“Windowsタッチ”徹底解剖

日本ヒューレット・パッカード「HP 2209t」レビュー




正面。クセのない直線的なデザインで、ベゼル幅はごく一般的といったところ。アイ・オー製品と同様、液晶パネルの方式は非公開

 日本ヒューレット・パッカード株式会社(日本HP)の「2209t」は、Windows 7に新しく搭載されたマルチタッチ機能「Window タッチ」に対応した液晶ディスプレイだ。同社のデスクトップPC「HP Pavilion Desktop PC」とのセット販売のほか、単体販売も行なわれる。メーカー直販サイトでの価格は39,900円だ。

 Windows 7に搭載されたことで注目が集まる格好となった「Windows タッチ」だが、対応機器の発売状況はそれほど活発であるとは言えず、2009年暮れの時点で入手が容易なのは、前回紹介したアイ・オー・データ機器の「LCD-AD221FB-T」のみという状況だった。国内メーカーがラインナップするPC本体は、あからじめWindows タッチに搭載している場合も多いが、自作ユーザがWindowsタッチを試そうにも、選択肢の幅がほとんどないというのが現状だった。

 ここにきてようやく、ディスプレイメーカー各社から、Windowsタッチ対応のディスプレイが発売されつつある。今回はその1つである日本HPの「2209t」を、前回レビューしたアイ・オー製品との比較を中心に見ていきたい。

●オーソドックスなフルHD対応ディスプレイにタッチ機能を追加

 「2209t」の基本スペックは、最大解像度が1,920×1,080ドットのフルHD仕様、画面サイズは21.5型、入力端子としてDVI-DとミニD-Sub15ピンを搭載しており、HDMI端子は搭載しないというものだ。これらの仕様は、前述のアイ・オー製品と酷似している。コントラスト比1,000:1、輝度264cd/平方m、応答速度5ms(中間色)、1W+1Wのスピーカー搭載といった仕様についてもほぼ同一。重量は6.4kgと、アイ・オー製品の6.2kgより若干重いが、タッチ操作時の安定性につながることを考えると問題があるというわけではない。

 アイ・オー製品がややスクエアな台座だったのに対して、本製品は楕円状の台座を採用している。チルト角度は上に20度、下は5度と、上方向のみ45度だったアイ・オー製品に比べるとやや狭い。またアイ・オー製品になかった機能として、左右30度のスイベル機能がある。プレゼンの際に画面を相手に向けるなど、頻繁に向きを変える用途であれば、本製品のほうが便利に使えるだろう。ピボットや高さ調節の機構がないのは、アイ・オー製品と同様だ。

背面。左下にケンジントンスロットを装備右側面。下部にスタイラスペン挿入ホールを備える
左側面。上方に20度、下方に5度の角度調整が可能
左右30度のスイベル機能を装備
アイ・オー製品の四角型と異なり、台座は楕円形
光学センサーはベゼルの裏側、正面から見て左上と右上にレイアウトされる光学センサーを搭載することから、ベゼル部の段差はそこそこある

 マルチタッチ対応のセンサーは光学式で、ベゼルの左上と右上に計2基が搭載されている。静電容量方式と異なり、指先はもちろん、爪やスタイラスペンでも操作できるのが特徴だ。本製品はベゼル右下部に収納できるスタイラスペンが付属しているので、画面に手の脂をつけたくない場合、また高めの解像度に設定していて指で操作しにくい場合は、こちらを用いるとよいだろう。

 本製品では本体正面下部に並ぶボタンを用いて各種調整が行なえるが、液晶ディスプレイとしての設定項目のみで、Windowsタッチに関する設定は、すべてWindows 7のコントロールパネル側で行なう。具体的な流れについては、前回の記事を参照してほしい。

調整ボタンは本体前面下部に装備。形状、配置はアイオー製品と同一本体右側面下部にスタイラスペンを挿入することができる付属のスタイラスペン。形状はアイ・オー製品と同一だ

●基本的な使い勝手はアイ・オー製品と同等。マルチディスプレイにも対応

 本製品は一般的なディスプレイ機能を利用するだけであれば、通常のDVI-Dケーブル(もしくはVGAケーブル)で接続するだけで動作する。Windows 7に搭載されるWindowsタッチ機能を利用するためには、映像ケーブルに加えて、PCとUSBケーブルで接続する必要がある。

電源内蔵なので電源ケーブルのみで配線可能入力方式はDVI-DとVGAのみ。USBコネクタはタッチ信号の伝送に使用する

 実際の使い勝手は、アイ・オー製品と特に変わらない。タッチ操作についても、ズームや回転、フリックなどひととおりの操作が問題なく行なえる。アイ・オー製品と同様、わずかに画面から浮いた状態でもタッチしたと見なされてしまう傾向があるので、タッチを連続して行なう場合は、画面からその都度、指を離すように心がけたほうが、正確な操作が行なえる。

 本製品のメリットの1つであるスイベル機能、つまり左右方向への首振りについても支障なく利用できる。マルチタッチの操作においては、あまりにもスタンド部が弱いとタッチのたびに向きが変わってしまう危険性があるが、実際に使った限りではスタンドの強度は十分にあり、タッチの際にスイングしてしまうこともない。安心して使えるレベルだ。

 液晶の視野角は上下160度/水平170度というのが公称値だが、垂直方向は数値以上に色の変化が激しいように感じられる。そのため、本製品をデスクの上に置いた状態で、寝そべって画面を下から見上げるといった用途にはあまり向かない。もっとも、タッチ中心に使うのであれば画面に正対して使うことがほとんどだと考えられるので、そうしたコンセプト通りの使い方においては、とくに支障はないということになる。

 多少気になるのは画面の映り込みだ。ガラス保護パネルで覆われたマルチタッチ対応液晶ディスプレイにつきものの問題だが、本製品の液晶パネルはグレア処理により映り込みが激しいように感じられる。気になる人は、購入前に店頭などでチェックすることをおすすめする。

 なお、アイ・オー製品にない特徴として、マルチディスプレイへの対応を謳っている点が挙げられる。本製品2台を用いてマルチディスプレイ環境を構築することで、ディスプレイ1とディスプレイ2にまたがる形で、タッチ操作が行なえるというものである。今回は実機での検証は行なっていないが、例えば展示会で本製品を並べてデモを行なう場合など、アイデア次第でさまざまな用途に使えそうだ。

●「Mahjong Titans」「ソリティア」をタッチでプレイする

 Windows 7発売から現時点で約4カ月が経つが、Windowsタッチでの操作を考慮したアプリケーションはまだ潤沢にあるとは言えない。前回はマルチタッチが利用可能なアプリケーションの例として、Webブラウザおよびフォトビューアを紹介したが、今回はWindows 7に搭載されているゲームから「ソリティア」と「Mahjong Titans」、さらにWebサービスであるGoogleマップを紹介しよう。

 これらのゲームおよびWebサービスは、いずれもWindowsタッチにより、従来のマウスやキーボードでは成し得ない操作性を実現している。なお以下の動画では、PCはエプソンダイレクトの「Endeavor MR3100」(Core 2 Duo 6400(2.13GHz)、メモリ2GB、HDD 160GB、Intel 965G Express)に、Windows 7 Ultimateをインストールして使用している。

【動画】「Mahjong Titans」を行なっている様子。タッチにより直感的に操作できる
【動画】こちらはおなじみ「ソリティア」。ドラッグ操作の練習にも最適
【動画】Googleマップはマルチタッチ操作による拡大縮小やドラッグに対応する

 なかでも「Mahjong Titans」はWindowsタッチのデモンストレーションとしての役割を持っているのではないかと考えられるほど、タッチ操作との親和性が高い。本製品のようなタッチ対応製品を購入した際、まずは気軽にタッチ操作を試してみたいという場合にはぴったりだろう。またWindowsユーザにとっておなじみの「ソリティア」についても、タッチで操作するとこれまでと違った面白さが味わえるので、あらためてプレイしてみるのも一興だろう。

●オーソドックスなマルチタッチ対応製品。ホワイトカラーの登場にも期待

 前回のアイ・オー製品の際も書いたが、やはりディスプレイを直接触って操作できるというのは、直観的という点では他のデバイスの追従を許さない。マルチタッチ対応の入力デバイスとしてはほかにタッチパッドもあるが、画面との間に距離があり、視線の移動が発生するという点でハンデになる。マルチタッチの入力デバイスの本命となるのは、やはりディスプレイではないかと思う。

 本製品に関しては、ハードウェア的にはおそらく前回のアイ・オー製品とOEM元が同じで、スタンド部だけが別設計ではないかと考えられる。本稿執筆時点で、アイ・オー製品のメーカー直販サイトでの価格は49,800円で、本製品(39,900円)がおよそ1万円安価なことになり、前者がポイント還元があることを考慮しても、お買い得感は高い。機能そのものはオーソドックスだが、マルチタッチ機能に対応したディスプレイを探している人は、候補に入れるべき製品だろう。

 なお、本製品に限らず光学センサー採用のWindowsタッチ対応ディスプレイ(PC一体型含む)に共通することだが、ベゼル部と液晶保護パネル面に段差があることから、画面の端にいくほどタッチがしづらい。このことはすなわち、Windowsのスタートボタンが押しづらいことを意味する。タッチ操作の利用頻度が高いようであれば、Windows側の表示設定をあらかじめ変更しておくことも視野に入れたい。

コントロールパネルの[コンピューターの簡単操作センター]→[コンピューターを見やすくします]→[テキストとアイコンのサイズを変更します]で大(150%)を選択し、メニューを大きく表示させることで、スタートボタンのタッチ操作が容易になる

 最後に余談だが、マルチタッチ対応ディスプレイは各社から徐々に登場し始めているが、いまのところブラックタイプのみの展開となっている。本モデルは同社製デスクトップPCとのセット販売をする関係もあり、ブラック筐体のみの展開だが、今後はホワイト筐体のモデルの登場も期待したいところだ。