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産総研、人・機械協調AIを研究するサイバーフィジカルシステム研究棟を公開

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)は2019年4月15日、「Society5.0」の基盤をなす人工知能(AI)の新たな研究拠点として整備した「サイバーフィジカルシステム研究棟」のお披露目式を行なった。2016年度第2次補正予算「人工知能に関するグローバル研究拠点整備事業」により昨年末に臨海副都心センターに設置されたもの。

 「人・機械協調AI」研究のための生産、物流、創薬の模擬施設を整備し、模擬環境を活用した民間企業との連携を積極的に推進しつつ、産学官一体でAI技術の社会実装加速化を図る。研究者数は産総研からは50名程度。建屋の広さは1,000平方m×3フロアで3,000平方m。

実験ロボット「まほろ」によるバイオラボ模擬環境
産総研のミニマルファブを活用した半導体製造工場
組み立て・ピッキングなどの模擬環境
コンビニ模擬環境

実環境でデータを集め、サイバー世界の技術で現場を効率化する「人・機械協調AI」

産総研 人工知能研究センター 副研究センター長 谷川民生氏

 会見では産総研 人工知能研究センター 副研究センター長谷川民生(たにかわ・たみお)氏が概要を説明した。産総研は2015年に人工知能研究センターを設立して研究開発に取り組んでいる。AIを強くしていくためにはデータ取得の仕組みが重要だ。

 いわゆるGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)など米国企業はネット上のデータ収集の仕組みを持っていることに強みがある。いっぽう日本ならではの強みのデータはどこにあるのか。谷川氏は「生産技術などの実現場データに日本の強みがある」と述べた。一方で「まだまだデータ収集の仕組み作りがない」と課題を指摘した。データ取得の仕組みを持てば、物理的な現場に対して支援を行なえるAIを開発できる。物理世界に対する活用サービスのためには、データ取得のためのIoT技術と、実際に動いて仕事をするロボット技術との連携が重要になる。

実世界に埋め込まれるAIにはデータを取得するIoTと実際に行動するロボットが必要

 産総研人工知能研究センターのコンセプトは「実世界に埋め込まれるAI」だ。IoT技術とロボット技術の組み合わせをさらに強化しようというのが今回の「サイバーフィジカルシステム研究棟」での取り組みだという。

 では具体的なターゲットはどこか。日本の大きな課題は生産年齢人口の減少だ。2060年には2015年に比べると58%も生産年齢人口が減ってしまう。そのため、労働集約型産業の現場においては生産性を上げることが急務となっている。多品種少量生産が増えた結果、ロボットに求められる役割も変わっており、完全自動化は難しい。生産現場でも結局人手集約が必要になっているのが現状だ。

 物流・店舗などの現場も需要が増える一方で、人手が集まらなくなっている。さまざまなプロトコルで実験を行なう創薬や、機械化が難しい農業などにも同じ課題がある。今後は、人と機械が協調して作業する仕組みによって生産性を上げることが必要となる。人の作業をAIが認識し、どうフォローするかを考えるための仕組みが必要だという。

人・機械協調AI研究のコンセプト

 それが「人・機械協調AI」だ。AIが学習するためのデータを取得して見える化するということは、物理世界の情報をサイバー世界で表現できるということだ。これが「サイバーフィジカルシステム」である。人の動きもデータ化して、人と機械の協調を考える。サイバー世界ではシミュレーションを回すこともでき、その結果を物理世界に返す。この仕組みを作りたいという。

工場・店舗・創薬の模擬環境を整備

模擬工場の研究内容

 ではどの現場に持っていくのか。いきなり現場へ持っていくことは難しいので、産総研は模擬環境を作った。そのなかでデータを収集し、シミュレーションを回す。今回作ったのは工場・物流・創薬の3つの環境。バイオ研究、小売店舗でのマテリアルハンドリング(物を扱うこと)、産総研の「ミニマルファブ」技術を活用した半導体製造工場、機械加工工場それぞれの模擬環境を使って、各模擬環境のサイバーフィジカルシステムを構築する。

バイオ研究、コンビニ、半導体製造、機械加工工場の模擬環境を整備

 機械加工と半導体製造の模擬工場では加工機とロボットと作業者、それぞれの間をつなぐAIを構築する。作業者の組み立て作業をAIが認識し、ロボットがサポートする。また人の作業の模倣によるティーチングレスを目指し、中小企業へロボットを導入しやすくする。加工機を扱う作業者のカンや経験も見える化する。故障予知なども行なう。

模擬工場ではプロセス最適化や熟練技術の構造化、ティーチレスを目指す
つながる工場ではお台場だけでなくつくばなどの工作機械も繋ぐ
各社の加工機
人の動作とロボットの連携
オフライン学習で、従来はピッキングが難しかった物体を扱えるように
ピッキングに用いるロボット
各種協働ロボットも

 半導体のミニマルファブでは、既存の生産システムのおよそ1,000分の1の規模で半導体生産を可能にする。半導体製造の各工程をユニット化したもので、大規模なクリーンルームを使わずに半導体製造ができる。単に実験的に動かすだけではなく、将来的には販売も目指すという。

既存の生産システムのおよそ1,000分の1の規模で半導体生産を可能にする
1つ1つのユニットが半導体製造の1つの工程を自動実行する小型ユニットとなっている
それぞれのユニットが異なる工程を担当する。機器の中がクリーンルーム状態になっているので大規模工事は必要ない
人はウェハの入った大きさ4cmの「ミニマルシャトル」を触るだけ。ここも将来は自動化する
インターフェイスや操作系も共通化されている

 コンビニなど模擬店舗に関しては、商品データベースを構築し、マテハン高度化を狙う。ロボットの自律移動技術も活用する。

模擬店舗ではマテハンの高度化やロボットによるサービス実現を目指す
ロボットによる環境認識だけではなく人の動きも認識して取り込む
店舗内の物品も取り込まれている
簡易な物品3D化装置
ロボットによるハンドリングの研究開発を進める

 バイオラボでのロボット活用については、創薬における細胞培養技術の人の手技を、実験ロボット「まほろ」等に転写して自動化する。またプロトコルの標準化や、導入のための技術研修などを行なっていく。

模擬バイオラボでは創薬における細胞培養作業自動化を目指す

コンソーシアムを作って産業界と連携

各チームの代表者。左から副研究センター長の谷川氏、オーミクス情報研究チーム長 光山統泰氏、オートメーション研究チーム長 堂前幸康氏、つながる生産システム研究チーム長 澤田浩之氏、つながる生産システム研究チーム長 上級主任研究員 池田伸一氏

 AIセンターのなかのそれぞれの4チームが模擬環境での取り組みを行なう。産業界とも連携する。協調領域においてはコンソーシアムを設立する。「『人』が主役となるものづくり確信推進コンソーシアム」については経団連の産業競争力懇談会のもとで進められていた考え方に則って進める。とくに投資対効果が出にくかった部分の研究開発を進める。データはコンソーシアムのなかで共有する。社会実装については地方の中堅企業、公設試験センターとも連携しながら導入していく。今後、3年を目処として動いていくという。

産総研での推進体制
コンソーシアムを作って共同研究を進める
変種変量にも対応できるフレキシブルなAI実現を目指す
地方の中小企業にも導入できる技術を目指す