ニュース

日本HP、2020年は個人用パソコンの需要が増大。デジタル印刷や3Dプリンタ事業も堅調

日本HP 代表取締役 社長執行役員 岡隆史氏

 株式会社日本HPは20日、2021年度の事業説明会を開催した。冒頭では、同社代表取締役 社長執行役員の岡隆史氏が登壇し、2020年の振り返りと2021年の事業戦略について説明を行なった。

新型コロナで一時は大きく落ち込むも、幅広いポートフォリオが支えた2020年

 2020年のグローバルでの業績は、売上が約5兆9千億円で前年比2%減となった。2~4月頃に中国のサプライチェーンの動きが停滞するなど、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、一時は同10%減ほどまで落ち込んだという。しかし、その後月を追って復調し、通年では2%減に抑えられたという。利益は約4億2千億円で前年と同水準の結果となり、全体としては売上は微減するも、利益は維持したかたちとなった。同氏は、世界的に経済が停滞するなかで、堅調な実績が収められたと考えることもできるとも述べている。

2020年のグローバルでの実績
国内での事業展開

 HPでは、個人向け・法人向けに幅広い製品ポートフォリオを展開しており、在宅勤務やオンライン学習の拡がりによってオフィス向け製品が不振となる一方で、個人向けパソコンやプリンタ製品の需要が高まるなど、製品群が支えあうかたちで全体の事業として安定できたとした。

 国内での事業展開については、テレワークへの対応を意識的に実施。セキュリティを重視したパソコンの拡充や、ハードウェアからサービスまでをパッケージ化し、用途にあわせてより簡単に選択・導入できるHP Business Boost、自社システムからエンドポイントの端末までを保護するセキュリティソリューションの提供などを進めてきた。

 加えて、新たなパソコンの活用法の提案として、クリエイター向けパソコンやワークステーション製品を発売。デジタルプレス事業では、多品種・少量であったりオンデマンドといった需要の増加に対応するため、アナログ印刷からデジタル印刷への移行を促進する次世代デジタル印刷機の投入なども進めた。

 コロナ禍で、外出の機会を減らし、人との接触を減らす動きが増すなか、外出先で行なっていた作業を自宅で行なう必要性が出てきた。今後パソコンは「1家に1台」から「1人1台」所有するものとなり、スマートフォンを使ってSNS上などで皆が行なう情報発信やクリエイティブ活動を支えるツールとしても活用されるようになるとし、とくに新たにパソコンを使いはじめるユーザーを中心にセキュリティへの関心も高まっているとした。

 日本HPでは以前から、10年後、20年後の社会の変化などといったメガトレンドを意識し、それに応える製品やサービスを投入してきた。そのため、今後の事業戦略についてはこれまでと大きく変わらないという。ただし、コロナ禍の影響でトレンドの進みが早くなっており、従来通りの戦略をより素早く実行していく必要があるとした。

 全体としては、セキュリティと持続可能性(サステナビリティ)を事業戦略のベースとして、各分野ごとのソリューションを積み重ねるかたちで、パートナーとともにすべての顧客に最適な製品やサービスを提供していき、デジタルの活用を支援していくかたち。

各事業における戦略
持続可能性への取り組み
セキュリティ、持続可能性をベースに幅広く製品やサービスを展開

パソコンはもはや必要不可欠なツール。1人1台が所有する時代へ

日本HP 専務執行役員 パーソナルシステムズ事業統括 九嶋俊一氏

 次に、同社専務執行役員 パーソナルシステムズ事業統括の九嶋俊一氏より、おもにパソコン製品関連の説明が行なわれた。

 とくに若年層を中心に、2019年頃からパソコンの重要性が再認識されており、2020年についてもセキュリティ重視のものやクリエイター向け、学習向けなど、ユーザーの利用目的にあわせた製品の提供を進めてきた。さらに、コロナ禍においてパソコンの役割は必要不可欠なツールとして大きく変化。在宅勤務やオンライン学習が活用されるなかで、個人用・学習用パソコンが成長をみせ、セキュリティサービスや管理システムの需要が顕在化した1年になったという。

 製品としては、GIGAスクール構想に適合する製品を市場にはじめて投入。なかでもChromebookは大きな成長を果たしたとしている。また、日本向けにキーボードをカスタムした「Spectre x360 14」の展開や、ボリュームゾーンの製品に対してハイエンド向けのセキュリティ機能や高性能構成を適用するなどといった取り組みも行なった。サービス・ソリューションの面では、封じ込め技術をベースとしたセキュリティソリューションの提供も開始した。

 2020年でもっともラインナップが多かったのはクリエイター向け製品で、計13機種を投入。クリエイティブツールとしてのスマートフォンに対するパソコンの重要性が高まるなかで、「1億総クリエイター」の観点から、ユーザー層をプロフェッショナル、プロシューマー、カジュアルの3つにわけ、それぞれに適した製品を展開した。

2020年の主要製品とサービス
クリエイター向け製品群

 コロナ禍を経て、ニューノーマルな働き方に対するユーザーの意識も変化。パソコンは必要不可欠なツールとなり、同社の調査によれば、とくにクリエイターやパワーユーザー層において在宅勤務の継続を望む声も大きいという。2021年は、緊急対応としての在宅勤務からゼロトラスト・モダンマネジメントを活用した恒久対策への移行など、本格的な変革をはじめるきっかけになるだろうとした。

 その上で、同社では将来のオフィス/ホームのための足固めを支援するものとして、ユーザーの需要にあわせた使いやすい・導入や運用がしやすい製品や、セキュリティ・モダンマネジメントを支える各種ソリューションの投入を進めていく。加えて、さまざまな暮らし方・働き方が広がるなかで、多様性を増すニーズに対応可能な同社の充実したポートフォリオは強みになるとした。

 また、持続可能性の観点では、製品の素材から使用時の省エネ性能、出荷時の梱包や使用後のリサイクルまで、製品サイクルを通じた取り組みを実施。パソコンやプリンタは出荷数量の多い製品であることから、素材にオーシャンバウンド・プラスチックを採用したり、梱包材をプラスチックからパルプモールドに変更するなど、今後も取り組みを進めていくとした。

パソコンは必要不可欠なツールに
ユーザー、IT部門、事業部門における変化
2021年の事業戦略
持続可能性に向けた取り組み

変動する需要にあわせて柔軟な対応が可能なデジタルプレス

日本HP 常務執行役員 デジタルプレス事業本部 本部長 岡戸伸樹氏

 続いて、同社常務執行役員 デジタルプレス事業本部 本部長の岡戸伸樹氏より、デジタルプレス事業について説明が行なわれた。

 2020年は、マスクやフェイスシールドなどへの印刷や、フォトブック製作などといったパーソナライズされた印刷物の増加、ニューノーマルに向けた印刷物作成や需要にあわせた小ロットの印刷など、デジタル印刷機の必要性が表面化した。ラベル&パッケージの印刷量では2桁成長、HP PageWide Web Pressの印刷量が累計5,000億ページを突破、PrintOSのマーケットプレイス売上も前年比約2倍となるなど、堅調な推移をみせたとする。

 今後の事業戦略としては、印刷業界のDXを目指し、印刷ボリュームを増やしていく「アナログToデジタル」、持続可能性やセキュリティへの対応といった「付加価値」による差別化の2つを中心として進めていく。

 前者については、史上最多となる新製品10機種を新たに発表。商業印刷/フォト/出版向けには、オフセット印刷を凌駕する印刷品質を実現する製品や、匹敵する印刷速度を発揮する製品などを投入した。さらにラベル&パッケージ向けには、フレキソ印刷と同等の印刷速度を実現しながら印刷品質を高めた製品の出荷も2022年に予定している。注文が殺到した書籍を通常の5分の1の期間で製造し、市場の変化に対して柔軟な対応を実現した例などを紹介した。

デジタル印刷事業は成長傾向
成長と付加価値を中心とした事業戦略
新製品を大量投入
市場の動きに素早く対応

3Dプリンタは設計製造ツールから量産にも活用できるツールへ

日本HP 3Dプリンティング事業部 事業部長 秋山仁氏
現在開発中の3Dプリンタ「HP Metal Jet」で作られたゴルフ用のパター

 最後に、同社3Dプリンティング事業部 事業部長の秋山仁氏より、3Dプリンタ関連事業に関する説明が行なわれた。

 2020年の大きな取り組みとして、同社およびパートナー企業が設計した新型コロナウイルス感染症への対策部品のファイルを公開し、世界各国のパートナーとともに累計400万点以上の部品を製造。従来の医療用部品製造と比べて生産リードタイムを大幅に短縮し、欲しい場所に迅速に部品が提供できたとする。

 この一連の取り組みにより、製造業における3Dプリンティングの位置づけが変化。設計製造ツールの1つからデジタルマニュファクチャリングに活用できるツールとして考え方が変わったことで、市場でもアディティブマニュファクチャリング(積層造形)や3Dプリンティングへの関心が増しているという。

 3Dプリントでは、試作から量産まで同じ材料・工法で製造できるのが大きなメリットとなる。改良を施したらそのまま量産といった手法も可能で、原価削減や性能の最適化を両立しやすいという。同社では「JET FUSION」が製造業においてより重要な位置づけを占めると考えており、製造およびデザインプロセス、サプライチェーン、ビジネスモデルの3点で革新を進めていきたいとした。

 また、世界ではじめて3Dプリンティングで製造されたゴルフ用のパターも紹介。金属材料が使える現在開発中の3Dプリンタ「HP Metal Jet」を活用して作られたもので、従来の技術では不可能だった複雑な格子形状を採用することで、ヘッド部分の重量配分の最適化を実現したという。そのほか、家電や自動車などで多く用いられるポリプロピレンが「Jet Fusion 5200」向けの新材料として使用可能となる見込みで、現在技術検証を進めているという。

新型コロナウイルス感染症への対策部品を3Dプリンタで生産
製造業における3Dプリンタの位置づけが変化
デジタルマニュファクチャリングへの関心が高まった
JET FUSIONの強み
ゴルフ用パターを3Dプリントした例
新材料のポリプロピレン