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オートデスク、設計とエンジニアリングの未来を体験できるイベントを開催中
~「連携の時代」のデザインとワークフローを提案
(2015/10/23 19:32)
2D/3D設計ソフトウェアで知られるオートデスク株式会社が、同社の製品を活用して作られた製品群をピックアップした一般公開ギャラリーイベント「Autodesk Gallery Pop-up Tokyo」を、10月23日~11月8日の日程で、表参道にある「BA-TSU ART GALLERY」にて開催している。
テーマは「『The Future of Making Things』~創造の未来~」。デザイン/設計とエンジニアリングの未来を体験することを狙いとしたギャラリーで、建築、映像、製造、ファッション、アートなどの展示のほか、トークイベント、各種ツール類を実際に使うワークショップが行なわれる。入場やイベントの参加はすべて無料。
今はモノづくりにおいて破壊的変化が起きている「連携の時代」
オートデスクは本社のあるサンフランシスコに常設展示を置いているが、ギャラリーイベント「Pop-Up」の開催はパリに続いて東京が2回目。初日の23日には、イベントの概要や同社の事業戦略をブランド&コミュニケーション担当副社長のグレッグ・エデン(Greg Eden)氏が記者たちに解説した。
グレッグ・エデン氏は、同社のミッションを「より良い世の中のために考え、デザインし、創造しようとする人々を支援すること」だと話を始めた。同社には数億人の顧客――建築家 デザイナー、メイカー、クリエイター、学生、趣味で使う人などがおり、彼らが同社のツールを使って世界を作り出している。車、プロダクト、建物、そして映画やゲームにおいてもさまざまな製品でオートデスクのツールが使われている可能性は高い。
オートデスクが設立されたのは1982年で、30年以上前に遡る。中心となる考え方は、世界を作り出し、デザインのための技術を提供していくというものだった。当時から、技術は少数の人だけのものではなく大衆に使ってもらうものであり、「全ての人にデザインに参画してもらいたい」という考え方があったという。技術を多くの人に使ってもらえるようにすることで、不可能を可能にしていくという考え方だ。これは今でもオートデスクの考え方の柱だとエデン氏は述べた。
エデン氏は、歴史を振り返ると、同社の製品は3つの時代を経て貢献してきたと続けた。最初は「図面の時代」である。PC上で2Dの図面を起こせるようにし、オートデスクが生まれた。それ以前は紙と鉛筆が使われていた。今では2次元図面をPC上で作ってCADの作業するのは当たり前でシンプルなことだと思われている。だが当時は破壊的な技術だった。
次は「最適化の時代」だ。2次元図面から3Dモデルを作り、さらに、物理的にモノを作る前に、デジタル世界でシミュレーションを行ない、検証ができるようになった。たとえばビルを建築する前に、原材料も含めて設計/検証できるようになっただけでなく、実際にその建物内部をどう使うかも検証ができるようになった。それによって、設計段階で製品のパフォーマンスを上げることができるようになった。
そして3つ目が「連携の時代」だ。この時代は始まったばかりだという。今は最適化を超えて、製品がほかの製品や使われる環境と、どのように連携していくのかまで含めて検証できる。製品単体のデザインだけではない。ほかのモノと、どんな文脈で、どのように連携するのかを考えた上でデザインしていくことができるようになった。
そして今ではさまざまな手法が業界を超えて統合されてきているという。建設会社が製造業や、メディアやエンターテイメント業界にも目を向け、ビジュアル技術を使うようになっている。エンターテイメント業界も、製造業が製品製造を行なう手法と同じ原則を自分たちのビジネスに取り入れようとしている。
エデン氏は、「連携の時代」においては、全ての業界に影響を与える3つの破壊的現象、状況を刷新する現象が起きているという。まず、世界がグローバルに繋がり連携し始めている。以前は「コラボレーション」といっても、デザイナーは会議室の中で協力作業をしていた。だが今は世界中のチームがコラボレーションできるようになっている。オートデスクのツールも、その新しいやり方において活用されているという。3Dプリンティングに代表される物理的なものの作り方の変化もある。そして、クラウドコンピューティングの影響もある。クラウドコンピューティングによってこれまでにない高演算能力が使えるようになった。今では、どんなデバイスを用いても、どこででもデザインができるようになっている。
「連携の時代」における2つ目の変化は、市場の需要変化である。顧客が欲しいものを買うときの買い方が変わってきている。現在のコンシューマは、どういう会社が作っているのかだけではなく、どういう風に作られているのか、すなわち原材料や工程などがこれまでよりも重視されるようになっている。
3つ目が製品そのものの変化である。全てが製品に対しても影響を与えている。ビルも携帯電話、クルマ、映画や高速道路なども1つの製品だ。これらが深く連携する時代になっている。しかも製品同士が繋がるだけではなく、使われる環境とも連携していく時代になっている。
先見性がある例としてエデン氏はGEを挙げた。GEの「トリップオプティマイザー」は自動車のクルーズコントロールの電車版のようなソリューションで、電車の燃費を最適化することができる。数千ものセンサーが内蔵されたシステムの情報がGEだけではなく、GEの顧客にも価値ある情報を提供する。これによって数十億ドルもの価値が生まれるのだとエデン氏は語った。
エデン氏は「今破壊的変化と連携の時代が来ているが、オートデスクは広範な製品ポートフォリオを持っている。これらをうまく活用することで破壊的変化に対応できる」と続けた。同社の商用ユーザーは1,200万人、コンシューマが2億人以上、そして学生や教育機関でアクセスしている人は6億人を超える。日本は重要な市場であり、3D CAD/CAM/CAE ツール「Fusion 360」など商用ツールも日本語化を進めている。
最後にエデン氏は、コンシューマユーザーが2億人以上のボリュームになっている理由として、世界が文化的に変わってきていることを挙げた。その文化的シフトは東京でも起こっており、プロだけではなくアマチュアもモノづくりに参加し始めている。そして、「Autodesk Tinkerplay」と「Autodesk 123D」を日本語で提供できるようになった、と発表した。これらは子供でも扱えるツールだという。また、同社が教育機関や学生たちに無償でソフトウェアを提供していることについて、デザインやモノづくりの楽しさは一生続くものであると知ってほしい、そして次世代のデザイナーや建築家を育成する手伝いをしたいと語った。
「顧客のストーリーを伝える場所」としてのオートデスク・ギャラリー
展示コンセプトに関しては、Autodeskギャラリーのキュレーターで、担当ディレクターのジェイソン・メダルカッツ氏(Jason Medal-Katz)が紹介した。Autodeskはソフトウェアテクノロジーの会社だ。なぜそんな会社がギャラリーを作ったのか。メダルカッツ氏は、ギャラリーを作る前によく顧客から受けていた質問は「ソフトウェア工場を見ることができるか」という質問だったと紹介した。しかしコンピュータの前に人が座ってコーディングをしている状況を見てもそれほど面白くはない。もっと人々にインスピレーションを与えるものを見せたかったというのがギャラリーを作った動機だという。
我々の周りにある人工物全てがデザインとエンジニアリングの結果、生み出されている。それらに何らかのかたちでAutodesk製品が関わっている可能性はかなり高い。クルマ、建築、映画やエンタメ、ファッションの場合もあれば、シューズ、時計、メガネのような日用品の場合もあるが、メダルカッツ氏は、顧客の生み出すモノに関するストーリーを伝えたいと考え、数年前、サンフランシスコにギャラリーを作ったのだと述べた。「顧客のストーリーを伝える場所」であり、「素晴らしいデザイン、エンジニアリング、製造を祝福する場所。それがオートデスク・ギャラリーだ」と語った。
ギャラリーは「最終製品だけを展示するものにはしたくなかった」という。それなら店に行けばいいからだ。普通は見ることができない製品が作り出されるプロセス――すなわち、プロジェクトがスケッチから始まり、どのように進んでいったのか。スケッチから図面、モデル、さまざまなプロトタイプ、反復作業を重ねる様子を踏まえて、プロジェクトが完了した姿まで連続的に見せたいと考えたという。そして技術にはそれぞれ果たす役割がある。メダルカッツ氏は「技術がどう使われているか、会話をする場所にしたい。来場者に学んで、参加してもらいたい。実際にものづくりをしてもらい、楽しんでもらいたい」とコンセプトを強調した。
では2回目の「Pop-Up」がなぜ東京だったのか。メダルカッツ氏は「日本は素晴らしい伝統工芸、職人芸を持っている。また美的感覚に関しても高度な理解を持っている。技術が深く評価されている国でもある。東京はギャラリーポップアップにとってもっとも素晴らしい場所であると考えた」と述べた。
今回は、今あるものだけではなく、将来をより良くしていこうというストーリーを伝えることにも主眼をおいたという。例えばexiiiの筋電義手は3Dプリンティングをつかって、500ドル以下で作ることができる。腕を失った人の生活を変えることができる技術だ。このほか、開発途上国向けのプロジェクトで、有害な物質排出量を減らして健康被害を低減できるコンロ「BioLite HomeStove」なども今回、展示されている。従来のコンロよりも薪の使用量を半分以下に抑え、煙の排出量を95%カットできるだけでなく、火力の熱を使って発電して、USBポートから携帯電話やLEDライトなどを充電できる。
最後にメダルカッツ氏は「素晴らしい製品のストーリーを伝えることで、来場者にインスピレーションを感じてもらいたい」と再度強調した。そしてギャラリー2Fに作られたデジタル・ファブリケーション・ワークショップではデジタルでの製作を体験できるので、実際に最新のデザインツールを学んで使ってもらいたいと述べた。実際に同社のソフトウェア他を使い、3Dプリンタやレーザーカッターを使ってモノの製作ができる。
なおワークショップは、主に平日は30分程度で、予約不要で空いていれば体験できるアドホックワークショップを行ない、土日は予約制の1時間半ほどかかるワークショップを実施する予定だ。またクラウドベース3D CAD「Fusion 360」を体験する3時間コースのワークショップも行なわれる予定だ。ワークショップの企画運営のサポートは「ファブラボ渋谷」が行なっている。
展示 電動バイクやアート、伝統工芸と最新技術の融合、社会問題解決プロダクトまで
以下では展示物をご紹介する。まず入り口近くに展示されていた「コリオリ XX111」は3Dプリンタを使った彫刻シリーズの1つ。日本での展示は初めてとのこと。「キネマティクス・ドレス」はナイロン製のワンピースだが、異なる形状のパネル2,200個が3,500個のヒンジで繋がった形状になっており、3Dスキャンしたボディから直接デザインを行ってプリントすることで、一発で複雑な構造を繋がった状態で出力する。各パーツは硬質だが、それぞれを組み合わせることで全体は柔らかな構造になる。
exiiiによる筋電義手は、より安価な筋電義手の提案。現在、Arduino micro基板とモーター3個を用いた重さ650gの「HACKberry」をオープンソース化し、製品開発中。展示では先行開発版の「Handiii」が出展されている。
Nikeはアスリートリサーチラボによる、収集したデータをもとにして製作する、各選手に適した生理機能・生体力学構造に合致したシューズとデモを展示している。展示物は石膏混合粉末を使った3Dプリント彫刻。
自社製品だけでなくマーケットプレイス「rinkak」なども運営する株式会社カブクからは伝統的ものづくりと3Dプリントを組み合わせた刀と鞘が出展されている。透明な素材の内側に白線を引くことで、刀匠の銘を目立たせている。このほか藍染と3Dプリンタの組み合わせや、漆を使った製品などが出展されていた。
土壌肥料の研究者Jason Aramburu氏によるガーデンセンサー「Edyn」は、日光照射量、湿度・温度、土壌中の栄養や水分量などをセンシング。クラウドにワイヤレスで接続するというシステムの提案。アフリカの農家がより多くの収量をあげられるようにすることが目的だという。
健康被害を低減できるコンロ「BioLite HomeStove」はAlexander Drummond氏と Jonathan Cedar氏による提案。1日3時間使って5年間持つ耐久性を備えた設計で、従来型の薪コンロに比べて薪使用量は半分以下、煙排出量は95%カットで、屋内での火気使用による健康被害を減らすことができる。また熱を使ったUSB給電が可能で、携帯電話やLEDランプなどを充電できる。流体解析ソフトウェアを使って最適設計を行なうことで試作回数を最小限に抑えてコストを下げた。2017年までに1,000,000台のコンロを開発途上国向けに出荷するのが目標。
3Dプリンタで作られたサンゴはSly Lee氏によるもの。サンゴ表面を細部まで観察して経年変化を追うことができる。3Dプリントは医療にも用いられており、会場ではチタン製インプラントが出展されている。格子構造を作れるAutodeskのWithin Medicalソフトウェアを用いてインプラントを設計すると、インプラントと骨との結合を助ける多孔性被覆を作成することができる。皮膜表面の孔の密度の調整も可能で、全体の形状は細胞が成長しやすいように最適設計されている。生体適合性を高くする多孔性構造によって骨はインプラントの内部に入り込み、しっかりと結合するという。
「day2day」はロボットを使ったインスタレーションアート。SNS上でよく選ばれる場所や「いいね!」を検索して、好まれる写真を多数選び出し、筆を使ってペーパーロール上に写真の輪郭線を描かせていき、絵巻物にするというもの。ロボットはユニバーサルロボット社製で、ツールパスはPythonスクリプトで生成する。
Airbusによる近未来旅客機のコンセプトは、2050年を想定したもの。両翼は長く、エンジンは胴体と一体化している。軽量で低燃費、低騒音という想定で、骨格には鳥のような生体構造を採用するというものだ。
村山誠氏による「Botanical Blueprint」は植物の細密イラストレーションやレントゲンアートから着想されたデジタルフローラ。いったん花の形態と構造を正確にモデリングしたあと、個々のパーツをレンダリングする。ボタニカルアートと3Dデジタルモデリングの融合である。伊東豊雄氏による台中国立歌劇院の舞台芸術センターは、複雑な通路の中に開口部がある構造。
ギャラリーには屋外スペースもあり、ここではトヨタによるパーソナルモビリティ「i-ROAD」、znug design(ツナグデザイン)とオートスタッフ末広が共同開発した電動バイク「zecOO」、サンフランシスコの建築家、Anton Wills氏による折りたためるカヤック「Oru Kayak」などが展示されている。
建築設計事務所・日本設計による「生物を見せるための水流」。日本海の海面下の様子を感じ取れる新しい水族館を新潟県上越市に計画しており(上越市新水族博物館)、その展示提案。数値流体力学(CFD)で日本海海底の形状を再現して海水がどう流れるかシミュレーションして、実際の水槽で再現する。
建築/土木コンサルティング世界最大手のArupからは、ジェネレーティブ・デザイン・ソフトウェアと3Dプリンティングを使って建築設計の最適化に関する展示が行なわれていた。建築物が完成するまでのプロセスが大幅に変わりつつあるという。
AutodeskによるARを使った提案も行なわれていた。世界遺産の建造物から3Dモデルを作り、それに対してARで復元された状況などを加えて閲覧するというソリューション提案である。
溝部洋平氏による「かなころ」は日本のひらがなを立体的に表現したフォント。いわば、「書」を平面から立体の世界を持ってきたような作品である。見る角度によってフォントの表情が変わる。
オープンソースの光造形方式3Dプリンタ「Ember」も稼働中
ワークショップ会場である2Fには、3Dプリンタやレーザーカッターなど、さまざまな機材も展示/実動している。Autodeskによる光造形方式3Dプリンタ「Ember」は、同社がオープンソースとして展開している3Dプリンタで、本体のCADデータ、3Dプリンティングソフトウェア「Spark」だけでなく、光硬化樹脂の成分まで公開されている。国内では未販売で、静態ではこれまでもイベント出展されたことがあるが、動態での展示は今回が国内初展示ではないかとのことだ。
また、電子回路ごと印刷できる3Dエレクトロニクスプリンタの「Voxel8」や、kickstarterで話題を集めた卓上サイズの5軸CNCミリングマシン「Pocket NC」も静展示だが出展されていた。