大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
カスタマイズレッツノート15周年目のこだわり
2017年9月27日 12:00
パナソニックが、同社直販サイト「Panasonic Store」を通じて、BTOが可能なカスタマイズレッツノートの販売を開始してから、今年で15年目を迎えている。
このほど、15周年記念モデルとして、天板にフルスターブラックを採用したプレミアムエディション「CF-SZ6X15QP」(価格432,000円から)と、画材ラボ「PIGMENT」との協業により、5種類の絵画技法を用いた10種類のデザイン天板を搭載したモデルを用意。新たな顧客層へのアプローチを開始した。
Panasonic Storeを統括するパナソニックコンシューマーマーケティング 執行役員 eコマースビジネスユニット長の麻誠司氏に、Panasonic Storeの取り組みと、カスタマイズレッツノート15周年記念モデルへのこだわりについて聞いた。
――まず、Panasonic Storeの生い立ちについて教えてください。
麻氏:Panasonic Storeの前身となるのは、2000年4月にスタートした、パナソニックグループ初のメーカー直販サイトである「パナセンス」でした。当時の松下ネットワークマーケティングが担当し、家電製品や消耗品を取り扱うオンラインストアと位置付けていました。
一方で、2002年3月には、カスタマイズレッツノートのオンライン専門店として「マイレッツ倶楽部」をスタートしました。
2014年1月には、これらとLUMIX CLUBとを統合して、「Panasonic Store」に一本化し、家電製品、Webオリジナルモデル、消耗品などを直接販売する、One to Oneのダイレクトマーケティングを実現しています。
かつての名称では、「パナソニックの直販サイトであることがわかりにくい」という声もあったのですが、Panasonic Storeに名称を統一したことで、パナソニックの直販サイトとしての認知が一気に高まり、今では、メーカー直販サイトの認知率において、常に上位にランクされています。
――Panasonic Storeでは、どんな商品が売れ筋となっているのですか。
麻氏:1つは消耗品です。量販店や地域電器専門店では、すべての消耗品を取り揃えることができませんが、それを補完する形で直販サイトを利用していただいている方々が多くいます。
お客様視点で考えたとき、消耗品を短期間に、安心して入手したいという要望があり、それに対応するのが、Panasonic Storeとなります。Panasonic Storeでは、5,000品番以上の取り扱いがあり、在庫があれば翌日にはお届けできますし、平均で3~4日での納品が可能です。
2つめは、販売店では展示が難しいような商品です。たとえば、チークなどの天然木を採用した「ラムダッシュ リミテッドエディション」や、プレミアムリビング扇「RINTO(リント)」など、男性シェーバーで8万円以上したり、扇風機で12万円したりするような受注生産型の限定商品は、Panasonic Storeでの購入が目立ちます。
さらに、2017年4月からは、コーヒー焙煎機の「The Roast(ザ・ロースト)」を、Panasonic Store限定で販売を開始しました。これは、パナソニックにとっては、初めての商品ですし、コーヒー豆を定期的に提供するというサービスモデルも提供することになります。
このように、モノ売りではなく、コト売りまでを含めた新たなビジネスモデルの商品も、Panasonic Storeで取り扱っています。
そしてレッツノートは、Panasonic Storeにおいて、最も重要な商品となります。Webサイトでの販売は、カスタマイズしたいというユーザーに対して、一番相性がよく、最適な体験を提供できます。カスタマイズレッツノートは、2016年度の販売金額が、2002年比で3倍に成長していることがそれを裏付けていますし、店頭販売に比べて、高単価の商品が売れるという傾向が出ています。
――Panasonic Storeは、パナソニック全体にとってどんな役割を果たしていますか。
麻氏:パナソニックコンシューマーマーケティングでは、量販店を担当するCE社、地域電器専門店を担当するLE社、生活業態店を担当するVE社などがありますが、そのなかで、eコマースビジネスユニットは、パナソニックコンシューマーマーケティングにおいて、唯一、直販を担当する組織となります。いわばお客様とダイレクトにつながることができる唯一の販売組織でもあります。
お客様と直接つながることで、商品に対するフィードバックを得たり、新たなビジネスモデルへのトライアルが可能になったりします。
ザ・ローストの取り組みはその1つですし、ラムダッシュ リミテッドエディションの場合にも、そこに使われる5種類の天然木のうち、なにが欲しいかを人気投票してもらうなど、双方向のコミュニケーションを通じた仕掛けも可能です。
こうした取り組みも、Panasonic Storeの役割の1つです。そして、パナソニックのロイヤルカスタマーに対して、価値を提供する商品をお届けし、標準商品にはない満足度を感じてもらうという役割も果たしています。カスタマイズレッツノートは、その一例だと言えます。
――2002年にスタートしたマイレッツ倶楽部で、カスタマイズレッツノートの販売を開始してから、今年でちょうど15年目を迎えましたね。
麻氏:2002年3月に、R1シリーズでホイールパッドとサイド部分のカラーバリエーションによるカスタマイズサービスを開始して以来、カラー天板の採用や初のブラック筐体、SSD搭載やBDドライブ搭載、LTE搭載といったように、これまでにも、先行する形で、数多くのカスタマイズモデルを用意してきました。
マイレッツ倶楽部のスタート当初は、モバイルPCを扱っている店舗も少なく、店頭では手に入らない1クラス上の性能と、パーツや機能をカスタマイズができる「マイレッツモデル」は、ハイエンドのモバイルPCを求める人たちに高い支持を得ており、それが現在まで続いています。
今回、Panasonic Storeでは、カスタマイズレッツノートの15周年を記念して、2つのモデルを発表しました。
1つは、SZ6シリーズをベースに、天板にフルスターブラックを採用したプレミアムエディション「CF-SZ6X15QP」です。これは、かつて、Panasonic Store限定モデルとして人気を誇ったギャラクシーブラックを再現する色調を持ちながら、星空を映し出すような美しい輝きを再現した天板を使用するとともに、CPUやSSD、メモリなども、最上位ともいえるスペックを盛り込んだ商品です。
これは、ど真ん中のレッツノートユーザーを対象に用意した記念モデルだと言えます。ここには明確なペルソナがあります。ビジネスモバイルとしてPCを使用する40~50代の男性で、すでにレッツノートを2台、3台と使っており、最上位のスペックを求める人を対象にしています。
レッツノートの価値を認めていただき、長年に渡り、こだわりを持って使っていただいた方々を対象にした商品です。
そして、もう1つの15周年記念モデルは、画材ラボ「PIGMENT」とコラボレーションした「ehada(エハダ)」です。ehadaでは、「墨流し」、「破墨」、「スキージ」、「グラスストローク」、「クラッキング」という5種類の絵画技法を用い、10種類のデザイン天板を選べるようにしました。
語源となった「絵肌」とは、絵画作品における作品表面の質感を指しており、絵具や紙、筆や印毛などの画材の組み合せと、さまざまな絵画技法の組み合わせによって生み出されるものであり、二度と同じものが作れません。そうした偶然の美を天板デザインに取り込みました。
これは、ビジネスモバイル分野のトップメーカーであるパナソニックが、その市場の変化を捉え、ビジネスモバイルユーザーの新たなニーズに対応し、レッツノートの買い換えを促進するという切り口が1つです。
そして、もう1つは、これまでレッツノートを使ったことがない新たなユーザー層を開拓していくという狙いがあります。
――なぜ、絵肌をコンセプトにデザインをしたのですか。
麻氏:実は、パナソニックでは、定期的にファンミーティングを開催しているのですが、その際にアンケートをとっています。そのなかで、「レッツノートを使っていて良かったと思うのはいつか」という設問があるのですが、ここに象徴的な2つの回答がありました。
1つは、誤ってレッツノートを床に落としてしまったときにも、液晶パネルが割れることがなく、まるで何事もなく起動するという堅牢性です。レッツノートならではのスペックに対する評価と言えます。
そして、もう1つがビジネスシーンで、鞄からレッツノートを取り出したときに、周りの人から、「良いPCを使っているね」と言われるといった回答でした。パナソニックでは、家電商品において「ふだんプレミアム」というメッセージを発信し、少し上質な生活を提案していますが、レッツノートは、「ふだんプレミアム」を、PCという商品において実現したものになっています。
この「ふだんプレミアム」の世界を、機能面だけでなく、デザイン面において新たに提案したのが、今回の「ehada」ということになります。
――10種類の天板をみると、これまでのレッツノートのイメージにはないデザインが多くて驚いていますが(笑)
麻氏:レッツノートにはどうしても1つのイメージがあります。ボンネット構造の天板であったり、シルバーの基本カラーもそうでしょう。しかし中には、そうしたイメージではないレッツノートを買いたいと思っている人がいるかもしれません。
レッツノートは、「Functional Beauty」を追求してきました。その姿勢を踏襲しながら、PIGMENTとのコラボレーションによって、新たなビジネスモバイラーのニーズに応える試みが、今回のehadaということになります。
パナソニックとPIGMENTは、デザインに対する徹底したこだわりは同じですが、そのアプローチの手法は、PIGMENT「和」をベースにした伝統的なデザインであるのに対して、レッツノートが追求してきたのは「機能性」です。この相反するアプローチがマッチングしたときの面白さが生まれると期待しています。
豊富なデザインを用意することで、ビジネスモバイルニーズを深堀できると考えていますし、これまでとは違う感性を持った商品が出来上がったと思っています。
40代、50代には、レッツノートの良さを理解している人たちが多くても、20代、30代のビジネスパーソンには、まだレッツノートの良さが伝わっていないという見方もできます。そうした人たちにも、「レッツノートが気になる」というきっかけを作る狙いもあります。一度、触っていただければレッツノートの良さは理解していただけますからね。
――なぜ、この10種類のデザインになったのですか。
麻氏:最初はもっと多くの絵画技法を候補にあげて検討をしていたのですが、その中から6種類の絵画技法を選び、最終的には5つの絵画技法でそれぞれ2種類ずつ、合計で10種類としました。
7月23日に、パナソニックとPIGMENTが共同でワークショップを開催したのですが、そのときにこの10種類の天板に対して、非常に良い手応えを感じました。これはいけるという確信を持ったのはこの時でしたね。
また社内でも、この10種類の天板について評価してもらったところ、年齢や性別によって、評価がすごくバラケるのです。これまでのレッツノートのモノづくりとは異なる切り口からの提案ができることが楽しみです。
――よく見ると、天板に「Panasonic」のロゴが入っていませんね。
麻氏:これは本社決裁によって決定したものです。偶発性を重視して生まれたデザインであり、それを最大限生かしたいということから、今回はPanasonicのロゴは入れませんでした。
ただ、レッツノートのアイデンティティであるボンネット構造はそのままですから、それを見て、レッツノートであると理解していただけると思います。
――「ehada」の商品化によって、これまでのビジネスモバイルの戦略に変化があるのですか。たとえば、デザイナーをターゲットにするといったような。
麻氏:レッツノートは、ビジネスモバイルをターゲットにした商品であるという基本戦略に変更はありません。そして、デザイナーをターゲットにするということも考えていません。
レッツノートは、ビジネスモバイルに最適なスペックを持ったPCであり、デザイナーに最適なスペックを持ったPCではありません。ehadaは、新たな顧客層を開拓する狙いがありますが、それはあくまでもビジネスモバイルの領域ということになります。
――「ehada」は、限定製品とのことですが。
麻氏:レッツノートの生産を行なう神戸工場に、昇華転写プリンタを導入し、これによって、今回の天板への印刷が可能になりました。ただ、これは1枚生産するのにかなりの時間がかかります。
言わば、量産には向いていない技術であり、今回のehadaも、受注生産のスタイルとします。特定のデザインに注文が集中しても生産は可能ですが、2017年秋冬モデル限定で提供することになります。
――ちなみに、15周年記念モデルはこの2つで終了ですか。
麻氏:今は、「15周年の期間はまだあります」とだけお伝えしておきます(笑)。
――では、楽しみにしておきます(笑)。一方で、今後のカスタマイズレッツノートの方針として、フルカスタマイズ化を掲げていますね。これはどういう意味ですか。
麻氏:これまでは、メモリ容量を決めると、SSDの容量も決まってしまうというようなことがあったのですが、今後は、天板、CPU、メモリ、SSD、LTEなどを自由に組み合わせることができるようにします。
フルカスタマイズ化の取り組みは、2017年6月から順次スタートしており、夏モデルではストレージの組み合わせを自由にし、秋冬モデルではLTEモデルの選択肢を広げ、来年の春モデルでは、さらにもう一段進めるといったように、段階的にフルカスタマイズ化ができるようにします。
――これまでは、カスタマイズの種類を絞り込む傾向がありましたが、一転してフルカスタマイズ化に踏み出した理由はなんですか。
麻氏:1つはビジネスモバイルユーザーのニーズが多様化し、それにあわせて、最適な仕様のPCを提供する必要が出てきたということです。
その一方で、従来に比べて、効率的な生産体制、調達体制を実現できるようになったという仕組みの改善もこの実現に貢献しています。
もともとレッツノートは、それぞれのモデルに最適化した設計を採用しているため、基板形状などがまったく異なりますが、それでもSSDはほぼ一本化するなど、部品の共通化を開始しており、これもフルカスタマイズ化の動きにつながっています。
――今後、Panasonic Storeはどんな進化を遂げますか。
麻氏:お客様とどれだけつながるかが、企業にとって、重要な課題となっています。デジタルプラットフォームを活用して、お客様一人ひとりとの接点を強化する役割を担うのが、Panasonic Storeとなります。
今後、2年/3年/5年というサイクルで見たときに、新たなビジネスモデルが登場し、お客様とのつながりが変化していく可能性もあります。
そのときに、急にそれに対応するような新たなことをやけといってもできるものではありません。お客様との直接の接点において、経験やノウハウの蓄積を重ねることで、新たな時代におけるお客様とつながりを実現し、それを実践できると考えています。
それに向けて、これからもアグレッシブに挑戦していきます。