笠原一輝のユビキタス情報局
NVIDIA参入で「2030年にArm CPUがPC市場の過半数」が現実味
2026年10月23日 06:05
NVIDIAのRTX Sparkが遂に発売された。それを搭載した「Surface Laptop Ultra」の最上位モデルは100万円超えなどの価格設定も話題になっている。
これまで、Windows OS向けのSoCはx86プロセッサのAMDとIntel、ArmプロセッサのQualcommという3社の競争になっていたが、今回そこにArmプロセッサのNVIDIAが加わったことで、競争の構図が4社の競合へと変わりつつある。
このことで、x86とArmという2つの命令セットアーキテクチャ(ISA)のシェアも大きく変わりゆくとみられている。Armのレネ・ハースCEOが語った「2030年にArm CPUがPC市場の過半数」が夢物語ではなくなりつつある。
Windows 26H1はシンプルにArm向け版Windowsだった
「WindowsのコードはすでにArm向けが先に書かれるようになっている」……これが今や多くの関係者のコンセンサスだ。Microsoftがそんなことを発表したわけではない。Microsoftに話を聞くと「SoCパートナーはみな平等に扱いどことも良い関係を築いている」というあたりさわりのないコメントしか返ってこないのだが、状況証拠を集めるとそれは明らかに外向けのコメントに過ぎないと分かる。
それが最初に起きたのは、2024年の5月に発表されたCopilot+ PC向けのソフトウェアでだ。より正確にいうと、Copilot+ PC向けよりも前に投入されたNPUを利用した機能「Windows スタジオ エフェクト」が、当初はArm版Windowsでのみサポートされていたこと。そしてその延長線上として2024年に発表されたCopilot+ PC向けのオンデバイスAIソフトウェアは、まずArm版が投入され、その後x86版が投入された。
そうした状況はまだ続いている。現在はWindowsの最新版そのものも、まずArm版が投入され、その後x86版が投入されるという状況になっている。それが、Windows 11の「26H1」だ。
26H1は当初特定の新しいSoC(後にそれはQualcomm Snapdragon X2シリーズだと分かるのだが……)向けに開発された別バージョンとして公開された。
26H1はそもそもOSのカーネルも新しくなっており、26H1がプリインストールされて販売されている「Surface Pro, 13インチ(第12世代)」のOSビルドは「28000.1836」となっている。それに対して先日公開されたばかりの26H2のOSビルドは「26300.9457」となっており、OSの内部バージョンは26H1の方が新しい。これは26H2が25H2のOSビルドをベースにして、新機能だけを追加したものであることを反映したものだが、26H1の方がMicrosoftの社内では「新しいバージョン」と位置づけられていることが分かる。
今回公開されたSurface Laptop Ultraの実機を確認したところ、OSは26H1が採用されていた。これから分かることは、26H1がターゲットとしていた「ハードウェア」は、Snapdragon X2シリーズと、NVIDIA RTX Sparkだったということだ。つまり、MicrosoftはArmプロセッサ向けだけに新しいOSを開発して提供しているというのが現状だ。
こうした状況証拠から考えて、現在のMicrosoftのソフトウェア開発は、まずArm向けに開発が行なわれ、それがある程度安定したらx86向けを提供するという形で進められていると推定される。
QualcommはGooglebookやLinuxも推す戦略に
Microsoftのこうした動きを受けて、半導体メーカーの動きも急だ。その影響を一番に受けるのは、これまでWoA(Windows on Arm)向けには唯一のSoCベンダーとして存在してきたQualcommだ。Qualcommは、AMD、Intelといったx86プロセッサメーカーに対抗して、WoAをMicrosoftと一緒になってプロモーションし、市場を切り開いてきた。
そのQualcommは、今年(2026年)9月に開催した同社の年次イベント「Snapdragon Summit」の中で、PC用OS戦略を、従来の「Windows一本足打法」から「マルチOS環境」へと変えていく方針を明らかにした。
同社のPC用SnapdragonがサポートしてきたOSは、MicrosoftのWindows 11とGoogleのChromeOSだが、Snapdragon Summitなどで常にPCについて語られてきたのはWindows 11のみという状況が続いてきた。しかし、9月に開催されたSnapdragon Summitではその状況が一変していたのだ。
具体的には、QualcommはSnapdragon Summitで、PC用のSnapdragon X2において新たにLinuxに対応すると明らかにしたほか、GoogleがChromeOSの発展形として提供するGooglebook OSを搭載した「Googlebook」の展示を行ない、注目を集めた。
これは何なのかといえば、誰でも分かると思うが「Microsoftさんがほかの相手と組むなら、うちもそうしますよ」というメッセージであることは明らかだ。
すでに報じている通り、Microsoftは10月7日(現地時間)にSurface Laptop Ultraの発表会をサンフランシスコの会場で開催した。その発表会には、NVIDIA CEOのジェンスン・フアン氏がゲストとして呼ばれた。また、MXC(Microsoft eXecution Containers)のサポートや、RTX Sparkを搭載したノートPCではエージェント型AIが簡単にインストールできるといったアピールが行なわれた。
また、NVIDIAが同時期に開催した説明会にも、Microsoftの担当者がゲストとして登壇し、Arm版Windowsでのゲーム対応やエージェント型AIの対応などについて説明している。このように、現状Microsoftが新しいプラットフォームとしてRTX Sparkを推していることは誰の目にも明らかだ。QualcommがGooglebookやLinuxを推すことはその裏返しだと考えれば分かりやすいだろう。
また、Googleが力を入れているGooglebookをサポートすることの意味は説明するまでもなく明らかだと思うが、Linuxをサポートする意味は、シンプルにローカルの高性能AIモデルの実行環境、そしてAI開発環境への対応だ。
現在Arm CPUで、ローカルの高性能AIモデルを実行する環境では、AppleとNVIDIAが市場を押さえており、AI開発で一般的に使われているLinuxをサポートしてこなかったQualcommは指を咥えて見ているだけだった。しかし、Linuxを公式にサポートすることで、NVIDIAのGB10を搭載したDGX Sparkのような製品を、Snapdragonベースでリリースすることが可能になる。
ただし、そのためには、現状QualcommのSoCで弱点になってしまっている、GPUの性能を引き上げる必要がある。Snapdragon X2シリーズで、PCゲーミングが可能な程度には引き上げられたものの、GPUでのMXFP4のサポートといったソフトウェア環境の整備などに関してはNVIDIAのGPUと比べて差があるのが現状だ。また、今回のSnapdragon Summitでようやく「Matrix Core」と呼ばれるAI専用演算器をスマートフォン向けSnapdragonのGPUに内蔵したが、PC向けにはまだ搭載されていない。
QualcommはこれまでAI処理においてNPUの強化を優先してきたが、ローカルの高性能AIモデルは、モデルが巨大であるため、GPUと大容量のメモリ(共有か非共有かに関わらず)が必要になる。その意味では、次世代のPC用Snapdragonでそのあたりの強化が行なわれるかどうかが重要になってくるだろう。
x86の強みは「互換性の確保」が重要視される法人市場
AMDおよびIntel、つまりx86プロセッサ・ベンダーは、今後このトレンドが広がっていくのか、それとも一時的な現象に留まっていくのかを注視している段階だ。
Windows環境において、最新のソフトウェアを使う限りにおいて、x86版とArm版Windowsの差はほぼなくなった。最新のソフトウェアは、1つのソースコードを生成し、それをコンパイルする段階で、ターゲットをx86か、Armかと決めてバイナリを生成する。このため、最新のソフトウェアはx86版、Arm版の両方が用意されているのが一般的で、もはやあまり気にする必要がなくなっている。
そして、Arm版WindowsにはPrism(現行版はPrism2)と呼ばれるバイナリトランスレーターが搭載されていることで、ユーザーモードで動作するアプリケーションはx86(ないしは64bitのx64)のコードをArmのコードに変換しながら動作できるため、x86とArmの両方のアプリケーションを実行できる。
動作しないのは、OSのカーネルモードで動作するデバイスドライバ、たとえばGPUのドライバやプリンタドライバなどで、これらはArmネイティブ版が必要になるが、それもこの10年のQualcommの取り組みでほぼ解消されたといってよい状況だ。
ただ、Arm版Windowsが存在すらしていなかった時代のWindowsアプリケーションを実行するときには状況が異なる。理論上、それらもPrismで動作させられるはずだが、アプリケーションの構造上、うまく変換しきれずエラーを出してしまうモノも存在する。特に企業の内製で作成した業務アプリケーションなどにはそうした例も少なくなく、動かない可能性もある。
そうしたアプリが多い場合には、過去との高い互換性を実現しているx86プロセッサを選ぶというのも当然の選択だろう。だからこそ、Microsoftは一般消費者向けのSurfaceには、Snapdragon X2シリーズ(Surface Pro/Laptop)、RTX Spark(Surface Laptop Ultra)というArm CPUを搭載したバージョンしか提供していないが、法人向けにはCore Ultra(Surface Pro/Laptop)を搭載した製品も用意している(Arm版のSurfaceの一般法人向けも提供されている)。つまり、依然として法人向けではArmよりもx86が好まれるというのが現状だ。
AMD、Intelの2社にとっては、そうした法人向け市場でのリードが続くうちに、新しい競争軸を打ち立てるなどの反撃をしていく必要があるだろう。
2024年のArm CEOが打ち出した「PC市場でArmが過半数」が夢物語ではなくなった
もっとも、今の時点でNVIDIAのWindows向けSoCにおけるマーケットシェアは限りなく0に近い1%以下だ。RTX Sparkが搭載されたSurface Laptop Ultraが50万円以上という価格設定であることからも分かるように、右から左へと売れていく商品ではないことは明らかだ。そのため、今後1年でNVIDIAの市場シェアがいきなり10%になるとか、そういうことは起きないだろう。
ただし、NVIDIAのPC向け製品の基本的な戦略は、典型的なウォーターフォール戦略だと考えられている。まず高付加価値のハイエンド製品を出し、それから性能や機能を削った廉価版を出していく。PC向けのGPUであるGeForce RTXがその端的な例で、GeForce RTX 5090/5080を出し、その後で5070、5060……と性能や機能を削った製品を出していく。
ウォーターフォール戦略は、値段はともかくとして、まずはハイエンド製品の性能や機能でユーザーを驚かせ、次にそれを買えそうな値段にした廉価版を出していくもので、半導体製品のマーケティング戦略としては理に適ったやり方だ。
今回NVIDIAはRTX Sparkの廉価版について何も説明していないが、たとえば、次の世代では廉価版を出す……そうしたことは当然考えられるだろう。その時点ではある程度の数が出荷されることになるため、市場シェアが増えていく可能性は高い。
なお、同じArm版Windows向けのSoCを提供しているQualcommは、2029年までにPC市場でシェア20%を目指すと昨年(2025年)のCOMPUTEXで明らかにしている。NVIDIAがどれくらいの市場シェアを目指すのか明らかにしていないが、今後廉価版や、現在はカバーできていない薄型軽量向けの製品などを投入することができれば、自ずと市場シェアは伸びてくる可能性が高い。
また、2024年のCOMPUTEXでArm CEOのレネ・ハース氏は「2020年代の終わりまでにはArmアーキテクチャのデバイスがWindowsでは支配的なシェアを占めるようになると信じている」と述べ、多くの関係者を驚かせた。
今となってみれば、Qualcommが目標通りに20%、NVIDIAが30%程度の市場シェアを獲得すれば、Arm CPUで50%という市場シェアも決して「見果てぬ夢」ではなくて「現実的な目標」になってくると言える。
これからの数年、PC市場はそうした激動の大競争になっていく可能性がある。PCの低価格化や進化促進といった「競争の果実」を得るのは、一般消費者であり法人ユーザーだ。




























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