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AMDのリサ・スーCEO、Adobe Summitで生成AIやマーケティングの方針について説明
2023年3月23日 16:54
AMD 会長 兼 CEOのリサ・スー氏は、3月21日~3月23日(現地時間、日本時間3月22日~3月24日)の3日間にわたり、米国ネバダ州ラスベガス市で開催されている、Adobeのデジタルマーケティング関連の年次イベント「Adobe Summit」の二日目の基調講演にゲストとして参加した。このAdobe Summitの2日目基調講演には、例年IT業界のリーダーやスポーツ界のリーダーなどが呼ばれて講演するのが常で、過去にはMicrosoft CEO サティヤ・ナデラ氏、NVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏といった相当たる顔ぶれが並んでおり、そこにスー氏も加わった形だ。
今回のAdobe Summitでは生成AIが話題の中心になっており、スー氏もそれに言及し、「生成AIはクリエイターの作業を早くすることを助けるものであって、誰かの仕事を奪うモノではない」述べ、現在業界を挙げて取り組んでいる生成AIの取り組みは、クリエイターがより短時間で作業をして、生産性を上げるものであって、それが誰かの仕事を奪う目的で存在している訳ではないと述べた。
半導体業界でもっとも成功した女性経営者となったリサ・スー氏
AMDのリサ・スー会長 兼 CEOは、古くから半導体産業でエンジニアとして働いて来た職歴を持っている。2012年にAMDに加入する前はFreescale Semiconductorで副社長を務めており、その前は2006年まで12年にわたりIBMで、主に半導体のエンジニアやマネジャーとして活躍している。IBM時代には他社と共同で開発する半導体事業の責任者だったことでも知られており、その経歴は半導体産業の歴史と言い換えてもいいほど華麗なものだ。
スー氏が社長 兼 CEOに就任した2014年は、AMDにとって苦しい時期だったこともあり、「火中のクリを拾う」式の就任だと考えられていた。しかし、その後スー氏のリーダーシップの元、Zenコアの開発に成功し、それを採用したRyzen(クライアントPC向け)、EPYC(データセンター向け)を相次いでリリースしたことで、見事なターンアラウンドを成功させ、今やx86市場での唯一の競合他社であるIntelの市場を奪うまでに同社を成長させた手腕は高く評価されている。
そうした功績もあり2021年の9月にはIntelがスポンサードしているIEEEの半導体関連の賞である「Robert N. Noyce Medal」(ロバート・ノイス・メダル)に女性として初めて表彰されるなど、米国の半導体産業で最も成功している女性経営者といっても過言ではないだろう。
そうした数々の功績を、Adobe CEO シャンタヌ・ナラヤン氏に紹介されたスー氏は、いつものAMDの記者会見での歯切れの良い口調とは異なり、他社のイベントにゲストで登場ということもあり、いつもよりもかなり穏やかな話し方で話していたのが印象的だった。筆者も同氏には何度かお会いして直接お話ししたこともあるが、普段のスー氏はそうした穏やかな口調でお話しになる方という印象なので、そうした普段と同じようにリラックスして参加しているのだと感じた。
AMDのブランド構築に重要な事は、顧客にテクノロジーを正確に、正直に伝えることだとスー氏
スー氏は、Adobe CEOのナラヤン氏に「AMDの変革を成功させたが、その最大の要因は何か?」と聞かれると「AMDはハイパフォーマンスコンピューティングを提供しており、クリエイターやビジネスパーソン、マーケティング担当者などがよりよく、より短い時間でできるように手助けする。テクノロジーの変革には長い時間がかかるが、大事なことは社会が抱えている課題を解決していくことだ」と述べ、AMDは社会が抱えるさまざまな課題を解決すべく、HPCのようなコンピュータの技術を開発しているのだと強調した。
「数年前に多くの人は半導体を、揚げ物のようなものだと言っていたが、グローバルにチップが足りなくなると、急にそれはそういうことだといいだした。半導体産業に何が起きたのか説明してもらえるか?」と質問すると、「ナラヤン氏は、半導体はセクシーじゃないといいたいのか?」とジョークで返してから「こうした状況が発生したから、多くの人々は半導体が重要で必要不可欠なモノであると理解した。今やほとんどすべてのサービスが半導体の上で動いているのだ。最も重要なことは、どんなサービスであっても柔軟性を持つことで、そこには半導体も含まれる」と述べ、半導体不足の問題が起きたことで、逆に半導体の重要性への理解度が高まったと指摘した。
「多くの企業がさまざまなソリューションを提供しているが、半導体業界は今後もどのようにイノベーションを実現していくのか?」という問いに対し、スー氏は「今回のSummitには多くのクリエイターやマーケティング担当者が詰めかけていると聞いている。半導体業界は非常に長い間賭けをしなければならない。その賭けは答えがでるまでに、長いものでは5年もかかる場合がある。3~5年後に業界や技術のトレンドがどうなっているか、予測をしながら技術の要素を決めて行く必要がある。
Adobeのソフトウェアと我々の半導体を組み合わせると、30分かかっていたものが5分になる。そうしたことが発生するのが半導体業界だ。それに合わせてイノベーションのペースを維持しなければ競争に勝つことはできない」と述べ、予測不可能な3~5年後のトレンドを予測しながらCPUやGPUなどの設計をしていくことの難しさを語った。
「AMDはコンピューティング革命の中心にいる企業だ。そのAMDにとってBtoBマーケティングという言葉は何か?」と問われると、スー氏は「それは非常に重要なことで、テクノロジーの力を顧客に説明することが重要だ。そしてマーケティングで重要な事は(テクノロジーを)いかに正確に、正直に伝えるかだと思っている。
企業にせよ、製品にせよ、正確にお客さまに伝える、それがブランドを作っていくことだと考えている。過去4~5年の間に多くの製品をリリースしてきたが、その時に新しいブランドキャンペーンを導入した。それが“together we advance_”というメッセージで、2つのメッセージを含んでいる。1つはイノベーションで、もう1つがコラボレーションだ。
我々はテクノロジーで、なんでもできるようになると考えている。そうした複雑なことを、ハードウェア、ソフトウェア、ビジネスプロフェッショナルなどの専門家に協力してもらい一緒にやっていくことが大事だ。そうしたときに正確にブランドを説明していくことが重要で、そのバックエンドではAdobeのデジタルマーケティングツールを活用している」とのべ、AMDの現在のブランドプログラムである"together we advance_"などにもAdobe Experience Cloudを利用していることを明らかにした。
生成AIは人の仕事を奪うモノではなく、人の仕事を助けるものであるべきだとスー氏
AdobeのナラヤンCEOは「今回の我々のイベントにでも、生成AIなどが大きな話題になっている。それらは未来にどういう影響を与えるか? また、次にはどんなことが話題になると考えているか?」と問われると、スー氏は「ここ最近はずっとAIが話題の中心だ。私はAIには2つの側面があると考えている。1つはデータアナリティクスのようなデータの解析としての側面。そして生成AIのようなAIは、副操縦士や個人秘書のような存在で、個人が抱えている課題を解決するためのツールという側面をもっている。AIの学習には非常に大きなデータセットを処理する必要があり、必要なコンピューティング処理能力は膨大だ。今や私の父親でさえ、ChatGPTの話題をしているぐらい生成AIは大きな話題になっている。
重要になるのは、それを使ってどのようにビジネス上のアドバンテージを得られるかという点にある。そうしたビジネス上のアドバンテージを得れば生産性が向上する。現在は多くがまだベータサービスだが、今度どのようなメリットがあるのか見えてくるだろう。それが、50%生産性が向上する、80%生産性が向上する……そうしたことが今後見えてくる。
2つ目の質問に答えると、生成AIはまだ始まったばかりだ。我々のチームが設計しているチップは1,000億個を越えるトランジスタを1チップに統合している。設計を開始してから出荷するまで3年という時間がかかる。仮にそれが半分の時間になったらどうだろうか? それには非常に大きなビジネスバリューがあると考えられる。こうした取り組みは我々だけではできない、パートナーと手と手を取り合って前に進む必要がある」と述べ、生成AIに関してはまだ始まったばかりで、これから社会に対してどんな影響があるか分かってくるが、生産性を向上させるためのツールだと考えれば、同社にとっても注目する存在だと強調した。
そして、ナラヤンCEOは「AIにせよ、生成AIにせよ、社会的責任ついてどう考えるかは重要だ。実際、よく聞かれるが、AIが人間の仕事を奪うのではないかという懸念がある、それについてどう考えているか?」とスー氏に問うと、「大事なことは安全なAIを構築していくことだ。例えば学習に使うデータにバイアスがかかっていないかなどが重要だ。そして自分の視点としては、AIは人間を置きかえるものではないと考えている。生成AIはクリエイターの作業を早くすることを助けるものであって、誰かの仕事を奪うモノではない」と述べ、AIは人間を助けるようなものであるべきで、生成AIもそうしたものであるべきだと強調した。