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COMDEX Fall 2002 ビル・ゲイツ氏基調講演レポートOneNoteやSPOTなど新しい構想を明らかに
会期:11月18日~22日(現地時間) COMDEX/Fall開幕前日の17日、ラスベガス市内の巨大ホテルMGMグランドホテルにおいて、Microsoft会長兼CSA(最高ソフトウェア開発責任者)であるビル・ゲイツ氏による基調講演が行なわれた。ビデオで観衆を楽しませたあとで、同社の製品をわかりやすいデモで紹介していくゲイツ氏の基調講演は、すでにCOMDEXの風物詩ともいえ、これが無ければCOMDEXは始まらないといっても過言ではない。 ●クリントン前大統領やジョン・スカリー氏も登場した恒例のお遊びビデオ はじめにゲイツ氏は、2002年を振り返り、今年登場したり、ブレイクした技術、さらには逆にネガティブな要因となった出来事について語った。ゲイツ氏はPCの価格下落、無線LANの普及、CPUやハードディスクなどの高速化・大容量化の持続、Webサービスの普及を良い面、投資環境や経済のスローダウン、セキュリティ・著作権管理の問題が浮上したこと、ブロードバンドへの投資がややスローダウンしたことなどをネガティブな面としてあげた。そして、全体としては昨年のCOMDEXの基調講演でゲイツ氏が主張した“2000年から2009年までの10年間はデジタルの時代になる”という流れが継続していると述べた。さらに、Microsoftもこの流れを加速すべく、今後も研究開発に多大な投資を行なっていくことを強調した。 その後、恒例のビデオに移り、観衆を大いに盛り上げた。“behind the technology”と名付けられたビデオは、これまでのIT業界の発展を喜劇風に仕立てあげたものだ。登場人物は、恒例となったゲイツ氏、Microsoftの社長兼CEOであるスティーブ・バルマー氏、なんとアメリカ合衆国前大統領のビル・クリントン氏、さらにはAppleの元CEOジョン・スカリー氏などで、実に豪華な顔ぶれだ。例えば、バルマー氏はMicrosoftの失敗作として記憶されているBOBというアプリケーションに、バルマー氏がいかれているという話のような、お約束の自虐的なものや、ジョン・スカリー氏がNewtonのオタクであるなどの風刺もので、IT業界関係者ばかりの会場は大変な盛り上がりだった。
●SmartDisplayやWindows XP Media Center Editionなどの出荷を明らかに 引き続き、ゲイツ氏は家庭のデジタル化というテーマに話を移し、「すでに米国の家庭の70%にはPCがある。PCは家庭のデジタル化に引き続き重要な役割を果たすだろう」と述べ、PCをセンターとした家庭のデジタル化というゲイツ氏のビジョンを改めて強調した。そうした家庭におけるデジタル化を推進するデバイスとして、SmartDisplay(コードネーム:Mira)やhpのPCに搭載されたWindows XP Media Center Edition(コードネーム:Freestyle)を利用したデモを行なった。SmartDisplayのデモは、SmartDisplayを利用して友人とチャットやWebサイトの共有を行なうものだった。Windows XP Media Center Editionの方は、リモコンでテレビを見たり動画を再生したりと、いずれもデモ自体は今年のInternational CESなどで行なわれたものと同じで、特に目新しいものはなかった。 ただ、今回の基調講演では、リリース時期がより明確にされた。SmartDisplayは、来年の1月8日にViewSonicから出荷され、すでに同社のWebサイトで先行予約が開始されているという。また、2003年の第1四半期には、ヨーロッパやアジアのパートナー企業からも出荷されることが予想されると明らかにされた。Media Center Editionに関しては、新しいパートナーとしてGATEWAYとAlienwareが加わることが明らかにされ、出荷は今年末であると改めて確認された。 また、デモの途中ではWindows XPにバンドルされている動画編集ソフトのMovieMakerのバージョン2.0が公開され、すでにベータ版がMicrosoftのWebサイトで公開されていることも明らかにされた。MovieMaker2ではドラッグ&ドロップで簡単に作業できるほか、Windows Media 9の圧縮方式がサポートされており、15時間の動画を10GBに圧縮して保存することなどが可能になっているという。
●新しいOfficeファミリーとなるOneNoteの開発意向を表明 ホームの後はオフィスという訳で、ゲイツ氏はオフィスにおける生産性の向上という、PCの最も多い使われ方に関してのビジョンを語った。この中で、ゲイツ氏は「今日ここで、新しいOfficeファミリーを紹介したい。それがMicrosoft OneNoteだ」と述べ、将来のOfficeファミリーに加わる新しいアプリケーションの存在を明らかにした。OneNoteがどのようなアプリケーションかを一言で説明するのは非常に難しいが、ゲイツ氏の言葉を借りれば「アイディアを形にするのは難しいが、それを実現するのがOneNoteだ」ということになる。現在、ビジネスユーザーは様々なタイプの情報を扱っている。例えば、紙に書いたメモ、取引先から送られてきたPowerPoint形式の企画書、あるいはe-mailで送られてきた会議のメモ、あるいはPDFファイルのホワイトペーパー、Word形式の企画書、JPEGになっている現地の写真、ICレコーダで録音した会議のメモ……ちょっと考えただけでも実に多くの形式があることがわかる。ところが、それぞれ別々のビューアが必要であり、1つの形として全部を見るのは別々のアプリケーションを起動する必要がある。 これを1つのアプリケーションに貼り付けて、全部それが一度に見られて、しかも自分の思うように整理できたらどんなに便利だろうか……これがOneNoteのコンセプトだ。実際、基調講演のデモでも、Tablet PCで書いたメモに、関係する写真を貼り付けたり、あるいは思いついたことをテキスト形式で書き込む、さらには音声ファイルを貼り付けるなどを行なっていた。要するに、OneNoteという1つのアプリケーションに様々なデータを書き込んだり、張り込んだりして、例えばあとで番号を付けるなど自分の望むように整理していく、これが目的のアプリケーションだと考えることができるだろう。 他社のアプリケーションのファイル(例えばPDF形式)はどうするのかなどの課題は残ると思うが、コンセプトは非常に優れていると思う。今回Microsoftは、Tablet PCを利用してデモを行なっていたが、こうしたアプリケーションの登場はTablet PCの価値を増すことになるだろう。今回の基調講演では特にリリース時期などは明らかにはされなかったが、大いに期待したいアプリケーションだ。
●Kinko'sを例に.NETのメリットを具体的な形で見せる さらに、ゲイツ氏は、同社が今後のテーマとして推進している.NETについて、具体的なメリットを見せるデモを行なった。Microsoftの関係者が印刷しておくべきだったファイルを忘れていてという状況から始める寸劇を見せた。その関係者は印刷をWindows.NETのWebサービスとして提供されるKinko'sの印刷サービスを利用するというストーリーで、これまた.NETのサービスとして地図サービスを呼び出し、近所のkinko'sを探しWeb経由で印刷サービスを利用するというものだった。.NETではアプリケーションをインストールしなくとも、Webサービスとして利用することで、様々な形で利用することができるようになる。そうした可能性をかいま見せた今回のデモは、何かと話題ばかりが先行していて、いまいちエンドユーザーのメリットが見えにくかった.NETのアピールとしては成功したということができるだろう。 また、ゲイツ氏は「Windows .NET Server 2003のRC2はここ数週間のうちに出荷することができるはずだ。製品版のリリースは4月頃になると予測している」と述べ、.NETの基盤となるWindows .NET Server 2003の開発が順調に進んでおり、予定通り2003年にはリリースできるということを強調した。
●3年前から秘密裏に開発してきたSPOTの概要を公開 「我々はこのプロジェクトを3年前から行なってきた」とゲイツ氏は、同社が暖めてきたSPOT(Smart Personal Object Technology)と呼ばれる新しいプロジェクトの概要を明らかにした。そのSPOTの一種としてスマートアラームクロックという例が紹介された。これは時計だが、単なる時計ではなく、エージェントの役目を果たしたり、様々な情報を画面に提供する。例えば、朝7時の飛行機に乗らなければならないというスケジュールがスケジュール帳に入っている場合、自動でアラームがセットされ、例えば6時にアラームがなる。また、もし空港までの道が渋滞しているという情報がある場合には、それを自動で読みとり、もう少し早い時間に鳴らすなどを自動でしてくれるという。 やや例がわかりにくいため、全体像をつかむのが難しいSPOTだが、おそらくその本質はセンサーコンピューティングではないだろうか。コンピュータが周りの状況を自分で関知し、それにあわせた情報をユーザーに提供するというのがセンサーコンピューティングだが、おそらくSPOTはそのソフトウェア部分を提供するものなのではないかと思う。 センサーコンピューティングは、ハードウェアメーカーでもかなり開発が進んでおり、Intelのような半導体メーカーが取り組んでいるほか、ソニーは試作機もすでに公開している。将来かなり有望な市場と見る業界関係者は少なくない。そこで、Microsoftもその市場に参入したいという意思表明なのではないだろうか。 なお、ゲイツ氏はSPOTに対応したハードウェアは、NationalSemiconductorが担当することを明らかにした他、SPOTの出荷は来年にも行ないたいという意向を明らかにした。
●すべてはLongHornへ、PCの形は大幅に変わっていく 最後にゲイツ氏は、「今回あげたようなことは、すべてが次世代の大きな変革となるLongHornにまとめられる」と述べ、同社がWindows XPの次のバージョンとして開発を進めているLongHornに、今回話したような成果が盛り込まれると述べた。そしてゲイツ氏は「LongHornで、PCの形は現在のものと全く変わったものになるだろう」とし、今後も革新を続けていくことが新しいビジネスチャンスを創造することになるとまとめた。
□COMDEX Fall 2002のホームページ(英文) (2002年11月19日) [Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング / Photo by 矢作晃、平澤寿康]
【PC Watchホームページ】
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