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空気も水もない月になぜか錆。NASAが導いた答えとは
2020年9月7日 16:35
空気や水がないはずの月に「錆」が存在する証拠が発見された。
2008年にIndian Space Research Organizationが打ち上げた月探査機チャンドラヤーン1号から得られたデータを再調査した論文において、錆の一形態であるヘマタイトの存在が示されたもの。ハワイ大学のShuai Li氏らにより研究が進められ、月面鉱物マッピング装置(M3:Moon Mineralogy Mapper)が検出したスペクトルから、月の極地がほかの部分とはまったく異なる組成を持つことが明らかとなった。
M3が撮影した合成画像によれば、月の極地に水が集中していることがわかる。この極地の岩石のスペクトルに着目したところ、ヘマタイトの兆候が発見された。Li氏は、酸素や液体の水がない月には本来存在するのが考えにくい、酸化鉄の一種であるヘマタイトがなぜ存在しているのか研究を進めた。
地球や月は太陽風を受けており、これには水素が多く含まれる。ヘマタイトの生成には酸化が必要だが、還元剤として作用する水素はこれを妨げる要因となるため、月はヘマタイトの生成には不向きな環境であると考えられる。
論文では、月の環境でどのようにしてヘマタイトが生成されたかの説明として、3つの要素を挙げた。1つ目は酸素。月に大気はないのだが、実際には微量の酸素が存在している。これは地球に由来しており、地球の磁場は吹き流しのように伸びているが、この磁気尾部に上層大気の酸素が乗って月に辿り着いたもの。M3から得られたデータとも一致していて、月の表面でも地球に面している側の方がヘマタイトが多く見つかっているという。
2つ目は太陽風。地球の磁気尾部には太陽風による水素を中和する効果があり、月の軌道のうち特定の時期(満月の時期)には太陽風の99%以上を地球が遮断する。これによって、月の周期のなかでヘマタイトが生成可能となる期間が発生する。
3つ目は水。月の大部分は干からびた状態だとされているが、月の裏側にあるクレーターには水の氷が発見されている。一方でヘマタイトはこの氷から離れた場所で見つかっている。Li氏は、月面に存在する水分子に着目し、月に定期的に浴びせられる塵の粒子が表面の水分子を放出し、月の土壌に含まれる鉄分と混ざりあっているという説を提唱している。
水がどのように岩石と作用しているか正確に調べるには、さらなるデータが必要となるが、これにより、月の裏側でも少量のヘマタイトが形成される理由を解明する手がかりも得られる可能性があるという。
NASAは2021年より、月の研究のための新たな危機や技術実験を予定しており、Jet Propulsion Laboratory(JPL)では軌道探査機Lunar Trailblazerに向けて新たなM3を製作している。