Hothotレビュー
新iPad Proはディスプレイ120Hz駆動で指に吸いつくような操作が快感!
~10.5インチと12.9インチのiPad Proをダブルレビュー
2017年6月23日 06:00
6月6日にAppleの開発者向けカンファレンス「WWDC 2017」で発表された新型iPad Proが、6月13日から販売開始されている。新型は「10.5インチiPad Pro」、「12.9インチiPad Pro」の2モデルで構成されており、従来の9.7インチモデルは廃止された。つまり9.7インチモデルが10.5インチモデルに置き換えられたわけだ。
今回Appleから両モデルを借用した。新たなサイズの10.5インチモデルを中心にレビューするが、要所で両者を比較していこう。
9.7インチモデルをわずかに大型化し、10.5インチディスプレイを搭載
10.5インチiPad Proと12.9インチiPad Proの内部的なカタログスペックは変わらない。プロセッサは「A10X Fusionチップ」を搭載。ストレージは64GB/256GB/512GBの3モデルが用意されている。メモリ容量についてAppleは公表していないが、ベンチマークソフト「Geekbench 4」のシステム情報では4GBを搭載している。製品公式サイトによれば、新型iPad Proは旧型と比べて、CPU処理速度は30%、グラフィックス処理速度は40%速くなっているとのことだ。
処理性能以外で大きく進化しているのがディスプレイ。デジタルシネマ規格「P3(DCI-P3)」の広色域を採用し、輝度も600cd/平方mに向上。また、最大で120Hzのリフレッシュレートに対応。「ProMotionテクノロジー」と呼ばれる制御技術により、コンテンツの種類や動きに合わせて24Hz、48Hz、120Hzなどとリフレッシュレートを自動調整することで、滑らかな描画と、低消費電力を両立しているという。
カメラ機能も大幅に強化された。背面カメラは1,200万画素・f/1.8・光学式手ぶれ補正・クアッドLED True Toneフラッシュ、前面カメラは700万画素・f/2.2と、iPhone 7と同等のカメラ機能を搭載した。静止画は背面カメラで4,032×3,024ドット、前面カメラで3,088×2,320ドットで撮影可能。また動画は、背面カメラで4K/30fpsや1080p/60fps、前面カメラで1080p/30fpsで撮影可能となった。
従来どおり「Wi-Fiモデル」と「Wi-Fi+Cellularモデル」が用意されており、後者にはNano SIMスロットが装備され、Apple SIMが内蔵されている。従来のNano SIMカードを装着することもできるし、Nano SIMカードを装着せずに海外渡航先で主要プロバイダーの契約電話データプランを利用することも可能だ。
本体サイズは、10.5インチiPad Proが174.1×250.6×6.1mm(幅×奥行き×高さ)、重量はWi-Fiモデルが469g、Wi-Fi+Cellularモデルが477g。一方の12.9インチiPad Proは本体サイズが220.6×305.7×6.9mm(同)、重量はWi-Fiモデルが677g、Wi-Fi+Cellularモデルが692g。
旧型の9.7インチiPad Proが本体サイズ169.5×240×6.1mm(同)、437g(Wi-Fiモデル)、444g(Wi-Fi+Cellularモデル)なので、10.5インチiPad Proは幅4.6mm、奥行き10.6mmとわずかに大型化している。
新型 | 旧型 | |||
---|---|---|---|---|
10.5インチiPad Pro | 12.9インチiPad Pro | 9.7インチiPad Pro | 12.9インチiPad Pro | |
CPU | A10X Fusion(6コア) | A9X(2コア) | ||
メモリ | 4GB | 2GB | 4GB | |
ストレージ | 64/256/512GB | 32/128/256GB | 128/256GB | |
背面カメラ | 1,200万画素、f/1.8、光学式手ぶれ補正、クアッドLED True Toneフラッシュ | 1,200万画素、f/2.2、True Toneフラッシュ | 800万画素、f/2.4 | |
前面カメラ | 700万画素、f/2.2 | 500万画素 | 120万画素 | |
ディスプレイ | 10.5インチ(2,224×1,668ドット、264dpi)、広色域ディスプレイ(P3)、ProMotionテクノロジー | 12.9インチ(2,732×2,048ドット、264dpi)、広色域ディスプレイ(P3)、ProMotionテクノロジー | 9.7インチ(2,048×1,536ドット、264dpi)、広色域ディスプレイ(P3) | 12.9インチ(2,732×2,048ドット、264dpi) |
本体サイズ(幅×奥行き×高さ) | 174.1×250.6×6.1mm | 220.6×305.7×6.9mm | 169.5×240×6.1mm | 220.6×305.7×6.9mm |
重量 | 469g(Wi-Fiモデル) 477g(Wi-Fi+Cellularモデル) | 677g(Wi-Fiモデル) 692g(Wi-Fi+Cellularモデル) | 437g(Wi-Fiモデル) 444g(Wi-Fi+Cellularモデル) | 713g(Wi-Fiモデル) 723g(Wi-Fi+Cellularモデル) |
連続動作時間 | 最大10時間 | |||
Apple SIM | 内蔵 | 対応 |
カラーは10.5インチiPad Proがスペースグレイ/ローズゴールド/ゴールド/シルバーの4色展開、12.9インチiPad Proがスペースグレイ/ゴールド/シルバーの3色展開。
6月21日時点にApple Storeで10.5インチiPad Pro(Wi-Fi+Cellularモデル)の到着予定日を確認したところ、スペースグレイとローズゴールドが6月30日~7月2日、シルバーが6月23日、ゴールドが6月22日となっていた。各カラーの供給数は当然異なるだろうが、スペースグレイとローズゴールドに人気が集中している。
ボタンと端子の構成に大きな変化はない。表に前面カメラ(700万画素、f/2.2)、ホームボタン/Touch ID(指紋認証)センサー、裏に背面カメラ(1,200万画素、f/1.8、光学式手ぶれ補正)、上部に3.5mmヘッドフォンジャック、スピーカー×2、電源ボタン、下部にLightningコネクタ、スピーカー×2、右側面にボリュームボタンとNano SIMトレイ、左側面にキーボードカバー「Smart Keyboard」を装着するための端子「Smart Connector」が配置されている。
ただし、細かな点では、新型の10.5インチ/12.9インチiPad Proは、背面カメラにフラッシュ(クアッドLED True Toneフラッシュ)が搭載され、デュアルマイクが本体上部に移動している。また背面カメラは性能向上の代償に筐体から飛び出している。
格段に滑らかになったディスプレイ描画、発色もさらにきめ細やかに
前述のとおり、新型iPad Proのディスプレイは最大120Hzのリフレッシュレートを実現しており、60Hzの旧型iPad Proと比べて段違いに滑らかさが向上している。リフレッシュレートとは画面を書き換える回数のこと。120Hzであれば、1秒間に120回画面を書き換えることになる。
どのぐらい滑らかなのかは実物を見ていただくしかないが、参考用に新型と旧型iPad Proの比較動画を用意したのでご覧いただきたい。
この動画は240fpsで撮影した映像を60fpsで書き出したものなので、直接目で見たときと見え方は異なる。もちろんこの動画の再生環境でも見え方は変化する。
しかし、25%の速度でスローモーション再生しているパートでは、新型iPad Proが旧型iPad Proに比べてどのくらい滑らかなのか確認できる。旧型iPad Proも一般的なタブレットと比べれば十分スムーズだが、新型iPad Proは指に画面が吸いつくかのような別次元の滑らかさだ。
ディスプレイの発色については、グラデーション豊かで、暖かみのある絵作りが好印象。新型iPad Proは、600cd/平方mへの明るさの向上、DCI-P3への色域の拡大により、発色可能な色数が格段に増えている。また、周囲の光環境に合わせてホワイトバランスを調整する「True Tone」技術により、環境光に左右されず映像、画像コンテンツを鑑賞可能だ。
据え置き型の機材ではその環境に合わせてカラー調整すべきだが、iPad Proのようにさまざまな場所で利用する機材では、True Toneは有用な技術と言える。
リフレッシュレートの引き上げは、Apple Pencilのペン先追従性も改善している。Apple Pencil自体は筆圧感知、傾き検知対応とスペックはまったく変わらないが、ProMotionテクノロジーを搭載した新型iPad Proと組み合わせると、遅延が20msに低減する。実際に描線の追従性を確認してみたが、新型iPad Proの描線の遅れは、旧型iPad Proの2分の1程度に収まっていた。メモ書き程度であれば使い勝手にそれほど差は出ない。しかしイラストを描くさいには、描線の遅れが少ない新型iPad Proのほうが正確な線を積み重ねていける。
待望の日本語対応キーボードカバーが登場、ホルダー付きスリーブも魅力
純正アクセサリが充実したのも大きなトピック。Apple Pencilを収納できるレザースリーブ「iPad Pro用レザースリーブ」、コンパクトなペンシルケース「Apple Pencliケース」なども魅力的だが、日本のユーザーにとってもっとも重要なアクセサリが「日本語(JIS)」に対応したキーボードカバー「iPad Pro用Smart Keyboard」だろう。
MacBookの日本語(JIS)キーボードと同様にスペースキーの左に「英数」、右に「かな」切り替えのキーが用意されており、「地球(言語)」キーでの入力モード変更よりも、素速く日本語入力、英語入力を切り替えられる。旧型iPad Proでも使用可能なので、「英語(US)」仕様のSmart Keyboardの使い勝手にうんざりしていた方は、買い換える価値は十分にある。
さて文字入力を主な作業として予定している方は、10.5インチ用と12.9インチ用のSmart Keyboardの使い勝手の差が気になるだろう。Smart Keyboard自体の横幅は、10.5インチ用が実測約250mm、12.9インチ用の約306mmと大きな差があるが、キーピッチは10.5インチ用が約18.2mm、12.9インチ用が約19.2mmとそれほど違いはない。
記号キーの横幅が極端に狭められているが、慣れで気にならなくなるレベルだ。ちなみに10.5インチ用iPad Proで、12.9インチ用のSmart Keyboardを利用可能なので、どうしても小さなキーボードが苦手な方は異なるサイズの組み合わせで使ってもよいだろう。
着実に向上した性能を有効活用できるのはiOS 11から
最後にベンチマークスコアを見てみよう。今回は新型10.5インチiPad Pro、新型12.9インチiPad Proに加えて、旧型12.9インチiPad Proでベンチマークを実施している。使用したベンチマークプログラムは下記のとおりだ。
- 総合ベンチマーク「AnTuTu Benchmark」
- CPUとGPUのベンチマーク「Geekbench 4」
- 3Dベンチマーク「3DMark」
- 3Dベンチマーク「GFXBench GL」
- 「iMovie」フルHD動画の書き出し時間を計測
- 「Lightroom for iPad」RAW画像の現像時間を計測
- Apple製JavaScriptベンチマーク「JetStream 1.1」
- Google製JavaScriptベンチマーク「Octane 2.0 JavaScript Benchmark」
- Mozilla製JavaScriptベンチマーク「Kraken JavaScript Benchmark(version 1.1)」
- 動画再生時の連続動作時間を計測(ディスプレイの明るさ50%)
なお、旧型12.9インチiPad Proは、2015年11月11日に購入して以来、ほぼ毎日使用している。当然バッテリが劣化しているので、連続動作時間はあくまでも参考にとどめていただきたい。
新型10.5インチ iPad Pro | 新型12.9インチ iPad Pro | 旧型12.9インチ iPad Pro | |
---|---|---|---|
AnTuTu Benchmark | |||
Total | 203,893 | 230,362 | 187,934 |
3D | 85,205 | 89,041 | 71,351 |
UX | 59,776 | 64,358 | 54,540 |
CPU | 47,272 | 60,308 | 49,342 |
RAM | 11,640 | 16,656 | 12,701 |
Geekbench 4 | |||
Single-Core Score | 3,913 | 3,891 | 3,144 |
Multi-Core Score | 9,180 | 9,141 | 5,273 |
Compute | 27,844 | 27,656 | 15,017 |
3DMark | |||
Sling Shot Extreme | 3,359 | 4,295 | 3,133 |
Sling Shot | 4,404 | 5,088 | 3,892 |
Ice Storm Unlimited | 53,574 | 53,572 | 36,422 |
GFXBench GL | |||
マンハッタン | 3,505 | 2,669 | 2,004 |
1080p マンハッタンオフスクリーン | 5,974 | 6,043 | 5,114 |
ティラノサウルス レックス | 3,348 | 3,350 | 3,339 |
1080p ティラノサウルスレックス オフスクリーン | 11,988 | 12,042 | 9,492 |
iMovie | |||
フルHD、5分 | 1分20秒28 | 1分20秒29 | 1分27秒54 |
Lightroom for iPad | |||
自動階調、15枚 | 56秒32 | 55秒76 | 1分32秒60 |
JetStream 1.1 ※Appleが開発したJavaScriptベンチマーク、数値が大きいほど高速 | |||
トータルスコア | 200.41 | 200.92 | 148.77 |
Octane 2.0 JavaScript Benchmark ※Googleが開発したJavaScriptベンチマーク、数値が大きいほど高速 | |||
トータルスコア | 31,529 | 31,512 | 22,568 |
Kraken JavaScript Benchmark(version 1.1) ※Mozillaが開発したJavaScriptベンチマーク、数値が小さいほど高速 | |||
トータルスコア | 971.1ms | 970.6ms | 1283.8ms |
連続動作時間を計測(ディスプレイの明るさ50%) | |||
ダウンロードしたミュージックビデオを連続再生 | 7時間56分25秒 | 8時間27分22秒 | 7時間59分53秒 |
今回ベンチマークを実施したさい、「AnTuTu Benchmark」、「Geekbench 4」、「3DMark」、「GFXBench GL」でスコアのバラツキが見られた。そのため今回は3回計測した値の平均値を掲載している。
前述のとおり、新型iPad Proは旧型と比べて、CPUの処理速度は30%、グラフィックスの処理速度は40%速くなっているとAppleは謳っている。しかし「Geekbench 4」のCPU性能を計測する「Multi-Core Score」で73%、GPU性能を計測する「Compute」で84%、新型12.9インチiPad Proが旧型12.9インチiPad Proより高速だというスコアが記録されている。これはいささか速すぎるので、なんらかの誤動作または相性問題が生じていると思われる。
ほかのベンチマークについてはおおむねAppleが発表している処理速度向上に則した結果だ。「GFXBench GL」の「マンハッタン」で新型10.5インチよりも新型12.9インチiPad Proのほうが大幅にスコアを落としているが、これは後者のディスプレイ解像度が高いためだ。
全体を通してみると新型iPad Proは順当に性能を伸ばしたと言える。これだけの性能をタブレット端末が必要かという疑問を持つ方もいるだろうが、秋に登場する「iOS 11」には、マルチタスキング、Appスイッチャー、Dock、ファイル、ドラッグ&ドロップなど多くの機能が強化、追加され、PC的な利用スタイルが可能になる。そのときこそ新型iPad Proの性能は有効活用できるようになるわけだ。
10.5インチと12.9インチのどちらを買うべき?
10.5インチと12.9インチのどちらを購入するかは悩ましい。携帯性を重視するなら10.5インチ、閲覧性や作業性を重視するなら12.9インチとなるのは当然だが、どちらに優先順位を置くかは人それぞれだ。
ただし、必ず事前にイメージしてほしいのがアクセサリ込みの重量。単体では10.5インチiPad Proは477g、12.9インチiPad Proは692gだが、Smart Keyboardを含めればそれぞれ723gと1,026.5gに増加する。常に携帯して使い倒したいのであれば、そのほかに持ち歩く荷物も含めたトータル重量を把握した上で、どちらを選ぶか決めてほしい。