DAISY(デイジー)コンソーシアム、財団法人日本障害者リハビリテーション協会、およびマイクロソフト株式会社は6日、電子書籍のバリアフリー化を目的とした、Word向けアドインソフトを提供開始した。これにあたって3者の代表者が記者会見を行なった。
DAISYコンソーシアム会長の河村宏氏 |
「DAISY」とはDigital Accessible Information Systemの略で、視覚や読字に障碍を持つ人のための機能を持った電子書籍の国際標準規格。スイスに本部を持つDAISYコンソーシアムが策定し、無償提供している。今回、DAISYコンソーシアム会長の河村宏氏がDAISYについて説明した。
具体的な機能としては、ナビゲーションシステム、テキストの音声読み上げ、読み上げ部分のハイライト表示、文字の拡大、色の反転などが容易に行なえる。XMLをベースとしており、PCはもちろん、携帯電話でも再生できる。欧米では電子教科書や電子書籍のフォーマットとして採用されている。
一般的に印刷された書籍を読むことが難しい人というと、全盲の人を思い浮かべるが、実はこれ以外にも、小さな文字や特定の色が読みづらい弱視の人、視力はあっても、視覚からの情報を理解するのが難しい読字障碍(ディスクレシア)、腕や体がうまく動かせないため本を持って読むことが難しい人、外国籍など日本語文章を読む学習機会に恵まれなかった人などがいる。
河村氏はこれらの人を「忘れられた潜在的読者層」と表現するが、電子書籍をうまく活用することで、こういった人たちも書籍にアクセスできるようにしようというのがDAISYコンソーシアムの基本的な取り組みだ。
電子書籍では市販品向けにIDPF(International Digital Publishing Forum)が定める「EPUB」という規格がある。こちらもXMLをベースとしており、河村氏によるとEPUBにマルチメディアや数式のアクセシビリティを強化したものがDAISYであるという。
EPUBは現在、日本電子出版協会(JEPA)が主体となって、縦書き、禁則処理、ルビなどに対応する日本語要求仕様案を策定しており、4月1日に公開。今後対応が進められる。
DAISYコンソーシアムではDAISY4、IDPFではEPUB3という次の規格の策定作業を進めているが、これらの規格では両者の統合がさらに進む予定となっている。具体的には、DAISY4では動画および日本語を含む各国語への対応を盛り込む。このうち日本語対応については、両者で共通の実装を行なうという。また、河村氏は両者のワーキンググループも統合させたいとの意志を明らかにした。
DAISYとは | DAISYとEPUBの関係 |
続いて、マイクロソフト最高技術責任者の加治佐俊一氏が、「DAISY Translator」について解説した。DAISY TranslatorはWord(XP/2003/2007)用のアドインで、Wordで作成した文書をDAISY書式に変換する。
従来、DAISY書式に基づく文書を作成するにはXHTMLについての知識とコーディングが必要だった。このツールを使うと、表題、見出し、本文など文書にスタイルを指定し、あとはメニューから変換を選ぶだけで、DAISY文書が出力される。
Windows 7には日本語のスピーチエンジンは標準搭載されていないが、マイクロソフトでは障碍者向けに無償で提供している。これを利用すると、合成音声によるMP3ファイルも自動的に作成され、音声が埋め込まれたDAISY文書ができあがる。
DAISY文書はWordでは再生できないが、DAISY Translatorやそのほか各種再生ソフトなどは財団法人日本障害者リハビリテーション協会のサイトから無償(一部申請が必要)でダウンロードできる。
同協会情報センター長の野村美佐子氏は、'98年からDAISYの研究、普及活動を行なってきたが、今回のツールにより、今まで専門的で難しかったDAISY準拠の教材を教師が簡単に活用できるようになると語った。
マイクロソフト最高技術責任者の加治佐俊一氏 | Wordで普通に作成した文書 | DAISY Translatorをインストールし、文書にスタイルを適用 |
後はメニューから変換を選び、タイトルなどを入力するだけで出力される | DAISY再生ソフトで表示したところ。文字の大きさや、色などは見やすいよう変更できる | 財団法人日本障害者リハビリテーション協会情報センター長の野村美佐子氏 |
【動画】DAISY Translatorで作成した音声付きDAISY文書を再生しているところ |
(2010年 4月 6日)
[Reported by 若杉 紀彦]