山田祥平のRe:config.sys

災害時、かけがえのないデータを守るためにクラウドとローカル、どっちに頼る

 自分にとってかけがえのないものは自分で守る。でも、自分だけの力ではどうしようもないこともある。それでもデジタルの時代、そのデータを守る術は四半世紀前に比べれば圧倒的に柔軟になりつつもある。その時代に生きることができている幸せを活かさない手はない。

5年前を思い出してクラウドに依存

 東日本大震災から5年が経ち、あの時あれほど気持ちの上でつらい想いをしたことを、なんとなく忘れかけていた時に、熊本の震災が起こった。現地では今なお地震はやまず、不安な毎日が続いているようだ。被災された方々には心からお見舞い申し上げたい。

 何もかも捨てて逃げなければならないといった時に、自分だったら何を持ち出すだろうか。いや、何かを選んで持ち出すほどの余裕さえないかもしれない。だから、東日本大震災後、多くのデジタルデータをクラウドに置くようにした。日常の仕事で増えていく文書類、そして写真、リッピングした音楽などは、ローカルストレージとクラウドストレージを同期させ、いつも同じ状態であるようにしている。基本的にはこれでハダカで逃げ出したとしても失うものはないはずだ。

 文書類については大したたサイズではなく、これまでのものを全て合わせても数十GBで足りるが、写真については1TBを少し超えている。また、CDをもう一度購入すれば再入手が可能だから、音楽はかけがえのないデータというわけではないが、既に300GBに達していて、廃盤になっているような音源もそれなりにあるし、そもそも大量のCDをもう一度リッピングといったことは考えたくない。

 これらのデータを全てクラウドに置いておきたいのだが、Windows 10やOffice 365に統合されたOneDriveは1TB上限だから、それだけでは足りない。そこで有料のGoogleドライブなどを組み合わせ、いくつかのストレージにデータを分散させて管理している。

 手持ちのデータを丸ごとという点では、Acronis True Imageのようなソリューションもある。なんと言っても無制限のバックアップが可能だから心強い。最大20世代のバックアップができるので、誤ってファイルを削除してしまったり、重要な部分を書きかえて保存してしまった場合にも対処できる。また、OS込みでシステムを丸ごと保管してくれることで、ハードウェア自体のトラブルにも環境設定を含めてスピーディに対応ができる点に価値を見い出す層もいるだろう。OneDriveを補完するという点では有効なソリューションだ。

 これらのクラウドストレージは頼もしい存在で、仮に身一つで放り出されたとしても、あとで自分のかけがえのないデータを取り戻すことができる点で心強い。

クラウドの補完としてのローカルストレージ

 自分のデータは自分で守るというなら、サンディスク エクストリーム 510 ポータブルSSDのようなデバイスも出てきた。ゴム製緩衝材で防滴・防塵性IP55保護規格に対応、1.8mの高さから落下しても大丈夫で、雨、水はね、液体漏れ、埃の跡など、ある程度の危険にさらされても大事なデータが守られる。一般的なUSBストレージと違って、タフな構造を持つので、かなり安心できるはずだが、こればかりは試してみないと分からない点がやっかいだ。かと言って、壊れるまで痛めつけるわけにもいかず評価が難しい。

 ただ、こうしたタフな大容量ストレージに常日頃からデータをバックアップしておき、万が一の場合に持ち出せば、クラウドストレージのさらなるバックアップにもなるし、仮にデバイスを持ち出すことができなかったとしても、現場にデバイスが残されていれば、後でデータを救い出せる可能性がある。震災の爪痕としての瓦礫をTVなどで目の当たりにすると、それに耐えられるようなストレージがあれば、救えるデータもあるかもしれないと思う。

 デバイスそのものの使い勝手は良い。そして高速だ。ただ、このタイミングの新製品であればUSB Type-C対応がよかったと思う。また、ケーブルを装着する端子はカバーで覆われている。これは、より強固な防塵防滴を実現するためでもあるが、つい、めんどうくさくてキチンと締めなかったりしてしまう。それがかえって弱点になってしまうことが心配だ。

100年後、200年後の未来のために

 災害は滅多にやってくるものではないが、旅行や出張などの、日常とはちょっと異なるアクティビティでも同じような対処が必要だ。スマートフォンで撮影した写真をクラウドストレージにアップロードしておくことはもちろん、通信機能を持たないカメラで撮影した写真は、サンディスク エクストリーム 510 ポータブルSSD のようなデバイスにこまめにバックアップしておきたい。

 今週は、大型連休と言うことで、ちょっと東京を離れ、異国の地でのんびりしているが、旅のお供としてのSSDというのも心強い。カメラに装着しっぱなしのSDカードのデータを、宿に戻るたびにこのデバイスにコピーしておけば、カメラの盗難などにあっても、少なくともそれまでに撮影したデータだけは救えるだろう。

 クラウドへのバックアップは、旅先のインターネット接続環境ではスピードの点で満足できないことも多い。だからこそローカルストレージを使って高速にバックアップする。ラフな使い方をしてしまいがちな旅行中でも、ある程度の安心が得られるのはうれしい。

 実際、今、こうしてこの原稿を書いているベトナムでは、LTE通信は叶わず、モバイルデータ通信は3Gのみだ。現地のSIMが簡単に購入できるのはうれしいが、日常の高速データ通信に慣れている身からするとやっぱり遅い。ホテルのLANも決して速いとは言えない。

 だからこそ、独立したデバイスにスピーディにバックアップできるのはうれしい。もっとも、カメラのSDカードからSSDへのデータコピーには基本的にPCが必要だ。旅行にPCなど持参しないという層が増えてきている今、本当は、もう少し別の方法も考えなければならない時期にきているのかもしれない。

 備えあれば憂いなしという言葉通り、かけがえのない財産としてのデータは、日常の工夫で守ることができる。少なくとも失う可能性を限りなくゼロに近付けることができる。21世紀に入って、人々の暮らしはデジタルに依存する部分が増えてしまっている。データは失うのも一瞬だし、捨てるのも容易だ。そのデータをなんとか守れるように努めなければ、100年後、200年後の世界において、この21世紀の情報がほとんど残っていないというようなことにもなりかねない。データを守るという行為は、当然、自分にとって重要なことであると同時に、後の子孫に今という時代を遺すための努力でもある。

(山田 祥平)