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NEC、パスポートを1度も見せず搭乗可能にする生体認証技術

BIO-IDiom

 NECは18日、同社の生体認証技術についての記者説明会を開催。説明会には執行役員の田熊範孝氏が登壇し、説明を行なった。

 同社の生体認証は「指静脈」、「指紋/掌紋」、「虹彩」、「顔」、「声」、「耳音響」の6つの要素で認証でき、それらの生体認証技術を「Bio-IDiom(バイオ・イディオム)」としてブランド化し、市場に提供する。

生体認証 Bio-IDiom「Same Face Girls」篇。精巧なマスクでも、生体反応の有無でマスクかどうかを判別して認証を阻止している
NECの生体認証
NEC執行役員 田熊範孝氏

 田熊氏は、2020年の全世界人口の77億人に対し、IoTデバイスの数は304億個まで増加するとの予測を挙げ、それらに搭載されていることを考えれば、センサーは1兆単位の数になると説明。これによってヒトとモノに膨大な接点が生まれ、止められないデジタル化の波が起こる。

 そのデジタル化の波によって起きるのは、生産性の向上や、思わぬ競合の登場といった変化で、デジタルがゲームチェンジの波を起こすと説明した。

2020年にはIoTデバイスは300億個を超える
デジタル化の波が起こす変化は「ゲームチェンジ」

 NECでは、デジタルトランスフォーメーションを「ヒト/モノ/コトに新たな意味性を付与するもの」として考え、現実世界の事象を見える化してサイバー世界に持ち込み、分析を行ない、得られたものを現実世界に還元するというサイクルで価値を創造すると述べた。

 NECの生体認証技術は、同社の掲げる「Safer Cities」構想の核となるもので、犯罪者指紋照合や出入国管理、市中映像監視といった「パブリックセーフティー」、なりすまし防止や詐欺検知、市民サービス向上などの「デジタル政府」、チケットレスや個別サービス、One IDといった「スマートトランスポーテーション」分野での活用を見込んでおり、ひいてはヘルスケアや働き方改革といったシーンでも利用を想定しているという。

NECの考えるデジタルトランスフォーメーション
NEC Safer Cities構想

 田熊氏は、「デジタル世界はなりすましなどリスクを含んでいる世界とも言える」と説明し、生体認証は実世界からデジタル世界への入り口になるもので、安心して誰もがデジタルを活用できる世界を実現すると語った。

生体認証でデジタル世界を安心して使える世界に

 同社の認証技術の歴史は、1960年に郵便の宛名読み取りのためのOCR技術を開発したところから始まったもので、指紋認証や静止画顔認証、動画での顔認証で、NIST(米国立標準技術研究所)のコンペティションでトップに輝き、田熊氏は世界最高の認証精度を誇っていると説明した。

 すでにNECの生体認証はグローバルに展開しており、70カ国以上で700システム以上が導入されており、とくに空港での利用は多く、世界50カ所の空港で利用されているという。

 そういった事情から、飛行機の搭乗プロセスで、パスポートチェックを不要にするだけでなく、スムーズな乗客呼び出しといったパーソナライズされた空港サービスの提供や、空港外でのホテルのウェルカムサービスなどのスムーズな利用を実現できる、One IDプラットフォームといったかたちの活用イメージが示された。

認識・認証技術の歴史
Bio-IDiomの役割
世界展開
One IDプラットフォーム

 Bio-IDiomでは、顔や指紋、虹彩といった複数の認証要素を組み合わせることで、より「マルチモーダル認証」も提供される。

 生体認証は、指紋や静脈などは高精度な認証を行なえるが、接触式のセンサーが必要となるため読み取り不良が発生したり、顔認証はユーザーに意識させず認証が可能で利便性が高いが、認識精度では指紋に劣るといったように、それぞれ利点と欠点がある。それらを組み合わせることで、使いやすく高精度/高セキュリティな認証を実現するという。

マルチモーダル認証
生体認証の分類

 また、生体認証と群衆行動解析や遠隔視線推定といった映像分析を組み合わせ、意味付けを行なうことで新たな価値の創出も実現するとした。

生体認証×映像分析
ワンランク上の価値創出
インドでの国民固有識別番号プログラムでの事例。12億人の国民情報を正確に把握することで、国全体の生活向上や効率的で公平な社会サービスの提供につながっているという
米ロサンゼルス群保安局 犯罪捜査システムの事例。稼働1週間で100件の事件解決に貢献し、十数年前の迷宮入り事件解決にも貢献したという
アルゼンチン ティグレ市の市中監視システム事例。月間100件あった車両盗難が8割減少し、治安回復で観光収入が3倍に増加した
NECの強みと生体認証
Bio-IDiomの事業展開に向けた体制強化
まとめ

 技術デモでは、生体認証は、物理的な鍵を渡さずに信用しあって共有でき、証明書不要でサービスを受けられ、瞬時の認証で待ち時間なく、忘れることがない証明情報のため安心/安全なことから、「わたさず・もたず・またず・わすれない」という特徴があると説明が行なわれた。

生体認証で変わる生活
指ハイブリット認証
指紋と静脈の両方を読み取るため、指紋が掠れている場合や血管が薄い場合でも認証できる
虹彩認証
生体認証の中でも最高クラスの精度で、夜間でも使えて非接触で認証が可能
仕組み
マルチモーダルに対応
出入国や国民ID、犯罪捜査などでの活用を見込む
システム
声認証
音声認証のデモ。あらかじめ認証時に要求する文章を読んで登録しておく「テキスト依存型」とどんな文章でも認証できる「テキスト非依存型」の2つに大別される。デモされたのはテキスト非依存型

 耳音響認証は、そのほかの認証技術と異なりまだ試験段階の技術だが、ノールックかつハンズフリーで認証できるのが特徴。

 イヤホンを装着させておけば、常時/都度認証が可能という点に優位性があるという。例としては、要人護衛のSPなどに装着すれば、常に認証しつづけることで、なりすましなどを防ぐことができる。

 また、認証音は可聴音から可聴域外の音まで、無数に作成でき、その認証音によって特徴量も変化するため、IDとパスワードのような運用や、ワンタイムパスワードといった運用が可能だという。

耳音響認証
利点
イヤホンで認証できる
動画顔認証
カメラを正面から見る静止画顔認証と異なり、防犯カメラなどの映像で認証する動画顔認証は、技術的な難易度が桁違いに高い
NISTのコンテストで1位を獲得
監視カメラ映像からの視線推定技術
視線が定まらないという犯罪者の特徴を検知
応用イメージ
ウェアラブルカメラなどの利用で課題となるリアルタイム映像配信
1分先の通信スループットを予測して動的なレート制御を実現
比較
実際に特徴量を計算するコンピューティング領域では、ベクトルコンピュータの開発などを行なっている。写真はPCIeカードにベクトルプロセッサを搭載した「ベクトルエンジン」