大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
デル急成長を支えるサポート品質向上の秘訣とは
2017年9月5日 12:32
デルが、国内におけるPCのサポート強化に乗り出している。法人向けサポート全般および個人向けプレミアムサポートなどの提供を担当する、宮崎県宮崎市のデル宮崎カスタマーセンターでは、法人向けサポートを強化するとともに、個人向け製品の専任担当者を倍増するといった体制強化を行なっている。
その背景には、デルのパートナー戦略の拡大とともに、国内におけるPCビジネスが急成長。さらに、EMCとの統合により、新たにEMCジャパンのパートナー企業が、デルのPCやサーバーなどの取り扱いを開始している点が見逃せない。
そうした国内における急速な事業拡大を下支えしているのが、デル宮崎カスタマーセンターとも言えよう。現地を訪れ、その取り組みを追った。
業界平均を大きく上回る成長を遂げる
国内PC市場におけるデルのシェアが急速に高まっている。デルの平手智行社長は、「昨年(2016年)来、法人市場においても、個人市場においても、市場成長率を大きく上回る成長を達成している」と胸を張る。
IDCジャパンの調べによると、2017年第1四半期(2017年1~3月)の国内トラディショナルPCの出荷台数は、ビジネス市場が前年同期比6.3%増の193万台、家庭市場が6.4%増の120万台となっている。これに対して、デルの成長率は、ビジネス市場では24.7%増、家庭市場では38.6%増と大幅な成長を遂げているのだ。
また、9月4日に発表したばかりの最新データとなる第2四半期(2017年4~6月)では、市場全体では、ビジネス市場が前年同期比1.8%増の148万台、家庭市場は3.6%増の109万台であるのに対して、デルは、ビジネス市場では2.8%増、家庭市場では21.2%増と、引き続き、業界全体の成長を上回っている。
同社では、得意とするダイレクト販売に加えて、ここ数年、パートナー戦略を加速しており、法人向けではダイワボウ情報システムやソフトバンクコマース&サービスを通じた全国販売を強化。これまで手薄だった地方におけるシェア拡大に取り組んでいるほか、デルとEMCとの統合により、EMCジャパンのパートナー企業が、デル製品の取り扱いを開始するといった動きが出ている。
また、個人向け市場では、国内最大手量販店であるヤマダ電機が、デル製品の積極的な取り扱いを開始。さらに、Amazonをはじめとするeコマースでの販売が増加していることも大幅な成長の要因となっている。
450人の正社員がサポートとセールスを担当
そうした活発なデルの販売拡大を下支えしているのが、テクニカルサポートおよびパートナーセールス支援などを提供しているデル宮崎カスタマーセンターである。
デル宮崎カスタマーセンターは、2005年11月に、国内におけるサービス、サポートを強化するための戦略的拠点として、宮崎県宮崎市に開設。現在、テクニカルサポート部門で約300人、テレセールスを行なう営業部門で約100人が勤務。間接部門などを含めて、合計450人の体制となっている。
すべてが正社員で、その大半が地元採用であり、2007年からは新卒採用も開始。宮崎県や九州出身の社員比率が高い。
2017年2月からスタートした同社事業年度において、デル宮崎カスタマーセンターでは、パートナー支援体制を強化している。
1つは、パートナーセールス部門を15人体制で設置。西日本地区の約200社のパートナー企業に対する販売支援体制を強化した点だ。東日本地区のパートナー支援は川崎本社から行なっており、2つの拠点を活用して、全国のパートナー支援体制を構築している格好だ。
デルでは、パートナーを通じて販売強化を最優先課題の1つに掲げており、この施策を推進するには、パートナーの販売支援体制を、他社と同等以上にする必要がある。
「いかにパートナーとの接点を強化するか。デルにとってはもっとも重要な取り組みとなる。その点で、西日本地区においては、宮崎カスタマーセンターがはたす役割が大きい」と、デル宮崎カスタマーセンター長兼カスタマーサポートサービス本部長の金子知生氏は語る。
2つ目には、パートナーが安心してデル製品を扱ってもらえるようにするために、デル宮崎カスタマーセンターの公開を、より積極化したことだ。
デルが、パートナー戦略を本格化して以降、宮崎カスタマーセンターでは、パートナーの見学機会を積極的に設けてきたが、昨年秋以降、EMCジャパンのパートナーにも広く公開。年間の訪問者は400人に達しているという。
「宮崎カスタマーセンターでは、約300人の正社員が、デル製品のサポートを直接行なっているシーンを見てもらうことで、販売後のサポートに安心感を持ってもらえる。パートナーにとっては、この安心感が、デル製品を本気で取り扱うきっかけになる」と語る。
確かに、国内のPCメーカーにおいて、これだけの規模で、直接社員がサポートを行なう拠点はほかにはない。宮崎カスタマーセンターの存在が、安心感を提供し、パートナー戦略の拡大に貢献しているのは明らかだ。
プレミアムサポートプラスにも対応
宮崎カスタマーセンターでは、コンシューマ製品のサポート体制についても、大幅な強化を図っている。
IDCジャパンのデータを見てもわかるように、家庭市場におけるデルの成長率は、急拡大している。それに伴って、宮崎カスタマーセンターの陣容も強化している。販売増加に伴い、サポート品質が低下することは避けなければならないからだ。
宮崎カスタマーセンターでは、2017年2月以降、電話サポートなどを行なうコンシューマPC専任担当者を倍増させており、これによって、サポート品質の維持に取り組んでいる。
もともとコンシューマPCの場合、標準サポートは、中国・大連の拠点から対応を行なっていたが、上位のプレミアムサポートに関しては、宮崎カスタマーセンターから対応。ヤマダ電機で販売される製品には、すべてプレミアムサポートが付属されるなど、上位サポートの構成比が増加。これに伴い、宮崎カスタマーセンターで対応する比率も高まっている。
2017年9月からは、さらに上位のプレミアムサポートプラスがスタートすることになり、これも宮崎カスタマーセンターで対応することになる。
「今後も、コンシューマPCの専任担当者の増員を図るとともに、サポート品質の維持にも力を注いでいく」と語る。急激な販売拡大と、新たなサポートプログラムの提供にあわせて、デルのサポート体制の強化も同時並行的に進められている。
サポート品質の向上に取り組む
ここ数年、金子センター長がこだわっているのが、サポート品質の向上だ。
1つめのサポート品質向上は、エンタープライズ製品におけるサポート製品の幅の拡張の観点からの取り組みだ。
もともと、宮崎カスタマーセンターの特徴は、多くの問い合わせが発生する製品のサポートを中心に行なっており、問い合わせ数が少なく、その一方で専門的要素を求められるハイエンド製品は川崎で対応するという仕組みとしていた。だが、デル製品の活用の広がりとともに、現在では、PowerEdgeやEqualLogicといったサーバー、ストレージも宮崎カスタマーセンターで対応する形になっている。
「現在、EqualLogicのテクニカルサポートは、100%を宮崎カスタマーセンターで対応している。具体的な計画はないが、今後は、ハイパーコンバージドインフラストラクャ(HCI)やEMC製品などについても対応できるようにスキルを高めていく必要がある」とする。
とくに、HCIは、今後は急速な市場拡大が見込まれており、中堅・中小企業への導入も期待されている。サーバーやストレージのサポート経験を持つ宮崎カスタマーセンターにおいては、すでに、HCIのサポートが可能なスキルが準備されはじめているともいえ、「ネットワークに関する認定資格者も増員させることで、将来に向けて、幅広い製品に対応を行なえるようにしたい」とする。
EMCとの統合により、デルの製品ポートフォリオが拡大しており、それに伴い宮崎カスタマーセンターの役割も広がることになりそうだ。
2つ目には、宮崎カスタマーセンターの社員を、川崎本社に派遣し、実際のサポートおよび修理現場を訪問する経験を積みはじめたことだ。
「カスタマービジットプログラム」と呼ぶこの制度は、2017年7月からスタートしたもので、宮崎カスタマーセンターの社員が1週間に渡って、2人ずつ川崎本社に出張。テクノロジーサービスマネージャー(TSM)とともに、プロサポートプラスを契約している顧客のもとに、1日に3社のペースで訪問して、オンサイトでの修理作業に立ち会う。
「修理の現場では、お客様がどんな状況にあるのかといったことを知るとともに、修理現場の人たちに的確な指示書を書くことができているのかといったことも理解できる。厳しい意見をいただいたり、期待の声をいただいたりといった現場での経験を通じて、顧客の課題解決に的確に応えられるように対応を変えたり、エンジニアが現場で困らないようにするにはどうしたらいいかといったことを理解できるようにしている。参加した社員から得られた情報は全員で共有するようにしている」という。
実際に、このプログラムをスタートしてから宮崎カスタマーセンターの社員の意識も変化してきたという。年間で50人以上の派遣を計画している。
そして、3つ目が、サポートアシストによるサポート品質の向上だ。これは、顧客の利用状況をモニターして、それをもとに障害発生の予兆などを検知。必要に応じて、電話によって担当者に連絡して、リモートから対策を行なったり、部品の交換などを提案したりというものだ。障害発生やダウンタイムを回避できるサービスとして、企業ユーザーからは高い評価を得ている。
「今後、いかにプロアクティブにサポートを提供していくかが重要になる。サポートアシストの活用はますます広げていきたい」という。社員のスキル向上だけでなく、テクノロジを活用した品質の向上にも取り組んでいるというわけだ。
人材確保に向けて働き方改革に挑む
だが、宮崎カスタマーセンターにも課題はある。それは、人材確保の課題だ。これは、日本全国共通の課題だと言えるが、もともとサポート拠点の人材確保には優位と言われてきた宮崎でも同じ課題が生まれている。
宮崎には、現在、約10社のコンタクトセンターがあり、約2,000人が勤務していると推計される。デルはそのなかでも最大規模となるが、優秀な人員確保は課題の1つだ。
そこでデル宮崎カスタマーセンターでは、内面、外面の2つの観点から人材確保の仕掛けをはじめている。
1つは、内面からの取り組みとなる「働き方改革」である。
応対のために専用システムが必要であり、時には不具合状況を再現するための機材なども必要になるコンタクトセンターにおいて、在宅勤務の導入には、多くの課題があるが、宮崎カスタマーセンター来年(2018年)度以降の制度導入を目指して、さまざまな角度から検討を開始しているところだという。
川崎本社では、今年(2017年)夏から営業部門を中心に、パーティションを取り払い、フリーアドレス制を採用しているが、今後、宮崎カスタマーセンターでも同様の仕組みに変更することになるという。
「まずは、営業部門やバックオフィス部門が中心に試行をはじめることになる。サポート部門でも、FAQのコンテンツ制作を担当している社員は、すでに在宅勤務の試行を開始している。在宅勤務の制度はすでに8月からスタートしているが、今後、システム面からいかにサポート業務に対応していくかが鍵になる」とする。
現在、テクニカルサポート業務を行なっている社員は、ディスプレイを3台設置し、さまざまな情報を表示し、固定席で仕事をすることが前提となっているが、新卒者を中心に、ノートPCを配備し、固定席以外でもテクニカルサポートの仕事ができるような環境づくりもじょじょに開始している。
「お客様にご迷惑をかけないことが大前提となる。そのなかで、社員がより効率的に仕事を行なえ、子育てや介護などにも取り組むことができる環境を整備することが大切。それによって、会社を辞めずに、長期的に勤務してもらえることにもつながる」というわけだ。
これが内面からの取り組みだとすれば、外面の取り組みは、宮崎に拠点を置く、複数のIT企業が連携している「Miyazaki IT Plus(宮崎ICT企業連絡協議会)」を通じた取り組みになる。
Miyazaki IT Plusは、宮崎市が音頭を取って2015年3月に設立した宮崎市内のIT関連企業を活性化させるための組織で、会長会社はWEB制作事業などを行なっているGOOYA、副会長会社にデルが就任している。ここでは、企業同士の交流だけでなく、人材育成や人材確保といった点にも、共同で取り組んでいる。
すでに、参加企業が首都圏での合同説明会を行ない、UターンやIターンの採用の拡大にも取り組んでいる。
「宮崎市の中心市街地には、33社のIT企業が進出している。これらの企業が一緒になって、宮崎市はITの街であることを訴求し、IT企業への就職にも有利なことを示したい」とする。
2017年10月1日には、宮崎県内に進出しているコールセンターが参加して、コールセンターの応対品質を競う「第1回みやざきコールセンターコンテスト」が、Miyazaki IT Plusの主催で開催される。これも、宮崎をITの街として認知を広げ、人材獲得につなげる取り組みの1つだ。
トランスコスモスなどのサポート専業企業も参加するなかで、宮崎市内でサポートセンターとして最大規模を誇るデルの成績がどうなるかが注目される。
世界でもっとも評価が高いサポート拠点
デルのPC事業の成長は著しい。そして、その背景には、パートナー戦略の加速が見逃せない。デル宮崎カスタマーセンターは、その成長をしっかりと支える役割をはたしている。全世界のデルのサポート拠点において、世界でもっとも顧客満足度が高いセンターに選ばれた実績を持つデル宮崎カスタマーセンターによって、日本において、強固なサポート体制を構築しているからこそ、成長戦略を強力に実行できると言えよう。