山田祥平のRe:config.sys
オレオレ詐欺を防ぐ(かもしれない)モバイルテクノロジー
(2016/5/13 06:00)
ドコモが2016年夏モデルの発表会を開催、新端末7機種をはじめ、さまざまな施策、新サービスを発表した。退任が間近に迫るとされている現社長の加藤薫氏が率いるドコモが辿ってきた軌跡は、通信事業者がOTT(Over The Top)を超えようとするチャレンジだった。今回の発表会は、その集大成でもあるといえそうだ。
その場の空気感を伝える高音質VoLTE HD+
今回のサービス拡充でちょっと良いなと思ったのは、VoLTE音声通話の品質を高める「VoLTE HD+」のサービスインだ。高音質という謳い文句で華々しくデビューしたVoLTE。3Gの回線交換ではなく、LTEのデータ通信を使った通話サービスだが、その周波数特性はAMラジオ相当(50Hz~7kHz)だった。だが、VoLTE HD+では高域が14kHzまで伸び、FMラジオ相当になるという。デモンストレーションで聞く限り、圧縮音源特有のサチリ感がまだ残っていて、これをFMというには無理があるなとは感じたものの、音質の改善は著しいと感じた。
通話の音質が向上することで、電話の向こうの空気感が伝わりやすくなる。それは、例えばオレオレ詐欺にひっかかる被害者を減らすようなことにも貢献できるわけだ。良い音で聞こえる相手の声は、助けを求めているのが本当に自分の息子かどうかを判断しやすくする。急なSOSに狼狽してしまって、音の良い悪いもないような状況もあるかもしれないが、それでも悲しい結果に終わることを多少なりとも減らせるのなら、それはそれで良いことだ。それに、VoLTE HD+はコーデックの変更のみで実現できるため、通信事業者にとっても設備の大きな変更をほとんどしなくて済み、コストパフォーマンスの良いサービスだという。
LTEのような新しい世代の通信テクノロジーは、こうした付加価値サービスを導入しやすいという恩恵ももたらす。先般の熊本地震では、LINEが音声通話を公衆網に接続する「LINE out」を無料開放したことで、被災地の通信を輻輳させてしまう可能性が批判されてしまったようだが、IP通信をもっと積極的に使うような施策が東日本震災後もっと進んでいれば、そこまで悪くは言われなかったかもしれない。個人的には、モバイルジャーナリズムはキャリアにちょっと甘いんじゃないかとも思うくらいだ。
OTTに追いつけ追い越せ
近々交替が行なわれるドコモ社長の加藤薫氏の仕事の軌跡は、キャリアの頭越しにさまざまなサービスを提供する、GoogleやAmazon、Microsoftといった、OTTを超えようとしてきた歩みでもある。しかも、キャリアフリーでどのキャリアの加入者であっても利用できるサービスの数々の提供は、もう通信事業者のものとは思えないくらいだ。
そんな加藤社長の在任中にチャレンジして欲しかったのは、海外ローミング料金の値下げだ。今のサービス料金の中で、もっとも納得のいかないものの1つでもある。
海外に渡航するのが日本人の1割程度しかいない中で、そんなサービスの価格など関係がないと言われればそれまでだが、やっぱり海外パケホーダイ24時間2,980円というのは高すぎる。滅多にいかない海外旅行を数倍楽しくできるはずのスマートフォンなのに、これでは積極的に使おうという気にはなれない。
かといって、現地で現地キャリアのSIMを調達するというのはやっぱりハードルが高い。何度も訪れている国ならともかく、初めての渡航地で、右も左も分からない状態で、下調べしただけでSIMを購入するのは大変だし、その交換も厄介だ。そんなことはやらないで済むに越したことはない。
システムの構成要素が分離されているから分かりやすいベトナムSIM
このゴールデンウィークはベトナムで過ごした。
スマートフォンが有効に使えたおかげで、かなり効率的に過ごすことができた。ホテルを出て、ドアマンにGoogleマップで目的地を表示したスマートフォンを見せれば、タクシーのドライバーに行き先を伝えてくれる。目的地に向かっている間も、マップをトレースしていれば、おかしなルートで遠回りされていないかどうかもチェックできる。目的地は目的地で、観光地ならガイドブック代わりに、レストランならメニューの内容を調べるなど、本当にフル活用できる。
ベトナムには、ハノイへの直行便で到着、国内線に乗り継いでダナンに入り、フエに移動した後、再び国内線でハノイに戻った。最初に到着したハノイでは、飛行機が遅れたことと入国審査行列が長蛇だったおかげで時間がなく、SIMの購入はできなかったが、ダナンに到着後、空港で無事に手に入れることができた。
現地SIMを入手するまでの間、今回は楽天モバイルの新サービス「海外SIM」を試させてもらった。ベトナムは同サービスの規定するエリアの中で、もっとも高額なエリアになっている。なにしろ1MBあたり242円というから、確実にローミングした方が安い。ただ、アジアパック、アメリカパックなどお得なパックも用意されているので、上手く使えばローミングより安く済ませることもできるはずだ。とにかく大事なことは、何をどれだけ使うとどれだけカネがかかるかということを、きちんと計算して把握することだ。
ちなみにベトナム現地では、ViettelというキャリアのSIMを入手した。現地ではナンバーワンのキャリアである。ダナンの空港に到着し、預け入れた荷物を受け取って空港ビルの外に出ると、「SIMあります」的な幟が目に入ったのですぐに分かった。
購入にはパスポートも何も必要なかった。iPhone 6s Plusを渡すと、日本語設定のままであるにもかかわらず、全ての設定を済ませてくれた。価格としては、SIM代が100ドン、そのままでは残高ゼロなので、チャージのために100ドンで計200ドンだ。後で確認してみると、SIMに100ドンをチャージし、定額プランをSMSで申し込んで有効にしただけのようだ。このキャリアでは、191にプランの名前をSMSで送るとそのプランが有効になるようだ。
つまり、10分ほどの音声通話ができる残高のあるSIMに、約1GBの高速データ通信容量をつけたものが200K(200,000)ドンである。この国では街中でフォーを一杯食べると40K(40,000)ドン前後だからフォー5杯分といったところか。
200Kドンを日本円にすると1,000円程度だが、物価を考えると、現地の人にとっては決して安いとは言えないと思うが、旅行者にとっては格安だ。なお、ベトナムではLTEのサービスはまだ正式に始まっていないため、接続はすべて3Gだった。それでもナンバーワンキャリアだけあって、かなりの田舎に行っても安定して繋がり、2Gに落ちるようなこともなく快適にスマートフォンを使うことができた。
道中では、1GBではちょっと心細いと思い、別途200Kドンをチャージしておいた。容量を使い果たしたら追加の容量を購入するつもりだったのだが、ホテルのWi-Fiもあったため、11日間の滞在中は追加なしで賄えた。帰国日の朝に容量を使い果たし、50KB/secにスピードが落ちた旨のSMSが届いたが、SNSや地図を使うくらいならあまり不満のない速度が出ていたので、追加の容量を購入することなくそのまま使い続けた。
ベトナム語は全く分からないため、旅行中にGoogle翻訳がなければ手も足も出なかったに違いない。ちなみに追加の容量は、もっとも大きなもので500MBを30Kドン(約150円)で購入できる。これも191にSMSを送信するだけでいい。
とまあ、簡単なように書いているが、ここまで調べるのも結構な手間暇がかかるわけで、普通はできればやりたくないと思うに違いない。仲間内では「ローミングしたら負け」的な風潮もあったりするが、やっぱりローミングはラクチンだ。
後で分かったことだが、ベトナムではコンビニはおろか、露店のようなところでもカンタンにSIMが入手できる。追加チャージのためのコードだってどこでも買える。
空のSIMが売られていて、それに電話番号が付帯している。そこに任意の金額をチャージする。そのチャージ額を使って任意のインターネット接続プランを申し込む。容量がなくなったら追加容量を買う。通話をすれば残高が減る。残高がゼロになったら再び任意の額をチャージする。全てがバラバラなので、それがかえってシステム全体を分かりやすくしている。
街中にはケータイショップがそれなりに見つかる。店内をのぞいてみると、いわゆるガラケーが半分程度を占めているが、ハイエンドスマートフォンもちゃんとある。最新のGalaxy S7が75,000円相当だったから、価格は決して安いわけではない。ハイエンドからローエンドまで、予算に合わせて端末を選んで買う。
好きなスマートフォンをショップで買って、SIMを買って、チャージして、プランを申し込んで楽しむ。実に分かりやすい。あらゆるものを抱き合わせて、個々の価格が分かりにくくなってしまっているどこかの国の価格体系も、見習って欲しいところだ。
今回、ドコモは端末の刷新頻度について、これまでの年2回ペースを1回程度に減らす方針を明らかにした。同じメーカーの同じ機種を、全キャリアが扱うようになった今、もうそろそろ端末についてはキャリア独自仕様をやめにして、iPhoneのように全く同じハードウェアを全キャリア、そして量販店で売るようなスタイルにしてしまっても良いように思う。ネットワークとのインターオペラビリティテストは大変だとは思うが、加藤社長に続く次の社長には、是非そうしたところにもメスを入れて欲しいものだ。