日本マイクロソフト株式会社は13日、奈良県と地域活性化協働プログラムで提携すると発表。奈良県庁で覚書締結式を行ない、日本マイクロソフトの樋口泰行社長と、奈良県の荒井正吾知事が調印した。
日本マイクロソフトの地域活性化協働プログラムは、ICTの利活用を通じた地域活性化を目的としており、個人や団体、組織がそれぞれの可能性を最大限に引き出すことで、豊かな暮らしやすい地域づくりを目指すもの。2011年は、すでに山梨県、岡山県と提携を発表。2010年の千葉県、神奈川県、山形県、2009年の高知県、鳥取県、徳島県、佐賀県と提携しており、今回の奈良県がちょうど10件目の提携となる。
奈良県との提携発表は、2011年3月14日に予定されていたが、東日本大震災の影響で締結が遅れていた経緯があり、今回の覚書締結を待たずに、一部のプログラムがすでにスタートしているという。
日本マイクロソフトの樋口泰行社長 | 奈良県の荒井正吾知事 |
覚書締結式が行なわれた奈良県庁 | |
両者が調印している様子 | 両者が調印した覚書 |
今回の提携では、奈良県内のNPOが自立的かつ継続的に活動するための基盤強化を図る。県内のNPO団体などを対象にITスキルを活用した運営ノウハウを習得する講座を実施するなどの「NPO基盤強化プログラム」、シニアへのICT利活用の利便性の啓蒙活動や、シニアを対象にICTの普及に取り組む団体などを対象に講師となる人材を育成する「シニア等のICT活用推進プログラム」、県および市町村の情報システムに携わる職員に対してクラウド時代に対応できるセキュリティスキルを習得する研修を実施する「セキュリティ啓発プログラム」、教職員のICT活用向上と学習支援を目的としてeラーニング形式のトレーニングシステムなどを用いた研修実施、県下の高校生を対象にプログラミング開発ツールを提供する「教育分野人材育成プログラム」、地域医療を推進する上で必要となるICT導入の利活用促進の方策を探るとともに、医療施策を牽引する人材育成を協働で行なう「医療機関関係者向け支援プログラム」で構成させる。
医療機関関係者向け支援プログラムは、山梨県との提携に続いて2県目。また、教育分野人材育成プログラムでの高校生向けの開発ツールの提供、セキュリティ啓発プログラムでの職員を対象にした研修は、奈良県が初めてとなる。
期間は2011年4月16日~2012年3月31日までの約1年間で、日本マイクロソフトでは、企画立案、講師派遣、講師および技術者の育成、教材ソフトウェアの提供などを行なう。また、奈良県では企画立案のほか、会場提供や県民に対する広報活動などを行なう。
奈良県の荒井正吾知事は、「数々の民間企業や大学との提携の中で、日本マイクロソフトとの提携は最初からメニューが用意されており、地域のICT利用の活用という観点からも意味があるものだ。今回の提携の範囲である5つの項目はいずれも重要なものであり、医療分野においては電子レセプトなどの新たな分野に踏み出したり、教育分野ではヒエラルキー型の考え方を、ネットワーク型へと転換するという点でも期待しており、技術だけでなく、考え方にも踏み込んだ効果を期待している。また、県庁内、民間企業、教育分野、医療分野において、キーになる人材を1人でも多く生みたいと考えている。それが最大の目標である」とした。
一方で、小学校から高校までを奈良県で過ごした日本マイクロソフトの樋口泰行社長は、「県別のICT利活用状況をみると、リテラシーの観点で奈良はもっと高めることができると考えている。今回の提携内容は、クラウドのトレンドを受けて、クラウドを最大限利用したものになっている。5つの分野の協業は、これまでの他県との協業と比べても幅広い分野に渡っており、どのプログラムでも大きな効果が出ることを期待している」とした。
奈良市内の登大路ホテルで行なわれた「第6回ふるさとカフェ」の様子 |
樋口社長は、会見後には、奈良をふるさととする著名人や有識者が荒井知事と対談する「第6回ふるさとカフェ」にゲストとして参加。奈良県の思い出として、「子供の頃には、卓球に打ち込んでおり、団体戦で優勝したりといった思い出がある。ICTによって、奈良の観光資源の活性化などにもつなかればといいと思う」などといった話も披露した。同内容は奈良県のホームページからの動画配信が予定されている。
今回の提携の内容は、奈良県ならではの状況が強く反映されているといっていいだろう。
奈良県総務部情報システム課の杉中泰則課長 | 奈良県総務部情報システム課の鎌仲益巳課長補佐 |
日本マイクロソフト 社長室・牧野益己室長 | 奈良県総務部情報システム課情報システム最適化マネージャー、CIO補佐官の野田和徳参事 |
奈良県総務部情報システム課の杉中泰則課長は、「奈良県は市町村合併が進んでおらず、1万人以下の自治体の数が7割を占める。数百人規模の村もあり、一人何役もの仕事をこなしている自治体職員も多い。ICTを利活用しない限り、新たな業務に対応できないという問題もある。職員に対するセキュリティ啓発プログラムの実施も、そうした状況の改善のきっかけの1つになればと考えている」とした。
また、奈良県総務部情報システム課の鎌仲益巳課長補佐は、「将来の人材の育成として、高校生を対象に、開発ツールの提供を行なうことになる」と語ったほか、奈良県総務部情報システム課情報システム最適化マネージャー、CIO補佐官の野田和徳参事は、「教職員のICT活用向上では、普通科高校の教員なども対象に展開していくことで、教育分野でのICT利活用を促進したい」と今後の展開を話した。
さらに、日本マイクロソフト社長室・牧野益己室長は、「医療分野での取り組みは新たなICT利活用の提案になる。その点での今回の協業が生かせないかどうかを期待している」とした。
一方で、今回の協業では他県との協業で行なわれているベンチャー支援プログラムが盛り込まれていないが、野田和徳参事は、「奈良県はベッドタウンとして発展した経緯もあり、ベンチャー企業が少ないという背景がある。今後、日本マイクロソフトの支援プログラムに対応できるベンチャー企業などがあれば検討していきたいと考えている」などとした。
(2011年 6月 13日)
[Reported by 大河原 克行]