい技術を求める市場がある。こうした市場に向けて、NECの品質やデザインは守っていかなくてはなりません。

−−逆に共同開発製品は増えていきますか。

ラピン 今後も共同開発のチャンスは探っていきたいですね。今でも両社の研究開発部門は、それぞれの強みを活かせるように協力体制を敷いています。具体的にどんな製品が出てくるかといったことについては詳細をお話しすることはできませんが、NECが熟知しているコンシューマPCのノウハウと、レノボが持つグローバルの知見を組み合わせて、お互いが学んだ知見を活かした製品を投入していくことになります。米沢事業場では、ThinkPadの生産に関して、2012年に試験ラインを稼働させましたが、今後は、検証を進め、本格生産をするかどうかを改めて考えていくことになります。

−−現在、持ち株会社のLenovo NEC Holdings B.V.は、レノボが51%、NECが49%の出資比率ですが、今後、この出資比率には変更はありますか。

ラピン 出資比率の変更に関しては、一切考えていません。それに関する議論もしていません。

シェア30%の目標には引き続き取り組む

−−改めてお伺いしますが、新体制になってユーザー、パートナー、そしてNECおよびレノボには、どんなメリットがあるのでしょうか。

ラピン 合理化、効率化によって、コスト構造の改善ができる点は大きな要素です。浮いた分を、社内に投資として還元し、クリエイティブであり、技術力の高い製品、日本市場に適した製品を投入できると思っています。

 2つ目には、ユーザーの選択肢が増加するという点が挙げられます。レノボは世界市場を対象にした製品作りをしていますから、どうしても外資系PCメーカーならではの製品作りが中心ですし、NEC PCは日本市場向けの製品を中心に展開しています。この双方のラインナップを広げるみことで、ユーザーの選択肢は広がるといえます。

 また、NEC PCはサービスの評価が高い企業です。そのベストプラクティスをレノボにもっと活かします。すでにレノボのコールセンター事業はNEC PCに移管していますが、今後も、レノボの顧客に対するサービスを向上させ、顧客満足度の改善を図れると考えています。

−−2013年度にグループ全体で国内シェア30%の獲得を目指していますね。これは必達目標ですか。

ラピン これは必達目標ではありません。2012年までの動きをみると、2013年度のシェア30%に向けては順調に推移していましたが、2012年10月から市場環境が大きく変化し、アベノミクスによる円安基調も、日本経済全体にはプラスでも、ドル建てで資材を調達しているPC業界にはマイナス要素となっています。値上げをしなくてはいけない状況も生まれています。2011年のスタートから3年で30%のシェア獲得という目標は達成できればいいとは思っていますが、市場変化の影響から、抑えなくてはならない部分も出てきた。

 ただ、今やレノボ社内では、PC市場のシェアだけの話はしていません。PC+によるスマートデバイスの市場でどう成長していくのかが鍵になっています。3年で国内PC市場で30%のシェア獲得は、目標としてやりたいが、これを最重要視しているわけではありません。スマートデバイスの市場でナンバーワンになるためにはどうしたらいいのかを最優先します。

−−NEC PCの社長として、レノボ・ジャパンの社長として、また、Lenovo NEC Holdings B.V.の社長としてのゴールはなんですか。

ラピン NEC PCの社長としては、日本一のカスタマーサービス、日本一のプロダクトラインナップを提供することによって、日本のコンシューマのお客様に満足していただきたいです。そのためにはお客様の意見に耳を傾けて、それを製品作りに反映させます。この姿勢は、レノボ・ジャパンの社長として、また、Lenovo NEC Holdings B.V.の社長としても同じです。これによって、日本一の顧客満足度を達成したいと考えています。

(大河原 克行)