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「日本はNVIDIAが最も優先しているハイエンド市場。ニコ生への対応も検討」

~GeForce責任者のジェフ・フィッシャー氏インタビュー

ジェフ・フィッシャー氏

 今回、米NVIDIA上級副社長GeForceビジネスユニット担当のジェフ・フィッシャー氏にインタビューする機会を得た。フィッシャー氏はNVIDIAの製品がGeForceしかなかった時代から21年間同社でGeForceを担当し、今ではGeForce事業を統括する立場にいるが、日本だけでなく本国でもあまりインタビューを受けることはないという。今回、そのまたとない機会に恵まれた。NVIDIAが現在、GeForceおよびPCゲーミングを取り巻く環境をどのように見ているのか、そして日本市場をどう捉えているのかなどを聞いてきた。

PCゲーミング市場の成長を支えるeスポーツ

 フィッシャー氏は「今はGeForceにとってもっともエキサイティングな時代」だという。と言うのも、今の若い世代はゲームが登場して以降に生まれており、世界中でゲームが本や音楽、映画などを超え、最大のエンターテイメントビジネスに成長しているからだ。

世界のゲーマー数は17億人で、市場規模は映画や音楽より大きい

 また、直近のゲーム開発者会議での開発者に対するアンケートでは、多くの人が今後最も注力するプラットフォームはPCと答えたという。これについて、弊誌読者であればご存じの通り、PC市場は横ばいか減少を続けているので、奇妙に思うかもしれない。しかし、Steamのユーザー数は1年間で7,500万人から1億2,500万人にまで増えていることも示しているとおり、ゲーミングPC市場は世界で年8~10%の成長を続けているのだ。NVIDIAの試算によれば、ある程度のグラフィックレベルのゲームを週1回以上プレイするPCゲームのコアユーザーの数は3億人に達している。

PCゲームの売上は年8%程度の成長。Steamユーザーは1年で2倍近くに

 その成長の原動力は何なのだろうか? 大きな要素の1つはeスポーツだ。若い世代は、League of Legends、Dota 2、Heroes of the Stormといった競争型のゲームに魅力を感じている。フィッシャー氏は、「こういうゲームにはPCが最適なプラットフォームである」と語る。なぜならば、より緻密な操作ができるキーボードとマウスが標準装備であり、ゲームコンソールよりフレームレートは高く、遅延は低い。また、基本的にTVと組み合わせるゲームコンソールより、PCのディスプレイは目からの距離が近い点も見逃せないとフィッシャー氏は指摘する。

ハイエンドGPUの割り当ては日本を最優先

 もう1つの成長の原動力が、eスポーツのソーシャル性だ。今では、大きな大会はもちろんのこと、普段のプレイも動画SNSを使って、録画やリアルタイム動画を公開するのが普通になってきた。今ではeスポーツのプレイ人口以上の視聴者がおり、その規模は、F1やNFLなどのスポーツと同等だという。こういった状況は特にアジアや欧米で顕著だが、フィッシャー氏は、日本はまだ今立ち上がりの時期だと見ている。

eスポーツはプレイ人口も視聴者人口も大きく伸びている

 一方で同氏は、日本市場は世界のゲーミング市場でもっともハイエンド指向だとする。実際、日本で購入されるGeForce採用PCのうち、75%がGTXブランドを搭載しているという。これは他のどの国より突出している。また、新ハイエンドGPU発売の際の初動4週間でも、日本がもっとも購買数が多い。この事実を受け、NVIDIAでは、ハイエンドGPUについては、日本に最も多くの数を出荷するようにしているという。

 ただし、前述したとおり、日本のeスポーツ市場はまだこれからという状況だ。本格的な普及にはeスポーツの楽しさを伝える啓蒙活動も必要となる。その点で、NVIDIAはどのようなことを考えているのだろうか?

 今回の来日に当たり、フィッシャー氏は、日本のスタッフとこの点についてすでに長時間の議論を行なったという。eスポーツは競争であり、ソーシャル性もある。同社では、こういった点は日本ユーザーに受け入れやすいものであると考えており、具体的な計画立案はこれからだが、日本のeスポーツコミュニティと密接に関わり合いながら、多くの投資も行なっていくと答えてくれた。

ニコ生への対応も本社レベルで検討

 GeForceは直近の四半期において外付けビデオカードの出荷シェアで8割を誇り、約1億台のゲーミングPCで使われるなど、好調を博している。だが、NVIDIAはその状況に甘んじることなく、時流に沿ったより良い体験を提供することを目指している。

 ゲームプラットフォームとしてコンソールよりPCが選ばれる理由の1つは、オープンなエコシステムの存在だ。PCでは、好みのスペックのものを買い、パーソナライズできる。しかし、そのせいで、ゲームを自分のPCで最大限動かすには、さまざまな設定項目を最適なものにする必要がある。これは、実に労力のかかる作業だ。

 そこで、NVIDIAが提供しているのが、GeForce Experience(GFE)だ。このアプリには200以上のゲームプロファイルが登録されており、搭載しているGPUに合わせて、1クリックでゲームの設定を最適のものにできる。言うと簡単なようだが、その実現のために、NVIDIAのラボでは新しいゲームが登場する度に、発売前までに全ての設定項目を試し、GPUごとの最適解を探るという地道な作業を行なっている。また、GFEを利用することで、最新のゲームに最適化されたドライバが自動的にインストールされる。

 さらにGFEには共有機能も搭載されている。これまでGFEには、ゲームプレイの録画機能があり、YouTubeへアップロードしてプレイ内容を友人などと共有できた。現在では追加機能として、TwitchおよびYouTube Liveへのリアルタイム配信機能と、遠隔協力プレイ機能が開発されている。詳細は関連記事を参照されたいが、ネットワーク経由で自分が持っているゲームを友人に協力プレイさせることができる。これらの機能は9月中にベータ版が提供予定だ。

 この点について、日本で観客を巻き込んでeスポーツを普及させるには、ニコニコ生放送への対応は不可欠だろう。果たしてGFEがニコニコ生放送に対応する可能性はあるのか?

 実は、これについてもフィッシャー氏は、今回日本スタッフと協議を行なっていたという。そして、フィッシャー氏は米国本社へそのフィードバックを持ち帰り、対応を検討したいと語ってくれた。

自社ブランドVR HMDの可能性は?

 VRもゲーミングPCを強く後押しする要因となっている。VRはぱっと出のものではなく、かなり以前から試行錯誤されてきたものだ。しかし、Oculus Riftが出てきたことで、ようやく快適にVRゲームをプレイできる環境が整った。VRゲームをプレイするには片目だけでフルHDで90fpsという描画が必要で、高性能なPCが求められる。

 ドライバの迅速な提供や最適化はVRにも効果が高い、いや、むしろVRこそ最適化が必要だとフィッシャー氏は語る。というのも、液晶ディスプレイでプレイする際には一時的にフレームレートが下がっても大きな問題は生じにくいが、VRでは90fpsを維持しないとVR酔いを引き起こしてしまうからだ。そのため、同社はVR専門のスタッフも配備し、最適化に取り組んでいる。

 ところで、NVIDIAは、GPU以外で「3D Vision」や「SHIELD」といった自社ブランドの周辺機器や本体も出している。NVIDIA自身がVR HMDを開発する予定はないのだろうか?

 この質問に対するフィッシャー氏の回答は次のようなものだった。「我々は困難でエンドツーエンドな課題に取り組むのが好きだ。その成果がGeForceだったり、3D Visionだったり、G-SYNCだったりする。だが、我々が取り組むのは、他社が取り組んでいないものだ。HMDではすでにOculusやHTCといった先行するプレイヤーたちがいる。そのため、自社で開発することはなく、彼らと協業する形で、より高いフレームレートや、より低い遅延といった付加価値を提供していく」。

 NVIDIAでは、ゲーム開発者に対しても、「GameWorks」という開発支援のプラットフォームを用意し、これによってゲームがGeForceに最適化されるよう促している。例えば、炎や煙、水、髪の毛などの物理シミュレータを提供することで、アーティストではないプログラマがゲーム内でリアルな炎や水などを表現できるようになる。これについては、VRへの対応も進めており、現在VR SLIやマルチ解像度シェーディング、ダイレクトモードに対応したベータSDKを提供し、性能改善を図っている。

 実はGeForce事業部のエンジニアの半分はソフトウェア開発に従事しており、こういったことを支えている。

 さて、ある程度のグラフィックレベルのゲームをプレイするには外付けGPUが必須だ。GeForceで言えば「GTX」クラスの製品が求められるわけだが、ユーザーはその中のどれを選ぶべきなのだろうか? フィッシャー氏は、1つの指針を示してくれた。

 一般的に、MOBA(マルチプレイヤー・オンライン・バトル・アリーナ)系はグラフィックのレベルが下げてある。しかし、通常のゲームが60fpsで快適にプレイできるのに比べ、MOBA系では素早い反応をするには120fpsが欲しくなる(もちろんディスプレイ側の対応も必要となる)。その点を加味すると、AAA系と呼ばれるグラフィックが重いゲームに対して、1ランク下のGPUがちょうど良い物になるそうだ。具体的には、AAAの場合、1080pならGTX 950/960、1440pなら970~980、4Kなら980 Ti、そしてMOBAの場合、1080pは950、1440pは960~970、4Kは980となるそうだ。また、1080pのVRの場合は980~980 Tiを推奨している。

GTXのラインナップと、対応するフレームレート・解像度のマトリックス

(若杉 紀彦)