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あこがれの真空管アンプキットか?先進のラズパイオーディオか?

~低価格・高音質オーディオDIYは新旧世代ともおもしろい!

 あれこれ経験を積むと“濃い趣味”に走りたくなるのが男というもの。「買ったほうが安くない?」、「なんでわざわざ自分で作るの?」と、ごもっともなことを言われても、そこにこそ魅力を感じてしまうのだから仕方ない。

 1月27日発売のDOS/V POWER REPORT 3月号では「特集 最新か、クラシックか。 男の趣味と生活を変えるモノ」と題し、料理、コーヒー、オーディオDIY、日曜大工などの7つのジャンルにおいて、こだわりのアイテムを紹介する。各ジャンルでは先進的なアイテムと伝統的なアイテムをセレクトし、新旧それぞれの手法で異なる味わいを楽しむ。

 ここではその中から、男子であれば一生に数度はハマるというオーディオの世界をテーマに、DIYのスタイルを紹介。ほのかな灯りの揺らめく「真空管アンプ」のDIYと、スナップインで手軽な「ラズパイオーディオ」のDIYを紹介しよう。

TEXT:ゴン川野

オーディオDIYの誘惑その1:虜になったらもうオシマイ! 心地よい真空管のゆらぎの音 ※大

 世の中は音楽であふれているが、本当に心地よい音を奏でるオーディオ機器は意外に少ない。朝目覚めたとき、帰宅してくつろぎたいとき、寝る前のひとときにリラックスして聴ける。それが真空管アンプの音である。なめらかで艶やか、それでいてダイナミック。完成品は高価だが、キットなら手に届く価格の製品が見付かるに違いない。

温かくなめらかな音がする“真空管”とは?

 そもそも半導体が発明される以前は多くの機器に真空管が使われていた。最初は通信用として、それから増幅用にも使われるようになった。増幅用途に使われる真空管の仕組は、真空中の陰極(カソード)、またはフィラメントを熱して熱電子を飛び出させ、プレートで捕獲する。その間に電子の流れを制御するグリッドを配置して電気信号をコントロールする。これが3つのパーツから構成される三極管である。真空管が赤く光るのは灼熱するまでヒーターを熱しているからなのだ。

 三極管から五極管、ビーム管などが生まれ、さらに進化するにつれて小型化を続けてきた。もちろんオーディオ用としても使われ、小出力なら三極管のシングル、大出力を得るためにビーム管をペアで使うプッシュプルと呼ばれる構成が使われた。近年になって複合管と呼ばれるタイプが登場。これは三極管と五極管を1本にまとめたもので、2本あればステレオアンプが作れる便利なものだ。今回作成するキット「KA-08SE」にも「16A8」という複合管が使われている。

 真空管アンプはトランジスタアンプに比べて、軟らかい、温かみがある、なめらかなどと言われているが、その科学的根拠は明らかではない。あなたの手で作って、自分の耳で確かめてみてほしい。

川野氏が今まで作成した真空管アンプ。エレキット、トライオード、サンバレーなどの真空管アンプを多数作成してきた。お気に入りは300Bシングルのザ・キット屋のオリジナル製品「SV-S1616D」。真空管は大きいほど“らしい”音がする

玉ころがしとは?

真空管は世界各国で作られたため、同じ規格であっても型番が違うものが数多く存在する。現在では、チェコやロシア、中国が主な生産国だが、以前は日本、イギリスやアメリカ、ドイツなどでも作られ、そのメーカーもさまざまだった。有名な真空管には互換品が多く存在し、おもしろいことに挿し換えることで音色が変化する。これを利用して好みの音を追求するのが“球ころがし”である。「16A8」も日本を含む複数の国で作られたことがあり、球ころがしが楽しめる。

真空管アンプキット春日無線「KA-08SE」を組み立てる

春日無線 KA-08SE 直販価格:37,800円
キットの内容。電源トランス:KmB16A8、出力トランス:KA-3250、チョークトランス:KAC-5120、真空管:PCL82(16A8)×2、そのほか:ハンマートーン仕上げシャーシ/抵抗/ケミコン/ダイオード/パイロットランプ/ボリューム/ツマミ/SPターミナル/入力ジャック/電源スイッチ/ネジ類/ナット類/配線材ほか
組み立てに使った道具。ハンダごて:白光 FX600、ハンダごて台:白光 633-01、ハンダ:TARUTIN RH50-1.0-B、ハンダ吸い取り器、テスター:GoldStar DM-332、ワイヤストリッパー:Drillpro 自動ワイヤストリッパー、そのほか:ピックツール/プラスドライバー/M3/M4のナットドライバー/ラジオペンチ/ニッパー/ピンセット/1mmヘキサンゴンレンチ

キットを組み立てる

部品表をチェック。はやる心を抑え部品に過不足がないかチェック。抵抗値はカラーコードで分かるが小さなものは見えにくいのでテスターでチェック。ネジやナットは指定数より多めに入っていることもある
シャーシに部品を取り付ける。配線の前にトランス、ボリューム、真空管ソケット、入出力端子などをシャーシに取り付ける。出力トランスは配線の向きが指定されている。アースする部品はシャーシのマスキングテープをはがしてからネジ止めする
トランスを養生する。ハンダ付けのときにシャーシを裏返しにするため表側にあるトランスはキズが付きやすい。キズや塗装のハガレを防止するために養生テープを貼っておく。これは付属しないので100円ショップなどで入手しておこう
ハンダ付け開始。下に段ボールを敷いて、いよいよハンダ付け開始。ハンダごての温度は高過ぎても低過ぎてもうまくハンダが溶けない。適温は250℃である。配線とラグ板をハンダごてで温めてからハンダを溶かす
実体配線図を見てハンダ付け。実体配線図に従って、AC電源・ヒーター、高電圧部、入出力、ソケットまわり、やぐらアース、ケミコンと進めていく。AC電源とヒーターはノイズ源になるので信号系との干渉を極力避けること
実際の配線の枝ぶり。真空管アンプはハンダ付けと配線の引き回しで音が変わる。配線図と同じにするのは難しい。結束バンドで配線を束ねてもよい。付属品だけでは足りないので細めのものを別途用意しておこう
ソケットまわりの配線。ソケットの足には1から9までの数字があり、これに沿って配線する。複数の配線があるところはすべてからげてからハンダ付け。部品のリード線が交差するところには絶縁チューブをかぶせる。電解コンデンサは方向を間違えないようにする
ソケットまわりの実際。これが実際のソケットまわりの配線。ST管という小ぶりの真空管を使うためソケットも小さくて難易度が上がっている。この後にやぐらアースのための単線が上を通る。そこにハンダ付けするリード線もあることを忘れずに
やぐらアースを作る。スズメッキの単線を使いやぐらアースを渡す。左側のラグ板から電源トランスのアースまで。加えてスピーカー端子とソケットのアースも接続。線を曲げてシャーシから高さ27mmの位置に配置やぐらアースを作る
すべての配線完了。やぐらアースを終えて電解コンデンサをハンダ付けすれば配線が完了。実体配線図と見比べて配線ミスがないかどうか、よく確認する。イモハンダをチェックするためにラジオペンチで部品と配線を軽く引っ張ってみよう
ここでテスターの出番である。真空管を挿し込んで裏返して電源ケーブルをつなぐ。テスターの黒棒をスピーカー端子のマイナス側に固定。赤棒は先端以外はテープで巻いて絶縁。電源を入れて電圧を測定する。この際、ゴム手袋を着用のこと

真空管キットの音質は?

ゴン川野:NFB(負帰還)をかけているので解像度が高く現代的な音だ。中低域もこもらずクッキリ。それでいて女性ボーカルは艶やかで心地よい。能率の高いフルレンジスピーカーをバックロードホーンに入れて鳴らすと最高だ。出力2W+2Wだが8畳間までいける

編集部 出町 学:音がなめらかで液体(?)っぽい、かつ暖かい感じを受けた。真空管の音は初めてだが、どうしてこういう表現をしたくなるのか、自分でも不思議だ(笑)

【検証環境】スピーカーボックス:FOSTEX スピーカーボックス P1000-BH、ユニット:FOSTEX FF105WK、DAP:A&ultima SP1000、スピーカーケーブル:ORB INNOVA TS7、ラインケーブル:ORB Clear force mini to RCA

オーディオDIYの誘惑その2:スナップインで簡単高音質! 手軽な高音質はラズパイオーディオが正解!

 ワンボードコンピュータの「Raspberry Pi」に「HAT(Hardware Attached on Top)」と呼ばれるドーターカードを合体させると、簡単にハイレゾ対応オーディオ機器が完成する。スマホのWebブラウザから操作でき、その音は専用機に引けを取らない。これはもう立派なネットワークプレイヤーなのである。

Raspberry Piにカードを載せて専用OSを入れればオーディオ再生機の完成

 オーディオの鉄則に音質改善は上流からという言葉がある。音の出口となるスピーカーが下流で、上流はかつてレコードプレイヤーだった。それがCDプレイヤーとなり、現在はデジタルデータで、これを保存・再生するのはPCとUSB/DACが定番となっている。音楽用のNASやSSDなども製品化され、デジタル領域での高音質化が追求されている。アナログ機器は大きくて重いほど高音質とされてきたが、デジタル機器は一味違う。集積度を高め、回路をコンパクトにまとめることでジッタの影響を最小限にするという手法がある。

 そこで注目されたのが“ラズパイ”と呼ばれる「Raspberry Pi」である。ワンボードでオーディオ入出力に対応し、拡張基板でDACやアンプを実装できる。超コンパクトなデジタル再生システムが2枚の基板で実現できるのだ。ラズパイを使えば従来のオーディオシステムを簡単にハイレゾ対応にできる上、デスクトップオーディオを手軽に高音質化できると注目を集めている。従来のネットワークプレイヤーの役割をラズパイが果たしてくれるわけだ。HATと呼ばれる拡張基板の交換で高性能化や機能変更にも柔軟に対応できる。ハイコスパで手のひらサイズ。そんな夢のような基板が登場したのだ。オーディオマニアも注目のラズパイで再生するハイレゾ音源の音を、この機会にぜひ体験していただきたい。

ラズパイオーディオDIYのメリット

  • 用途に応じた拡張カードを使える
  • 好みの音質のDACを選択できる
  • ソフトウェアの設定で音質を変更できる
Raspberry Pi 3 Model B+。ワンボードコンピュータRaspberryPiの最新型の一つで、無線LAN機能を搭載する。CPUをARMの「Cortex-A7」から「A53」に変更し、50%の性能アップを実現。また、Bluetooth対応のキーボードやマウスも使えるようになっている。OSはmicroSDカードに書き込んだRaspbianを使用する。単独でHDMIやアナログ音声信号を出力でき、4基のUSB 2.0ポートやLAN(100BASE-TX)コネクタも搭載。電源はMicro USB B端子から5V/2.5Aを供給する必要がある。そのほか、HATと呼ばれる拡張基板を増設できる。
Pi-DAC PRO。IQaudIOが作ったラズパイ用のDACカード。DACには384kHz/32bit対応の「Texas Instruments PCM5242」を採用し、PCM再生で24bit/192kHzのハイレゾ音源を再生できる。高音質のヘッドホンアンプであるTIの「TPA6133A」も搭載。アナログ出力はRCA端子のライン出力とステレオミニ端子のヘッドホン出力を備えている。そのほか、バランス出力、ハードウェアボリュームを搭載し、拡張性が高い。電源はラズパイ側から供給される。ラズパイ3とはI2S接続を使うためUSB接続よりも音質的に有利とされている。
Moode audio Player。32bit/384kHzのPCM出力に対応するラズパイ用のオーディオプレイヤーソフト。Pi-DAC PROに対応し、別途ドライバを用意する必要もなく簡単に動作する。Crossfeed DSP機能があり、ヘッドホン再生時に音像定位を前方に移動させて、より自然な音場感に補正できる。Moode audio Playerはカスタマイズできる項目が多く、多機能で高音質なプレイヤーなのだ。

IQaudIO Pi-DAC PROでDACを自作する

使用したパーツ
メーカー製品名実売価格個数
Raspberry Pi財団Raspberry Pi 3 Model B+6,000円前後1個
IQaudIOPi-DAC PRO6,500円前後1個
スイッチサイエンスラズパイ3に最適なACアダプター 5V/3.0A USB Micro-Bコネクタ出力1,400円前後1個
ノーブランド端子(Pi-DAC PRO付属)2個
ノーブランドネジ(Pi-DAC PRO付属)4個
ノーブランドスペーサ(Pi-DAC PRO付属)4個

 Pi-DAC PROはRaspberryPi対応の拡張基板なので、ラズパイ基板上に重ねて40ピンを結合させ、四隅をネジ止めすれば完成。ラズパイ側に電源を接続するとLEDが点灯してPi-DAC PROも起動する。

 あとはOSとオーディオプレイヤーソフトをラズパイにインストール。プレイヤーの操作は無線LAN接続したスマホかタブレットからWebブラウザを使って行なえる。音楽データを保存したUSBメモリを挿入すれば認識された楽曲が表示され、デジタルオーディオプレイヤー感覚で選曲、再生、停止などの操作をできる。

セットアップから再生まで

OSをインストール。これが「Moode Audio Player」と呼ばれるOSとオーディオプレイヤーソフトが一体化されたもの。これのイメージファイルをダウンロードしてmicroSDカードに書き込んでインストールした
ラズパイに接続。無線LANでスマホとラズパイを接続したら、Webブラウザを起動してhttp://moode.local/に接続すると操作画面が表示される。下の円が音量、もし100なら下げておこう
DACカードを指定。右上のメニューからConfigureを選択する。さらにAudioを選ぶとI2S audio deviceの項目が現われるので、[IQaudIO Pi-DAC PRO]を選択する。これ以外の項目はそのままにしておいてラズパイを再起動する
音楽を読み込む。音楽データは有線LANでNASを接続するか、USB接続のHDD、SSD、メモリを使ってラズパイに認識させる。NAS以外は接続すれば自動的に認識され、Library表示でアーティストやアルバムを階層表示できる
音楽を再生する。音楽データを表示させたら右端の[…]をタップして中央のPlayを選ぶと再生開始、上のAddで次に再生できる。再生した曲で自動的にPlaylistが作成される仕組だ
アートワーク。Moode をスマホで表示させると上からPlaylist、次に操作画面、最後に楽曲のアートワークとアルバムタイトル、曲名、アーティスト名、bit数とサンプリング周波数、ファイル形式も表示される

Raspberry Piの音はどう変わった?

ゴン川野:Pi-DAC PROでは、まず音量が大きくできる。30まで上げれば大音量。ダイナミックレンジが広く、解像度が高くて粒立ちのよい音。高域も伸びている。【検証環境】ヘッドホン:Philips Fidelio X1、ヘッドホン:FitEar Air2

編集部 出町学:本体のオーディオ端子にイヤホンを挿して聞くと、素人耳でもプチプチと雑音が認識できる。一方Pi-DAC PROの端子はクリアで躍動感ある楽しい音。

【検証環境】イヤホン:オーディオテクニカ ATH-LS70


 DOS/V POWER REPORT2018年3月号「特集 最新か、クラシックか。 男の趣味と生活を変えるモノ」では、以下のジャンル80ページにわたって取り上げています。

  • 1杯のコーヒー”を楽しむ全自動コーヒーメーカー & ハンドドリップ
  • 火と煙で味を作る“ロースト&スモーク” ロティサリーグリル & スモーカー
  • 安価で刺激的な“オーディオDIY” ラズパイオーディオ & 真空管アンプキット
  • 個性的な写りを楽しむ。一眼カメラでハマる“レンズ沼” 他社マウントAFレンズ & オールドレンズ
  • ブロック感覚で楽しむイマドキの“日曜大工” 2×4パーツ & スチールパイプ
  • ミドルエイジこそ気にしたい“オトコの身だしなみ” 新スタイル電気シェーバー & 高級安全カミソリ
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